第四十六話 二人の最強、ラーメンを堪能する
――アタル視点――
……あれからアデルさんと話し合って、旅行中はアダルトなビデオを見るのは止めようって話になった。
うん、お互い色々スゴかったからね……。
この有料カードで映画も観れるから、それを二人で観ようという事にした。
うちの父さんは結構映画が好きで、色んなジャンルの映画を観ていた。
小さい頃から一緒に映画を観てきたから、僕もそこそこ映画が好きになっていた。
僕の中で、未だに好きな映画は『裸の銃を持つ男』というコメディ映画だ。もしホテルで観れるなら、アデルさんにも見せたいな。
さて、今僕達はホテルの外に出て、とあるお店に向かっていた。
僕はラーメンが好きだから、ネットで検索してみたらちょっと気になるラーメン屋があったんだ。
アデルさんにもラーメンでいいかを聞いてみたら――
「らあめん? それはどういう食べ物なのでしょうか! 非常に気になりますよ!!」
とっても興味を示してくれた。
夜八時まで発情しっぱなしだった僕達は、いい加減賢者タイムが訪れて空腹も襲ってきたんだ。
とにかく今は美味しい物を食べよう!
お目当てのラーメン屋は、ホテルから歩いて五分程度の距離だった。
地図で見てもそこまで遠くないなって思っていたけど、思った以上に近かった。
お店の名前は、『ガキ大将』と言う。
そこまで大きなお店ではないけど、大衆食堂みたいな外装で僕は結構好きだな!
アデルさんなんて、目を輝かせて早く入りましょうと急かしてくる。
安心しなさい、僕も早く食べたいから急かさなくても入りますよっと。
「らっしゃいませ」
結構お年を召している店主(恐らく)が、シワがある顔をさらにくしゃっとさせて笑顔で挨拶してくれた。
この時間帯はそこまでお客さんがいなかったから、席は選びたい放題だった。
僕達は適当な席に座り、メニューを手に取った。
うんうん、これだよこれ!
僕が食べたいラーメンだよ。
「アタルさん、何を食べたいんですか?」
「うん、山賊焼ラーメンだよ!」
アデルさんが何を食べるのかを聞いてきたので、その名前を言った。
何故かアデルさんの顔面が青くなっていった。
――アデル視点――
今、何て言った?
《山賊焼ラーメン》だと……?
……何という事だ、山賊を焼いたものを提供するのか。
むしろ、この平和な日本に山賊がいるのがびっくりだ。
ついに、私は人間を食す事になるのか……。
そんな悪食はすまいと決めていたのだが、せっかくアタルさんがお勧めしている料理なのだ。
……覚悟を決めて食べよう。
「おーい、アデルさん? 何か盛大な勘違いしてないかい?」
「勘違い? だって、山賊を焼いているんですよね……?」
「あはは、違うよ!」
アタルさんがゲラゲラ笑って否定した。
では、何故こんな勘違いしそうな名前にしているんだ?
その疑問を、アタルさんはスマホを見ながら教えてくれた。
「鶏のもも肉をにんにくが効いたたれに付けて焼いたのを山賊焼って言うんだ。語源としては、この料理を考えたお店の名前が『山賊』だったからってのと、とある食堂が『山賊は物を取り上げる=
なるほど、日本語とはなかなか表現が豊かな言語故、語呂を合わせて別の意味にしてしまう事が出来るのだな。
しかしよかった、山賊を焼いている訳ではないのだな。
ふぅ、ひと安心だ。
「じゃあアデルさんも山賊焼ラーメンでいい?」
「ええ、そういう事なら全然大丈夫です!」
「了解! おじいさん、注文いいですか?」
アタルさんが手を挙げて店員を呼ぶ。
すると年を召した女性がメモ帳を持ってやってきた。
その女性にアタルさんは山賊焼ラーメンを二つと、ギョーザなる物を注文していた。
ギョーザか、どういう食べ物なのだろうか。
もうこの世界の食べ物は全て美味しいし、見た目も良い。
もう大好きだ、日本の料理!
注文した料理が届くまで、私達は雑談を楽しんだ。
スマホを見ながら、明日は何処へ行こうかとか、お土産を買って行こうとか、本当に他愛もない話だ。
だがそんな会話でも、私は楽しかった。
見るもの全てが新しく、私の胸は踊りっぱなしだ。
これが、旅なのだろう。
心を許せる親友と一緒に、旅風景を共有できる。
些細な事なのかもしれないが、本当に素敵な時間だった。
その時、頭の中で閃いた事があった。
そうだ、我が国にも旅行が出来る施設を作ろうじゃないか。
そうすれば国の経済も回るし、雇用も生まれる。
まだ我が国は通貨運用を開始したばかりだ。なら、今の内に通貨を使える施設を増やすべきだ。
今回は温泉にも行く、それをモデルとさせてもらった上で、我が国にも観光名所を作ろう!
「おーい、アデルさんや。何やら難しい事考えてない?」
む、どうやら表情に出てしまっていたようだな。
「すみません、我が国にもこのような観光名所を作ろうかなとか考えてしまいました」
「……あぁ、そっちもうちも、娯楽という娯楽があまりにも少なすぎるんだよねぇ」
「そうなんです。魔族達は戦いこそが娯楽、だから血の気が多すぎるのです。なので、娯楽施設を作る事で血の気を抑えられるのではと考えました」
「なるほどね。そうすればうちら人間との戦争を望む声も少なくなってくるかな?」
「まぁ理想論ですけどね」
「う~ん、じゃあ僕も向こうでちょっとした遊びを流通させるかな?」
「遊びですか?」
「うん、機械とかを使わないゲームがあるからさ、それをこっちの大陸で流行らせてみようかなって思う!」
アタルさんの目が輝いている。
恐らくアタルさんも楽しめるものを、向こうで流行らせようとしているのだな。
私も興味あるから、色々教えてもらおう。
そんな風に話をしていると、注文していた品が机に置かれた。
「はい、どうぞ。二人とも偉くハンサムだから、無料で大盛りにしてあげたからね」
老人の女性がウインクをしてそう言ってくれた。
サービス、というやつだな。
「えっ、いいんですか?」
アタルさんが聞き返す。
それを聞いて女性は笑いながら、大丈夫と頷いてくれた。
おおっ、何という親切さ。
私達二人は心からお礼を言った。
「お礼はいいよ、それより早くしないと伸びちゃうよ!」
何が伸びるのだろう。
後で調べておこう。
とにかく、今はこれを食べたい!
