第2話その名は『鬼祓士』
ーーとある洞窟内、その中はとても暗く外の光さえも届かない暗さであり、あるのは鬼の形をした幾つもの不気味な石像、その口の中にロウソクの炎がジリジリと小さくも怪しげに洞窟内を照らしていた。
その石像は道なりに並べてあり、下へ下へと続いていた。
そこはまるで向かう先が『地獄』のような、そんな雰囲気を醸し出していた。
「鬼姫よ、鬼姫はおるか……? 」
洞窟内から年老いた老人のしゃがれた声が反響して広がっていく、その声は洞窟全体から発しているかのように響いていく。
「はっ、ここに……。」
洞窟から響いてきた声とはまた違う凛とした声が洞窟内に響く、そこに一人の『鬼』が膝をつけ声の主の方向に頭を向ける。
「奴らの場所が見つかったそうだな? 」
「はい。」
「しかし今宵は雨、『アレ』を頂戴するには丁度いい……、既に鬼たちとあの化け物共を動かしている。お主も準備が整い次第向かうのじゃ」
「承知しました。」
そういって鬼は声の主の前から風の如く姿を消していく……。
「ふっ……ふははは、もうすぐじゃ、もうすぐ人間どもに、ワシらの力に恐怖する時代がやってくる……『アレ』さえあれば、『アレ』さえあればのぉ……。」
「ぬあーっはっはっはっはっは!! 」
その日、洞窟内は恐ろしい笑い声が響いてきた、いつまでもその笑い声は絶えることなく、不気味に響いていたーー
……その昔、ある村は鬼たちによって家を焼かれ、村の住民たちも殺されてしまい、ほとんどの人は残っていなかった。
女の人も、まだ幼い子供ですら鬼の手にかかり誰一人として生き残りはいなかったーー
空は大きな雨雲が上がっておりそこから大粒の雨が村全体に降り注いだ……
「うっ……うぅ……」
一人、村の中心で倒れていた少女は意識を取り戻し、周りを見渡す。
「あ、あぁ……。」
それはまさに『地獄絵図』だった、家屋や民家は焼け落ち、雨によって炎は鎮火していたが、既に真っ黒であり、家として成り立っていなかった。
だが、それよりも目を背けたくなるような光景を少女は目撃する……
全身血だらけの人たち、棍棒のような物が人の頭に突き刺さったまま放置されていたり、何かを守るように覆い被さっている女性の死体、その胸のうちには小さな子供がいたが、その母子共々、一本の剣が貫いていた。
……誰一人、立っているものはいなかった。
泣き叫ぶものもいなければ怒りに狂うものもいない、ただ村全体に強い雨だけが降り注ぐ。
村中から流れ出た血を、洗い流すかのように……。
少女は自らの手を見る、その手は血で汚れ、着ている服も真っ赤に染まっていた。
側にあったのは一振りの『刀』、少女は刀を持ち裸足で、土砂降りの雨の中を歩いた。
倒れている村の人たちを無視しながらある場所へ向かうーー
「ちち……うえ……。」
たどり着いた先は、崩れ落ちた『家』あの悪夢のような出来事が起こる前までは、父親と一緒に過ごしてきた『大切な場所』……。
物心ついた時に母親は亡くなっており、父親が男手一つで少女を育てていた。
一緒に剣を振る修行をしたり、魚釣りをしたり、作物なども作っていた。
父親は剣豪として活躍しており、収入はそれなりにあったが、素朴ながらも父親と少女は互いに協力し合って時に笑い、時に喧嘩したり、時に泣いたりと幸せに暮らしていたが、もうあの頃には戻れない。
鬼たちの襲撃で全てが変わってしまったーー
少女は崩れ落ちた家をじっと見る、父親があの場所に下敷きになっていた。
もしも自分がもっと力を付けていればこんなことにはならなかったと、少女は膝から落ち這いつくばり、唇を噛み締め……涙を流した。
「う、うぅ……うぁあああ! ……うわぁぁぁぁあああ!! 」
己の無力さを知り、父親を助けられなかったことを後悔する少女。
だがその涙も、その泣き叫ぶ声すらも雨が、雨音が全てかき消していった。ーー
ーーやよ……さく……よ……。
誰かが呼んでいる、自分の名を、声がする方向に彼女は手を伸ばすーー
「桜耶よ!! 」
「うわっ! 」
初芽は桜耶の目の前に立ち、腰に手を当てながら桜耶の顔近くで大声で名を呼ぶ。
顔の怖さも合わさってか、桜耶はハッ!っと我にかえる。
