第四十二話 二人の最強の旅立ち、動き出す凶行


 ――アデル視点――


 今私達は、松本までの特急券と乗車券を購入し、電車の中で出発の時間を待っている。

 後五分程だ。

 私達は自由席という所に座っている。

 どうやら指定席と自由席に分かれているようで、指定席は座る座席が決まっているのだとか。

 今回私達は特に予約等をしていないので、自由席に座ったのだが、乗っている人はそんなにいないので席は選びたい放題だった。


 アタルさんは今、弁当を購入しに行っている。

 私達は、好きな人に会いに行く為に、食事を忘れていたのだ。

 

「よっし、間に合った! お待たせ、アデルさん」


 アタルさんが白いビニール袋を持って戻ってきた。

 ……結構量があるように思えるが?


「はい、これがアデルさんの分。残りは僕の分!」


「えっ、弁当三つですか? 結構な大きさですが、どうしたんですか?」


「いやぁ、何かお腹が空いちゃって」


「食べられます?」


「今なら余裕だよ。もし食べられなかったら、夜食とかにでもするよ」


 アタルさんとそんな雑談をしている内に、電車が発車するアナウンスが流れた。

 当初これを聞いた私は、「何処だ、何処に喋っている人間がいる!?」と思ったものだ。

 これも機械だというのだから、この世界の人間は本当に凄い。

 そして、電車はゆっくりと動き出して、加速する。

 私達は窓際の席に座ったから、外の景色がよく分かる。

 ついに私は、旅の一歩を踏み出したのである!


 あぁ、旅の先にある出会いは何なのだろう?

 きっと素敵な出会いに違いない……。

 私の隣では、アタルさんがスマホをいじっている。由加理さんへメッセージを送っているのだろう。

 アタルさんは由加理さんへ旅の状況をリアルタイムで伝えると言っていたから、私も夢可さんへやってみようかな?

 ……うざいと思われないだろうか?

 うん、そう思われないように程々に行動しよう。


 きっと、この旅行は楽しくなる!

 

「アタルさん、楽しみですね!」


「うん、本当に楽しみ!」


 アタルさんが満面の笑みで答える。


「……後、由加理ちゃんがいれば最高だったけど」


「……それ、言わないで下さい。私だって夢可さんがいたら最高だと思いますから」










 ――???視点――


 あはは、はははははははははは!

 すっげぇ、今すっげぇ力がみなぎっているぜ!!

 俺の能力が、早く誰かを殺したいって叫んでる!!


 落ち着けよ、俺の力。

 今からやってやるからよ。クックック。


 俺はパーカーを被り、顔が見えないようにする。

 顔がバレて捕まっちまったら、つまらないからな。

 俺はな、たくさん殺したいんだよ。

 だから早く捕まる訳には、いかねぇんだ!


 俺はすでに標的を決めていた。

 俺が高校に行っていた時、徹底して俺を糾弾した奴がいた。

 あのクソッタレな顔、忘れやしない……。

 名前もしっかり記憶に刻み込んであるぜ、《鯨井 隆康》さんよぉ。

 てめぇだけは、じっくり殺してやる。


 俺はこの野郎の居場所を知っている。

 こいつの親父は会社の社長をやっていて、そこそこ金を持っているボンボンだ。

 将来親父の後を継ぐ事が決まっているから、大学に行っているものの、ほぼ遊んでいるだけだ。

 それにどうやら、色んな女を食い物にしては捨ててる、所謂カスだ。

 こんな奴なら、死んでもいいだろう?


 まぁ一応、最初の殺しだけは、正義の鉄槌でも下しておこう。

 その後はまぁ俺の憂さ晴らしだけどな、ははっ!


 さて、カスがいる居場所に着いた。

 松本駅から歩いて三十分掛かる距離にあるゲームセンターで、《プレイスポットDesire》だ。

 ……一瞬風俗かと思ったが、ゲームセンターで間違いない。

 こいつは、今格闘ゲームに相当熱を入れている。

 そこに足を運ぶと……ほら、間抜け面でプレイしていやがる。

 しかも都合がいい事に、一人だ。


 ははっ、徹底的にいたぶってやる。


 俺は、カスに近づく。

 そして、カスが座っている椅子を足の裏で蹴飛ばす。


「っ! あぁ? 何すんだよ、てめぇ……」


 はは、俺を睨み付けてきてやがる!

