かつてマッチ売りの少女だった何か。

あがつま ゆい

第1話 マッチ売りの少女の想区

カオステラーの気配を察して新たな想区にたどり着いたエクス一行。

彼らを待ち受けていたのは……強烈な寒さだった。


「うわっ! 寒っ!」


エクスが白い息を吐きながら寒がる。

辺り一面は雪で白く覆われ真冬の寒さとなっていた。

急な寒さに歯をガタガタと言わせながら震える。


「この想区に入ってから急に寒くなったな」


タオが同じように息を白くしながら率直な感想を漏らす。

こっちは長旅のせいか暑さ寒さに慣れているようで震え一つ起こさない。

そこへヴィラン達が登場する。


「グギギギギ!」

「ま、こいつらと戦ってりゃ少しはあったまるだろうぜ」


戦闘が始まった。

エクスが剣を振るい、タオが槍を構える。

レイナが片手杖を握り、シェインが両手杖を手に取る。

いつものような布陣。

エクスをはじめとした彼らにとって自分の姿がヒーローの姿に変わるのも

ずいぶんと慣れたものだしヴィラン退治も既に日常の一部となった。

敵も大して強くなかったようで特に危なげなく倒す事が出来た。


「ふう。こんなんじゃ準備運動にもなりゃしねえな」


タオが敵のあっけなさに余裕しゃくしゃくにつぶやく。

油断するなと言いたいところだがそうなってしまうほど相手は弱かったのは確かだ。


「急ぎましょう。カオステラーが想区をメチャクチャにしてしまう前に」

「ちょっと待ってくれ! そこにいるアンタたち!」


レイナが先を急ごうと思った矢先、突然誰かが一行に大声をかける。

振り返ると村人が近づいてくる。

ここまで走ってきたのだろうか息は相当に荒れ、

真冬の寒さだというのに額には汗が浮かんでいた。

一呼吸置いたところで男はしゃべりだした。


「アンタら! 手が空いてるなら手伝ってくれ!

 俺の家が燃えてるんだ!」

「火事か!?」

「ああそうだ! とにかく人手がいるんだ! 来てくれ!」


村人がエクス一行に助けを求める。

そこへヴィラン達が現れる。


「その前にコイツらを何とかしないと!」


エクス達が戦闘態勢に入る。

先ほどの戦いと同じようにヒーローの姿になって応戦する。

が、今度は不意打ちに近かった前の戦いとは違いしっかりと準備がなされていた。

具体的には寒い地域にいる敵に有効な炎属性の武器をあらかじめ用意しておいた。

その効果はばつぐんで先ほどの戦いよりも楽に敵を殲滅できた。


「あんたら、何者なんだい?」

「何者でもいいだろ? それより急ごうぜ。家が燃えてるんだろ?」


説明するとめんどくさくなるのでタオは自分たちの正体を明かさずに

うまく村人に家まで案内するよう促した。


「あ、ああ。そうだ。そうだな。俺についてきてくれ!」


そう言うと村人は駆け出した。一行もそれに続く。



「ハァハァ……もうすぐだ。もうすぐたどり着くんだが……」


村人に先導され家を目指す一行。

走る事10分。男の家にたどり着く。

しかし家はすでに灰になっていた。


「ああ……俺の家が……」

「遅かったようですね……」


レイナが残念そうにつぶやく。


「家は燃えるし、あのガキも死なないし、一体どうなってんだ?」

「あのガキって? 誰の事です? それに何なんですか『死なない』って」


エクスが死という言葉に引っかかり少しだけ怒りを込めて話に喰いつく。


「俺の娘。あの子に名前なんて無いよ。

 あるとすれば『マッチ売りの少女』っていうあだ名だな」

「マッチ売りの少女!」

「ということはここはマッチ売りの少女の想区ね」



雪の降る酷く寒い、1年の最後の日。

頭に何も被らず、足に何も履かず、

少女はただひたすらマッチを売り続けるだけでした。

マッチが売れなければ家に帰れない。だけどこのままでは凍えて死んでしまう。

そこで彼女は……



「そのマッチ売りの少女はどこにいるんですか?」

「知らん。3日前に家を出てったっきり姿を見せない。

 運命の書にあるように死んだわけでもないらしい。

 探してんならとりあえず町にでも行ったらどうだ?」

「ああ、そうしますね」

「ちょ、ちょっと待ってください」


エクスがあまりにもポンポンと話が進むのを見て戸惑いながら声を荒げた。


「マッチ売りの少女はあなたの娘じゃないですか! それを軽く死んだ死なないなんてあんまりじゃないですか!」

「何言ってんだ? 運命の書にそう書かれてるんだからそういうもんだろ」

「そうよエクス。私たち以外はみんな運命の書に沿った人生を送るのよ。

 いや、『送らなきゃいけない』の。さんざん見てきたでしょ?」


マッチ売りの少女の父親とシェインが

表情一つ変えずに、言ってみれば「冷酷」に言ってのける。


「分かってる。分かってるけど……」

「けど?」

「いや。何でもない」


そう言ったきりエクスは黙り込んだ。

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