第4話黄泉転生

ーーエクスたちを見送った後、夜叉と蒼桐はそれぞれの武器を構える……


圧倒的な数で押し寄せる鬼とヴィランたちを前に二人は平然とした顔立ちをしていた。


「さてと、蒼桐……お前まだやれんのか? 」


「ふん、貴様に心配されるほどまだ疲れてなどいない! 」


「グガガガッ! 」


「クルルルルゥ……。」


夜叉は蒼桐に向かって軽口を叩く。


エクスたちが桜耶を追い、三人だけになってしまった鬼祓士たち、なおも増え続ける鬼とヴィランの集団……圧倒的な数に青桐は額に汗を流すが、


「へっ、雑魚がぞろぞろと来やがってよ……。」


夜叉は笑っていた、まるでこの状況を楽しむかのように口をニヤリと動かす。


「ふん、お前は相変わらず鬼を斬るのが好きだな……これだから荒くれ者は……」


「何言ってやがる、これぐれぇ俺一人でも十分だぜ、お前も桜耶のことが心配だったんだろ? 一緒に行けばいいのに……」


「それはない、鬼たちを前にして背を向けることは鬼祓士として『一生の恥』だ……だが、桜耶殿が初芽殿を気遣うのには……」


蒼桐は話の途中で口を閉ざす、


「頭領にとって初芽のババァは……『お袋』同然……だもんな。」


桜耶と初芽の事情を知ってのことなのか、夜叉は後ろに飛びかかるヴィランを刀で一閃する。


「はいはい、お喋りはそこまでよ二人とも〜団体様がやってくるわよ〜」


綾央が顔を向けるその先には、鬼とヴィランが群れをなして迫ってきていた。


「おいでなすったな……行くぞおらぁ!! 」


夜叉は鬼たちに向かって刀を振り上げながら突っ込んでいき、


「余り前に出るな夜叉! 」


蒼桐もまたその後へと続く。


「……何かしらね、妙に嫌な予感がするわ。」


綾央は札を構え術式を唱えて夜叉と蒼桐を支援するが、桜耶の行動に対して少しばかり頭に引っかかっていたーー



鬼たちとの戦いから離脱した桜耶は、民家の屋根から屋根へと飛び渡りる。


忍者のような身のこなしで鬼祓士の拠点である屋敷の方へと目指していた。


やがて屋敷の入り口へとたどり着く桜耶、


「はぁ……はぁ……初芽! 」


「あら、意外にお早いご到着でしたね」


息の上がった桜耶は膝で呼吸をしながら、声がする方向に顔を上げる。


そこから現れたのは一人の鬼、


「鬼の……姫……! 」


「あの数をどうやって退いたのか存じませんが……!! 」


桜耶をまるで小馬鹿にするかのような語り口調で喋る鬼姫に、桜耶は一瞬で彼女の懐に近づき、一太刀をお見舞いするが間一髪のところで鬼姫はその攻撃を回避する。


「ふふっ、まだ話の途中だと言うのに随分せっかちなのですね。」


「でぇぇええええや!! 」


桜耶は再び鬼姫に接近し、構えた刀を振り下ろす。


桜耶の追撃に今度は自分の所持する小刀で、攻撃を受け止める鬼姫、


力強い押しで鬼姫の足はガリガリと下がり、引きずった後がその威力の高さを物語る、


「初芽を……初芽をどうした!! 」


「流石『鬼斬りの紅桜』と呼ばれただけのことはある……その目、正しく狂人ーー」


「初芽をどうしたと聞いているッ!! 」


彼女の心にはただ、鬼を斬ることだけしか考えていなかった。


その目は鬼姫を捉え、一瞬たりとも逃すことなく必死に刀を振るうが次々と鬼姫はそれをあしらっていく。


「くっ! 」


桜耶は鬼姫から一旦間合いをとるために後ろに下がるが、


「あら、もう終わりですか? でしたら、今度はこっちの番ですねッ!! 」


今度は鬼姫が桜耶の間合いに入り込み、逆手持ちした小刀を一気に振り切る。


ガキンッ!!


