第3話鬼たちの策略

ーーひと昔前……居間の方に一人座り込む少女、

外は雨が降っており、少女の目には光がなくなっており、ただ降り続ける雨を眺めていた。


「なんじゃおぬし、また残しおったのか? 」


誰かの声がする、歳老いたおばあさんのようなそれでいて、どこか優しい感じの口調で誰かが近づいてきて、少女の隣へと腰を下ろす。


「…………。」


少女は黙っていた……


降り続ける雨をただ呆然と、

心ここに非ずと言わんばかりに黄昏ていた。


隣に座った白狐も少女と共に雨を眺めてる。


小さな池には雨蛙が鳴き、木々や花に雨の雫が滴る。


「雨は嫌いかの? 」


「…………。」


「知っておるかぇ? 『雨』というのは、『神が流した涙』と昔の人々はそう呼んでおったんじゃそうな」


唐突に昔話を語り出した白狐、


「…………。」


少女は未だに心を閉ざしていた。


「……お、そうじゃ」


白狐は立ち上がり、部屋から出て行き……


暫くすると皿に盛られた大福を三つ持ってきた。


「ほれ、町で貰ってきた大福じゃ、餡子たっぷりじゃぞぇ? 」


そう言って白狐は大福を一つ手に取り、一口頬張る。


「ん〜相変わらずの美味じゃ、いくらでもいけるわい♪」


頬に手を当て、幸せそうな顔をする。


少女は白狐の顔を見て、皿に盛られた大福を手に取り頬張る。


「…………。」


少女はゆっくりと口を動かし、大福の味を堪能する。しかし……


「……グスッ……」


少女の目から涙が溢れ、頬を伝って下へと降りていく。


白狐は少女に寄り添い、頭を優しく撫でる。


「よしよし……辛かったんじゃな……、残りの大福は、おぬしの『父君』に供えようぞな……」


少女は白狐の膝にすがり、静かに泣いた。


雨風は少女のすすり泣く声を搔き消すかのように強く降り続け、少女は夢の中へと静かに眠っていったーー



桜耶と初芽によって事なきを得たエクスたちは、エクスたちが最初に見た村よりもずっと大きく広い町へとたどり着く。


多くの商人たちや町人たちで賑わっており、魚屋に八百屋、甘味処と様々な店が立ち並んでいた。


途中レイナが甘味処に寄って行きそうになったり、シェインが鍛冶屋の方に向かったりと危うく寄り道してしまうところもあったものの、

エクスたちは、町の中で一番大きなところに案内される。


「へぇ〜随分でっけぇお屋敷だな。」


「うん、ここだけ特別なところって感じがするよ……。」


大きな屋敷に驚くエクスとタオ。


「只今戻りました、蒼桐はおりますか? 」


桜耶は入り口から入ると、誰かを呼び座敷の方へと向かう。


「桜耶殿! おかえりなさいませ、ご無事でございましたか」


「げっ! 蒼桐……。」


夜叉が驚くのを他所に、奥から桜耶たちを出迎えたのは武者の格好をした女性だった。


長い髪は束ねており初芽と同じような紅い衣を纏い、脚には敵からの攻撃を防ぐための防具をつけていた。


「なんか桜耶さんといい、あの青桐って人といい、夜叉……お前案外羨ましいぜ……。なぁ坊主? 」


「えっ……いや、僕は別に……。」


「なぁに言ってんだ、オレからすりゃ鬼よりもおっかねぇ連中だぜ、お前んとこのお嬢さんも相当なもんだと思うがな……。」


「なんの話をしているの、そこの三人……。」


三人の後ろでギロリと睨みつけレイナが立つ男たちは口を揃えて、いえ!別に!っと口を揃える。


「蒼桐、何事もありませんでしたか? 」


「はい、異常はございません……ところで、そちらの方々は? 」


エクスたちはそれぞれ蒼桐に挨拶を交わす。


蒼桐は不思議そうにエクスたちを見る。


「うむ、大事な客人だ。後で重要な話があるから大広間の方へ皆、集まるようにと伝えてほしい。」


「わかりました、では後ほど茶の方を用意しておきます。」


そうやり取りを終え、


「皆さん、どうぞこちらの方へ……。」


桜耶はエクスたちを奥に来るよう招き入れる。


「おい、夜叉」


エクスたちの最後尾にいた夜叉は突然青桐に呼び止められ後ろを振り向く。


「あぁ? なんだ蒼桐ーー」


ガッ!


