第二話 勝手に魔改造
前回起きた、三つの出来事!
1 わらしべ長者のコスプレが、ル◯ン三世
2 同一人物なのに、自称ワーラー『三世』とか、意味が分からない
3 読者が引いた
ワーラー三世(旧名・わらしべ長者)は、四人の武装した少年少女に囲まれた。
田んぼに交差する畦道のど真ん中。
逃げ場なし。
「あなたがカオステラーですね?」
温和そうな顔をして、エクスは剣をワーラー三世(正式名・わらしべ長者)の喉仏まで五センチの位置に向ける。
草食系の顔に似合わず慣れている所作に、ワーラー三世(英語名 ストロー・ミリオネア)は両手を上げながら釈明を始める。
「期間限定イベントを行っているだけです。正気です」
「え?」
「百周記念の時は、ワーラー一世としてシンデレラの想区とコラボして、二百周記念の時は、ワーラー二世として赤ずきんの想区とコラボを。で、今回は、ワーラー三世として忠臣蔵の想区とコラボを企画…え、何その真綿で首を責めるような微妙な圧の視線は? 自分、創意工夫に富んだキャラだから、仕様がないでしょー!?」
正気でココまでセルフ魔改造をしたと言い張るワーラー三世(自称)に呆れつつ、エクスは結論を保留する。
(いっそカオステラーであれば、話が楽なのに)
レイナの方は、ブレずに短剣を向けてワーラー三世を問い詰める。
「ここまで大胆なアレンジをした方は、見かけた事がありません。その悪趣味なコスプレごと、調律(フルボッコ)します」
「なんで女子は、アルマーニの良さがわからないかなあ?」
似合っていないという現実を無視して、ワーラー三世は嘆く。
たいていのカオステラーは、こういう状況では我慢しないで暴れ出す。動員可能なヴィランを有りったけ出現させて、悪夢の化け物へと転じた姿で襲ってくる。
しらばっくれて、撃滅の機会を窺う切れ者もいたが、このワーラー三世は…
「君の手。柔らかいね」
レイナの手を短剣ごと握って口説くという、暴挙に。
「手相を見ようか? 妊娠適齢期まで当ててみせるぜ?」
瞬時に足払いされ、足元に転がされた。
「よーし、分かった!」
タオが、非常に自信たっぷりに手を打つ。
「前から試してみたかった、カオステラーの見分け方を試そう」
「なんですってえええええ?!?!」
レイナが、専門家として聞き捨てならないタオの提案に、噛み付く。
対カオステラーの使命に燃えるレイナにとって、カオステラーを個人レベルで特定可能な方法は、何としても欲しい。
毎度、怪しい想区に入っては、登場人物をいちいち疑いながらのシラミ潰し索敵である。効率が悪い。
「どうやってどうやってどうっやって、見分けるのよ?!?!?!」
容疑者のワーラー三世を放り、レイナはタオの襟首掴んで揺さぶりまくり…
「期待するんじゃなかった」
茶屋の卓に顔を突っ伏して脱力しながら、レイナは餡蜜を常人の三倍以上の速度で食べ続ける。
タオへの失望と溜息を繰り返しつつも、机上に積まれた餡蜜の杯は、十を越している。
使命と、食い意地は別口な〜のだ。
「いやあ、茶店でスイーツ食べようぜと提案して、のこのこと一緒に付いてくる奴が、カオステラーのはずないだろ?」
抹茶ラテと葛きりでまったりと寛ぎながら、タオはどうでもいい自説を自画自賛する。
「じゃあ次は、わらしべ最中(粒餡)と梨ジュースで」
レイナの態度なんぞおかまいなしに、タオは想区のグルメに興じる。
「私にも、同じモノを三倍!」
レイナは、張り合う方向性でもポンコツだった。
「タオ兄に姉御。ついでにエクス。ワーラー三世を無罪と断じるには、まだ早い」
抹茶アイスを平らげてから、シェインは問題を提議し始める。
食い終えてから言い出す辺り、シェインも食におけるリーダー格二人のアバウトさに、大分染まっている。
「店の従業員が、怪しい。罠に嵌ったかもしれない」
誘ったのはタオだが、店の指名はワーラー三世である。
タオ・ファミリーのセコム、シェインに抜かりはない。
茶店『忠臣蔵』の一階には、浅葱色のメイド服を着た少女たちが大量に働いている。
ヴィランではないが、全員武装しているので真っ当とは言い難い。
店の中央には特設ステージが設けられており、浅葱色基調のアイドル型ステージ衣装を身に付けたメイド少女たちが、剣舞混じりの歌と踊りを披露している。
かなり本格的なステージで、最前列は歴戦の常連客たちで埋まっている。
「アイドルグループは、普通五人前後。四十人以上は、多過ぎでは? これもインフレですか、ワーラー三世?」
ワーラー三世は、シェインの荒いポニテに目移りしながらも、きっちり説明責任を果たす。
「多くない。忠臣蔵の四十七士だから、この数でいい」
ワーラー三世は、カクテル(キューバ・リブレ)を飲み干してから、言葉を結ぶ。
「彼女たちの物語では、これが普通なんだ」
「その刀も、コスプレですよね?」
エクスが、手近の浅葱色メイドさんに朗らかに質問してみる。
