第三話 君の心に、痛車はあるか?

 前回起きた、三つの出来事!

1 忠臣蔵47、ヴィラン化

2 ワーラー三世のカオステラー疑惑、無罪

3 この作者に下ネタ禁止とか、無理だった



 田舎道がしっかりと整備の行き届いた街道へと変貌した頃。

 ワーラー三世に同行してカオステラーを探すタオ・ファミリーの面々は、その車(荷馬車・荷牛車・大八車etc)を目撃する回数が増えていく現象に気付く。

 車体に萌えキャラを描いた車の往来は数を増していき、ワーラー三世の目論見が察せられた。


「定番通りだと、次は馬だけど…まさか、その、痛車を?」

 エクスは、三百周記念として羽目を外しまくるワーラー三世に、確認を取る。

 振られたワーラー三世は、ネクタイを締め直しながら説明責任を果たす。

「この街道の先は、『秋葉原の想区』に続いている。趣味が高じて、車体に嫁を塗装する強者たちがよく通る」


「嫁?」

 レイナは、他の想区へ行けるという事より、嫁の単語に引っ掛かる。

「何の嫁?」


 その話題に触れないように、ワーラー三世は次の物々交換を告げる。

「次は『どうしても移動手段が欲しい田舎の金持ち』に移動手段を提供する流れだから。物々交換は馬に固定しなくても、楽しければそれでいい」

「楽しいのに拘るなあ」

 享楽面では共感しているタオが、打ち解けてワーラー三世と肩を組む。

「で、どれに話を持ちかける?」

「向こうから来るよ」

 ワーラー三世は風呂敷を広げ、浅葱色のアイドル型ステージ衣装(使用済み)を取り出す。

 藁を使って器用にハンガーを作り、衣装をかけて背中に背負う。

「レイナさんかシェインさんに着て歩いてもらう手段もあるけれど…」

 ワーラー三世は、エクスの肩を叩く。

「どうだろう?」

「断る」

「女性ヒーローとコネクトするの、平気だったよね?」

「断る」

「この衣装の持ち主は、シンデレラに72%似ていた」

「…(ぐらり)こと、わる」

 凄まじい精神力で誘惑を撥ね退けるエクスを見て、レイナはシェインにだけ囁く。

「…やっぱり、シンデレラとコネクトするのは、控える」

「当たり前」 


 街道の終点付近では、想区を区切る霧を突破する準備の為に、乗り物への最終チェックや腹拵えが出来る店が立て込んでいる。

 タオが手早くケバブを人数分買い込み、皆に配る。


「美味い」

 

 目を閉じ、味をしっかりと賞味して、タオは想区のグルメを再開する。


「中世和風の想区にケバブがあるはずないとか、ツッコミは入れまい。牛肉と玉ねぎとパプリカを、ヨーグルトとトマトペーストで絡めた絶妙のハーモニーが口の中に広まる現実の前に、時代考証なんて小さな事さ」


