第十話 二人の最強と、二人のビッチ


 ――アタル視点――


 ん~、このねっとり観察されている視線が本当に不快だなぁ……。

 女性皆の視線が集まっているから、誰の視線かわからないんだよね。

 とりあえず店員さんには注文したし、後は料理が来るのを待つだけだね。


 視線の多さに息苦しさを感じていると、アデルさんが話しかけてきた。


「アタルさん、人間の雌達の視線の中に、異様に気持ち悪い視線が混じっているのですが……」


 おっ、さすが魔王! 不快な視線に気付いたね!


「そうだね。何というか、全身に絡み付いてくる位ねっとりした視線だよね」


「ええ、もうただただ気持ち悪くて……」


 まぁ多分、僕達を品定めしてるんじゃないかなぁ。

 何かそんな感じがするよ。


「どうする、店変える?」


「いえ、私はあの丸い物体をどうしても食したい!」


「ピザね。……なら我慢しようよ」


「はぁ、ですな……」


 あまりにも不快な視線に、僕達はめっきり口数が減ってしまう。

 まるで喧嘩しているカップルのように。

 ……何でカップルとして表現してるんねん、僕!!

 そういう需要は一部の腐った女性だけだから!!

 僕は女の子大好きだから!!

 ……その発言もチャラ男みたいで嫌だなぁ。


 二人で同時にため息をついた瞬間、恐らくその視線の持ち主が話しかけてきた。


「そこのお二人って、芸能人か何かですか?」


 二人組の女性だ。

 話しかけてきた女性は、胸元まで伸びているウェーブがかかったナチュラルブラウンなロングヘアー。白のワンピースだが、大胆に胸元が開いていて、豊かな谷間が見えてる。

 もう一人の女性は、化粧が薄くて道願のボブカットの黒髪。身長も小さくて、小動物を連想させるような女性。

 二人共、多分僕より年上だろうな。


 しっかし、二人共可愛いんだろうけど、目が怖い。

 見た目はすごいいいんだけど、目がギラ付いているというか。

 《リューンハルト》で僕を倒して将校になろうと野心を抱いていた、どっかの戦士と同じような目だね。

 これが肉食系女子ってやつか……。


「いえ、違いますけど?」


 僕は日本語で返す。

 アデルさんはまだ日本語を理解していないから、頭の上にクエスチョンマークが付いてる。


「そうなんですかぁ? 二人共超かっこよくてぇ、よかったら一緒にお食事いかがですかぁ?」


 ロングヘアーな女性、わざと前屈みになって胸の谷間を見せつけてくる。


 やめて!!

 思春期の男の子の性欲を刺激しないで!!

 鼻の下が伸びそう!!


「アタルさん、鼻の下伸びてますよ」


 あぁ、すでに伸びてた!!

 アデルさんにリューンハルト語で指摘されました。

 だって、男の子はおっぱい大好きなんだもん!


 ごほん。

 とりあえず咳払いをして、女性の顔を見る。


「あ~っと、ごめんなさい。今僕達二人で観光中だから、ゆっくり語らいたいんですけど」


「え~? せっかくのご縁なんですから、一緒に食べましょうよぉ~」


 わざとらしく、甘え声でいちいち話してくるなぁ、この人!

 というか、近い!

 そして香水臭い!!

 何か香水の臭いがきつくて、鼻摘まみたくなる。


「アデルさん、助けて!! 思春期の男には刺激が色々強すぎる!」


 主に性的な。

 香水のキツい臭いのおかげで辛うじて抑えられてます。


「いやぁ、武の頂点にいる勇者アタルが、こんなにあたふたする光景を垣間見れるとは。旅行とは楽しいですねぇ」


「そんなにニコニコしてないで助けてよ! 二百年以上生きているなら、女性経験豊富でしょ!?」


「いえいえ、私は魔術の研究一筋だったので、色恋は経験したことないですよ」


 くっそ、相棒も童貞だった!!

 しかももう一人の女性は、僕の手を握ってきた。

 そして首を傾げてにこっと微笑む。


 超可愛いんですけど!


 あぁぁぁぁ、思春期の男の子をこれ以上刺激しないで!


 多分アデルさんにアタックしないのは、日本語通じないからだろうなぁ。

 だから、僕にひたすらアプローチかけてきてるんだろうな。


 一応アデルさんにアイコンタクトを取ってみた。

 頷かれた。

 一緒に食べた方がいいって事かな。


 僕は盛大にため息をついて、店員さんに四人席にしてもらうようお願いをした。








 ――由加理視点――


「はぁ、はぁ、はぁぁぁ、ついたぁ!」


 家からずっと全速力で走って、やってきました渋谷!

 今は《パラノイア》の前にいるんだけど、今日もたくさん並んでる。

 相変わらずの人気店よねぇ、ここ。


 ただアタシはあっくんに会いに来ただけなのに、並ばなくてはいけない。

 すっごいもどかしい!

 さっさと店の中をさっと確認して、あっくんを連れ出したいだけなのに!


 ……さっきそれをやろうとしたら、思いっきり並んでいる人達に睨まれた。当然よね。


 もう、すごく会いたいだけなのに並んでるって、訳がわからない!

 アタシはご飯を食べに来たんじゃないんだって!!


 あっ、でもいい臭い♪


 ちょっとだけでも食べちゃおうかなぁ?


 まぁアタシの番が来るまで、スマホでアタシのスレッドでも見ようかな。


 って、すっごいpartが進んでる!?

