第三章 松本市旅行編

第四十一話 二人の最強、新宿駅で迷う


 ――アタル視点――


 僕は今日の目的の一つである、由加理ちゃんにアーティファクトを渡せたから、アデルさんと合流する為に電車で新宿駅へ向かっている。

 アデルさんとは、松本行きの特急列車に乗るので、新宿駅の南口で待ち合わせをしている。

 僕が南口に着いたら、スマホで連絡取れば居場所はわかると思うし。

 アデルさんも意中の女の子にアーティファクトを渡せたかな?

 後で聞いてみよっと!


 渋谷駅から山手線で新宿駅へ向かっているんだけど、そんなに時間は掛からない。

 後三分位で到着するしね。

 

 そうそう、実は昨日の夜に何とか宿泊先は予約取れたんだ。

 松本駅からバスで十五分位で着く温泉の宿はもう一杯だったから、仕方なく駅前のビジネスホテルで二泊の予約が取れた。

 朝食も取れるし、部屋も綺麗そうだった。しかも一泊の宿泊代がそんなに高くないから、ちょうどいいね!

 我ながら良い宿を取ったと思うよ。

 今は十四時を過ぎた辺り。十四時半に特急が出発し、大体三時間程の列車の旅になる。

 今日は特に観光をせず、ビジネスホテルの近場で食事を取って休もうと計画している。


 さってさて、どんな旅になるかなぁ?

 松本城に温泉、結構楽しみだ!!

 由加理ちゃんに色々旅の途中経過を送っちゃおうっと!


 そんなこんなで、あっという間に新宿駅に到着した。

 僕は、複雑な構造の新宿駅に四苦八苦しながら、南口を目指した。






 くっそ、何だよ!

 新南改札とか知らないよ!!

 あんなの前からあったっけ?

 構造が複雑すぎて、さっぱりわからん!!

 南口の名称が変わったのかなぁ? なんて思ってたけど、別の改札口だったみたいだ。

 本当にややこしい!

 何だかんだで迷ったけど、下車してから六分後に何とか南口に辿り着いた。

 これ、アデルさんわかるのかな?

 一回メッセージ送ってみようかな。


『アデルさん、迷子になってない?』


 すると、速攻で返事が帰ってきた。


『しんじゅくえきとは何なんですか! 迷宮過ぎるでしょ!! 助けてください!!』


 ですよねぇ。

 僕は今アデルさんの周辺に何が見えるのかとかを事細かく聞いて、メッセージで南口に誘導する事に成功した。

 合流した時、アデルさんはちょっと元気がなかった。












 ――アデル視点――


 この世界の人間は、本当にすごい!

 しんじゅくえきという建物、一体何なのだ!?

 もう迷宮と言っても過言ではないではないか!

 よくこんな建物を作ったものだ。

 そして、これを利用している他の人間も、何故迷わないのだ!!

 本当、この世界には色々驚かされる。

 どれだけ私を驚かせれば気が済むのだ!


 最強の魔王こと、私アデルは、絶賛迷子中だ。

 まさか、この私が迷子になるとは思わなかった。

 それだけしんじゅくえきという建物が複雑なのだ。


 我が国でも、こんなに迷宮じみたダンジョンは誕生していなかったぞ。

 ううっ、どうすればいいのだ。


 そうだ、迷子になった時こそ、このスマホを使うべきだ!

 このスマホのインターネットなるものを使って検索をすれば、大抵の出来事は解決できる!!

 さぁ、いざ検索するぞ!!


 ……


 …………


 ………………


 しまった、検索方法がわからない。

 アタルさんがやっているのを一度見た事があったが、それだけで理解は出来なかったようだ……。

 私とした事が、なんという失態!

 夢可さんに夢中になりすぎていたようだ。

 しっかり、アタルさんに細かく使用方法を聞いておくべきであった。


 すると、新着メッセージが入った。

 もしや、アタルさんか!?

 開いてみたら、夢可さんからであった。


 今は非常に困った状況で、アタルさんから来てくれた方が嬉しかったが、正直夢可さんから来てくれたのも物凄く嬉しい!

 私は胸の高鳴りを感じながら、メッセージを開く。


『さっき私が撮った写真、送る』


 そのメッセージの後に、渋谷駅で撮った写真も送られてきた。

 かなり寄り添って撮影したから、相当緊張した。

 まるで一ヶ月前に二人っきりでプリクラを撮ったアタルさんと由加理さん位に接近していた。

 あぁぁ、結構これは恥ずかしいな……。

 これを後でアタルさんに見せるのか、少し抵抗がある。


 とりあえず、これも旅の楽しみだ。

 アタルさんに頼らずに、自力でまず解決してみようではないか!

 

 私はすれ違う人に声を掛け、南口とは何処かを尋ねた。

 だが、私が望む答えは返ってこなかった。

 むしろ何故か皆、顔を真っ赤にしてマトモに受け答えをしてくれないのだ。

 女性は顔を赤くしてキャァキャァ叫び、男性も顔を赤くして鯉のように口をパクパクさせていた。

 どうしたと言うのだ、彼らは?