「ぐふぉあ!? 」


怒りが込められたそのボディーブローは夜叉の腹に直撃し、お腹を抑えのたうちまわる。


「いってぇ!! なにしやがる蒼桐!! 」


「貴様、何処へ言っておったのだ! 何故すぐに戻らなかった! 」


「説教かよ、仕方ねぇだろ! 鬼どもが使役してる化け物共に遭遇しちまったんだからな! 」


「ちょ、喧嘩はやめてください、二人とも! 」


二人の間にエクスが割って入る。


「おぉ、夜叉の言った通りだな……。」


夜叉と蒼桐の喧嘩を見てタオは小さく呟く。


「お客人、何か言いましたか? 」


「な、なんでもねぇぜ! 」


ギロリと向けられた蒼桐の目に思わずたじろぐタオ。


「やれやれですね……。」


「くだらないことやってないでさっさと行くわよ。」


呆れ顔のシェインとレイナは、奥の方へと進んでいく。


エクスたちも二人の後を追っていくのであった。ーー



ーーある部屋へと案内されたエクスたち、そこはとても広々、床は畳となっており屏風には見事な桜の絵が描かれていた。


部屋に入ると、前の方に四つの客人様の座布団と奥の方に一つの座布団が敷かれていた。


桜耶は奥の座布団に座り、エクスたちはそれぞれ客人様の座布団に座り後ろから来た夜叉は部屋の隅の方に胡座をかいて座った。


「さて、客人の皆様方、改めて名乗らせてもらいます。私の名は桜耶、この屋敷を収め、鬼を討つ組織……『鬼祓士』の頭領を名乗らせてもらっているものです。」


彼女は真っ直ぐな目でエクスたちに名乗りあげる。


エクスたちはその凛々しい姿勢に一瞬呆気に取られながらもエクスたちもそれぞれ自己紹介をする。


「それで桜耶さん、あの黒い化け物……僕たちでは『ヴィラン』って呼んでるんですけどいつから現れるようになったんですか? 」


エクスは開口一番、桜耶に質問を投げかける。


「うむ、あの者たちは私たちが退治している鬼どもが急に活発になってきてから突然現れた。

あれは数匹ならどうとでもなるが、鬼たちよりも圧倒的な数で押し寄せてくる……。

つい最近二つほど村が襲われ滅んでしまった……。」


「私たちはこれ以上の鬼の悪行を食い止めるために日々奮闘しているが、数が数だけに私たちも苦戦を強いられている……。」


桜耶は顔を歪め、苦しい表情を見せる。


「そのヴィランについてなんだけど、そいつらを指揮っているのは『カオステラー』ていう存在なの、奴らを野放しにするとこの世界が消えてしまうのよ。」


レイナはヴィラン、カオステラーの危険性について説明する。


「そのカオステラーというのはどこにいるのだ? 」


「それは……わからないわ、でもおそらくその鬼に命令してる司令塔がカオステラーって可能性があるわ。」


レイナは自分の理論を、鬼たちを指揮している者がカオステラーであるかもしれないと桜耶に告げる。


レイナの意見に桜耶は顔を曇らせ考え事をする。


「鬼を指揮するもの……もしや」


「何か心当たりがあるのか!? 」


タオは驚いた表情で立ち上がる。


「うむ、鬼たちを支持するものに心当たりがある、その者の名はーー」


「『鬼の姫』……」


桜耶が名前を言いかけた瞬間、襖の戸が開き二人の人物が入ってくる。


「ッ!! お、鬼姫が!? 」


シェインは驚いた表情で声の主の方へ振り向く。