 でもな、今の俺には全然怖くない!

 むしろこれから、お前が俺を怖がる番なんだよ。

 てめぇが言った化け物の力、見せてやるよ。


 俺は右手の人差し指の先を、カスの左肘に向ける。


「燃えろ」


 俺がそう呟くと、カスの左肘が燃え出した。

 まるで体の内側から皮膚を破って、炎が出てきたかのようだ。


「ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 熱い、熱いぃぃぃぃぃっ!!」


 カスは必死になって炎を払うが、それじゃぁ消えない。

 何せ俺の能力は、パイロキネシス。

 つまり自然発火能力だ。

 こいつは、人体にある原子を発火させている。そしてその原子に次々と燃え移っていくんだ。

 体内にある原子が燃え尽きるまで、お前の体は燃え続ける。

 だけど、それじゃぁつまらないな。


 俺は指を鳴らして、パイロキネシスを止めた。

 すると勢いよく燃えていた左肘が鎮火し、左肘の関節が真っ黒に焦げている。


「あぁぁぁぁぁ、俺の左腕……肘から下が動かねぇ!! 熱い、熱いよぉ!!」


 くっくっく、よ~く吠えてくれてる。

 心地良いねぇ!

 俺は左肘を蹴っ飛ばしてみた。

 ありゃ、もう炭になっていたのか。蹴っ飛ばしたらぽろっと肘から下が取れちゃった。


「お、俺の腕……俺の腕がぁぁぁぁぁぁああ!!」


「あらら、ごめんごめん。まさかこんなに早く炭になってるとは思わなかったわぁ」


「治せよ……俺の腕を治してくれよぉ!!」


 切断部分からは血が出ない。

 そりゃそうだ、炭になるまで焼いたんだ。

 だからね、炭にならずに肉が少しでも残っていたら、溶接出来たんだけどねぇ。


「もうどうしようもないから、焼いちゃおうね」


 俺は人差し指の先を、取れてしまったカスの腕に向ける。

 すると勢い良く発火し、十秒で炭と化した。


「はい、処分処分っと。もう使えなかったし、よかったでしょ?」


「ああぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁあ!!」


 腕が炭となった事で、カスは狂乱し始めた。

 ……意外と見てて楽しいな。


「てめぇぇ!! 何て事してくれたんだぁぁぁぁ!!」


 あれ、このカス、俺の能力の事知っているはずなんだけど。

 あれを見てまだ思い出せないのか?

 ま、いいや。

 お前には俺の新しい能力を見せてやろう、ははっ!


 カスは立ち上がって俺に殴りかかろうとする。

 俺は奴の右太ももを指差して、「ボンッ」と呟いた。

 すると、カスの右太ももが小さく爆発する。

 肉は四散し、骨も爆発で断ち切られ、右足が切断されたような形になってバランスを崩し、無様に倒れた。


「ぎゃぁぁぁっ、俺の足が、足があぁぁああぁぁぁぁぁ!!」


 こいつの悲鳴、レパートリー無さすぎ。

 さっきと同じじゃんかよ。

 もうちょっとそこら辺のボキャブラリーがあったら、俺としては最高だと思うぜ?

 また殴り掛かられたら面倒だから、左足も「ボンッ」と。

 そしてまた小さな爆発が、カスの左太ももで起こり、肉を飛び散らかして切断された。

 奴の断末魔が一オクターブ上がる。いいね、いい声だよ!!


 さて、俺の目覚めた能力。

 名付けて《ファイア・ボム》だ!

