第三話 こうして僕と魔王は親友になった


 ――アタル視点――


 アデルさんとの激闘(茶番)の二日間を演じきって、僕は打ち上げの為にアデルさんのセカンドハウス的な場所へ向かっている。


 えっ、どうやって?


 ふっふっふ、それはね、僕は空を飛べるのさ!


 この世界では、人間の内側に眠っている《気》を操る術がかなり発達しているんだ。

 僕のスキルである《武の頂点》は、気の習得すらあっさり出来る、ガチチートスキル!

 これのおかげで、僕はひみつ道具を持つ事なく空を自由に飛べている。

 やっぱ男の子は空飛ぶの憧れるよね。


 あっ、自己紹介遅れました。


 僕の名前は立花 アタルって言います。


 名前の通り、日本人で地球から召喚されてしまった十七歳です。


 二年前、高校の入学式が終わった直後にクソ愚王に《リューンハルト》に召喚させられてしまった。

 僕はずっといじめられてて喧嘩はからっきしなのに、召喚されて「お主は今から勇者じゃ! 我が覇道の為に魔族を討ち滅ぼすのだ!」と命令された。

 それからひたすら強い人と戦わせられる日々。

 真剣で全身を切り刻まれ、回復術で強制的に回復され、また切り刻まれて。

 正直いじめなんて生温い、本当の戦いでした。

 暗かった性格も強制されてしまい、何でもストレートに言えるようになった。それに比例して強くもなったんだけど。

 そんな僕でもここまで強くなれたのは、このチートスキルのおかげ。本当、このスキルは神様仏様ですよ、ええ。


 召喚されて一年経過した頃、本格的に魔族討伐に参加したんだ。

 すでにこの頃には国で僕と同じ強さの人間や亜人はいなくなっていて、はっきり言って弱かった。

 だから魔族も大丈夫かなぁって思ったら、剣が全然皮膚を通らないの!

 でもまぁ何とか撃退は出来たけど、辛勝って感じ。

 

 それでもめげない愚王は、古の女神が眠ると言われる像と僕を引き合わせた。

 何かしらの奇跡が起きてほしかったんだろうね。

 でも、まるでラノベの主人公みたいな奇跡が起きた。

 像から女神が現れちゃったんだ。

 緑の長髪ですっごい綺麗な女神様で、僕が編み出した剣術である《絶剣》と同じ名前の《ライトブリンガー》を貰えたんだ。

 しかも、自在に生成できる高性能! 切れ味もすごいのなんの!

 おかげで魔族も討伐しやすくなったんだけど……。


 何か、地獄だった。


 ゲームと違うんだ、倒したら消滅するんじゃなくて死体が残る。

 自分が殺したんだって事実を突きつけるようにね。

 僕が通った背後にできる、死体の有象無象。

 一人斬り殺す度に心が悲鳴を上げている。でも、殺さないと、この国の人達が食い殺されちゃう。

 だから僕は、心の声を無視してひたすら斬った。斬った。斬りまくった。

 戦いに勝つ度に褒めてくれるけど、でもそれは仲間としてではなく、『勇者』という英雄として、偶像として祭り上げられているような感じだ。

 

 僕は孤独を感じていた。


 やっぱりさ、僕は根が弱い人間だからなんだろうね、ストレスに耐えきれなくて、ついには十円ハゲが出来てしまった。

 僕が十七歳になった日にだよ?

 このままじゃ僕は不味いと思ったから、一日だけ休暇をもらって城を抜けて遊び回ったんだけどやっぱりしっくり来ない。

 そして思い立ったのは――


「よし、お酒飲んじゃおう!!」


 だった。

 この世界では十五歳で成人と見なされている。

 僕の世界では二十歳からなんだけど、今はこの世界の住人なんだしいっか! ってノリで飲む事にしたんだ。

 

 適当な酒場に入ってビールを注文、そして一気飲み!!


 ……

 

 …………


 ………………


 まっず!!

 思ったより苦くて美味しくない。

 何で父さんはこんなの、美味しそうに飲んでいたんだろう?

