第四十三話 二人の最強と、日本政府のエージェント
――アタル視点――
「ほぉ、ほぉ~~~、これがアデルさんの好きな人かぁ!」
「……ええ、そうです」
ほっほっほ、魔王様が顔赤くしてるよ!!
やっぱアデルさんって女性にも見えるから、モジモジしているところが女性っぽくて、可愛らしく見える!
でもね、今俺は最強の恋人である由加理ちゃんがいるのです!
気持ちは一切揺らいでいない、揺らいでいないからね!!
まぁしかし、予想外だったなぁ。
アデルさんの好みはおしとやかな感じだと思ったんだが、見た目ヤンキーだよな、この子。
田中 夢可さんかぁ……。珍しい字を書くよね、『夢を可能にする』と書いて読み方はユカだからね。
でもこの子の生い立ちを聞いて、孤独という部分で共感したんだろうね。
だからお互い心をすぐに開いて、アデルさんは惚れちゃったと。
ん~、でもなぁ。
多分だけど、夢可さんもきっとアデルさんの事好きな気がする。
じゃなかったら、多分こんなくっついて写メ撮らないでしょ。
まぁこれは僕の予想だから、余計な事は言わないでおこうっと!
「でさ、アデルさんはこの子とどうなりたいの?」
「えっ、どうとは?」
「付き合いたいんだよね?」
「えっと、あの……多分、そうか、と?」
何で疑問系やねん。
僕の場合、由加理ちゃんの事を好きだと自覚した瞬間、恋人という形がどうしても欲しかった。
そう、人間は関係に形を欲する生き物なんだ。
アデルさんも魔族とは言え、恋をしている人間に近い生き物だ。
絶対に形を欲しがるはず。
ここはちょっと煽ってみますか。
「じゃあ想像してみて。今確か夢可さんとは友達って事になっているよね?」
「はい、そうなっていますね」
「ならそのままでいたとしよう。恋人を紹介されたら?」
「なっ!!」
おおぅ!!
アデルさん、アデルさん!
魔力溢れてるよぉ!!
納めろ、それを納めろ!!
僕はアデルさんの頭にチョップを落とす。
「あいたっ!」
「魔力は抑えましょうね」
「うっ、失礼しました……」
「でもさ、すっごい動揺したでしょ?」
「……はい」
「つまり、アデルさんは夢可さんと恋人になりたいって事だよ」
「…………なるほど、いつまでも友達のままだと、恋人を紹介されてしまう可能性がある、と」
そこまで言ってないんだけどなぁ。
頭すっげぇいいんだけど、たまに深読みし過ぎるところあるよねぇ。
ま、今回は都合が良いし、乗っかっちゃいましょう。
「そうだよ。アデルさんも、彼女との関係に形を求めているんだよ」
「……恋とは、なかなか難儀ですね。こんなにも不安になるなんて」
「でもね、両思いになって一緒にいられたら、最高に幸せだよ?」
「きっと、そうですね」
ちょっと不安そうだけど、柔らかい笑みを浮かべるアデルさん。
多分大丈夫、きっと上手くいくよ。
じゃ、この人にも登場してもらおうか!
「大丈夫、絶対上手く行くって! ね、そう思うよね、奥野さんも!」
後ろの座席で僕達を監視している、日本政府の異世界調査課に在籍しているエージェントである奥野さんに声を掛けた。
「……何故わかった」
気配が丸わかりなんだって。
多分変な視線だから、アデルさんも気付いてたと思うよ?
――奥野 孝視点――
どうしてだ、どうしてこうなった。
俺はさっきまで監視の為に彼らの後ろの席に座っていたのに、バレてしまい相席となった。
やはり、勇者は伊達じゃないという事か。
「――というわけなんだよ」
立花 アタルが俺との出会いの経緯、そして俺が所属している組織を魔王に紹介をしている。
こいつが魔王か……。
俺はもう少しいかついイメージがあったんだが、何というか、女性に見える。
だが、着ている服や引き締まった体型を見る限り、多分男なんだろう。
女性寄りの中性イケメンって感じだな。
サラサラな金髪に、異質な赤い瞳は、世界で確認されていないアイカラーだ。
まるで血を連想させる位に赤い。
「ふむ、なるほど。確かに魔王は破壊するものというのが、この世界では定番となっていますからね。監視されても仕方ないでしょう」
「そうだ。だが、立花 アタルから日本へ観光しに来ていると聞いた。だから監視下に置かせてもらっているが、俺から危害は加えないつもりでいる」
「了解しました。あっ、自己紹介遅れました。私は魔族の王をしているアデルと申します。以後お見知りおきを」
日本語、流暢だな……。
「とても日本語が上手いんだな」
「ありがとうございます、いやぁ、覚えるの苦労しました……」
「何で日本語を習得しようと思った?」
「そりゃ、この素敵な国を堪能するためです!!」
俺に顔を近づける魔王アデル。
近い近い、顔近い!
そんな美人に迫られると、イケない一線を越えてしまう気がする。
落ち着け、こいつは男だ。こいつは男だ!!
