第四話 ニホン、超行きたい!!


 ――アデル視点――


 私の別荘でアタルさんと合流し、打ち上げを盛大に始めた。

 といっても、私とアタルさんの二人だけなのだけれど。

 それでも二人共テンションが非常に高く、肉を食べては酒を飲み、肩を抱き合って歌ったり。


 そんな楽しい宴の中で、私は前々から気になっていた事をアタルさんに聞いてみた。


「アタルさん、アタルさんの世界ってどういう所なのですか?」


「えっ、そんな気になるの?」


「そりゃ異世界ですよ!? 気になるに決まってるじゃないですか!」


「ん~、特に面白い事はないですよ? それでも良ければ話すけど……」


「いよっ、待ってました!!」


「アデルさん、ノリおかしい」


 そうしてアタルさんの世界の話が始まった。

 どうやらアタルさんの世界では魔術もそうだし気の操作をする技術は皆無だとか。

 しかも知性を持っている種族は人間しかおらず、亜人や魔族は存在していない世界なのだとか!


 さらに人間は、知恵一つで世界の理を解明し、《機械》と呼ばれるカラクリを用いてある程度万物を操作出来るらしい。

 これが本当にすごい!

 魔術というのは世の理を理解した上で、魔力を以て万物を制御する。つまり、アタルさん達はそれをカラクリでやってしまうのだ。

 これ程凄い事はないと、私は思う。


 さらにさらに、アタルさんが住んでいる国、《ニホン》は識字率が十割だそうだ。

 これはこの世界において驚異的な数字だ。

 この数字を達成させるというのは、超高度に管理された社会秩序に加えて、整えられている教育機関が必要だ。

 ニホンという国は、どれだけ豊かで、有能な王が君臨しているのだろうか。

 同じ王として、気になる。とっても気になる!


「よし、アタルさん! 私は決めましたよ!!」


「わっ、びっくりした! 急に大声出さないでよ!!」


「アタルさん、私は今からニホンに行きたいと思います!」


「……は?」


 うわっ、顔が整っているアタルさんだけど、今の表情すっごく不細工だった。

 でもそれもそうだ。

 アタルさんはグエン大陸を治める王に、王の望みを叶えないと元の世界に戻さないと脅されて勇者をしている。

 つまり、王だけが帰還の術を握っていたと思っていたのだから。


 私は密かに、アタルさんを驚かそうと魔術の研究をし、先日ついに異世界移動の魔術を完成させたのだ。

 その事をアタルさんに説明するが、何かあまり嬉しくなさそう。


「確かに僕は嫌々勇者をやってるけど、でも魔族が人間を餌にしようとしているから、それだけは放っておけないよ」


 信じられないことに、アタルさんは元の世界ではいじめられていたらしい。

 だからこそ、暴力によって蹂躙されている人は助けたいと思っている。

 まぁ、人間の味を覚えてしまった部下や民を御せない私にも責があるが。


「なら、一日だけでも行きませんか? いや、是非とも行きましょう!! ええ、行きたいですとも!」


「わわわわわかったから、そんなに身体を揺らさないで!!」


 はっ。

 あまりにもニホンに行ける事が楽しみすぎて、アタルさんの肩を掴んで力一杯揺さぶってしまった。

 大丈夫、アタルさんは私の全力も受け止められる武人だ、この程度で壊れる人ではない。


「でも、一日時間を作る方法が必要だなぁ。アデルさん、どうする?」


「ふむ、これは初回だけしか使えない手になりますが、こういうのはどうでしょう?」


 私はアタルさんに耳打ちして、私の案を伝える。

 すると、アタルさんは力強く私の手を握ってきた。

 結構痛い。


「それいいよ! さすが頭脳担当のアデルさん!!」


「いやぁ、それほどでもありますかな」


 決行は翌日と決めたのだが、あまりにも打ち上げが盛り上がりすぎて夜が開けてしまった。

 こんな状態ではニホンを満喫出来ないと判断した私達は、さらに一日計画をずれ込ませた。

 ……親友と遊ぶって、本当に久々で楽しいんですもの。


 私、魔王と勇者が仕組んだ茶番、第二幕が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る