「ぐっ!! 」


辛うじて鬼姫の一太刀を受け流す桜耶だが、余りの衝撃に、思わず後ろに吹き飛ばされる。


「くっ……くそっ! 」


大刀を地面に刺し膝を付く桜耶、


「ふふ、もう既に目的は達成しました……このままあなたを倒すことが出来ますが、今はを取るのが当初の目的でしたからね。」


そう言って鬼姫は桜耶にある物を見せる。


「そ、それは……父上の『刀』!? 」


鬼姫が手にしているものは、桜耶にとって大事な物である『父親の形見』であった。


桜耶はますます顔が険しくなり、鬼姫を睨みつけ唇を噛みしめる。


「返せ……父上の……形見をッ!! 」


「それは無理なお話ですね、私たちの計画には欠かせないものでしてーー」


鬼姫が語る中、桜耶は立ち上がり……


「返せぇぇぇぇぇええええ!!! 」


彼女の怒りが頂点に達する、桜耶は先ほどよりも早く踏み込み、


「でぇぇぇぇぇぇえや!! 」


大刀を振り切るが、斬った感触がなかった……


それもそのはず、鬼姫の姿が煙のように跡形もなく消えていた。


ーーふふ……『鬼斬りの紅桜』と戦うのも悪くありませんがここでは殺風景ですーー


全方向にどこからか鬼姫の声が響いてくる。


「おい! 無事か頭領さんよ!? 」


そこに、桜耶の後を追ってきたエクスたちが到着する。


ーーあら、今度は異界の放浪者の方々がお見えですか、せっかくですからあなた方にもお教えしなければいけませんねーー


「な、なんなの!? どこから!? 」

「もしや……鬼姫さん!? 」


どこから声がするのか辺りを見渡すレイナとシェイン、


ーーどうやら私のことをご存知のようですね、なら話は早いーー


ーー『鬼ヶ島』……明日、そこで決着をつけるとしましょう。もしもこの果たし状を無視した暁にはーー


鬼姫は少し間を取り、


ーーこの世界の人間を一人残らず皆殺しにします。ーー


はっきりとエクスたちや桜耶に告げる。


「そんなことは絶対させない!! お前たちの悪行をこれ以上許すもんか!! 」


鬼姫の戦線布告に怒りを露わにするエクス、


ーーふふっ……では明日楽しみにしております……ーー


そう告げると鬼姫の声は二度と聞こえなくなっていた。


張り詰めた空気が一気に消えさり、エクスたちは桜耶の方へ駆け寄る。


「桜耶! 大丈夫!? 」


「心配いらない……それよりも、初芽を……。」


「初芽さん? そういえばどこに……? 」


「う、うぅ……」


どこからか微かに声がする、


「あっ、姉御、あれを! 」


シェインが何かを見つけたのか、木陰に腰掛けている人物を指差す。


「ありゃあ、狐のばぁちゃんか!? 」


レイナとタオは初芽のそばへと駆け寄る。


「ひどい怪我だわ……すぐに治療をしないと」


初芽の体はボロボロであり、無数の切り傷が鬼姫との激闘を物語っていた。


レイナは『空白の書』から『導きの栞』を引き抜き、懐から別の栞を抜き、開いた本に挟む。


彼女を『空白の書』から溢れる光に包まれ、新たな英雄ヒーローへと姿を変える。


幸せ掴めし団子の娘倉餅餡子』眼鏡をかけた三色餅を思わせる赤、黄、緑の衣をまとった和服美人へと姿に変わったレイナは初芽の頭の方に手をかざす。


そこから柔らかな光が溢れ、初芽の傷がみるみる塞がっていく。


「ッ! これは……」


レイナは何かを感じ取ったのか初芽の方に目を向けるが……


パシッ!