そこには先ほど屋敷の玄関で見かけた女武者の青桐と、もう一人は見たことない人物が立っていた。


小さな烏帽子を頭に被り、白を主体とした

まるで陰陽師のような格好をしていたが、腰回りがかなり際どいものがあった、その女性は部屋へと入りエクスたちの方を見る。


その女性の目は妖艶な雰囲気を醸し出していた。


「おわ、また美人な人が来たもんだな」


タオも思わず口に出す、


「ふふっ、お世辞が上手いわね……私は『綾央』、鬼祓士の美人陰陽師……とでも言えばいいかしらね? 」


余裕を持った口調でエクスたちに自己紹介をするその女性、

思わずエクスは顔を赤くし背ける。


そのやりとりで、桜耶は気になったことがあるのかシェインに問いかける。


「むっ? シェイン殿、確かいま鬼姫と言っていたが、知っているのですか? 」


桜耶の問いかけに思わずあっ……、と口を漏らすシェイン。


「あら、知らなかったの桜耶? その娘『鬼の子』よ、角が生えてない珍しい鬼みたいだけどーー」


チャキッ


綾央が言い終わる前に桜耶は畳の上に置いた自分の刀を引き抜こうとするが、いつの間に移動したのか彼女が引き抜こうとする手を夜叉が掴んでいた。


「っ!夜叉!? 桜耶殿!? 」


思わぬ事態に慌てる蒼桐、


「落ち着け頭領……少しこいつらの話を聞いてやれよ……。」


無表情で夜叉は桜耶の手をしっかりつかんでいる。


「……くっ! 」


桜耶の目は変わっていた。


まるで仇を討たんとばかりの怒りと憎しみの形相をしていたが、落ち着きを取り戻し、刀を鞘に納める。


「……見苦しい姿を晒してしまった、すまない。」


すぐさまシェインたちに謝罪をする。


夜叉は桜耶が座るのを待て少し離れたところに移動し、また胡座をかく。


「シェインに手を出そうとするたぁ いい度胸だな、頭領さんよ! 」


「ちょっと、タオ、落ち着きなさい!! 」


シェインを狙う気だったのかと思ったタオは桜耶に怒りをぶつける。


「無礼者が客人と言えど、桜耶殿を侮辱するならば私が許さないぞ! 」


蒼桐は背中に背負っていた薙刀を構え、矛先をタオに向ける。


「ちょ、み、みんな落ち着いて! 」


「その子の言う通りよ、少し落ち着きなさい。」


一瞬即発の事態にエクスと綾央が止める。


蒼桐は薙刀を納め皆それぞれ畳、座布団に座る。


「……すまない、少し取り乱してしまった。それで、あなた方は鬼姫のことをご存知なのですか? 」


「あぁ、鬼姫は俺とシェインがいた世界の住人の一人でよ……桃太郎と激闘を繰り広げた鬼だ。」


桜耶の問いかけにタオが答える。


「でも、私たちが出会った鬼姫とは限らないんじゃないのかしら……? 」


「いいえ、そうでもないわ。」


レイナの疑問に綾央は困った顔をする。


「実際に、桃太郎と鬼姫という人物が存在していたわ、もう随分前の話になるけど……。」


「それじゃ、ここは桃太郎がいた世界……てことですか? 」


「いったい、どれくらい経ってたんだそりゃ? 」


「まぁざっと三百年前ってとこかしら? 」


「さ、三百年!? 」


途方に暮れそうな年月を聞いて、エクスたちは驚きを隠せないでいた。


「でも最近になって、急に現れるようになったの、三年前にも鬼たちが暴れてた頃があったけどここ最近あの鬼姫が見かけるようになってからは鬼や黒い化け物どもが村や人々を襲うようになったわ。」


