第四十七話 恋に目覚めた少女、性にも目覚める


 ――夢可視点――


 私はバイトが終わった後、アデルが送ってきたラーメンの写メを見て食べたくなったから、私もラーメンを食べた後に今泊まっているホテルに戻ってきた。

 アデルと知り合ったあの後家を失った私は、結局豪華なホテルに泊まるのを止めて、普通のビジネスホテルにした。

 今思えば、ウィークリーマンションって手もあっただろうけど、その時の私には思い付かなかった。


 お風呂に入った後、私は……禁断のものに手を出してしまいそうになる。

 有料チャンネルを観る為のボタンだ。

 このボタンを押すとアダルトな映像が観れる。で、その観た時間分が後でフロントで精算する形になっている。

 何故そんなのを購入したかと言うと、ちょっと時間を遡ってバイト中の話になる。






「えっ、田中さんって処女なんですか?」


「ばっ、声がでけぇよ!!」


 私と後輩はバイトが終わり、更衣室で着替えていた。

 恋バナ大好きな後輩に色々尋問され、ついつい暴露した結果、大声で言われてしまった。

 とりあえず、後輩の脳天に拳骨を落としておいた。


「いたた……。そんな男を魅了できるスタイルをしてて?」


「あのなぁ、これのせいで私はあまりいい思いをしていねぇんだよ。男はいやらしい目で見てきやがるし」


「……まぁ、それは確かに嫌ですよね」

 

 女の宿命なのか、男と対峙する時ほとんど体を舐めるように見られる。まるで品定めされているかのように。

 アデルだけはずっと目だけを見てくれてたから、本当嬉しかった。


「私だって育ちたくてこんなになったんじゃねぇ。譲れるなら譲りたいわ」


「くそっ、嫌みに聞こえる!」


 平らな女子の闇は深い。

 すっごい女子がしちゃいけない形相を、後輩は今していた。


「でも田中さん、少しでも予備知識付けておいた方がいいですよ?」


「は? 何のだよ」


「そりゃ決まってますよ、エッチのですよ」


「ぶっ!?」


 な、何で!?

 全く突拍子もなくそっちの話になったぞ!?

 いやでも、何で予備知識が必要なのか、すっごく気になる!!


「これは私の体験なんですけど、初体験の時にすっごく痛くて泣いちゃったんです」


「お、おぅ」


 な、生々しい話になってきたな。

 でも私も興味がある。

 べ、別に私もアデルとしたいとか、そういった事じゃない!

 後学の為だ、あくまで後学の為だからな!


「で、初体験を済ませた次の日に、見事に振られました」


「何で!?」


 何だ何だ!

 全てが突拍子もなくてびっくりだよ、私は!

 何処に振られる要素があった?

 わからない、経験値が少ない私にとっては、理解が出来ない。


「理由がですね、『お前痛がってるばっかで、俺に何もしないし面倒臭くなった』なんだそうですよ? つまり男って、相手が初めてとか関係ないんです。初めてであってもある程度は相手も気持ちよくしなくちゃいけないんですよ」


「何だそりゃ!? 多分だけど、恥ずかしくてそんな余裕ないだろ!?」


「ええ、そうなんですよ! 相手に全てをさらけ出してるんだから、恥ずかしい気持ちでいっぱいだったんですよ! それでも口でしないといけなかったみたいなんです!! 死ね、当時の彼氏!!」


「それ、その彼氏が最悪なだけなんじゃね?」


「いいえ、今の彼氏達に聞いたら『処女は痛がるし相当気を使うから面倒』なんだそうです」


 そ、そうなのか。

 でも逆に言えば、面倒だと思われる位私達は痛い思いをするって事だよな?

 それ、相当嫌なんだけど。

 痛いのは生理だけで十分なんだけど、マジで嫌だな。


「だから田中さんも少しでも知識を身に付けて、備えた方がいいですよ?」


「いや、私もそれなりに知識はあるけど……」


「どうせドラマだったり少女マンガなんでしょ?」


 うっ、正解。

 でもどういう行為をするかはわかってる。

 男への尽くし方も知っている……つもり。


「それ、何の役にも立ちませんよ?」


「マジか!?」


「はい。だからAVを見ましょう、AV」


「……は?」


 こいつ、何言っているんだよ。

 何故女の私が、男御用達のAV観なきゃいけないんだ。

 

「確か今田中さん、ビジネスホテルに泊まってますよね? なら有料チャンネルのカードを買って観てみるといいですよ。あれを観ると観ないで随分意識が変わりますから」


 何でこいつ、こんなに詳しいんだ?

 意外と後輩は、ちょっと深い闇を抱えているのかもしれない。

 うん、触れないでおこう……。






 

 という感じでバイトで後輩と話してて、気になって買ってしまった訳で……。

 だってさ、だってさ!

 後輩から言われたら気になるじゃん!?

 もしだよ、もしアデルと私が両思いになったとする、面倒と言われて振られるのは本当に嫌だ。

 って、何私はあいつとする事前提なんだ!?

 あぁ、くそっ!

 後でまた後輩を殴ってやる!


 なんて言いつつ、私はベッドの上に正座をして、テレビのリモコンを持って準備完了状態だ。

 ああそうだよ、私だって純粋に興味あるんだよ!!

 

 私はリモコンを操作して有料ボタンを押し、アダルトチャンネルを表示させた。

 やばい、手汗が本当にヤバイ!


