第4話 さすがにそれは常識です

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 流石に夏服では肌寒い季節になってきました。

 山の方を見れば、赤、黄、茶と様々な葉が風に揺れています。

 私はというと、お昼の休憩中で外にでています。店番は梨里ちゃんに任せて気分転換にその辺をウロウロします。

 ずっと室内で店番をしていると、体的にも気分的にも滅入ってしまうため、こうやって偶には運動しないと健康的にも良くないですよね。

 特に今から冬になると寒くて動かない日が多くなると思うので、今のうちに体を動かしておかないと本当に動けなくなっちゃいますから。

「おい、知ってるか? 肉は片面焼いた後、裏返して焼くと、熱が均等に通るんだぜ」

……何なんでしょうか? いえ、誰に向かって言っているのでしょうか? ふと周りを見渡しますが、彼の視線の先には私しか居ないことから、私に話しかけていると見て間違い無いようです。

「えーっと……知ってますけど?」

私は道の隅に格好をつけながら立っている男性にこう返します。

「ククク……この世界の文化レベルは想像以上に高いようだな」

何なんでしょうか? 不審者として憲兵さんに突き出してもいいでしょうか? というより、こんな人この近くでは見たことがありません。この人も他の世界から来た人なんでしょうか?

「ならばっ……四則演算って知ってるか?」

いや……さすがにそれは常識です。



***


(;*゚A゚)「足し算とか引き算の事ですよね……? それなら知ってますけど……」


( ^ν^)「ククク……中々やるじゃねーか……」


(;*゚A゚)「は、はぁ……ありがとうございます……」


(;^ν^)「じゃあ……銃って知ってるか?」


(;*゚A゚)「いえ……聞いたことが無いです……」


( ^ν^)「ククク……そうかそうか……。銃っていうのはな……『筒状の銃身から弾を発射する道具(武装)であり、砲より小型の物を指す』物だ……。理解したか?」


(;*゚A゚)「いえ……。何を言っているのかさっぱり……」


( ^ν^)「そうか……凡人にはこの説明ではわからないようだな……。ならばもう少し詳しく説明してやろう……。どういうものかというとだな……『一般に火薬の燃焼ガスの圧力で、金属製(主に鉛)の銃弾を発射する』ものだ……」


(;*゚A゚)「はぁ……。火薬で金属を飛ばすというのはわかりましたが、火薬ってどんな火薬を使うんですか?」


(;^ν^)「…………」


(;^ν^)「い、良い質問だな……」


(;^ν^)「そ、それは――」


<(' _'<人ノ「あ、乃々さんこんにちは~」


*(‘‘)*「こんにちは~」


( *゚A゚)「あ、高崎さんとチカちゃんこんにちは~、今からお出かけですかー?」


<(' _'<人ノ「えぇ、そうなのよー。ちょっと甘いものが食べたくなっちゃって……あら? その方は……外の人?」


( *゚A゚)「恐らくそうかと……よろしくお願いできますか?」


<(' _'<人ノ「では伝えておくわね。それと、帰りにお店に寄るからその時はよろしくね」


*(‘‘)*ノシ「ばいばーい」


( *゚A゚)ノシ「ばいばーい」


(;^ν^)「…………」


(;^ν^)「何なんだ! あのホバー移動する幼女は!」


( *゚ ,゚)(ホバー……?)


( *゚A゚)「えーっと……浮いている彼女の事ですか? 確かに初めてみたら驚きますよね」


(;^ν^)「まさか……能力で溢れる世界だったとは……。俺の脳に詰め込んだ辞典の知識じゃやっていけないじゃねーか……」


( ^ν^)「いや、だが待て……。能力を用いて便利になった人間は能力という便利なものに甘え、知能が低いという傾向がある。そこに付け入れば、百科辞典の内容を全て頭に叩き込んだ俺は、この世界で無双が出来るっ!!」


( *-A-)「あのー……考えてること、全部漏れてますよ?」


( ^ν^)「そうだ、そこの女よ……。彼女が飛んでいる現象について説明してくれないか……」


(;*゚A゚)「女じゃ無くて、私の名前は乃々っていうのですけど……」


(;*-A-)「それと、どうして飛んでいるかはまだちょっとわかりません」


( ^ν^)「ククク……そうか……。ではもう一つ聞こう。この世界の住人は全員飛べるのか?」


(;*゚A゚)「いえ……私の知る限りでは彼女だけですが……」


( ^ν^)「ククク……そうか……この世界は持つ者と持たざる者がいるのか……。理想的だ……。その原因を解明して俺はこの世界でハーレムを築いてやるっ……」


(;*゚A゚)(コイツ変わっとるなぁ……今までに見たことの無いタイプやわぁ……)


(;*゚A゚)「あの……貴方のお名前は何て言うのですか?」


( ^ν^)「ククク……乃々、と言ったか……。俺はな……前世の名前は捨てたんだ……。そうだな……この世界では、マッドサイエンティスト『ニュッ』で名乗って行くことにするよ……」