綾央の話を聞いてエクスはあることに気づき、レイナの方に顔を向ける。


「レイナ、もしかしたら……。」


「えぇ……多分鬼姫が『カオステラー』かもしれないわね。」


鬼姫がヴィランと鬼たちを指揮しているのであれば『カオステラー』であることに間違いないと思ったが、シェインは一人浮かない顔をしていた。


「ん? どうしたシェイン、何か気になることでもあるのか? 」


シェインの違和感に気づいたタオはシェインを気にかけるが、


「い、いえ……なんでもないです! 」


慌てた素振りを見せるがすぐいつものシェインに戻る。


「そ、そうか……。」


タオもシェインの行動に違和感を抱く。


「それで、その鬼姫は一体どこに……? 」


エクスは桜耶に、鬼姫の居場所を聞き出すが、


「坊主聞くまでもねぇ、鬼の姫さんが出てくる場所って言ったら一つしかねぇ……その場所はーー」




ーーとある部屋にて一振りの刀が飾られており、その前に正座する初芽の姿があった。


彼女は、まるで懐かしむように飾られた刀を眺める。


「父君よ……おぬしの娘は立派に成長しとるぞよ……じゃが、少しばかり無理をするところもあるゆえ、儂から見ればまだまだ修行が足りないがの。」


物言わぬ刀に愚痴を漏らす初芽、


「いつしか、鬼どもと決着をつけねばならぬが、その時は……。」


言いかけた初芽は目を閉じ少し黙り込むが、


「なーんての、この儂がそう簡単に鬼祓士が鬼如きに遅れはとらんわい! かっかっかっか! 」


さっきの不穏な空気をかき消すかのように高笑いをする。


「さて、大広間に行くかの……あの若者たちから色々聞きたいことがあるしのーー」


ドゴーン!!