「なにをボケーッとしとるのかえ、爆発のあったところまでもう少しなのじゃからしっかりせぬか。」
「す、すまない……初芽……。」
初芽の説教に桜耶は申し訳なさと自分の未熟さを思い知り、初芽に謝罪する。
「しかし急に降ってきたのぉ……まぁ、これくらいであやつは風邪なぞ引かぬじゃろうがの、寧ろ風邪を引いてくれた方がいい気味じゃ」
「……。」
気づけば空に大きな雨雲が浮かんでおり、そこから雨が降り注いでいた。
木の葉から伝ってきた雨水が雫となって落ちていく、桜耶は立ち上がり天を見上げる。
「そういえば、初芽に初めてあった時も……こんな天気だったわね……。」
「桜耶……。」
彼女は夢を見ていた。
少しばかり、だが決して忘れることのないあの日のことを……
「昔のことじゃ、それよりも早く行くぞよ。」
「うん。」
そう言って二人は、また木から木へと伝っていき、目的の場所へと急いだーー
「でぇぇぇや!! 」
一匹の『猫』が剣を振るい飛びかかって来たヴィランたちを次々と斬り捨てていく。
だが彼はただの『猫』ではなかった。
その立ち振る舞いはまるで『紳士』帽子を深くかぶり、長靴を履く奇妙なその猫は片目でヴィランを捉える。
その眼光から発せられる覇気は凄まじいものの背丈がヴィランよりも一回り小さかった。
『
そんな『
攻撃を空振りしたヴィランたちの前に立っていたのは……
紫の髪に猫耳を付けた……
というより元からついており、首に蝶ネクタイ、白黒のゴスロリ風のスカートから尻尾が生えた彼女ーー
『
「良い位置ですね、いただきます。 」
そう言って彼女はヴィランたちに向かって矢を放つ、ヴィランたちは次々に腹に矢を貫かれ、後ろにいた他のヴィランたちにも貫通する。
「ほっ、よっ、はっ! 」
家の屋根の上では一人の女の子が駆け巡る、
頭にピョコンと立ったリボンに青い服をまとった少女『
そして近くにいたヴィランを足場のように踏みつけていき、空中を散歩するかのように渡っていく。
その際、羽だけを手に持った剣で削ぎ落としていき、地面へと落下させる。
「ナイスだぜお嬢! そーらよっと!! 」
『
「へへっ、三枚下ろしにしてやったぜ。」
「おいおい……三枚下ろしっつーのは普通『魚』相手にするもんだろ、ヴィラン相手にやってもなぁ」
「うるせぇよ! 細けえぞお前! 」
夜叉の間違った解釈に揚げ足を取るタオ、彼らの後ろから突如として獣のヴィランが爪をあげ、襲いかかってくるーー
「「だから邪魔すんなっつってんだろーが!! 」」
彼らの口喧嘩に割って入ったヴィランの顔に、タオの拳と夜叉の拳が同時に直撃し、遠くぶっ飛ばされ、空中散歩を終えた『
「アンタたち! いい加減にしなさい!! 」
レイナの雷が落ちた、『
「全く、ヴィランがいるってのに緊張感なさすぎよ! 真面目にやってよ!! 」
「わ、わりぃわりぃ……ちと熱くなっちまったぜ……ははは」
「……ふーん、おめぇんとこの女子は結構怖えな」
「だろ? うちのお嬢は怒るとむっちゃ怖えのなんのって 」
「二人とも、聞こえてるわよ? 」
「「げっ!? 」」
仲が良いのか悪いのか、二人一緒にレイナの説教を受けたタオと夜叉、最初は殺気だった戦いを二人はしていたが今では『悪友』のような感じになっていた。
「レイナ、こっちはだいたい終わったよ! 」
戦闘を終えたエクスとシェインが、元の姿に戻ってこちらの方へと合流してくる。
レイナとタオも自分の『空白の書』から『導きの栞』を取り出し、元の姿へと戻っていく。
夜叉は不思議そうにその光景を見て、すぐ真面目な顔、というより険しい顔に戻った。
「さて、それじゃあワケを話してもらおうか、どうしてお前らが『鬼の子』を匿っているのかをよぉ……」
「あぁ……いいーー」
タオが言いかけた時、ポツポツと空から雨の粒が降り注いできた。
「雨が降ってきた……ひとまず場所を変えない? これじゃ風邪ひいちゃうし。」
「そうね、さっきの戦闘の疲れを癒したいし……。」
「シェインも同感です。」
「……だ、そうだ、それでいいか? 夜叉」
「あぁ……構わないぜ」