浅葱色メイドさんは、眉を『きりり』と跳ね上げながら返答する。
「ほ、本物です。こ、これで、にっくき吉良上野介の首を…びえ〜ん、殿〜」
「おのれ吉良!」「殿〜〜!!」「あんなにセクシフルだった殿を〜〜」「吉良キル! 吉良キル! 吉良キル! 吉良キル!」「臥薪嘗胆ビーム!」「夜明け前にサーチ&デストロイするのじゃああああ!!!!」
連動して、他の浅葱色メイドさんたちも泣いて怒って炎上し始める。
エクスは、忠臣蔵の知識を思い出しながら、彼女たちとのギャップに引き攣る。
「泣けるなあ。主君の仇討ちの為に、メイド喫茶の店員に身を変えて潜伏する、美少女忠臣蔵四十七士」
順応したタオが忠臣蔵の浪花節にホロリ&メイド服にホッコリしているので、シェインは次の戦いで兄者を最前線で戦わせようと決める。
「…これ、正確には、『美少女化した忠臣蔵の想区』になるのかしら?」
「お嫌いですか?」
ワーラー三世は、レイナの瞳に己の瞳を合わせる。
押しの強さなくして、伝説の物々交換巧者にはなれない。
「人気キャラが女性化して、物語として独立していくのも、ストーリーテラーの業の一つですよ」
レイナは、ワーラー三世の目力には全く興味を返さずに、言葉を返す。
「亜流も派生もスピンオフにも、文句はないわ。私はただ、全てを悪夢に塗り替えて滅ぼすカオステラーを許さないだけ」
その瞳の昏さと激しさに、ワーラー三世はグイっと惹かれた。
「俺の行動は、姫様の基準でも、合法?」
「保留よ」
レイナは、抹茶で間食を締めつつ、視界の隅にヴィラン化した浅葱色メイドの出現を認めて、吹く。
素が武芸に心得がある武家娘のヴィラン化は、武器・体格・装甲・機動力の良さげな侍ヴィランとして現われた。
舞台の少女たちも次々とヴィラン化し、客を襲い始める。
「でいやっ!」
レイナは元を絶とうと速攻でワーラー三世の頭に肘打ちを決めるが、彼は呆気なく気絶。メガ・ヴィランに変貌する事なく、ギャフンと倒れる。
彼とは無関係に、浅葱色メイドたちは続々とヴィラン化していく。
「くっ。本当にカオステラーじゃなかったのね」
「前から思っていたけど、この推理を外すと悲惨だよね」
エクスは、気絶したワーラー三世を卓の下に隠してから、『栞』でヒーローとコネクトする。
エクスの姿が、薄桃色の百合のごとく可憐な巫女へと変わる。
女神スケイルに仕える高位四神官ステイの氷の剣が、瞬時に数人の忠臣蔵ヴィランを倒していく。
「つーか、お嬢。無実の人に手を出すなよ。タオ・ファミリーとして、恥ずかしい」
ハインリヒとコネクトしたタオが、茶店で乱戦中でもレイナに釘を刺す。
「黙りなさい! ここに来たのも武装が余計に多いヴィランに囲まれたのも、タオの所為でしょ!」
シンデレラ(水着ヴァージョン)の姿で剣を振るっているレイナが、斬ってキレて斬りまくる。
「姉御、そのヒーローとのコネクトは、エクスの前ではマズい」
女吸血鬼カーミラとコネクトして忠臣蔵ヴィランを卓や椅子ごと大剣で薙ぎ払いつつ、シェインはレイナの迂闊な人選ミスに注意を促す。
シンデレラ想区のモブとして、シンデレラの幼馴染として、シンデレラに片思いをした少年として、エクスの視界に映るシンデレラのビキニ・バストと谷間と露出の高い生足と濡れた髪と(以下作品の品位に係るので自粛)は、あまりにも目の毒だった。
しかし、エクスはヒーローに認められた少年。
「大丈夫! 女性のヒーローとコネクトしているので、下半身の動きに不都合は起きていません」
あまりの健気な発言に、タオが貰い涙を一滴零し、女性陣はリアクションを控える。
「あ〜あ。折角招いた、他の想区からのゲストが」
乱戦が収まり、ヴィラン化した浅葱色メイドたちが消えると、ワーラー三世は大破した茶店から荷物を掘り出して確保に励む。
「彼女たちとのコラボで、握手会でも企画していたのか?」
タオが残念そうに尋ねると、ワーラー三世はケラケラと笑って返す。
「いやいや、流石にそこまでは…お、破れてないかな」
ワーラー三世はタオたちに、ストーリーが『基本的には基本的に進んでいる』証を見せる。
「これが、蜜柑三箱と引き換えに、彼女たちから入手した反物だ!」
ワーラー三世は、ドヤ顔で浅葱色基調のアイドル型ステージ衣装を披露する。
「忠臣蔵47のステージ衣装(使用済み)!! これを高値で物々交換する!!」
タオとエクスは感嘆の声を上げたが、レイナとシェインの視線を感じて顔をシリアスに戻す。
顔だけ。
次回予告
タオ「男のロマン。それは他人の視線を顧みない、趣味の世界。
男のロマン。それは他人の無理解なツイートに躊躇わない心。
男のロマン。それは切ないくも美しい、走る芸術。
次回『君の心に、痛車はあるか?』
ふっ、この作者、素でカオステラーだな(抜刀)」
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