第4話 薔薇と仮面のストレッタ

「ファントム…貴様…クリスティーヌに何をした!」

ラウルは怒りをあらわにし、クリスティーヌの方へと駆け寄る。薔薇の剣に手をかけながら。

「どうもしないさ。ただ、クリスティーヌに近づく不埒者を切り裂いたまでだ。」

そう言って、ファントムは大剣でヴィランの亡骸をつつく。

「え?あなたがヴィランを使役しているのではないの?」

レイナが聞くとファントムは顔をしかめる。

「私はこんな無粋な化け物などに頼らぬ。」

その声を無視するように、ラウルが叫ぶ。

「クリスティーヌから離れろ!」

ラウルは大きく剣を振りかぶり、ファントムの仮面めがけて降り下ろす。

「我が仮面は絶対に剥がれぬ。少なくとも貴様程度の力ではな。」

そう言うとファントムは自らの背丈にも近づくほどの大きさを持つ大剣でラウルの剣をいなす。


(すごい…何て戦いだ…。)

「無駄だ。貴様の剣は我が仮面には届かぬ。決して、な。」

ラウルの驚異的なスピードをかなりの重量を持つはずの大剣で受け止めている。スピードについてくるファントムも凄いが、大剣の重量に耐えるラウルも相当だ。

「貴様には、貴様にはわからない。僕のクリスティーヌへの愛がどれだけ強いかが!」

「その怒りに身を任せた剣で愛を語るか。愚かな奴だ。」

二人の剣は交差し、ぶつかり合う。お互いの顔に触れた刃の先。小さな傷跡から流れ出でるのは、紅に染まった殺意。


「もうやめて!」

クリスティーヌの叫びで二人は動きを止める。そして、二人は剣を下ろし、地に膝をつく。どうやら、お互いに限界の戦いだったようだ。

「どうして…どうしてなの…。」

クリスティーヌは悲しそうな目をしている。今にも泣きそうな、少女の目だった。

「ラウル、あなたどうしてしまったの?一ヶ月前に久しぶりに会って、最初はとても嬉しかったわ。でも、」

クリスティーヌの声は震えていた。

「あなたは、変わってしまった。」

「僕のどこが変わってしまったと言うんだ!」

ラウルが立ち上がり、声を荒げる。その時、

「チェックメイト、です。子爵さん。」


ラウルの後頭部に押し当てられた銃口。

そこには、いつの間にかいなくなっていたシェインがいた。

「逃がしません。この銃はシェインの自作ですよ。鬼に金棒とはまさにこのことです。」

それを聞いたラウルは再びその場に崩れ落ちる。

「子爵さん、調べさせていただきました。あなたの運命について。」

混沌に訪れた静寂。シェインは淡々と続ける。

「この想区でクリスティーヌさんと結ばれるのは、あなたではありません。ファントムことエリックさんです。」

「ラウル、まさか…君が…!」

その空気を破り、ラウルが静かに笑う。

「フフ、フフフ、残念だ。もう少しで、あとちょっとでこの邪魔な怪人を葬ることができたのに。」

その顔は、笑いながらも、依然として殺意に満ちていた。

「本当に残念だ。残念でならない。運命に縛られない君たちをそそのかし、ファントムはこの世から消す。そうすればクリスティーヌは僕のものだ。そう思っていたが…。」


「仕方ない。クリスティーヌだけでも。」

何処からともなくヴィランが姿を現す。そして、クリスティーヌを捕らえ、ラウルと共に姿を消した。

「クッ!しまった!クリスティーヌ!」

ファントムとエクス達は周りのヴィランを薙ぎ払い外へ出る。街は、すでにヴィラン達で埋め尽くされていた。

「仕方ねえ、ここは一度こいつらを倒すしかねえみたいだしな。」

タオはファントムの方を見る。

「ああ、不本意だが、貴様らの力を借りさせてもらうぞ。」

ファントムは再び大剣を構え、ヴィランに突撃する。

「私たちもいくわよ!」

「おう!」


ヴィランの大群を、ファントムは蹴散らして進む。

「ラウルは多分屋敷に向かった。その方向へ道を開こう!」

エクスがそう言うとファントムは大剣に力を込める。

「醜き化け物たちよ。」

静かに、冷ややかに、しかし確かな怒りを込め、ファントムは言い放つ。

「絶望の喝采を聞きたくはないか?」

次の瞬間、周りのヴィラン全てが闇へ葬り去られる。

「踊れッ!」


ヴィランを倒し、道を開いたエクス達は連戦から疲れ果てていた。

「くっ、せっかくここまで来たのに、屋敷までは歩くのでは遠すぎる…!」

一刻の猶予もない。どうすればいいんだ。エクス達は希望を失いかけていた。しかし、その時、運命は彼らに微笑んだ。別の運命を抱えた想区で、同じ運命を持つものが、姿を現した。

「おい、どうしたお前ら。」

エクス達に話しかけたのは。

長靴を履いた、一匹の猫だった。




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