初芽はレイナの手を掴み、初芽は小さく首を振る。


「おいおい、どうなってんだこりゃ!? 」


後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。


声の方向に振り向くエクスたち、そこには夜叉たちの姿があった。


「桜耶殿! しっかりしてください!! 」


桜耶の方に駆け寄る蒼桐、エクスとシェインが看病しているがぐったりとしている。


「……ひとまず、二人を屋敷に……それで、何があったのか話してもらうわ……。」


そう言って綾央は妖艶な雰囲気から一変した空気を漂わせ、屋敷の方へと入っていく。


エクスたちは怪我を負った桜耶と初芽を屋敷へと運んだ……



「……ん、私は……いったい? 」


目を覚ました桜耶は起き上がり、辺りを見渡す。


「桜耶殿! 目を覚まされたのですね! お体は何ともないですか!? 」


隣にいた蒼桐が桜耶の容体を気遣う。


「桜耶さん、起きたんですね。」


エクスたちも、体を起こした桜耶の方へと集まる。


「いったい……どうなったの、あの後……」


「実は……」


エクスたちは桜耶が倒れた後の話をした。


鬼姫はすぐその場を立ち去ったこと、初芽の傷は何とか治療でき今は眠っていること、明日鬼ヶ島にて鬼姫が待ち構えているということ……


「そう……そんなことが……」


桜耶は顔をうつむき深く考え込む、


「でも、今でも信じられません……本当にあの鬼姫さんがヴィランや鬼たちを連れてきて襲ってくるなんて……。」


シェインは前に訪れた想区の鬼姫と比べものにならないくらい性格が違っていたため、酷く困惑する。


「でもあれは鬼姫であって鬼姫じゃねぇな」


「そうね、恐らくあの鬼姫はカオステラーの力で復活したーー」


「それは違うのぅ」


タオとレイナが鬼姫を分析する中、襖の戸が開く、中へと入ってきたのは初芽だった。


「初芽! 」


「初芽のババァ! もう起きたのかよ! 」


「初芽殿、今は安静にしておかなければ……! 」


桜耶、夜叉、蒼桐、エクスたちが驚くのをよそに、初芽はずかずかとエクスたちの方へと歩いていく。


その後ろにあたふたと綾央が後を追っていた。


「奴は『黄泉転生』で生き返った死人じゃよ」

「よみ……てんせい? 」


聞き慣れない言葉にレイナは首をかしげる。


「大昔から地獄の門番で知られる鬼の一族に伝わる禁術じゃ、誰かの魂を糧に他の者を生き返らせる……おまけに不老不死と常人では考えられない力を得る恐ろしい術じゃよ……」