「この国は私達の世界にない文明があります! 機械もそうですが娯楽も素晴らしい! 魔術はないのにこんなにも発展しているなんて、為政者としてはもう最高のモデルケースなのです!! さらに言えば、日本の文化も素晴らしい!! 他国の文化を自国流にアレンジを加えて、それを上手く吸収してしまうとは……。普通他国の文化を取り入れると、自国の文化が消失してしまう恐れがあります。それを失わせない見事な柔軟性……、ああ、この国はどれだけ私を魅了するのでしょうか!」
すっげぇペラペラと喋るな、この魔王。
しかしここまで日本を気に入ってくれるのは、相手が人外であっても嬉しいものだ。
「……破壊するつもりは、ないんだな?」
「破壊なんてとんでもない! むしろ私は、もっと日本を旅行したいのです!!」
「うむ、わかった。今後は訪問した際は必ず、うちの部署に立ち寄ってくれ。本来なら貴方は不法入国扱いだ」
「うっ、そうですよね」
「でも貴方は異世界出身、この地球で貴方の身分を証明できるものは一切ないだろう。だから、俺の部署に立ち寄って申請する事で、入国審査を受けた扱いにするつもりだ」
「それはありがたいです。今後は是非、そちらへ立ち寄らせていただきます」
「ああ、頼むよ」
しかし、本当にこれが魔王なのか?
確かに立ち振舞いが気品溢れている。
だが、柔らかい笑みが威厳等を感じさせない。
何というか、フレンドリー過ぎる気がする。
おっと、言い忘れていた。
事前にこいつらにも言っておかないとな。
もしかしたら、協力を要請するかもしれないし。
「そうだ、勇者に魔王。先程松本市で速報が入った」
「ん? どういう速報?」
立花 アタルが聞いてきた。
「松本市にあるゲームセンターが全焼した」
「へぇ、何か不吉だね」
「ニュースではただの全焼で伝えているが、どうやらおかしい点があるようなのだ」
「おかしい点?」
「ああ。普通の火事なら、ゲーム機とかは形が残るものなんだが、何故か燃えきって溶けていたんだ」
そう、ただの火事なのに、まるで高温に焼かれたように形すら残っていない。
そして建物は炭と化していたので、崩れ落ちた際に粉末状になる位な燃えカスになっていた。
「中に遺体らしきものもあったのだが、それすら形がボロボロとなっていて、身元を特定できない位だ」
「……なるほど。金属を溶かしてしまったり、人体の形状すら残さない程の高温で燃えたという事ですか」
「さすが魔王、理解が早くて助かる。通常の火事では起こりにくい事なんだ」
さらに不可解な事に、近隣には燃え移ったのだが、それはあっさり鎮火出来ている。
その事も伝えると、魔王アデルは腕を組んで考えている。
「奥野さんは、私達の世界の者がこちらに来ていると疑っていますか?」
「いや、この世界でもな、大なり小なり魔法じみた能力を使える異能力者が存在している。今回はその可能性を考えている」
この異能力者は、江戸時代から確認されている。
トップシークレットの文献によると、江戸時代では車や新幹線がない時代に、異常な速さで東京と大阪の間を一日で駆け抜けた者がいるらしい。
さらに、人体発火現象を起こす人間すらいたようで、当時は妖怪扱いされて討伐されたようだ。
今回、俺は人体発火現象に近い能力を持った人間の犯行だと睨んでいた。
「正直言って最初は君達の世界の者かと思った。だが、一ヶ月前に確認された異世界が、この世界に影響を及ぼすとは考えにくい。故に異能力者の線が濃厚なのだ」
「ふ~ん、なるほどねぇ。つまり、もし遭遇したら僕達の力を借りたいと?」
「……まぁそうだ。俺達だけでは、犯人を抹殺出来ない可能性が高いからな」
「えっ、殺さないとだめ?」
「場合によっては、だな。もし捕縛出来るなら、無力化して捕縛してほしいが」
「……難しいかもって事?」
「そういう事だ」
勇者と魔王がお互い見合う。
そして天井を向いて合掌した。
「「お願いしますお願いします、そいつに遭遇しませんように!!」」
「そんなに嫌か?」
「嫌に決まってるよ! 僕達はただ旅行したいだけなんだって!!」
「そうですよ! 日本に来てまでそんな血生臭い事をしないといけないのは、辛いです!」
「温泉入りたい! 松本城も見たい! ただ観光したいだけなの!!」
「旅を味わいたいだけなのです!! ただ美味しい食べ物を食べたいだけなのです!!」
「お、おぅ」
本当に観光したいだけなんだなぁ。
協力を要請したのは早計だったかもしれない。
だが、多分これだけでは終わらない。
きっと、な。
「だが、恐らくそいつはもっと大暴れする可能性があるぞ。そしたら楽しい旅行が、地獄絵図観光になるかもな」
「「では穏便に抹殺しよう!」」
「物騒だな、おい!」
頼んでおいて何だが、穏便に抹殺ってどういう事だよ!
しかし、勇者と魔王は本当に息ぴったりだな。
本当に親友なんだろうな。
聞く所によると、向こうの世界では結構苦労しているみたいだしな。
出来る限り日本を楽しんでほしいと思う。
「まぁあくまで遭遇したら、の話だ。だから安心してくれ」
「……わかった。頭の片隅に入れておくよ」
「ええ、私達の旅行を邪魔されたくありませんから」
何か心強いな、この二人は。
だが、俺はこの二人の真の実力を知らない。
もしかしたら異能力者にやられてしまう可能性もある。
出来れば、それは避けたい。
なるべく、うちの部署で解決できるようにしよう。
さて、俺も監視しながら松本を堪能するか!
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