第3話 〜カーミラの憂鬱〜

カーミラ:「ハァ〜〜〜〜……」


ナレーション:

     少し休憩を挟んで沈黙の霧の中を歩きはじめた僕達は、

     カーミラの暮らす想区を目指し歩き続けていた。

     本当だったらそこで野宿をする予定だったけど、

     いつヴィランに襲われるか分からない状態では

     ゆっくり寝てもいられないので、

     若干眠い目をこすりながらの強行軍となった。

     まぁ襲ってくるのはヴィランだけじゃないけどね……


カーミラ:「ハァ〜〜〜……」


 レイナ:「ちょっと、さっきから何なのよ!?」


カーミラ:「……お腹、空いた……」


シェイン:「え? もうですか?」


  タオ:「マジかよ! あんだけ食ったのにか?」


 ファム:「ないわ〜、まだたいして歩いてないじゃん」


カーミラ:「仕方ないでしょ、ワタシこう見えて燃費が悪いんだから」


 レイナ:「羨ましいわね……いったいどういう体してるのよ?」


カーミラ:「も〜ダメ〜〜〜、死ぬ〜〜〜〜」


 エクス:「あはは、死なないでしょ」


カーミラ:「そんなことないわよ。

      吸血鬼だって、お腹空きすぎると飢えて死んじゃうんだから。

      ねぇ、おねが〜い。

      今日のオススメでいいから食べさせて〜〜」


 エクス:「いやいや……僕を料理長みたいに呼ばないで」


 レイナ:「もう、鬱陶しいわね!

      想区に着いたら好きなだけ血を吸っていいから、

      それまで我慢しなさい!」


  タオ:「おいおい……」


シェイン:「姉御、落ち着いて下さい。言ってることがメチャクチャです」


 レイナ:「え〜〜!? だってややこしいのよ。

      人々に仇為す化物が主役って……」


カーミラ:「化物ね……」


 ファム:「それはちょっ〜と言いすぎじゃないかな〜?」


 レイナ:「え? その……ごめんなさい」


カーミラ:「いいのよ、事実だから。

      でも吸血鬼だって好き好んでこんなことしてるんじゃないのよ」


ナレーション:

     カーミラは、レイナに化物扱いされても

     さして気にしてるようには見えなかった。

     自覚してるということなのか、それとも自負でもあるのだろうか?

     やっぱり僕ら人間とは感覚も違うのかも知れない。

     そこには相容れない、というよりも、

     何か決定的な違いがあるのかも知れなかった。


 エクス:「どういうこと?」


カーミラ:「ワタシたちはみんな、人間が生み出した空想の産物なのよ」


 エクス:「人間が?」


カーミラ:「ええ。日照り、干ばつ、水害、冷害、

      地震や嵐や疫病や、果ては人間自身が犯す罪まで。

      都合の悪いことを全部誰かのせいにするために、

      人間が作り出したのが悪魔やワタシ達ってこと。

      そこの魔女さんもね」


シェイン:「それを言うなら鬼もですが」


 ファム:「まぁ元々は子供を躾けるための寓話や、

      宗教の戒律を伝える上での

      説法として語られるだけだったみたいだけどね〜」


カーミラ:「ワタシたち吸血鬼の場合は、

      若くして熱病で死ぬカワイ〜イ娘さん達を、

      吸血鬼に襲われたせいだって

      責任転嫁するために生み出されたのよ。

      衛生管理や栄養状態の悪さを棚上げしてひどい話でしょ?

      もし見つかれば心臓に杭を打たれて、

      首を切り落とされて殺された挙句、

      死体は焼かれてその上灰を川に流されるなんて、

      ホント損な役回りよ」


 レイナ:「随分、達観した吸血鬼ね……」


  タオ:「その割にはかなり趣味入ってるような……」


ナレーション:

     知っているようで知らなかった吸血鬼の真実。

     僕達が普段コネクトしてるのは、オリジナルのカーミラ、

     つまり初代カーミラということになる。

     彼女の記憶では、流石にこんな雑学めいた知識はなかった。

     目の前に居る現在のカーミラが、特別知識欲に富んでいるのか、

     あるいはこの想区ではそういうものなのかも知れない。


カーミラ:「ね〜〜お腹空いたの〜〜〜。

      少しでいいから、

      少しだけ、ちょこっ〜〜とだけ血を吸わせて〜〜」


 レイナ:「私達は絶対にだめよ! 吸血鬼になる訳にはいかないんだから」


カーミラ:「え〜〜……。

      じゃあ、あっちなら構わないかしら……?」


 レイナ:「あっちって……?」


 エクス:「えっと……辞めておいた方がいいんじゃないかな?

      多分お腹壊すと思うので」


  タオ:「チッ、しつこい奴らだ!」


ナレーション:

     話に夢中になっていて気づかなかったけど、

     僕らは知らないうちにヴィランに囲まれていたようだ。

     ヴィランにむしゃぶりつこうとするカーミラを制止しながら、

     包囲網を敷いてきたヴィランの一団を一掃した。


カーミラ:「ヒック……後生だから何か食べる物ください……」


 レイナ:「そんなこと言っても、

      あなたの底なしの胃袋に全部注ぎ込む訳にはいかないんだから!」


カーミラ:「だったらせめて〜、ほんの一滴でいいから〜血を〜、

      血を舐めさせてく〜だ〜さ〜い〜……!」


  タオ:「なぁ、これやばいんじゃねーか?

      どう見ても禁断症状出ちまってるぞ」


 エクス:「カーミラ、とりあえず深呼吸しよう、ね?

      ほら、ヒッヒッフー……」


 レイナ:「ちょっとエクス!? 何産ませる気よ?」


カーミラ:「ヒッヒッフー……」


 ファム:「あ〜あ、もう見てられないわ〜」


シェイン:「しょうがないですね。

      シェインのアメちゃんならいくらでもあげますから、

      これで我慢して下さい」


カーミラ:「あ、ありがとうございます……!」


  タオ:「鬼にかしずく吸血鬼がどこにいるってんだよ」


 エクス:「早いとこ、カーミラを送り届けてあげよう……」


 レイナ:「……そうね」


ナレーション:

     美味しそうにりんご味の飴を頬張るカーミラを促し、

     僕達は沈黙の霧の中を、一路シュタイアーマルクへと急いだ。

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