「な、それじゃあ今の鬼姫に勝ち目がねぇも同然じゃねぇか!! 」


初芽の説明に対してタオは声を荒げる。


「じゃが、方法はある。」


「ほ、本当に!? 」


「黄泉転生をした者には一種の制約がかかってのぉ、そやつを倒すことができれば鬼姫も力を失うじゃろうて」


「つまり、鬼姫を復活させた張本人を倒せば鬼姫さんを討つことができるんですね。」


初芽の説明にシェインは核心をつく、


「その通りじゃ、賢い鬼の子よ……。」


そう言って初芽は優しくシェインの頭を撫でる、端から見ればおばあちゃんと孫娘のように見えなくもなかった。


シェインも頭を撫でられて少し嬉しそうな顔をする。


「ならば、今日は皆ゆっくり休むとしよう、鬼たちとの決戦は明日からだ。エクスたちも協力をしてくれるか? 」


そう言ってエクスたちに頭を下げる桜耶に彼らの答えは、


「おぅ、乗りかかった船だ! 鬼退治と行こうぜ頭領さんよ!! 」


「カオステラーがそこにいるなら行かない理由はないわ。」


「私も、鬼姫さんがこれ以上、この世界の人たちを傷つけることは許しません! 」


「僕らも行くよ、鬼ヶ島に!! 」


決まっていた、彼らが思う心はたった一つ、この世界をカオステラーの魔の手から救うということを……


「俺たちもやるぜ、頭領! 」


「この蒼桐、最後まで桜耶殿と共に! 」


「ふぅ……屋敷に残っておきたいけど……いくしかないわね。」


夜叉、蒼桐、綾央もまた桜耶の決意と思いに応える。


「ありがとう、みんな……では、本日はここで解散!! ゆっくり休み、明日は鬼たちと因縁の決着をつけるッ!! 」


「「「おぉー!! 」」」


全員の心は一つになった。


どん底の状況に負けないくらいの気迫と共にエクスたちは深い眠りについていった……



そして迎えた翌日、朝日が昇る時間の中外は黒い雲に覆われていた。


まるでこの世の終わりへの秒読みが始まっているかのように辺りが暗くなっていた。


屋敷の玄関前にエクスたち、鬼祓士の面々が集まり、屋敷の奥から桜耶が歩いてやってくる。


「皆さん、準備はよろしいですか? 」


桜耶は真っ直ぐな目でエクスたちを見る、


「おぅ! タオ・ファミリー、いつでも行けるぜ! 」

「こっちも準備万端だ! さっさと行こうぜ! 」


夜叉は今か今かと桜耶を急かす、


「待たぬか、ここからどうやって鬼ヶ島に行くつもりじゃ? 休みなしに歩いても三日はかかるぞえ? 」


「なっ! それじゃあへばって戦えねぇじゃねぇか!! なんで呑気に寝てたんだよ! というか……俺たち無茶苦茶不利じゃねぇか!! 」


初芽の説明にギャーギャーと騒ぐ夜叉をチョップをかます蒼桐、


「騒ぐな、初芽殿は何かいい策を思いついているに違いない! 」


「そ、私の転送術を使えばね。」


そう言って綾央は懐から札を取り出し、それをばら撒く……


すると札がみるみる地面に落ちて行き『陰陽』の形をした円陣が現れる。


「これを使えば一気に鬼ヶ島にたどり着くことができるわ」


と自慢げに話すが、


「まぁ、儂が教えたんじゃがの」


初芽が説明し、綾央は気まずい顔をする。


「よし、じゃあ行こう! 鬼ヶ島に!! 」


「鬼との戦いは慣れてんだ! 何匹いようがやってやるぜ! 」


「鬼姫を復活させたやつがカオステラーなら、この戦いにも終わりが見えるはず! 」


「シェインはもう躊躇いません、例え相手が鬼だとしても!! 」


エクスたちは強い決意を胸に円陣へと入っていく、


「ならば行こう! 決戦の地、『鬼ヶ島』へ!! 」

そう言って桜耶たちも円陣に入り、全員が入ると円陣から凄まじい光が現れ、強烈な閃光と共にエクスたちや鬼祓士を包み込む。


やがて、エクスたちの姿は消え、札は吹き付ける風によって天へと登っていくのであった……。



黒い雲が天空を覆い尽くし雷鳴が轟く中、草木も生えず岩肌が剥き出しの島に荒れ狂う波が叩きつけるかのように流れていく。


切り立った山々からは溶岩が流れ出ていた……


ーー『鬼ヶ島』ーー


その一端に突如、陰陽の術式が浮かび上がり光が溢れる、そこからエクスたち、鬼祓士の面々が姿を現す。


「おぉ! 本当に鬼ヶ島に着きやがった!? 」

「うん、なんだか一瞬って感じだったよ。」


鬼ヶ島に一瞬で到達したことに驚くタオとエクス、


「また……この場所に来てしまいましたね……。」


シェインは過去に鬼ヶ島で起こった出来事を思い出す、


「シェイン、大丈夫か? 」


「心配ありません、鬼姫を……鬼たちを討つ覚悟は出来ています! この世界の鬼たちは、シェインがいた世界の鬼たちとは違うのですから……。」


タオがシェインを気にかけるが杞憂だったようだ。


シェインは真っ直ぐな目で切り立つ山々を見ていた。


「この世界のカオステラー……絶対に倒すわ、何が何でも……絶対に! 」


その横でレイナはカオステラーへの怒りの表情を見せる。


「レイナ、あまり無理しないで、僕らがいるから。」


「エクス……えぇ、そうね! 」


エクスからの激励にレイナは拳を強く握りしめる。


「よし、では行こう! 鬼たちを討つために!! 」


