第八話 最強の勇者の、幼馴染み
――アタル視点――
よし、何とかTPOガン無視な格好からはおさらば出来たぞ。
そして前々から憧れていた、リア充っぽい格好にもなれた!
さっきのお店でバッグと靴も買ったし、これである程度買い物しても詰め込める。
しっかし、もやしっこを卒業させてくれた事に関しては、あの糞な王に感謝しないとねぇ。
そういえばこっちに来てスマホ使えるようになったんだよね。
常日頃ソーラーチャージャーで充電していたから起動はする。
向こうでは電波が圏外になっていたけど、日本に来たらアンテナが三本立っている。
つまり、親がこの二年間ずっと、携帯の料金を支払っていてくれていたんだ。
多分だけど、いつでも連絡が取れるように、という理由だと思うんだよね。
……近い内に顔を出します、はい。
今回はアデルさんと休息を楽しもう!
さてさて、時間はっと。
スマホでは十二時丁度みたいだ。
僕のお腹の虫も鳴り始めている。お昼に持ってこいだな!
「アデルさん、そろそろお昼にしない?」
「お昼ですか、確か人間は朝昼夜と食事を取らないといけないんですよね?」
「そうそう! アデルさんは大丈夫なの?」
「私達人間型の魔族は基本的に食事は一日一回ですね。でも、今日はアタルさんに付き合いたいと思ってますから、美味しい食べ物お願いします!」
「美味しいものかぁ……。ちょっと調べてみるね?」
僕はスマホで飲食店レビューサイトを立ち上げて渋谷エリアで検索をしてみる。
……うん、よくわかんね。
見た目は美味しそうなんだけど、細かすぎていちいち読むの面倒なんだよねぇ。
ん~~~~。
多分色々言われそうだけど、連絡するか、由加里ちゃんに。
彼女は渋谷大好きな今時の女の子だったから、かなり詳しいんだよね。
僕は電話帳から由加里ちゃんの番号を表示させ、ダイヤルボタンを押す。
コール音が鳴る。
一回。
二回。
三回目の途中でコール音が止むと、大声がした。
『あっくん!? 本当にあっくんなの!? 二年間何してたのよ!! 何処をほっつき歩いていたの!!』
「うわっ! 由加里ちゃん、どーどー! 落ち着いて?」
『落ち着けないわよ、この大バカ!!』
「ごめんごめん、それよりなんだけどさ……」
『軽っ! そしてそれよりってかなり大事なんだ――』
「渋谷でオススメの食べ物屋さんとか教えてほしいな」
『え? そうねぇ、最近出来たマルキューの近くにイタリア料理店で《パラノイア》ってお店がすごく美味しいの♪ 変な名前だけど』
渋谷の話になると、どんなに機嫌が悪くてもころっと機嫌が変わるのは相変わらずだなぁ。
ちょろいぜ!
「うん、幸福で完璧な客でないと店員にZAPZAPされそうな名前だね」
『何それ、またオタク的な話? 二年経っても変わってないわね……って、そうよ、二年間何してたのよ!』
やっべ、思い出された!
早々に切り上げよう。
「ごめん、また後で会いに行くからさ! じゃあね!!」
『あっ、ちょっとあっく――』
通話終了ボタンを押した。
多分このまま電話してると長くなりそうなんだよね。
今はご飯ご飯!
アデルさんを見ると、なんかポカンと呆けている。
どうしたのだろう?
「アデルさん、どうしたの?」
「い、いえ。スマホとやらは通信も出来るのですか?」
「うん、大体の所は通話出来るね」
「はぁ……、これが魔術じゃないというのが、私にはにわかに信じられません」
「まぁそうだよねぇ」
僕が向こうで気や魔術を見て驚くように、向こうの世界の住人から見たら、僕らのテクノロジーは魔術とかとなんら変わりないんだよね。
そりゃかなり驚くよ。
でも、本当に魔術とかじゃないからね!
「とりあえず、食事に行こうよ」
「ええ、どんな所か楽しみです!」
僕も行ったことないから、どんな所か不安です。
まぁ店員にZAPZAPされないように、幸福で完璧な客として振る舞おう、うん!
――由加里視点――
アタシは安藤 由加里。
現役女子高生で今年で高校三年になった十七歳。
所属している部活は、特になくて帰宅部やってます。
何故帰宅部かというと、二年前に行方不明になった幼馴染みを探す為に、帰宅したらインターネットで彼の所在を調べる為なの。
色々インターネットを勉強して、ネット住人とかが集まる最大大手の掲示板とかで情報を募っていたりする。
《突然消えた幼馴染みを探しているんだが》
このようなスレッドを立てて探している。
最初はからかわれたり誹謗中傷の嵐だったけど、今やpart700以上まで続く人気コンテンツ(まとめサイトにも掲載されるほど)になっている。
でも最近は何の情報の進展がない為か飽きられ、レス速度がかなり落ちてきて当てにならなくなってきていた。
それでもアタシは、このスレッドにすがり付いた。
探偵でも雇おうかと思ったけど、所詮女子高生の財力で何とかなる依頼料じゃなかった。
何でそこまで必死になって幼馴染みを探すかって?