突然雷が落ちたかのような轟音が響き渡り、屋敷全体が大きな揺れが襲ったーー



「なんだなんだ、何が起こった!? 」


屋敷からタオたちは外の方へと飛び出す。


雨が上がっているものの、まだ雲がかかってる状態で少し暗くなっていた。


「皆さん、あれを! 」


シェインが指差す方向に一同は顔を向けると、町の方に煙が上がっているのが見える。


「まずいわ、町の門近くに大量の鬼と黒い化け物たちが押し寄せてきてる、このままじゃ町に被害が出るわ! 」


綾央はどこから取り出したのか、右手に浮かぶお札を見つめていた。


どうやらその札は遠く離れたものを見ることが出来る物らしい。


「そんな……まさかこの場所が鬼たちに気づかれた!? 」


「それは違うぞよ蒼桐。」


驚く蒼桐にいつの間にか後ろにいた初芽が状況説明をする。


「初芽のババァ! 」


夜叉はお化けを見たかのように驚く、


「あれはただの燻り出しじゃ、所構わず村や町を襲って儂等を誘き寄せる罠じゃ……今動けばこの場所が敵に察知されてしまうやもしれんが……。」


「それは出来ない! 」


初芽の言うことに桜耶は強く反論する。


「これ以上、鬼たちに殺されていくのを見たくない! 私は行くわ……! 鬼を、『斬る』ために! 」


「おぅ、桜耶の言う通りだぜ! 」


「鬼やヴィランたちに好き勝手させてなるものですか! 」


桜耶の決意にタオとレイナもやる気になる。


彼女らだけではない、蒼桐や夜叉、エクスとシェインも同じ志を持っていた。


「ふっ……そう言うと思ったわい、ならば綾央

おぬしは桜耶たちに付き、支援でもしてるが良い。」


「えぇ!? 私もですか? ……でもお屋敷を守らないと……。」


「おぬしの結界術では気づかれてしまうわい、代わりに儂が二重結界を張っておくわい。」


「わ、わかりましたわ……。」


綾央はあまり前線向きではなく、屋敷の守りにつくかと思いきや、初芽に桜耶たちと共に戦えと言われ渋々承諾する。


「一人で大丈夫なんですか!? 」


屋敷に一人残る初芽を心配するエクス、


「心配には及ばん、それよりも客人たちよ……どうか桜耶たちを頼む。」


「合点承知です、狐のお婆ちゃん。」


初芽は問題ないとばかりの表情をし、シェインはその願いを引き受ける。


「初芽……よし、みんな急いで! 」


初芽の名を呼び、何かを言いかけた桜耶だが、すぐさま背を向けて鬼たちの方へと走っていき、夜叉、蒼桐、綾央も後ろから追いかけていく。


「私たちも行くわよみんな! 」


レイナの号令にエクスたちも気合十分に答え、一同は桜耶たちの後を追うーー



「…………さて、そろそろ出てきたらどうじゃ? 居るのはわかっておるぞ。」


桜耶たちが町を守るために向かった後……


屋敷の外に一人残った初芽は、何者かの気配を感じ取ったのか、その者に出てくるよう告げる。


「流石白狐様……よくぞお分かりになりましたね。」


「ふん、おぬしの気配を感じ取れなかったと思うたか? 悪いが、わしゃまだまだ現役じゃぞえ?」


初芽が挑発してる中、屋敷の屋根から一人の鬼が降り立った。


頭には二本の角、長い黒髪と彼岸花の柄が施されている黒い和服を身に纏い、帯には一輪の彼岸花、手には小刀を所持していた。


「やれやれ、まさかもうバレておったとはな……、綾央には後で説教じゃな。」


「他人の心配をしている暇があったらご自分の心配を為されてはいかがですか? 」


余裕な素振りを見せる初芽だったが、そんな暇を与えまいと、鬼は初芽の間合いへと入り斬りかかるが初芽はそれを回避する。


「町の方にやってきおった鬼と化け物ども……あれは囮じゃな? 『鬼姫』よ。」


「よくお判りで……では、私たちの狙いも分かるはずですよね白狐様? 」


「……『刀』じゃな? 」


「お察しが良くて助かります。」


「生憎じゃが、あの刀には特別な術式を施しておっての、認められた者以外が触れればその者は忽ち命を落とす術じゃ……。」


得意げに初芽は、刀の事を鬼姫に伝える。


「ならば、あなたを倒せばその術も解けるということですねっ!! 」


そういって鬼姫は再び初芽の方に飛びかかり、小刀を振り切る。


初芽は弓であしらうが、その衝撃で後ろへと飛ばされる。


「ぐっ……、なんじゃこの力は!? 死人がこれほどの力を何処から……まさか、おぬしはーー! 」



ーー町の門外にて、山奥の方から鬼とヴィランの大群が押し寄せており、エクスたちは町に被害を出さないために、桜耶率いる『鬼祓士』たちと共に、次々と迫まりくる鬼たちを迎撃していく。