雨風を避けるために、エクスたちは村で一番大きな家へと向かったーー
村で一番大きな家へとたどり着いたエクスたち、外はさっきよりも雨が増して天井からは雨粒が打ち付けられた音が響いていく。
室内は誰もいないため少々埃が被っている程度だった。
囲炉裏はまだまだ使えそうだったのでエクスたちは、暖を取るために火をつけ、囲炉裏を囲むように座る。
囲炉裏につけられた炎は炎静かに燃え、辺りを照らしている。
エクスたちはシェインが鬼は鬼でも普通の鬼ではないことをまず説明し、次に自分たちが何をしているのか、そしてヴィランたちやカオステラーについても余すことなく夜叉に話すことにした。
「……ふーん、『角の無い鬼の子』とは珍しいもんだなぁ。んで、あんたらはさっきの化け物共の親玉……『カステラー』だったか? 」
「『カオステラー』よ。」
「そうそれそれ、そいつをぶっ倒せば鬼どもの戦力を大幅に削れるってことか? 」
「そういう解釈でいいわ、貴方が戦っている鬼はこの世界に元々いるものだから消えては無くならないけど、カオステラーとそれに従うヴィランを倒さない限り、この世界は闇に消えてしまうわ。」
レイナは正座をして、真剣な顔で夜叉に顔を向けていた。
胡座をかいていた夜叉はレイナの言っていたことを膝に肘をつきながら聞いていたが、嘘をついているような顔と目じゃないと分かったのか、頭を掻き面倒くさそうに欠伸をする。
「あー、なんだかおめぇら、オレたちのやってることよりもよっぽど大事みてぇだな……。」
そう言って彼は胡座の体制から正座へと座り直し、さっきまでつり上がった目をせず真剣でまっすぐな目をレイナたちに向ける。
「改めて名乗らせてもらうぜ、自分の名は駒若夜叉! 人知れず世に知れず鬼を斬る者、
『鬼祓士』が一人、先ほどの無礼、誠に申し訳なかった。」
さっきまでの荒くれ者っぷりは何処へ行ったのか、夜叉はこれまでの無礼を謝罪するように深々と頭を下げる。
「えぇっと、何も謝ることでもないですよ……もう済んだことですし……。」
夜叉の意外な行動に慌てるエクス、
「おいおい、らしくねぇな夜叉……今のお前気色悪く感じるぜ。」
「……ふ……」
「…………? 」
頭を下げている夜叉から何か聞こえたのかシェインは小首を傾げる。
「はっはっはっはっは! だよなぁ、タオの言う通りだぜ、らしくねぇな、はっはっはっはっは!! 」
夜叉は顔に手を当て高らかに大笑いする。
どうやらただの演技だったようである。シェインは急に笑い出した夜叉を見て、驚いたのか隣にいたレイナの後ろに隠れる。
そして夜叉は自分の懐から大福を取り出し、レイナの後ろに隠れているシェインに差し出した。
「さっきは悪かったな、世の中にはお前みたいなちびっ子がいるんだな、こいつは詫びだ。餡子たっぷりで美味いぞ? 」
「ちびっ子じゃ、ないです……シェインは立派なレディーなんですから……。」
「そこかよ……。」
自分の妹分の不甲斐なさに頭を抱えるタオ、
レイナの後ろでガクガク震えているシェインは夜叉が子供扱いされたことが気に入らなかったのか少しばかり反発する。
「あら、シェインが食べないなら私が食べようかしらーー」
「レ、レイナはもう少し女の子らしくした方が……。」
エクスのツッコミはともかく、レイナは大福へと手を伸ばしたがその刹那、目にも留まらぬ速さで大福をシェインは掻っさらう。
そして一口、シェインは大福を頬張る。
「お、美味しい……すっごく甘いです! 」
「だろ? 初芽のババァお気に入りの餡子たっぷり大福だ。」
「お前、案外良い奴なんだな。」
「ケッ! そんなんじゃねぇよ。」
タオに言われたことをうやむやにする夜叉。
シェインが笑顔になり、夜叉との誤解を打ち解けたエクスたち。
ふとエクスは夜叉が言っていたことに気になる言葉があるのを思い出し夜叉に聞いてみることにした。
「ところで、『鬼祓士』ってなんですか? 」
エクスの質問に夜叉は元の厳つい顔つきに戻り、エクスの方へ向く。
「オレたち『鬼祓士』は人知れず世の裏で、
鬼たちを成敗するために結成された『組織』さ、少数精鋭で行動してるから誰にも知られちゃいけねぇんだけどよ、アンタらの腕なら鬼どもをぶっ倒せるかもしれねぇ……。」