(;*゚A゚)「はぁ……」


( *゚A゚)「この世界、って事は前は別の世界にいらっしゃったんですか?」


( ^ν^)「そうだな……あまり思い返したくない出来事なんだが……前の世界ではトラックにはねられて死んでしまってな……。それを哀れんだ女神が俺をこの世界に転生したらしい。当然、ただ転生させるだけでは無く、転生するにあたって、全てのステータスをマックスにしてくれたんだ……。ただ……デメリットとして天使に会った記憶は失われたがな……」


(;*-A-)(記憶が失われてるのに、なんでそのことを知ってるんやろ……つまり、この人の妄想……?)


(;*゚A゚)「と、とにかく、位置を移動しませんか? ここでの立ち話も何ですから……」


( ^ν^)「ククク……面白い……我が根城に案内してくれるというのか……面白い……面白いぞ!」





(;*゚A゚)「えーっと、ニュッさんは前の世界では何をされていたんですか?」


(#^ν^)「ククク……我が前世に触れるという禁忌を犯すのか……」


(;*゚A゚)「いえ……気にしているのでしたら、話さなくても結構です」


( ^ν^)「いや……別に怒ってなどいない。ただ……前の世界では負け組だったという事は伝えておこう……」


(;*゚A゚)「負け組……ですか……」


( ^ν^)「そうだ……負け組だ……。そして勝ち組を妬み、蹴落とす事だけを考えて生きてきた……。今にして思えば、それは時間の無駄だったな……。その時間を……自分を昇華させるために使えばよかったのだ……」


(;*゚A゚)「……」


( ^ν^)「そこで来世こそは本気だす……と思い、過ごして来たのだが……予想以上に来世は早くきてしまったようだな……」


(;*゚A゚)「そ……そうですね」


( ^ν^)「そうだ……ちょっと試したい事があるのだが、やっていいか……?」


(;*゚A゚)「え……何をするんですか?」


( ^ν^)「さっきの幼女の……。ホバー移動だ……」


(;*゚A゚)「いや、それは無理かと……彼女が浮く原理もよく分かっていないんで……」


( ^ν^)「大丈夫だ……。女神の祝福を受けた俺なら出来る……! 行くぞ……!!」


ドタッ


( ゚ν゚)「エンッ!」


(;*゚A゚)「あ……あの……大丈夫ですか?」


( ;ν;)「大丈夫だ……ちょっと派手に転んだだけだ……。クソっ……今回の人生もハードモードなのかっ……! 女神の祝福なんて無かったのかっ……」


(;*゚A゚)(いや、それは貴方の妄想なんじゃあ……)


( ^ν^)「ククク……いいだろう……神はとことん俺を苦しめたいらしいな……。いいだろう……いいだろう! このくらいの手応えが無くては面白くないからな!!!」


(#^ν^)「最弱から始まる物語……! 悪くない! 悪くないぞ!!」


( *゚A゚)「あ、若さん」


( <●><●>)「あ、乃々さん……。この人が異世界……外の世界から来た人ですか?」


( *゚A゚)「せやで」


( ^ν^)「異世界……。良い響きだ……。ただ……俺に取ってはこちらの世界の方が異世界だがな……」


( <●><●>)「あ、異世界で通じるんですか。まぁとにかく、異世界から来たという事でよろしいですね」


( ^ν^)「あぁ……構わん……」


( <●><●>)「ちょっとお話を聞きたいんで、ついて来てもらってもよろしいですか?」


( ^ν^)「ククク……ついて来てもらう……? 冗談は止めてくれ……。周りにお前の部下がたくさん潜んでいるじゃねーか……。断っても無理矢理連れて行くんだろ……」


( <●><●>)「あぁ、バレているのなら話は早いです」


( ゚ν゚)「え……嘘……」


( <●><●>)「え? どうかしましたか? ついて来て下さるんですよね?」


(;^ν^)「あぁ……構わないぜ……。将来天才になる、マッドサイエンティストのニュッ様と会話が出来るんだ……。いい経験になると思うぜ……」


( <●><●>)「じゃあ、行きましょうか……」


( ^ν^)「あ……ほんの少しだけ待ってくれないか……」


( <●><●>)「どうしました?」


( ^ν^)「乃々……とか言ったか?」


(;*゚A゚)「はい?」


( ^ν^)「1つ謝らなければいけない事があるんだが……聞いてくれるか?」


(;*゚A゚)「えっ? なんでしょう?」


(;^ν^)「実はな……。トラックに跳ねられて死んだって言ったが……嘘なんだ……。自殺しようと思って……トラックの前に飛び出たんだが……気がついたらここにいた……。いや……気がつく前に……長い黒いトンネルを通っていた気がするが……。まぁ……要するに死んでないんだ……」


( ^ν^)「もうお前とは……二度と会わないかもしれないが……嘘をついたまま別れるのは……耐えられなかったんでな……これだけは伝えておきたかったんだ……」


(#^ν^)「おい! 行くぞ! 若! 案内しろ!」


( <●><●>)「いや……私の名前は若では無いんですが……」


(#^ν^)「うるせぇ!!」


(;*゚A゚)(トラックって何……?)