「くっ、思ったより数が多い……。 」


小さなジェントルマン長靴を履いた猫』に接続コネクトしたエクスはレイピアでヴィランが放った矢を一つ一つ弾いていく。


「情けねぇ声あげてんじゃねえぞ坊主! 」


「タオの言う通りよ、ここは何としてでも食い止めないと……! 」


飛びかかるヴィランたちを『瓦屋の頑固者瓦戦兵衛』の槍で突き刺すタオと『不思議の国の冒険者アリス』の剣で斬り捨てるレイナ、


「まだまだ敵さんが、わんさかやってきてますよ! 」


そう言って『不思議の国のいたずら猫チャシャ猫』の弓を構えて矢を放つシェイン、矢はヴィランの頭を撃ち抜かれ、後ろの方へと飛ばされていく。


「グォオオオオオオオオ!! 」


突如不気味な咆哮と共に、空から大きな翼を羽ばたかせた巨大な生物が現れる。


「メガ・ヴィラン!? 」


「ちっ、こんな時に……! 」


この物量差で更に大物のメガ・ヴィラン……ドラゴンの介入、レイナの額から嫌な汗が流れる。


ドラゴンはレイナたちに向けて炎の球が口から放たれる。


「ッ! 」


レイナとタオは咄嗟に防御体制を取るが、その瞬間何かが二人の前方を覆い尽くし、火球はその膜に直撃し、爆発と共に消える。


「な、何が起こったの……? 」


恐る恐るレイナは目を開けると、

目の前に薄く透き通った膜がバリアーのように張られていた。


「ふぅ、まさかあんな大きな化け物とも相手にするなんて……。」


声の方に顔を向けるレイナたち、そこには左手に魔導書を開き、右手で印の構えをした綾央がいた。


先ほどのドラゴンの攻撃を守ったのは彼女のおかげであった。


「助かったわ、ありがとう綾央」


レイナは礼を述べるが、


「まぁこれぐらいしか、私には出来ないのだけどね……。」


と、大したことをしてないと返事を返す。


自分の攻撃を防がれてしまったドラゴンは絢央の元へと急降下していく、


「おおおおおおぅらっ!! 」

「せぇえええええいっ!! 」


そこに駆けつける夜叉と蒼桐、彼らはドラゴンを迎え討つために、自分たちの方から飛んでいく。


二人はそれぞれの刀と薙刀で、左右の翼を斬り落としていく。


「グォアアアアアアアアアア!! 」


飛ぶ力を無くしたドラゴンはそのまま地面へと叩きつけられ、その衝撃で下にいた鬼とヴィランたちは次々と吹き飛ばされていった。


「グォオオオオ……。」


翼を無くしてなお動こうとするドラゴンは、口を開きそこから火球を飛ばそうとするが、


「はああああああああっ!! 」


桜耶は持っていた桜花を力の限り振り下ろし、ドラゴンの頭から胴体を一刀両断する。


「まだまだ奴らはやってきてるが、綾央の守りの術が発動していれば、これくらいはなんとか……ッ!」


そう安心する桜耶だったが、彼女は何かを感じたかのように動きを止める。


「桜耶さん? どうかしたんですか!? 」


彼女の異変に気づいたエクスは桜耶に呼びかけるが、


「初芽……? 」


そう言って彼女はある方向へと走り、門の方へと向かっていく。


「おい桜耶! どこ行く気だ! 」

「すまない、皆はここの守りを頼む! 」


夜叉からの罵声を浴びせられながらも彼女は足を止めず、やがて門にたどり着き、門を飛び越えそこから家の屋根へと着地し、再び走り出していった。


「ちょっと桜耶!?どこに行く気なの!? 」


状況が理解出来ないレイナはひどく困惑する。


「走って行った方向はどうやら屋敷の方に向かったみたいですね、でもあそこは初芽さんが守りを固めているから大丈夫だと思いますけど! 」

「グガァッ!! 」


冷静に桜耶が向かった先を解説しながら矢を放つシェイン、放たれた矢は次々に鬼たちに命中し、鬼たちは悲痛な叫び声を上げて倒れ伏せる。


「まさか……初芽さんの身に何かあったんじゃ……。」


「なにっ!? 初芽殿の身に!? 」


エクスの疑問に青桐が焦りの色を見せる、


「か、確証はないですけど……。」


「なら……桜耶の後を、あなた達が追いなさい。」


「えっ? 」


エクスが戸惑っている中、綾央は桜耶の後を追うようにエクスたちに向かって告げる。


「頭領さんはああ見えて勘が鋭いところがあるから、ここを離れてでも初芽さんのところへ向かったということは、何かあるかもしれないわ。」


「だけどよ、俺たちまでここを離れていいのか? 」


「馬鹿にしてんじゃねぇよタオッ!! 」


そう言って夜叉は後ろに刀を構え、


「おらぁ!! 」


大きく横へと振り被ると刀から衝撃波が鬼たちの方へ一直線に飛んでいき、鬼たちを両断していく。


「俺たちは鬼祓士なんだぜ? 見くびってるつもりならそりゃとんだ勘違いってやつだぜ! 」


頼もしいばかりに声を荒げる夜叉、


「そうだ、この程度の者たちに……増してや鬼どもに屈する我々では……ない!! 」


蒼桐も負けじと薙刀でヴィランたちを次々に突

き刺していく。


「ここはなんとかするから、みんなは桜耶をお願いね! 」


「夜叉……蒼桐……綾央……わかったわ、みんな!行くわよ!! 」


綾央たちの願いを聞き入れたレイナは急いで桜耶が向かった先へと走り出す。


「皆さん……どうかご無事で! 」


「夜叉、ここは任せたぜ! 簡単にへばるんじゃねぇぞ! シェイン行くぞ!! 」


「合点ですタオ兄。」


エクス、タオ、シェインは夜叉たちにヴィランと鬼たちの迎撃を任せ、急いでレイナの後を追って行くのであった……








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