第7話 さすがにそれは冗談でしょ?

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 季節は巡り巡って冬になりました。

 お兄ちゃんが作りたかった地下通路は完成し、住み込みで働いていた布佐さんはこの世界の建築技術を物にしたいと言って、旅に出て行きました。とりあえず、雪国の建築技術をみてみたいとの事で北に向かって歩いて行ったのを覚えています。



 生活環境も随分と改善されました。なぜなら、壁の中の製品がこちら側に流れてくるようになったからです。

 例えば照明ですが、以前はろうそくや油を使っており、かなり薄暗かったのですが、今では夜でも昼のように明るいです。原理はよく分かりませんが……。

 また、かまどに火をつけるのもボタン1つでつけれるようになりました。もっと値段が高い型式だと、板の上に鍋を置くだけで温めてくれるそうです。省スペースで出来ますね。羨ましい限りです。これらも原理はよく分かっていません。

 このように私達の生活環境はかなり改善されたのですが、いい面ばかりではありません。例えばそう、この店です。

 このような製品が流れる前は、1人で暮らしている若者は料理をする時間を惜しみ、この店を活用してくれていました。しかし、かまどに火をつけるのを一瞬で出来るようになった事で、調理の時間が短縮され、殆どの人が自宅で作るようになりました。さらに夜の闇を晴らす照明のおかげで、人間の活動できる時間が増えたのも後押ししていると思います。

 おかげで、この店に来るのは着火装置をもって居ない人か、着火装置があっても調理するのを面倒くさがる、だらしない若者だけになりました。

 なので毎日暇なのです。殆ど人が来ません。あー、このままだと、赤字でお店が潰れるー。

「乃々さん! あの! 毒男さんいますか!」

おおっ! 久々の梨里ちゃんです。最近は基礎学力を付けるためにどこかに通っているらしく、最近ご無沙汰でしたが久々にあった事でテンションが上がります。

「お兄ちゃんなら、昼から釣りに行くって言ってたから、多分奥で釣り具の整備をしてると思うよ」

「おー、何だ? そんなに慌てて?」

恐らく、この騒ぎを聞きつけて奥の部屋からやってきたのでしょう。さすがお兄ちゃん。そういう気が効く所が素敵だと思います。

「あの! お父さんが憲兵の人に連れて行かれたんですけど……助けて下さい!!」

へ? 流石にそれは冗談でしょ?