夜叉は腕を組み難しい顔をし、
「近ごろ、あの化け物どもが出てきたと同時に鬼たちが活発になりやがってよ、もしかしたらその化け物共と何か関係があるかもしれねぇ」
そう言ってエクスたちの方に顔を向け、
「頼む、アンタらの力貸してくれねぇか? 」
夜叉は頭を下げた。
「貸してくれも何も、私たちは『カオステラー』の悪事を阻止するために動いているから、その鬼とヴィランたちが関係しているならそこに必ず『カオステラー』がいるはずよ。だから、私たちも協力するわ。」
「ありがてぇ、恩にきるぜ! 」
レイナだけでなくエクスたちも同じ答えだった。レイナは夜叉の願いを聞き入れる。
コンコンッコンコン……
夜叉と協力することにしたエクスたちだが、玄関の方から誰かが叩く音が聞こた。
エクスたち一同は、何事かと音の方向に振り向く。
「おい、誰かいんのか? 」
「あぁ、そういやオレ偵察任務の途中だったな、多分青桐か初芽のババァが迎えに来たのか。」
そういって夜叉は玄関の方へと向かう。
「ちょ、夜叉さん危ないですよ!? 」
「大丈夫だ、さっきの奴らはオレたちが片したんだからもう湧いてこねぇだろうよ。」
「タオ兄、なんかすっごい嫌な予感がします。」
「奇遇だなシェイン、俺もだ。」
エクスの説得も虚しく夜叉は玄関の戸に手をかけーー
「よぉ初芽! 随分と遅かっーー」
「クルルルル……。」
「…………。」
「…………。」
夜叉とヴィランは互いに沈黙し、夜叉はガラガラッと玄関の戸を閉めーー
「なんで閉めるのよ!! さっきのヴィランじゃない!! 」
「は、はは……何言ってんだ、化け物がご丁寧に戸なんか叩くわけねぇだろ? きっと見間違いだな。」
レイナは夜叉の意味不明な行動に大声を出す。
夜叉も思っていた人物とは違うものが出てきて少しばかり困惑したが、すぐさまヤシャはもう一度確認しようと戸に手をかけ、玄関を開ける。
「クルル……。」
「クルルル……。」
「クルルルル……。」
さっきまで一匹だったヴィランがいつの間にか三匹に増えていた。
「うぉわぁあああああああああ!! 」
夜叉は思わず右足で思いっきりヴィランたちを蹴り飛ばす。
ヴィランたちは宙に舞い、地面に激突して煙となって消えた。
「やっぱりヴィランじゃない! 」
「う、うっせぇよ! それにしてもこいつら何処から!? 」
夜叉とレイナたちは一斉に外へと飛び出す。
辺りには既にヴィランたちが彷徨いており、森の奥からは新たにヴィランたちがやってきており、その数は十、二十と数を増えていった。
「なんて数だ……、さっき戦ってた数とは比べ物にならない! 」
「それでもやるわよ、一匹残らず倒してやるわ! 」
「おっしゃあ、シェイン、オレたちも行くぞ! 」
「合点承知です! 」
エクスたちは『空白の書』を取り出し、『導きの栞』を本の間に挟み、それぞれの
「野郎……、次から次へと湧いてきやがって! 」
「なぁ夜叉、折角だ、今度はどっちが多くヴィランを倒せるか競争しねぇか? 」
「いいぜ……その話、乗った! 」
「もう、こんな時にも競い合いなんて……仲がいいんだか悪いんだか……。」
レイナはやれやれと男たちの張り合いに頭を抱える。
「クルァァァァア!! 」
かなりの数のヴィランたちがエクスたち目掛けて一斉に襲いかかる。
「来るよ! みんな! 」
エクスたちも正面から討ち取らんと、ヴィランたちの集団へと突撃していったーー
ーーどれぐらい時間が経っただろうか、倒しても倒しても、次から次へとヴィランたちが源泉のごとく湧き上がってくる。
エクスたちはかなり息が上がっていた。
肩で呼吸をするようになってレイナの脳裏にある思いが浮かぶ。
だがそれはレイナにとってもおそらく他の人たちにとっても認めたくないことであった。
ーーこのままでは全滅するーー
レイナは辺りを見渡し、ヴィランたちが少ない場所を探す。
一方のタオと夜叉は互いに背中合わせで
ヴィランたちに隙を見せないでいたが、両者共に息が上がっている。
「夜叉……、お前、何匹……倒した……? 」
「へっ、五十……超えてから……もう数えちゃ……いねぇよ。」