「タオ兄、ケバブ屋の店員が、ヴィランになった」

 シェインが、同情しつつも小さく出来ない現実を伝える。


 タオは、口にしていた食事を吐き出して、残りをケバブ・ヴィランに投げつける。


「飯ぐらい、ゆっくりと食わせろーー!!」


 タオは弓の名手アルバス・レガトゥースとコネクトすると、氷の矢を矢継ぎ早に連射して、助勢なしで戦いを終わらせた。

 あまりの剣幕に恐れをなしたのか、出現する時はワラワラと湧いて出るヴィランが、もう出てこない。


「近くで様子見しているわね。厄介な」

 戦闘が終わっても、レイナは緊張を解かない。

 カオステラーが主人公の周囲に居るのは確かなのに、姿が全く見えない。

「ついてくる気配はなかったし、わらしべ長者は単独行動。物語の最後まで、このままなのかな?」

「最後まで…」

 エクスの見積もりに、レイナは嫌な予想をする。


「馬を屋敷と交換した人は、三年経っても戻らなければ、屋敷の全てを主人公に譲る約束をしたのよ。だから、この物語の完結は、三年後になってしまう」


 三年も一つの想区で足止めを食らえば、他のカオステラーに侵食された想区は…


「タオ・ファミリーへの足止めが目的なら、これは最悪の事態です」

 シェインは、改めてワーラー三世の全てを観察し直す。

 貧乏で貧相な青年が、めげずに赤いスーツ姿のシワを直しながら、型通りの営業スマイルを浮かべている。奇想天外な物々交換を大成功させるキャラだと知らなければ、関わりになろうとはしなかったかもしれない。

 それでも旅を共にしてみれば、己の人生と全力で組み合う、一人の憎めない青年である。

 非情の選択を、シェインは思考から省く。

「まあ、三百周記念バカ行事に付き合うとしますか。カオステラーだって、三年も潜む覚悟はないですよ」

 シェインの言葉で、エクスとレイナはかなり気楽になれた。


 他の店でケバブを食い直し、タオの機嫌が直った頃。

 ワーラー三世は、どこで仕入れたのかレトロな蓄音機を持ち出して、自作自奏のテーマ曲を流して周囲の注目を集め始める。



『♪真っ赤なスーツは あいつの思いつき

 出世払いでくれと土下座

 瞳の奥に 貧乏を映して

 図々しく問いかける 楽な稼ぎ

 ♪この手の中に 抱かれた藁は 全て消えゆく

 物々交換 ワーラー三世 』



 レイナが、蓄音機を一撃で踏み壊す。

「我慢出来ませんでした」

 周囲からの「よくやった」の喝采の中、ワーラー三世は怯まずに忠臣蔵47のステージ衣装を掲げて物々交換を開始する。


「レディース&野郎ども!

 ここにある忠臣蔵47のステージ衣装(使用済み)と、痛車を物々交換したい!

 この取引を良しとする者は、このワーラー三世と商談しよう!」


 痛車の持ち主たちが、一斉に沈痛な表情で加藤、いや葛藤し始める。


「本気で悩むのね?」

 レイナが、引く。


「嫁と見込んだ萌えキャラを描き込んだ車体との交換だ。悩むのは当然」


 タオが彼らの心情を語るも、レイナはトレードされたステージ衣装がイカに扱われるのかを想像して、吐きかけた。

 シェインがレイナの背中を摩りながら、八方丸く収まりそうな言葉を紡ぐ。


「姉御。個人の趣味の範囲で行われる行為は、イカに変態的でも無害で終わるから心労するな。エクスが毎晩シンデレラに懸想しても、実害がないのと同じ」

「確かに、無害だわ」

 合点したレイナは楽になったが、エクスの方が崩れかかる。


 やがて名トレーダーとして名高いワーラー三世は、ステージ衣装と交換した『馬』をタオ・ファミリーに見せる。


「これがカオステラーというオチは、ないよね? 一応、確認して」


 西洋風馬車の右脇に描き込まれた萌えキャラを見たタオ・ファミリーは、絶句する。


 虎の刺繍が入った白い小袖を着た無表情な女忍者が、下半身シマパン一丁で描き込まれている。これで公道を走るのは、ちょっとマズイかもしれない。

 もっとマズイ事に、描き込まれた萌えキャラは、タオ・ファミリーを見返して口を開いた。


「このサラサを転売しようとは、汝等も悪よのう。ふっふっふっふ、『鬼面の忍者』という小説を知っているかね?」



 次回予告

レイナ「アイイエエエエエエ!

 カオステラー殺すべし!

 どうも、レイナです。

 恥知らずにも自作の萌えキャラを『ど根性ガエル』状態で振り込んできた作者に対し、スクエニ様の堪忍袋は大破寸前!?

 次回、『三年目のインフレぐらい、大目に見ろよ』

 この作者、調律したいわ」

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