***



(;'A`)「いや、それだけじゃあ分かんねぇよ。なんか連れて行かれる理由があったんじゃないのか?」


⌒*リ;´・-・リ「正直それが分からないから、毒男さんなら何か知ってるかと思って、ここまで来たんです。でも……」


(;'A`)「ごめん。全く分からねぇ……」


( *゚A゚)「あのー、舞凛惇さんって以前詰め所で働いてたやろ? その関係で連れて行かれたんやないん?」


⌒*リ;´・-・リ「一応その可能性も考慮して、同じ所で働いていた若さんに確認を取って来たのですが、知らないと……」


(;'A`)「あのさ……こんな事言いたく無いんだが、何か犯罪をして連れて行かれたという可能性は……」


⌒*リ;´・-・リ「うーん……可能性としては0では無いですが……多分違うと思います……」


(;'A`)「そうか……思い当たるフシ無しと……」


⌒*リ;´・-・リ「どうしましょう……私が壁の中へ行って理由を聞いてきましょうか?」


(;'A`)「それは無理だ。最近、俺ら無能力者が中に入ろうとすると、入り口で止められるからな……」


( *゚A゚)「でもお兄ちゃん、しょっちゅう中に入っとるやん」


(;'A`)「あ、こら、それをバラすな、それを」


('A`)「つー訳で、梨里。この件は俺に任せてくれないか? 俺もマリーの事が気になるし……」


⌒*リ;´・-・リ「はい……。でしたらよろしくお願いできますか?」


('A`)「つーことで、梨里は一旦ここで待機な。3時間位で戻ってくるから」


(;*゚A゚)「3時間? 結構長すぎん?」


(;'A`)「いや、俺も情報収集にどれだけ時間がかかるか分かんねーんだよ。だからとりあえず3時間。恐らくこれ以上かかるだろうな」


('A`)「それと乃々。恐らく梨里が心細いだろうから一緒にいてやってくんねーか。もしも梨里に怪我とかされたら、マリーに合わせる顔が無くなるからな」


( *゚A゚)「りょーかい」


('A`)「じゃ、行ってくる」



***



 お兄ちゃんが布佐さんに作ってもらった地下通路を使って、壁の中から帰ってきたのは、6時間位経過した後でした。

 帰って来たお兄ちゃんは、いつものヘラヘラした表情ではなく、ひどく神妙な顔つきをしていました。どうしたのかと声をかけようとすると、ただ一言、

「梨里をこの家に避難させろ」

と言い、自分の部屋に閉じこもってしまいました。

 次の日、私は梨里ちゃんと一緒に貴重品や日用品を私達の家に移動させました。梨里ちゃんも色々と聞きたいことがあると思いますが、それをぐっとこらえて、作業を手伝ってくれました。

 そしてその日の夜、お兄ちゃんに菜屋を少しだけ休業させて欲しいとのお願いをされました。私はその提案に何も言わず、黙って頷きました。そうするとお兄ちゃんは小さな声で「ありがとな」と言って、また自室に引き篭もりました。


 それから2日後。家で梨里ちゃんと他愛もない会話をしていると、突然大きな爆発音が響き、家が揺れました。

 音が反響しているので、どこで爆発をしているのかは分かりませんが、恐らく壁の中からだと思います。その時、お兄ちゃんは家に居たので安否を気にする必要はありませんでしたが、その後に連続で爆発音が響いた時は、流石に恐怖を感じました。

 そしてその日の夕方。お兄ちゃんはまた壁の中に行きました。私はただ、無事に帰ってくる事を祈るしかありませんでした。


 そして3日後。買い物に行く途中に、たまたま舞凛惇さんと梨里ちゃんが住んでいた家の前を通る事があったので、見てみた所、それはもう大変な事になっていました。ドアは壊され、窓は破壊され、柱には見るに耐えないような下品な言葉での落書きがされていました。それを目撃すると同時に、なぜ、お兄ちゃんが梨里ちゃんを私達の家に避難させたのかの理由が分かりました。そして、今舞凛惇さんに起こっている事も、おぼろげながら察しがつきました。


 無残な姿の家を目撃してから1週間後の深夜、私はお兄ちゃんが灯りをつけて、慣れない手紙を書いている姿を目撃しました。

「書き置きだけで出て行くとか……ちょっと薄情なんやないん?」

「なんだよ……起きてたのか……」

起きてた、というのは少し違います。何か変な予感がして目が覚めた。と言ったほうが正しいです。

「分かるもん。お兄ちゃんの妹やし」

「そうか……じゃあ、俺が今からしようとしてることも……」

「もちろん分かる。――舞凛惇さん、助けに行くんやろ?」

「あぁ……」

お兄ちゃんはそれ以上語りませんでした。正直、今何が起こっているのか。舞凛惇さんに何があったのか。これからどうやって舞凛惇さんを救出するのか。聞きたいことは色々あります。けど……。

「――ありがとな。色々聞かないでくれて……」

そう、お兄ちゃんは重要な事ほど語りません。重要であれば重要であるほど、頑なに自分の中に押しこむのです。非常に不器用な生き方です。このままだと破裂してしまうかもしれません。ですが、まだ大丈夫。お兄ちゃんの目を見て下さい。これは決意を固めた目です。こういう目をしている人は絶対に物事を成功させるのです。

「だって……妹やし……」

あれ? なぜだか涙が勝手に溢れます。自分では泣いているつもりは無いのですが……。

「お、おい……泣くなよ……」

「あれ? 泣く……つもりなんて……なかったのに……」

止めようとしても次から次へと勝手に出てきて止まりません。私は泣いている事をごまかすために、さっと後ろを向いて涙をお兄ちゃんから見えなくしました。

「じゃあ泣くの止めるから、1つ約束っ」

「なんだよ……」

「必ずここに帰って来て、ウチに何があったのか報告することっ。いい?」

「あぁ、約束する」

――約束する。そうお兄ちゃんが宣言したあと、思わず振り返ってしまいました。でも大丈夫。お兄ちゃんの目はちゃんと決意を固めた目でした。こういう目をした時のお兄ちゃんは無敵なんです。絶対に約束を守る為に帰ってきます。

「じゃあお兄ちゃん。いってらっしゃい。帰ってくるの、待っとるからねっ!」

「あぁ、いってきます」

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