そりゃ、アタシは彼の事が好きだから。
五歳の頃から一緒にいて、最初は兄弟みたいな感覚だったんだけど、ある事がきっかけで好きになっちゃった。
中学入った時に、とある男の子が早速いじめられてたの。
それをあっくん――あっ、あっくんは幼馴染みの名前ね。で、あっくんがかばったの。
昔から弱い癖に正義感は強かったからなぁ。大好きなゲームに影響されたのかな?
まぁかばった結果、いじめっ子達から目をつけられて、あっくんがいじめの標的となった。
ずっと三年間いじめられっぱなしだったんだけど、あっくんはこう言ったの。
「今僕に友達はいないけど、由加里ちゃんがいるから大丈夫」
どんなに殴られても蹴られても泣かず、無遅刻無欠席で中学を卒業出来た理由を聞いてみて、そう言われたの。
前から心の芯の強さに惹かれつつあったけど、決定的に恋心を意識したのは卒業した後だった。
中学は別々だったけど、高校は偶然にも同じ志望校だったから、アタシがしっかり傍にいようと決意した矢先に、彼は霧のように消えた。
彼のご両親はあっくんを溺愛していたからかなり取り乱していたのを覚えている。
そしてアタシの両親が、そんな彼らを支えて立ち直らせた。今は最低限の生活費だけを残して探偵を雇い、最愛の息子の捜索を二年も続けていた。
目に見えてわかる位やつれていて、何かきっかけがあったら天国へ旅立っちゃうんじゃないかって思う程に不安定な状態だった。
かくいうアタシも、空いている時間は最愛の幼馴染みの捜索の為に時間を割いている。
私はどうやら結構モテるみたいでたくさん告白を受けたのだけど、そんなどうでもいい人達に時間を使ってあげる余裕もない。
また会いたい。
あの優しい笑顔に会いたい。
それが、今のアタシの原動力。
今日は日曜日だから、たっぷりネットで情報を探そうかと机に向かったところ、スマホが鳴った。
誰だろうと思って画面を見ると、あっくんの名前が表示されていた。
二秒程思考が固まる。
えっ、って感じで。
しばらくして我に帰ると、通話ボタンを押した。
「あっくん!? 本当にあっくんなの!? 二年間何してたのよ!! 何処をほっつき歩いていたの!!」
思いっきり怒鳴ってしまった。
そりゃそうよ、二年間本当心配したし、たまに泣いちゃったんだから!
そんな私の気持ちを知らないか、あっくんは――
『うわっ! 由加里ちゃん、どーどー! 落ち着いて?』
すっごい軽く返された。
何で落ち着いていられるのよ、この男は。
「落ち着けないわよ、この大バカ!!」
こんな言葉を言っているけど、久々に聞いた声は変わってない。
とても安心して、涙が頬を伝う。
『ごめんごめん、それよりなんだけどさ……』
「軽っ! そしてそれよりってかなり大事なんだ――」
『渋谷でオススメの食べ物屋さんとか教えてほしいな』
渋谷♪
アタシ渋谷大好きなの♪
いっぱい可愛い服があるでしょ、美味しい食べ物だってあるし香水とかもあるし♪
だからついつい答えちゃった。
「え? そうねぇ、最近出来たマルキューの近くにイタリア料理店で《パラノイア》ってお店がすごく美味しいの♪ 変な名前だけど」
たまに息抜きでご飯を外で食べるんだけど、たまたま見つけたお店だった。
『うん、幸福で完璧な客でないと店員にZAPZAPされそうな名前だね』
また意味不明な事を言っている。
あっくんはゲームやアニメ大好きだったからなぁ。
アタシもあの掲示板のせいで色んな知識が付いてしまったけど、あっくんが言ったものが何なのかまではわからなかった。
「何それ、またオタク的な話? 二年経っても変わってないわね……って、そうよ、二年間何してたのよ!」
そうそう!
渋谷でごまかされたけど、何をしていたのかをしっかり聞き出してやる!
『ごめん、また後で会いに行くからさ! じゃあね!!』
「あっ、ちょっとあっく――」
切られた。
ちょっと、何なの!
アタシは二年も心配していたのに、その久々に実家に帰ってくるよみたいな報告的な電話!
ふざけんじゃないわよ!!
でも渋谷の事を聞いてきたよね。
つまり、今あっくんは渋谷にいるって事?
今から家を出たら三十分で到着出来る!
善は急げだね!
アタシは財布とバックとスマホを持って外に出ようとしたけど、一旦止まってパソコンで掲示板を開き、レスした。
『幼馴染みから電話があった! 会いに行ってくる!』
その日、アタシが立てたスレッドは、たった10分でpartが3も増加するほどの盛り上がりを見せた。
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