 もういい、とりあえずもう一度目の前の女性に声を掛けて尋ねてみた。


「あのすみません! 私、南口へ行きたいのですが!」


 誰も教えてくれないから、正直苛立っている。

 しかしこの女性に関しては少し反応が違った。


「わかりました! じゃあID教えてください!」


 顔を赤くして、訳のわからない事を言い始めた。

 IDとは、メッセージアプリのIDの事だろうか?

 何故、道を聞くのとIDが関係あるのだろう。


「いえ、あの、道を教えてくれるだけでいいのですが……」


「なら私が案内します!」


 そう言って私の手を握って、引っ張ろうとする。

 何この女性、かなり怖いのだが!!

 私は、とりあえずその場を逃げるように離れた。

 怖い、この女性には着いていくなと警鐘を鳴らしていたのだ。


 くっ、最強の魔王である私が、人間に恐怖を与えられるとは……。

 最大の屈辱だ!

 ……私、何だかんだで魔王という立場好きなんだな、よくよく考えると。

 まぁ孤独ではあったが、やりがいがある仕事だとは思っているからな。

 って、そんな事はどうでもいいのだ!

 南口! 今は南口に行くのを最優先したいのだ!

 何故、皆南口への行き方を教えてくれないのだ!

 ダメ元で夢可さんにメッセージを送る。


『仕事中すみません。しんじゅくえきの南口への行き方ってわかりますか?』


 そして速攻で返事が返ってきた。


『ごめん、わかんない』


 …………くっ!

 別に夢可さんが悪い訳ではない。

 私が、色々準備を怠ったのが悪いのだ。

 まさか、こんな複雑だとは思わなかったからな、しんじゅくえき。


『わかりました、忙しいところありがとうございました』


『力になれなくてごめん』


『いえ、大丈夫ですよ!』


 夢可さん、速攻で返事を返してくれるが、仕事大丈夫か?

 はぁ、しかしどうしよう。

 八方塞がりではないか……。

 すると、さらにメッセージが来た。


『アデルさん、迷子になってない?』


 アタルさんだ!

 うぅ、なるべくアタルさんに頼らず、びしっと集合場所に向かいたかったが、致し方ない。

 恥を忍んで、助けてもらおう。


『しんじゅくえきとは何なんですか! 迷宮過ぎるでしょ!! 助けてください!!』


 その後、メッセージで周辺にあるものを根掘り葉掘り聞かれては答え、メッセージでの指示の元何とか合流に成功した。

 ……疲れた。


「アデルさん、お疲れ」


 親友が労いの言葉をくれた。

 流石はこの世界の住人であるアタルさん。迷わずここに辿り着いたようだ。

 その表情は余裕そのものだ。

 

「……もう、しんじゅくえきは怖いです……。こんなの、超高難易度のダンジョンより難関な迷宮ですよ」


「あぁ、そちらの名物のダンジョンだね」


 我が国は魔力が溢れ返っている。

 その魔力が稀に意思を持つ。その意思がダンジョンを作り、奥にボスとなって居座る。

 何故そうなるのかは学術的な部分はわかっていない。

 だが、腕試しをしたい我が国の兵士や民が、こぞって我先に潜るのだ。

 死者も出るのだが、好戦的な部下を抑えるのにはもってこいだったりする。


「とりあえず、無事に合流できたし、特急に乗ろう!」


「はいっ! 長時間の電車での移動、結構楽しみだったんですよ!」


「僕もそこまで経験ないから、何気に楽しみなんだよねぇ」


「ふふ、この私がまさか旅が出来るとは思いませんでした」


「一国の王様だからね、こうやって一週間時間ができたのが奇跡だよね」


「そういう勇者だって、人間を守る守護神的存在ですから、色々されているでしょう?」


「……まぁね。あまり自由はないよね」


 勇者という職務は、ただ戦うだけではない。

 彼は守護神である。故に民から崇められなければならない。

 故に定期的に王都を巡回したり、兵士の訓練を視察したりしている。

 巡回と視察だけでも相当な量らしく、アタルさんも忙しいのだ。

 まぁあの愚王にとって、アタルさんが働いてくれているだけで自身の支持率が上がるので酷い扱いが出来ず、結果アタルさんの発言力は愚王を抑制する程なのだ。


「なら、この旅行でお互いにリフレッシュしましょうよ!」


「うん、そうしよう!! ……あっ、意中の人の写真もしっかり見せてよね!」


「うっ……わかりましたよ」


 何か察したのか、アタルさんがニヤニヤしている。

 くそ、殴りたい!

 いいさ、私も由加理さんとの会瀬の内容を根掘り葉掘り聞いてやろうではないか!

 そして、恋愛の参考とさせていただきます!

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