 えっ、ちょっと!

 スレ主のアタシが読むの追い付かないんですけど?

 全部目を通すの時間かかるし、これ!


 アタシのスレ、超賑わってます。


 まぁ列はまだまだ長いし、気長に読みますか。











 ――肉食系女子 赤坂 裕子(二十五歳 OL 彼氏持ち 元ビッチ)視点――


「えっ、アタルさんって本当に十七歳!?」


 今日友達の加代子(同い年で既婚で元ビッチ仲間)とたまたま食事していたら、イケメン二人組が入ってきたの。

 私と加代子は昔の悪い癖が再発しちゃって、タイミングを見計らって声をかけた。


 アタルさんっていう日本人は、実は十七歳だった。

 信じられないわよ!

 だって、雰囲気だって落ち着いているし、背筋がびしってしてるし、何か惹かれるオーラを放っているのよ。

 私は過去に芸能人と一夜を共にしたけど、それに似たような……それ以上のオーラがあった。

 だから本当に高校生なのだろうかと、まだ疑ってる。

 でも身体が引き締まってて、鎖骨がとってもセクシーで、優しそうな顔立ちは私の好みドストライク!

 まぁ一夜のアバンチュールだったら、問題ないよね?

 青少年保護法には引っ掛かるけど、私にハマれば絶対に訴えられる事も無さそう。


 一方加代子は、もう一人の外国人のイケメン、アデルさんにお熱みたい。

 そりゃそうよ、最近のハリウッドの俳優ですらこんなイケメンいないもの。

 アデルさんの場合は気品に溢れているのよね。

 本当に物語の王子様みたいな?

 加代子、王子系に弱いからなぁ(笑)


「ええ、まぁ」


 あぁ、アタルさんがすごくオドオドしてて超可愛い♪

 私の胸をチラチラ見てるの、わかっちゃうんだからね?

 お母様、私をFカップに育ててくれてありがとう!

 アタルさんは凄くイケメンなのに、間違いなく童貞だわ。

 もっと胸を使えば、簡単に落とせそう。


 問題は、加代子の方ね。

 やっぱり言葉の壁って超分厚いわ。

 加代子は一時期外国人にはまって、英語は日常会話が出来るレベルまで習得したんだけど、どうやら英語は通用しない。

 っていうか、あんまり聞いた事ない言葉なのよね!

 だから加代子の言葉を、アタルさんが翻訳をしてアデルさんに伝えて、アタルさんが加奈子に伝えるってのを繰り返してる。

 それでもアデルさんの表情は基本的に無表情。

 どんなに加奈子がアピールしても、一切表情に変化がない。

 彼は手強いわ。


 すると、彼らが食べる料理が運ばれてきた。

 どうやら、マルゲリータピザとナポリタンパスタ、そしてドリアを注文したみたいね。

 あは、アデルさんが嬉しそうに笑ってる。

 こんなイケメンなのに、笑うと子供みたい。

 すると二人がワケわからない言葉で話し始めて、私達が蚊帳の外になり始めたから、強行手段に入る。


「アタルさん、ピザ取ってあげるね?」


 私はそう言って、胸の谷間をアタルさんに近づけるようにしてピザの一切れを彼のお皿に置いた。

 すっごく胸をガン見してくれてた♪

 お姉さんの体に興味深々のようね。

 加代子も小動物のような笑みを作って、アデルさんにピザを取ってあげた。とても喜ばれたようで、加代子に満面の笑みを浮かべている。

 あっ、加代子マジノックアウトされてるよ。

 左手薬指に付けてあった指輪を、さっと抜いて鞄に放り投げたし。

 あれ、旦那さんが加代子の為に購入した、高級指輪なのに。


「えっと、ありがとうございます」


 アタルさんが私に柔らかい笑みを浮かべてお礼をしてくれた。

 何、こんな爽やかイケメンなんて、イケメン揃いを自慢にしているあの芸能事務所でもお目にかからないわよ?

 どうしよ、私も彼に本気になってきちゃってる。

 彼とツーショットで撮ったスマホの待受を、速攻で変更しちゃった。

 私と加代子は、お互いフリーを装った。

 それくらいこの二人にはまったし、落としたいと思ってる。


 さぁ、もう私達から逃げられないわよ?











 ――アデル視点――


 む、何だ。この絡み付いてくる視線は。

 色々と懇意にしてくれる人間の雌だが、別に私を殺そうとしている訳ではない。

 だが、何だろう。

 私の心がずっと彼女らに警鐘を鳴らしているのだ。

 何が危険なのかは理解できない。

 しかし、このままだと大事な何かを奪われそうで怖い。


 魔王が人間に恐怖を抱く事自体が異常事態なのだが。


 このカヨコという雌、先程バッグに指輪のような物を放り込んだが、何か企んでいるのか?


 すると、カヨコという雌が私の手を握り、耳元で囁いてきた。


「私と、一日中楽しみませんか?」


 うむ、やっぱりニホンゴはわからない。

 彼女の笑みに何故か艶やかな雰囲気がある。

 私は、アタルさんに助けを求めようとしたが、止めた。

 彼はもう一人の雌の胸を食い入るように見ている。


 あぁ、アタルさん、人間の性的欲求に完全に負けている。


 種族が違うせいか、人間の性的アピールに何も感じない私は、どう切り抜けようか模索し始めた。

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