まずは山賊焼ラーメンなのだが、透き通った茶色のスープの中に細い麺が入っている。
何より驚いたのが、私の中指の先から手首位までの大きさの、肉を揚げた物が五本も乗っかっている!
豪快な盛り付けだが、見た目は全く悪くない。むしろ、食欲をそそる。
アタルさんが私の分まで箸を取ってくれた。
後は変わった形のスプーン(後で知ったのだが、蓮華と言う陶器製の匙らしい)も渡された。
これでこの熱そうなスープをすくって飲むのだな。
ではまず、この山賊焼を頂くとしよう。
私は箸でこれを掴み、ひとかじりする。
うむ、箸の使い方を練習しておいてよかったぞ。
かじった肉をしっかりと噛んで、味わう。
すると、肉の旨みが口の中に広がり、ちょっとツンとした臭いがするけど香ばしい風味が素晴らしかった。
一言で言うなら、もう旨いしかない!
素晴らしい料理にあれこれ言うのも失礼だ、純粋に旨いものなのだ!
ただの肉でも、ひと手間も二手間も加えただけで、こんなに味が変わってくるのだな……。
それにこのスープが揚げた衣に染み込んでいて、肉の旨みにワンアクセントを加えてさらに美味しくなっている。
素晴らしい……。
あぁ、この山賊焼もいいが、純粋にスープも飲みたい。
私は蓮華でスープをすくって、ちょっと息で冷ましてから口に流した。
「おぉ……、何という美味しいスープなのだ!」
つい、声に出してしまった。
それほど美味しいのだ!
味がしっかり濃く付いており、だからと言ってしょっぱい訳でもない。
絶妙な味の濃さなのだ。
うむ、これが肉に染みていたスープ……。
これ単品でも十分に楽しめるぞ。
「あはは、アデルさん夢中だね!」
「ええっ、イタリア料理とはまた違った味で、とても感動しています!」
「でも、メインはこの麺だからね?」
するとアタルさんは箸で上手に麺を掴み、ズズズっと音を立てて口に入れていく。
イタリア料理店では、音を立てるのはマナー違反ではないのか?
周りを見渡しても、店員は何も言っていないし、他の客も音を立てて食べている。
ラーメン屋では、音を立てて食べるのがマナーのようだな。
「ん~、美味い! ほら、アデルさんも食べなよ」
「ええ、いただきます」
私も箸で麺を掴み、アタルさんの真似をして音を立てて食べてみた。
ズズズッ。
何故だろう、音を立てて食べるだけで口の中に風味が増してくるように感じた。
そして麺と上手く絡み合ったスープが、麺に味を与えている。
素晴らしい旨さだ。
「あぁ……、とても美味しいです」
「よかった、アデルさんの口に合ってるみたいで!」
「ええ、こんな素晴らしい食べ物があったなんて……」
食べるという行為が、こんなに楽しいなんて思わなかった。
食べ道楽という言葉が日本に存在しているが、ようやく理解出来た。
我々知的生物にとって、食事すら娯楽に出来るのだ。
様々な料理で日々の生活を彩らせていく。
日本とは、本当に素晴らしい国だ!
では最後に、ギョーザを頂こう。
小皿に醤油という調味料を浸し、ギョーザをそれに付けて一口で食べた。
「あっつ!?」
物凄く熱かった。
舌が火傷しそうだったが、私の舌は強靭だ。この程度では火傷しない。
でも次からは、少し冷まそう……。
しかし、噛んだ瞬間にギョーザの中から汁のようなものが出てきたのを感じた。
肉のような風味があるな。
私はよく噛んで味わう。
うぅむ、中に入っているのは肉とネギのようなものか? 醤油ととても合っていて、凄く美味しい。
不思議とラーメンと合っているように思える。
この山賊焼ラーメンとギョーザの組み合わせは、最強だ!
あぁ、私はこの料理に惚れ込んだ。
ふとアタルさんを見ると、ラーメンとギョーザをスマホで撮影していた。
何をしているのだろう?
「アタルさん、何をされているんですか?」
「いやね、由加理ちゃんに送ろうと思ってるんだ」
どうやら日本の若い者の間では、出先で食べた美味しい料理等を送信して情報共有するのだとか。
なるほど、なら私も夢可さんにやってみようではないか。
私はスマホを取り出して、ラーメンとギョーザを並べて撮影。すぐさま夢可さんに写真を送信した。
すると、すぐに返事が返ってきた。
『美味しそう。私も今からラーメン食べる』
ふふ、夢可さんもラーメンを食べに行くのか。
多分彼女も写真を送ってきてくれるはずだ。
どんなラーメンを食べるのか、楽しみに待っていよう。
さぁ、アタルさんも夢中になって食事をしているので、私も食事しよう。
熱い料理だけど、それすらも楽しくて美味しいと思えるのだ。
もう、まだ一口ずつしか食べていないのに、ラーメンとギョーザの虜になってしまっていた。
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