「奇遇だな……オレも……五十ぐらい……倒してから……覚えてねぇよ。」
「……そうかよ。」
タオと夜叉は最初は意気揚々にヴィランたちを倒して行ったが、流石に物量さには彼らでも敵わなかった。
「流石にまずいわ、ここは悔しいけど一旦引くしかないわ……! 」
「姉御! あそこを! 」
シェインが指差す方向に目を向けるレイナ、その方向にもヴィランたちがいるが後ろの方はヴィランの数が他よりも少なかったのである。
「でかしたわシェイン! みんな! あの場所まで走って!! ここは一旦退くわよ!! 」
「タオ! 夜叉! 急いで!! 」
「おぅ、今行く! 行くぞ夜叉! 」
「ちっ、しょうがねぇな……! 」
雨がまだ降り続け、ゴロゴロと雷が鳴り始める中、エクスたちはシェインが示した方向へと全速力でヴィランたちの合間を縫って走り抜ける。
途中ヴィランたちが飛びかかってくるものの、次々と蹴散らしていく。
やがて、ヴィランの集団を抜けたエクスたち。
「よし、このまま抜ければーー」
そう思ったレイナとは裏腹に、突如大きな黒い塊が目の前に現れた。
鎧を纏ったヴィランよりもより硬く、大きな足と剛腕が他のヴィランとは違う雰囲気を漂わせ、通常よりも大きさが二倍以上あるその巨体はレイナたちの前に通せん坊するかのように立ち塞がった。
「メガ・ヴィラン!? こんな時に!! 」
巨大なヴィラン、『メガ・ヴィラン』は大きな剛腕をレイナに向かって打ち込もうと突撃してくる。
「レイナ!! 」
「姉御!! 」
レイナの前にエクスとシェインは立ち、彼女を守ろうとする。
だが、エクスやシェインも体力の限界であり、持ちこたえれるかどうかエクスやシェイン自身も分からない。
だが、ここでレイナが倒れればこの世界を元に戻すことが出来ないとーー
エクスは腹をくくり、剣を構えメガ・ヴィランの攻撃を受ける体制をとったーー
「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!! 」
ーーズバッ!
その瞬間、メガ・ヴィランは動きを止め、足元から崩れ落ちていった。
エクスたちの目の前に立っていたのは、桜色の着物を纏い、三色団子と大きな桜の花びらの髪留めを着けた女性であった。
彼女はまだ動こうとするメガ・ヴィランにトドメの一撃とばかり持っていた刀を突き刺し、メガ・ヴィランは完全に動きを止めた。
「あ、あなたは……一体? 」
「おぉ! 桜耶じゃねぇか! よくわかったな? 」
夜叉はボロボロながらエクスたちの窮地を救った上司の名を呼ぶ。
「夜叉、無事で何よりです。話は後で聞かせてもらいますから、まずはこの村から脱出しましょう。」
「は、はい! 」
優しい口調でエクスたちに告げる。
「でも、後ろにはヴァランが……。」
「それは心配しなくても大丈夫です。」
「えっ? 」
シェインの言う通り、後ろには今まで無視して来たヴィランの集団が後ろから追ってきているがーー
「クルァァァァアア!?!?!? 」
突如空から轟音と共に雷が落ちてきた、それも一つだけではない。
何発も何発もまるでヴィランだけを狙うかのようにヴィランたちの足元に落ち、その衝撃波で一掃されていく。
「あ、あの術は……。」
どこか見覚えがあるのか夜叉は少しばかり嫌な予感とした顔をする。
衝撃波が止み、大きな穴が出来上がる。
その中央には何故か『矢』が刺さっていた。
「探したぞよ、若造」
「げっ、桜耶がいるってことは大体見当はついてたが……。」
声のする方に目を向けると木の上にいたのは
紅い着物を纏い、腰に大きな鈴、頭に黒い狐の面をつけた白狐が立っていた。
「初芽のババァ!? 」
「ババァは余計じゃ、それよりもおぬしらは早く行け、あともう二、三発射抜いてから合流するゆえ」
「わかった、ここは任せますよ初芽! さぁ皆さんこちらへ! 」
桜耶の誘導に従い、エクスたちは桜耶たちが通ってきた道を走っていく。
雨が降る中、エクスたちは走り続けていったーー
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