 すると、綺麗で色気が半端ない女性と結構イケメンな男が向かい合っていた。

 そして抱き合った状態でキスをした。

 しかも普通のキスじゃない!

 舌を絡ませて、唾液の音が聞こえる位いやらしいキス!!

 知らない、私こんなキス知らない!!

 画面の二人はさらにエスカレート、お互いに服を脱がせ合って上半身は裸に……。


 うあっ、そんな……。

 

 そんな事もするのか!?


 こんな事をアデルにされたら、私は……。


 うぅっ、体が火照ってきた。

 暑いから、服でも脱ごうかな……?


 そう思った時、急に私のスマホが鳴った。


「ひゃうっ!?」


 びっくりして変な声が出てしまった。

 そして反射的にテレビの電源を切った。

 だ、誰だろう、今は夜の九時っていう比較的遅い時間に?

 スマホの画面を見てみると、アデルの名前が表示されていた。


 アデル!?


 私は急いで電話に出た!


「も、もしもし!?」


『こんばんは、夢可さん。もしかして今忙しかったですか?』


「い、いや? 大丈夫だ……」


 エッチなビデオを観てて少し忙しかった、なんて言える訳がない!


「ところで、電話をしてきてどうしたんだ?」


『いえ、何だか貴女の声が聞きたくなりまして……』


 ぼんっ!

 火照った体に追い討ちをかけるように、嬉しい事を言われて顔が真っ赤になったのがわかる。

 もう、本当にこいつは私が喜ぶ事しか言わないんだから!


『ご迷惑でしたか?』


「そ、そんな事ない! う……嬉しい……よ」


 動揺し過ぎてて、まともに話せない。

 

「そういえば、一緒にいるお前の友達はどうしたんだ?」


『あぁ、アタルさんなら、彼女さんに連絡していますよ』


 まぁそりゃあんな爽やかイケメンさんなんだ、彼女がいてもおかしくないな。

 でも私はアデルからもらった写メでしか、その親友の事は知らないけど。

 それでもあの写メからは、二人がとっても仲が良いのがわかる。

 いいな、私もそういう友人が欲しかったな。


『夢可さんは、先程まで何してましたか?』


「えっ!? べ、別に何もしてねぇよ!?」


 エッチなビデオを観て発情してました、なんて死んでも言えない!


『ラーメンは食べなかったのですか?』


「いや、食べたよ。結構美味しそうだったから大盛り食べてお腹いっぱいだ」


『私、夢可さんからの写メを待ってたんですよ?』


 やっべ、写メ撮ってなかった!

 私も撮って送り返してやろうって意気込んでいたのに、そんなコミュニケーションをしていなかった私に写メを撮るという習慣はなかった。

 だからすっかり撮影を忘れて、ラーメンの味に夢中だった。


「ご、ごめん! お前に送ろうとしてたんだよ!? でもさ、そんな習慣がなくて忘れちゃったんだ!」


 なんか自分で言ってて悲しいな。

 私は何を今までボッチでした宣言をしているんだ。

 あほか!


『むぅ……。では罰として、近い内にそのラーメン屋を案内してください』


「ああ、それ位いい……よ」


 あれ。

 ナチュラルに会う約束を取られたな、私。

 いや、嫌じゃない。むしろ嬉しい!

 でもあまりにも自然で、私はビックリだ。


『よかったです。また夢可さんと食事出来ますね』


 電話の向こうから、嬉しそうな声のアデル。

 そんなに、私と食事出来るのが嬉しいのか。

 本当、こんな私で喜んでくれるなら、私も本当に嬉しい。

 本当に好きだよ、アデル。


 それから私達は他愛のない話をした。

 すっかり発情気分はぶっ飛んでいて、逆に乙女回路がフル活動していた。

 話してて色んなアデルを知る事が出来た。あいつの事を知る度に、私は心の中で喜んで、頭の中の頼りない記憶にしっかりと刻み込むように心の中で復唱して覚えた。

 ついでに話した事ないアタルの事も知った。

 まぁアデルの親友ってのは少し興味あるけど、とりあえず二の次という感じだな。


 時計をふと見る。

 すると、もう夜の十時を過ぎていた。

 一時間以上話していたんだな、私達。


『じゃあ、そろそろ私はこの辺で……。お渡ししたネックレスを作るのにちょっと夜更かしをしてしまいまして』


「そっか……。えっ、このネックレスってお前の手作り!?」


『はい、そうですよ』


 マジか……。

 今私の胸元で輝いている青い宝石が付いているネックレス。

 理由はわからないけど、あいつと連絡する時は着けてほしいって言われて渡されたやつだ。

 でもかなり綺麗な宝石だから、私は連絡しない時でも肌身離さず常に着けているけど。


「そんな苦労して作ってくれたんだ、ありがとう、アデル」


『いえ、私が勝手に貴女にプレゼントしたいって思っただけですよ』


「それでもだよ。嬉しいんだ、ありがとな」


『……貴女に喜んでもらえてよかった』


 とても優しそうなアデルの声がして、危うく悶死しそうだった……。

 私達は名残惜しそうに通話を終了させた。

 本当はもう少し話したかったな。

 でも、またいつでも話せるから、我慢しよう。


 さて、アレの続きを観よう……。

 電源を付けると、別の映像になっていた。

 それはさっきのよりもっと過激な内容となっていて、複数人だった……。

 これより先の事は…………察してくれ。

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