桜耶たち鬼祓士一行とエクスたちは走り出す、目指すは鬼ヶ島の頂上へと……


「それにしても鬼たちの姿がねぇぞ? 」


鬼ヶ島を進んでいくエクスたち、タオは進んでいく中、鬼やヴィランたちが現れないことを不思議に思っていた。


「そういえば、鬼ども一人も見かけねぇな……尻尾巻いて逃げたか? 」


夜叉もこの状況をおかしいとは思いはしたが、鬼たちが自分たちに恐れをなしたと解釈する。


「そんな訳無かろう、ここは鬼どもの本拠地、何が起こるかわからぬぞえ? 」


初芽は夜叉の言い分を否定するが、


ーーとはいえ、確かに鬼たちの姿を見かけんのは妙じゃな……奴らめ……何を企んでおるのか……。


内心この状況を不気味に感じていた。


「見えました!! 頂上です!! 」


先頭を走る桜耶が大声で叫んだ。


彼らようやく鬼ヶ島の頂上へとたどり着く、そこには……



大量のヴィランたちと鬼たちがエクスたちを待ち構えていた。


その奥に見覚えのある姿があった。


「ようこそ鬼ヶ島の方へ、お待ちしておりましたよ? 鬼祓士の皆様方。」


そう言って鬼たちは道をあけ、鬼姫はそこから出てくる。


旅館へとやって来た客人をもてなすかのように、


「鬼の姫……出てきやがったな! 」


夜叉は腰につけた刀に手をかける。


「ふふっ、まさかここまで上手くいくとは……あなた方は本当に単純ですね。 」


ほくそ笑む鬼姫をよそに、初芽はある疑問を鬼姫に聞き出す、


「鬼の姫よ、なぜこやつらはこんなところにいるのじゃ? この数で押し寄せれば儂らを倒すことはできんじゃろうが、疲弊させることぐらいは出来たはずじゃろ? 」


初芽の質問に鬼姫は、


「あら白狐様、あの状態でまだ生きていたのですね? よくご無事だったというか、無理をしているのか……。」


「……ふん、そんなに儂が生きておるのが信じられぬかの? 」


「ふふっ、そうですね……余計な心配でした、まぁどうせあなた方は……ここで地獄に落ちるのですから! 」


そう言い切り、懐から小刀を取り出す。


「野郎、今日で決着をつけてやるぜ! 」


「桜耶殿と初芽殿を傷つけた罪……万死に値する!! 」


「ここまで来たからにはやるしかないわね……はぁ、まさかこんな大事になるとは……。」


「私たちに退却はない、ここに鬼たちとの戦いに終止符を討ち、そして鬼の姫、私の大事な……父上の刀を返してもらう!! 」


桜耶たちは強い信念と決意と共にそれぞれの武器を構えるーー


「はーっはっはっはっは!! 役者が揃いに揃っているわい、愚かな人間どもがきおったわい!! 」


突如、鬼ヶ島全体から聞こえてくるかのようなように大きな声が轟き響き渡っていた。


「おわっ! いきなりなんだ!? 」

「い、いったいどこから!? 」


タオとエクスは辺りを見渡すが、声の主らしき者の姿は見えない……と、突然地面が揺れ出し地面から亀裂が走り、そこから大きな手が地面を突き破って現れる。


やがてその者は自ら突き破った地面から這い出てきた、それはとてつもなく巨大な鬼であった。


「な、なんだよあの馬鹿でけぇやつは!? 」


夜叉は見たこともない鬼の姿に大層驚くがエクスたちは、


「こ、この鬼は……! 」


「おいおい、こいつまであの、『黄泉転生』とかで復活してたのか!? 冗談きついぞ!? 」


タオたちが驚くのも無理はなかった。


その鬼の頭はあった、白く長く伸びた髪、手に持つ大きな棍棒、そして背中には宝物の山々を背負っていた。


「『双頭の大鬼』!? まさかあのおじいさんおばあさんまで出てくるなんて……。」


「いいえ姉御、あの鬼少し様子がおかしいです。」


「えっ? 」


シェインは何かに気づいたのか、大鬼の顔の方を指差す。


よく見ると一つの顔は血色よく狂気に満ちた目でこちらを見ていたが、もう片方の顔は血の気が無く、ぐったりとしておりまるでそこだけ命が宿っていないかのように見えた。


「もしやあやつは、……魂が二つあったのではあるまいな……? 」


初芽の質問に対して、


「そう、あいつは以前私たちが訪れた世界でカオステラーだったの、その時は桃太郎のおじいさんとおばあさんだったんだけど……どうやらこの鬼、私たちが知っている鬼じゃないみたい……。」


「そうか、あの鬼は二つあるうちの一つを黄泉転生の贄として使って、鬼姫を復活させたのね!? 」


「なるほど、それならば今までの辻褄が合うの……。」


レイナは気になる顔をするものの、綾央は大鬼と鬼姫の関係に気づき、初芽も今まで引っかかっていたものが取れたかのように納得する。


「はっ! そこの白狐、見覚えあるなぁ……おめぇ、初芽か? 」


大鬼は初芽の方に顔を向ける、


「その喋り口調、人をなめ腐ったような聞きかた……もしやおぬし、『豪鬼』か? 」


「え!? 何か知っているんですか初芽さん!? 」


初芽があの鬼の中にある魂の正体知っていることに驚きを隠せないエクス、


「知ってるも何も、あやつは昔、鬼の中では最強と謳われた存在での……人間は愚か、他の妖たちや鬼どもすら恐怖した鬼の中の鬼じゃ……。じゃがあやつは一人の剣豪によって倒されたと噂に聞いたが……、生きておったのか……。」


