難アリな一族

88can88

第1話 母ちゃんとパーマ

ある夏の日、母ちゃんの髪を、頭全体を三つ編みにするという

子供にしてみれば非常にハイスキル且つ重労働且つ責任重大なミッションを課せられた。

母ちゃんは

「パーマ代が浮く」

と上機嫌だった。


重大ミッションを無事にこなした私は

嬉しそうな母ちゃんを見て、弟たちに大差をつけて孝行した気持ちになり優越感に満ちた。


そんな微笑ましい昼下がり母ちゃんは原因不明に寒気を訴え、40度近い高熱を出し寝込んだ。

虚ろな眼差しと荒々しい息遣い、声にならない呻き、噴き出す汗

どれをとっても只事ではない中、見慣れない髪型が手伝って、母ちゃんの姿は異様なものだった。


母ちゃんは、プレデターのようだった。

もはや、プレデターだった。


熱が出たら冷やす。


子供が抱えた波々と水を張った洗面器はタプンタプンと音を立てすっかりプレデターと化した母ちゃんに迫った。


小さな手がタオルを水に浸すと洗面器から無情に水が溢れるこぼれる。


「あ、、、」

優越感が一瞬で罪悪感に変わった子供に、プレデターは

「よかよか」

と惨事に目を向けないまま呟いた。


三つ編みを一束づつ除けて額にタオルを充てる。

すぐに温まるタオルを水に浸し再び額に充てる。


その作業は随分と長い事続いたように思う。


そんな中、遊びから帰ってきた弟たちはプレデターに釘付けだった。

寝込んだ姿に対してなのか

髪型に対してなのか、何れにせよ唖然としていた。


母ちゃんがヤバい。(色んな意味で)大ピンチだ。

夜になれば父ちゃんが帰ってくる。

父ちゃんは母ちゃんが寝ている事を許さない。父ちゃんが帰ってくるまでに母ちゃんが元気になれるように

とにかく父ちゃんの晩飯と晩酌は自分たちで用意しよう。


一日一回大げんかがモットーの子供たちは一致団結した。


ご飯を炊くのが米屋の倅級に巧い長男が炊飯器に向かった。


司令塔と手柄横取り担当の姉は、プレデターじゃない時の母ちゃんを真似て冷蔵庫を開け、献立に悩んで見せた。


駿足の次男に買い物を指示。


一汁三菜は完成したが

看病も虚しくプレデターの回復を待たずに父ちゃんは帰宅した。


寝込む母ちゃんを見て父ちゃんは言った。

「そんビンタはないごいよ」

(その頭は何事だ)


全く同意。

全く同意だが父ちゃん…

頭はさて置いて体を先に心配してやってくれ。


その想いは母ちゃんの日中の症状を細かく少しづつ盛って父ちゃんに報告する事で昇華した。

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