 俺の憎しみが、この能力を目覚めさせた。

 こいつはサッカーボール一個分の小さな爆発を、局所的に発動させられる力だ。

 その範囲であれば、鉄すらもドデカイ穴を空けられる、破壊力抜群の能力でもある。

 実は三つ目の能力にも目覚めたんだけど、それはカスには披露しない。

 これは、とっておきだからねぇ。『お祭り』に使わせてもらうさ。


 ん~、こいつをいじめるの、もう飽きたな。

 もう満足したし、さっさと幕引きさせっか。


「じゃ、俺は帰る。頑張って生きてくれよ?」


「ふーっ、ふーっ、た、助けて……」


「はぁ? てめぇ、俺が何度てめぇに『助けて』って言ったと思ってるんだよ……」


「えっ……、ま、まさか。お前は……!」


「そうだよ。ようやく思い出したか、このカスが!」


「お前ぇぇっ、だ――」


「おっと、俺の名前を言うのは、なしだぜ?」


 俺はカスの舌に対してパイロキネシスを発動させた。

 奴の舌は炎を上げ、悲鳴にならない声を出して床をゴロゴロとのたうち回った。

 はっ、いい気味だぜ!

 とりあえず、指を鳴らして発火を止めてやったけど、まぁこんがり焼けたから使い物にならないだろうなぁ。

 そんな舌じゃ、お前の大好きなセックスで女すら悦ばせられねぇな、ははっ。

 まっ――


「てめぇを生かしておくつもりは、これっぽっちもないんだけどな」


 俺は人差し指を水平に移動させる。

 すると、建物自体が物凄い勢いで燃え始めた。

 俺のパイロキネシスで、燃える物全てを、炭になるまで燃やすように指示を出した。

 ただし、この建物だけだ。近隣の建物にはパイロキネシスの炎は燃え移らない。ただの炎となって燃え移るので、充分に水で消化出来る。

 消せないのは、このゲームセンターだけだ。


 それじゃぁな、よい絶望を、カス野郎!


 あはははははははははははははは!!









 ――アタル視点――


「やっべ、この弁当めっちゃ美味い!!」


「アタルさん、このとんかつという食べ物、すっごく美味しいですよ!!」


 僕とアデルさんは、空腹を満たしていた。

 新宿駅構内で販売されていた弁当なんだけど、ちょうど出来立てだったんだよね!

 だからまだアツアツで、とっても美味しいんだ。

 僕はとんかつ弁当を頬張っているアデルさんを撮影、速攻で由加理ちゃんにその写真を添付して送った。


『とんかつを頬張る魔王様wwwwwwwwww』


 すると、速攻で返事が返ってくる。


『アデルさん、可愛い♪』


『いいなぁ、アタシも行きたかったなぁ』


 うん、僕も由加理ちゃんと行きたかったなぁ。

 でもね、少しだけいなくてよかったって思ってるんだよね。


『でももし一緒にいたら、僕、理性抑えられないよ』


 そう、こういう事。

 絶対僕、由加理ちゃんを押し倒しちゃいそう……って、うわぁぁぁぁぁっ!?

 そのまま思っている事をメッセージしちゃったよ!!

 何やってるんだよ、僕はぁぁぁぁ!

 ほら、普段は速攻で返ってくる返事が返ってこないし!


 あっ、返事返ってきた。


『エッチ』


 ぐはっ!

 短いその言葉、破壊力ありすぎでしょ……。

 短すぎるから、怒っているのかどうかもよくわからないし!!

 すると、また由加理ちゃんからメッセージが来た。


『そういうのは、二人きりの時だからね?』


 ……


 …………


 ………………


 ……………………


 んんんんんん?

 何か、すっごい発言だよね、これ?

 えっと、どういう事?

 つまり、二人きりで旅行する分だったら、オッケーって事!?

 いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

 と、心の中で思っていたら、頭に強い衝撃と激しい痛みが襲ってきた。


 アデルさんが、右手に魔力を宿してチョップしてきたのだった。


「アタルさん、ちょっとバタバタ煩すぎです。静かに食事しましょう!」


「いてててて……すみません」


 この僕にダメージを与えるとは、流石最強の魔王!

 でもさ、今なら僕の気持ちわかってくれるよね!?

 だってさ、『二人きりなら襲っていい』って許可をくれたようなもんなんだよ!?

 思春期の男の子は喜んじゃうって!!


「とりあえず食べてから自由にしてください」


「了解しました、はい」


 アデルさんが魔力による刃を作り始めたので、大人しくしました、はい。

 まぁ確かに弁当冷めちゃうし、美味しい内に食べちゃいましょう!!

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