「ふはははは!! 俺がそう簡単にやられるかよ!! 確かに、俺はあの人間に負けた、だが俺は復活を果たして最強の力を手に入れている。もうすぐだ、もうすぐ俺たち鬼の一族がこの世界を支配する!! 」


大鬼の気迫は凄まじいものだった、エクスたちは以前倒した双頭の大鬼とは比べ物にならない力の前に、全身に緊張が走る。


「へっ、てめぇが鬼の大将ってやつか、だったらその耳かっぽじってよく聞きやがれ!! 」

「あぁん? 」


声のする方向に目を向ける大鬼、そこには一人の男が威厳溢れんばかりの空気を出していた。


「 泣く子は黙るが鬼は泣く、化け物退治の専門家、鬼もヴィランもぶっ倒す!!

それが俺たち、タオ・ファミリーだぜ!! 」


ーーへっ、決まったな……。


と、内心に思っているのだろうかと、エクスとレイナ、

鬼祓士共々顔が引きつって微妙な顔をするがシェインだけは、よっ!流石タオ兄! と拍手をしていた。


「ふざけやがって、何がタオ・ファミリーだ!

人間風情の癖に偉そうなこと言ってんじゃねぇぞ!! 」


「へっ、鬼退治なんざとっくの昔に嫌という程やってきたんだ、今更てめぇらなんざに遅れなんかとらねぇぞ!! 」


タオと大鬼は互いに睨み合う、

かつて桃太郎の弟子だった者と鬼の中の鬼との魂がぶつかり合い、異様な空気が醸し出されていた。


「頭領さん、狐のばあちゃんよ、あのデカブツは俺たちに任せてくれ、あんたらはあいつのこと知らないみたいだから俺たちがなんとかしてやるよ。」


「任せてよいのか? あやつは姿は違えど鬼の中で一番の存在じゃぞ? それに奴は、鬼姫を復活させた張本人じゃ、一筋縄ではいかぬぞえ? 」


「んなことしらねぇよ、でもあいつが乗り移ってる体は俺たちが以前倒したことがある、だったら勝機はある! 」


「タオの言う通りです、ですから初芽さんたちは鬼姫をお願いします! 」


「私からもお願いよ! 」


エクス、レイナは初芽に目を向ける、


「本当は鬼姫さんをどうにかしたいですが、あのデカブツさんをぶっ飛ばさないとシェインの気が治りません。 」


シェインも口調に覇気が露わになるほど、あの大鬼に対する執念を燃やす、


「……わかりました、あの鬼はあなた方にお任せます、私たちは鬼の姫を……! 」


桜耶の指揮に夜叉、青桐、綾央、そして初芽は

皆、応ッ!! と答える。


「おしゃべりはその辺にしてそろそろ始めましょうか、人間と鬼……どちらが勝つか……。」


「てめぇら纏めてかかってきな!! 最強の鬼に人間が敵うわけねぇってのをその身に深く刻んでやるぜッ!!! 」


ーーグガガガッ!!

ーークルルァァァァア!!


大鬼と鬼姫の指示に一斉に飛びかかってくる鬼とヴィランたち、

まるで濁流のようにエクスたちの方へと勢いよく迫っていくその様はまさに百鬼夜行であった。


「鬼たちが来ます!! 」


「正念場ね、ここまで来たからにはやるしかないようね。」


蒼桐は薙刀と盾を構え、綾央は魔導書を開き鬼たちを迎え撃つ準備をする、


「行くぞみんな! 」

「うん! 」

「えぇ! 」

「合点です! 」


タオの掛け声にエクスたちは『空白の書』を開き、『導きの栞』を挟み、それぞれの英雄ヒーローへと姿を変える。


「へへっ、こんな数の化け物を斬れるなんてなぁ……面白くなってきたぜ!! 」


夜叉は鞘に納めていた刀を引き抜いて構え、鬼が斬れる心の衝動を抑えていた。


「桜耶、やるぞよ……」


「えぇ……。」


最後に初芽は桜耶の名を呼び、桜耶は目を瞑る。


脳裏には父親の顔、

これまで過ごしてきた日々、

そして鬼たちに無念の死を遂げた者たち、

全ての思いを背負い彼女は一括するーー


「鬼祓士頭領桜耶、ならびに同士たちに告ぐ……全員!! 突撃ぃぃぃぃぃぃぃ!!! 」


桜耶の号令と共に全員はヴィランと鬼たちの方へと立ち向かう、この戦いに決着をつけるために……







































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