第四話 三年目のインフレぐらい、大目に見ろよ

 前回起きた、三つの出来事!

1 ケバブ・ヴィラン現る

2 想区のグルメ、激おこ

3 敵の目的は、タオ・ファミリーの足止め?



 車体横にペイントされた無表情だが無口ではない女忍者サラサは、痛馬車に乗って移動するタオ・ファミリーにイチビリ話を向けてくる。

 特に馭者ポジションに。


「お兄さん、男の渋味が足りないのに『想区のグルメ』とか、ワーラー三世並に、何か間違えていなイカい? さっき寄ったタコ焼き屋での一人語り、仲間の失笑を買っただけだったよ?」


 タオは、にわか芸風へのダメ出しに耐えきれず、馭者の役目をエクスに交代してもらう。


「坊や、NTRって言葉、知っとるけ? シンデレラがNTRの方に燃える可能性に賭けて、城攻めとか行かないの? 城の抜け道探しなら、時給1万GOLDでサラサが手伝おう。振込は、スイス銀行想区の口座へ」


 エクスがスイス銀行想区への行き方を尋ねてきたので、シェインは馭者の役目を強制的に交代する。


「わんわんおー」

「中の人ネタは、やめた方がいい。付いてイケない人のキョトン率が高い」

「サラサは、少数派を切り捨てる趣味はない」

「マイナーへのアピールで人気を拾う腹ですね」

「イグザグトリー」


 痛車のジャブに対し、シェインは冷静に対応する。

 少々の沈黙の後、腹の探り合いが始まる。


「下半身だけシマパンというのは、基本設定ですか? 描かれる元になった作品の情報は、どこまで覚えていますか?」

「サラサは、戦闘中は下半身シマパン一丁で戦う設定。作品の情報は、一巻の開始段階。ヒロインとしては三番手だが、不二子ちゃん的お色気担当なので読者人気は最もダントツ」

「ナルホド。シマパンは偉大です」

「ジーク! シマパン!」

「ジーク! シマパン!」


 悪気はないのに人の神経を無意味に逆撫でする女忍者の口撃は、シェインとの駄弁りで落ち着いた。

 その隙に、タオたちはワーラー三世と最後の詰めを話し合う。



「この痛車と交換に、屋敷を財産付きで丸ごと貰い受ける。たいていは『三年で戻らなければ』という条件だ」

 

 ワーラー三世は、この流れに顔を顰める。


「相手が帰らぬ旅に出る理由は、物語では明かされない。時代考証からして、命がけの直訴に行ったのか、昔のヤンチャを自首しに行ったのか。それとも最大三年は、私に贅沢をさせてあげようという意味合いで言っただけで、諸国漫遊を終えたら戻るつもりだったのに、道中で不幸に見舞われたのか。

 未帰還なので、結論は出ない。

 他の物語なら、私が手を回して始末したという筋も出るだろうね」


 レイナは、微苦笑しながら話題を掘り下げる。


「屋敷の持ち主から見れば、人生の分岐点か、終着の前触れ。でも、その筋書きを先に知っていても、気にする必要はないわ。だって、この乗り物を譲ってくれと持ちかけてくるのは、相手だもの」


「ありがとうよ」

 ワーラー三世はレイナの気遣いに礼を言いつつ手を握ろうとするが、足の甲を踵で踏まれて身動きを封じられる。

 そのままの体勢で、ワーラー三世は話を続ける。


「そう。私が願掛けした観音様は、お互いにとって最も利益のある物々交換相手を導き合わせてくれる。私のアドリブにも動じない、ベストなお導きさ」


 強運の代表格は、それでもと、ネクタイを弄りながら異論を挟む。


「それでも一度ぐらいは、相手の事情を聞いておきたいね。『運命の書』を読む限り、何も分からないし、私は満足して余生を過ごしている。それじゃあ私が恩知らずみたいじゃなイカ」


 この人は変人ではあるが、真っ当なキャラだと一同が得心する。


「それは、あんただけの物語になる。三年過ぎたら、あんたも旅に出るなり調査兵団を送るなりすればいい。『運命の書』には、余白がたっぷりあるさ」


 タオが、自由人ならではの励ましをする。


「案外、最後の取引相手は、先代の『わらしべ長者』だったのかもな」

「それじゃあ、強運のリサイクルだ」


 ワーラー三世は、ウイスキーの酒瓶を傾けながら…


「タオは、飲まないの?」

「カオステラーを倒さないうちは、臨戦態勢だから飲まない。戦勝祝いに少し飲むくらいで。シェインはウワバミだから平気。お嬢とエクスは未成年だから飲まない。お嬢は酒乱に違いないから、将来に渡って飲ませたくないけどな」


 タオが、レイナをディスっているのか過保護なのか分からない発言をする。

 レイナは、馭者席のシェインに解説 を求める。


「シェイン。酒乱って、何の事?」

「酒が入ると、行動・言動共に暴力的になる酒癖の事です。制御不能ですので、飲ませないようにするしかありません」

「飲まないのに、酒乱かどうか判別できるのかしら?」

「飲ませてみないと、判定できかねます」

「そう」

 必要な情報を仕入れると、レイナは足の甲を踏み抜く対象をワーラー三世からタオに替えた。

「人に適当なレッテルを貼った罪、贖いなさい」

「いや、その性格からして、かなりの確率で酒癖は極悪に酷いと推察…痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ」