 でも、気分が良くなっていく。

 何か、テンションがハイになっていく感じだ。

 不味いけど、もう一杯欲しくなってきちゃったんだよね。


「マスター、不味いけどもう一杯!」


「不味いは余計だろ!!」


 マスターに怒られたけど、そんなのは気にしない。

 二杯目と三杯目を飲んで、さらにテンションが上がった時、カウンターにふと目に留まった人がいた。


 髪は金髪のショートカットなんだけど、髪質は柔らかそうで風になびきそうな印象がある。


 顔立ちは中性的。女性か男性かといえばまだ女性に見える感じ。宝塚っぽいし、麗人って言葉がぴったりかな。

 結構細身で、身長も高そうだった。

 あっ、表現が曖昧なのは、その時カウンターに突っ伏していたからわからなかったんだよ。

 そんな美人さんが、カウンターでマスターに愚痴をこぼしていた。


 この人こそ、今人間達を怯えさせている存在、歴代最強の魔王であるアデルさんとの出会いだった。


 僕は多分最初は女性だと思って接したんだと思う。

 酔っていたせいで、記憶は飛び飛びだ。

 でも自信がなかったから、性別はどっちかを確定させようと近づいたんだ。それは覚えてる。


 話を聞いていると、僕と同じように孤独を感じている人だった。

 部下の能力が足りないから、全部自分一人で処理するしかないとか、友達も親もよそよそしくなって悲しいとか、泣きながら愚痴ってた。

 僕も僕で色々愚痴ってた。意外と言っちゃいけないものも言っちゃった気がするなぁ。


 そしたらとっても意気投合して、お互いに肩を抱き合ってビールをじゃんじゃん飲んだ。

 どうなってそうなったかは覚えてないけど、何故か酒場にいるマスター以外の客全員が全裸になり始めた。そして僕ら二人も流れに乗っかった。

 

 …………

 うん、アデルさんの股間には毎日見る「アレ」は付いていました。

 残念です。

 しかも、僕よりも……止めておこう。

 何か惨めになるしね。


 朝方になって、気が付いた時には酷い頭痛と、酒場の床一帯に寝っ転がっている野郎共の全裸(僕とアデルさんも含めて)という惨状を目の当たりにしてしまい、激しい嫌悪感に襲われる。

 そっか、これが悪酔いかぁ。本当にこれはやばいなって思いました。


 この後に休憩しながら公園でアデルさんと話してて、お互いに勇者と魔王だという事実が判明したんだ。

 その時のアデルさんの反応は忘れられないなぁ。


「な、なんとぉぉぉぉぉぉぉ!? アタルさんが魔族を殺すのが大好きで趣味で、今まで殺した魔族の毛皮を自室に飾って自分の武勲に酔ってるナルシストって言われている勇者アタルですか!?」


 ちょっ、何それ!?

 僕はそもそも魔族殺すのすっごい嫌なんだよ!?

 趣味でもないし、あんな化け物の毛皮なんて飾りたくないし!!

 魔族から見たら、僕はそう見えてるって事なのかな!!


 でも意気投合しちゃったから、そこから隠れて親交を深めていたんだ。

 だけど、あのクソ愚王が「勇者よ、魔王と戦え」と言われて、仕方なくドーン大陸に乗り込む事が決定。

 それを察知した魔族が、アデルさんに「勇者を倒してください!」と懇願されたみたいで、迎え撃つ事になってしまったとか。

 密かに僕達は会って相談した結果が、あの二日間の茶番だった。

 僕は時代劇やアクション映画の知識を屈指して、どうやったら外野から見て激しい戦いに見えるか、一日かけて殺陣を考えて体に動きを叩き込ませた。

 何か歴史上最大の戦いっていう事で歴史に刻まれるらしいけど、茶番なんだよなぁ。結構疲れたけど。


 まぁでもいいや!

 おかげで僕はアデルさんとまだまだ遊べるからね。

 僕は気の出力を上げて、スピードを上げてアデルさんの元へと向かった。

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