***



 人間って様々な人が居ますよね。自分に自信がある人。笑顔が素敵な人。心が優しい人。愛嬌がある人……。経営しているお店を通して、私は様々な人間と接してきました。その中でも今回出会った彼は飛び抜けておかしな人でした。

 おかしいと言えば4ヶ月位前に出会った内藤さんもおかしな人だったんですが、彼は恐らく根は真面目な人なんです。ちょっとただ……空回りしてしまっただけで……。

 しかし今回のニュッさんは本当におかしかったです。例えるなら、ネジの一本が抜けている人みたいな……。

 でも、彼が別れ際に見せたあの顔。あれは決意を固めた人の顔でした。ああいう顔をした時の人は必ず何かをやり遂げる事を私は知っています。……って言っても、お兄ちゃんしかそんな顔をしたことがある人を見たことが無いんですけどね。

「た、大変だ!!」

と言って、お兄ちゃんが店のドアを破壊するような勢いで開けながら飛び込んできました。

「お兄ちゃん! 扉! 壊れる!!」

「わ……わりぃ……」

息の切れ方から言って尋常じゃない出来事が起きたのはわかります。

「どうしたん? そんなに慌てて?」

「そ、そうなんだよ! 隣の祐也の息子がいきなり発光しはじめた!!」

「発光?」

「光ってるんだよ!!」

いや、光ってるって事はわかりますが、いまいちピンときません。

「それに、近所の武志の娘! 彼女は髪の毛が伸びるのが止まらなくなった!!」

「はぁ……」

それは流石に冗談でしょ……。

「そして、斜向かいの博之の息子! 彼は……なんだっけ?」

「と、とにかく! 小さい子供を対象に不可解な事件が起こってるんだよ!!」

ここまで言われれば鈍い私でも気が付きます。

「梨里ちゃん!?」

「そう! 梨里はどうしてる?」

「え? 別に普通ですけど……」

私達の心配とは裏腹に、休憩室で本を読んでいた梨里ちゃんが面倒くさそうに顔を出してきます。

「あーよかった……何かあったらマリーに顔向け出来ない所だった……」

と、お兄ちゃんはその場に情けなくへたり込みます。

「ちょっとお兄ちゃん、休む前に何があったんか説明して?」

私はずっと帰ってきてから店番をしていたので、外で何があったのか分からないので説明してくれないとわかりません。

「何がって言われても……。俺が釣り用のミミズを集めてたら、それを手伝ってくれてた祐也の息子がいきなり光はじめたんだよな。で、一体何事かと思ってたら、近くに居た武志の娘の髪が伸び始めて、周りはパニック状態よ。そういえば火を吹いてた奴もいたっけな……」

「それは外にいた子供だけにおきたん?」

「いんや、博之の息子は家の中に居たそうだから、それは違うな」

「うーん……」

共通点は特に子供という点以外は無しと……。

「逆に外にいて、変な事が起きなかった子とか居なかったん?」

「ああ、居るぞ。裕次郎の息子がそうだ。何しろ、俺と一緒にミミズを集めてたからな。祐也の息子がいきなり光り始めたもんだから、コイツを夜に船に乗せたら、イカ釣り漁船の灯りの代わりになって大漁になるんじゃね? とか話したから間違いない」

なんという不謹慎な……。

「まぁ、正直そんなことを笑うことができなくなるくらい大事になったんで逃げるように帰ってきたんだがな。おかげで集めたミミズがパァよ」

「まぁまぁ、梨里ちゃんに何も無くてよかったやん。あれ? そういえば舞凛惇さんは今何してるん?」

「多分マリーなら仕事じゃね? 詰め所に居るだろうから嫌でもそういう情報は入ってくるだろうよ」

「お兄ちゃん、梨里ちゃんが無事な事伝えてあげたら? このままじゃ舞凛惇さんも仕事に身が入らないんやないん?」

「は? やだよ。何で高給取りの仲間入りしたマリーに気を使わないといけないわけ?」

ちなみに舞凛惇さんは異世界から来たという経験を生かして、他の異世界から来た人のフォローする仕事を行っているそうです。また、もともと体が屈強な事もあり、偶に憲兵としての仕事もするのだとか……。

「ま、梨里に問題が無いって分かったから、ミミズの捕獲でも再開すっかなぁ……」

と言って、お兄ちゃんはさっき来た方向とは逆の方向。つまり、詰め所の方向に向かって歩いて行き始めました。全く……素直じゃないんだから……。

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