 ワーラー三世はコメントを控えたが、レイナが酒を飲む現場に居合わせる事態だけは避けようと、心にメモった。



 やがて、道の脇に立派な中世和風屋敷が見えてくる。

 身なりの中流階級執事っぽい初老男が一行を呼び止めたので、これで最後の物々交換開始かと思ってしまった。

 探すまでもなく最良の取引相手とめぐり合うのが、わらしべ長者の運命。

 通常であれば。


「あ」

 シェインは、屋敷から忍者ヴィランがワラワラと湧いて出るのを見て、痛馬車を再出発させようとする。

 地中から出現した忍者ヴィランが、馬の脚をよじ登り、シェインに襲いかかる。

 タオ・ファミリーは瞬時にコネクトを果たして迎撃を開始。


 ワーラー三世も痛馬車の上から藁を投げつけてヴィランを倒し、戦力として働く。

 文字情報で見るとアホな攻撃だが、意外にも敵はバタバタと倒れていく。


「…どうして、藁をぶつけられただけで、ヴィランが吹き飛ぶの?」

 レイナの疑問に、ワーラー三世は胸を反らしてドヤ顔で応える。

「説明しよう! 観音様に参拝してから最初に掴んだアイテム『藁』は、わらしべ長者にとっては『都合よく何にでも使える』素材なのだ!」


 筆者にすら全く納得できない説明だったが、藁を投げつけられたヴィランが本当に次々と吹き飛んでいくので、便利なのは確か。


「次の十連ガチャは、ワーラー三世を狙おう」

 エクスの発言に、他の三人は一斉に「やめとけ」「おやめなさい」「やめろ」と大不評を返す。


 ヴィランの巣と化している屋敷の中から、一際巨大な忍者スタイルのメガヴィランが姿を表す。


「さて、あれはラスボスか中ボスか」

 タオは、内心で『違うな〜、たぶん』と楽観しない。


 その想区を侵食するカオステラーが変じたメガヴィランには、他のメガヴィランにはない特徴が顕著に出る。同じ巨大ヴィランでも、『華』が違う。


「まあ、忍者だから、ラストバトルまで忍んでいたというオチなら、話は早くて済むが」

 タオは、コネクトしたハインリヒの槍盾に力を溜め、強力な一突きを忍者メガヴィランの喉元に向ける。

 脇を仲間たちが薙ぎ払い、タオをメガヴィランへの攻撃に専念させる。

 何のやり取りもなしに此の戦術を組む程に、タオ・ファミリーは戦闘経験を重ねている。

 槍盾の穂先が、一閃…


 ワーラー三世の藁をぶつけられただけで、忍者メガヴィランは膝を着く。


 ハインリヒの攻撃が届く前に、忍者メガヴィランは地に伏した。


 見せ場をサッと取られて立ち尽くすタオに、ワーラー三世が然りげ無くフォローする。

「雑魚は任せておけって。次、行ってみよう」 




 次に痛馬車を止めたのは、如何にもオバケ屋敷っぽい地所の執事だった。


「ここの所有者には、成りたくないなあ…あ、ヴィランだ。やった。退治しよう」


 ワーラー三世は、取引の不成立に嬉々とした。




 次に痛馬車を止めたのは、メイドさんが沢山いる屋敷のメイド長だった。


「ここを最後にしよう。つーか、ここに決めた! ここには銀河で一番、男のロマンが詰まっている! …またヴィランかよ!!?」


 ワーラー三世は、取引の不成立に涙、涙。




 次に痛馬車を止めたのは、広い田畑を持つ中世和風屋敷の執事だった。


「もう、いい加減にカオステラーが判明してくれないかな?」


 話が出来るほどに執事が近付くまでに、ワーラー三世は愚痴を溢しておく。


「絶ぇっっっっっ対に、私の周囲に張り付いているよね? 行く先々でヴィランが発生するのって、私の移動に合わせての仕業だよね?」


 タオ・ファミリーは、云々と頷く。 


 ワーラー三世は、意を決して提案する。


「私の荷物全てを点検してくれ。物凄く小さい奴が、潜んでいるかもしれない。もしくは、私の所持品に化けている!」


 タオ・ファミリーは、『え〜〜』と微妙に引く。


「それって…全部、脱ぐと?」

 

 シェインが確認すると、ワーラー三世は真顔で答える。


「私は、これから全裸で交渉を開始する。その間、私の荷物から一切目を離さずに見張っていてくれ。それでカオステラーが判明する」

「あー、じゃあ、ワーラーの着替えは俺とエクスでガン見するから、お嬢とシェインは、ワーラーの体から離れた荷物の監視を」

 タオの立案に、ワーラー三世は異議を唱える。

「逆の方が、いい。いい!」

「死ぬぞ。お嬢の空気を、読め」


 レイナが、ワーラー三世を『刺身に盛られる三分前のサンマ』を見る目で見ている。

「生意気を言いました。初期案でお願いします」


 ワーラー三世は、タオとエクスを衝立にして、服を褌まで脱いで全裸になった。

 本人と筆者は全裸だと思ったが、エクスは一品を見咎める。

「手首に巻いた、藁のミサンガを外していませんよ?」

「おおっ?!」

 ワーラー三世は、すまんすまん、キングすまんと寒いギャグを言いながら、藁ミサンガを手首から外そうとする。


 藁ミサンガは一向に外れないばかりか、爆発的に増殖して周囲に巻き付き始める。


 タオ・ファミリーの面々は、『導きの栞』を使う間もなく、全身の身動きを封じられてしまった。

 


 次回予告

シェイン「遂に姿を現した、意外すぎるカオステラー『藁』

  まともに戦えば速攻で燃やせる相手なのに、先手を取られて全員完全拘束状態。

 ピンチの連続を撥ね退けて、主役らしい活躍を見せるのは、果たして誰か?

 次回、最終回『君の中の主人公』

 主人公。

 それはシェイン。

 そして、君」 

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