第4話 クリスマスイヴの激闘


「クフフッ、おやおやみなさんお揃いで、どこに急いでるんですか?」


先を急ぐ5人。とあるレストランの横を通り過ぎようとした時、その男は現れた。


「おまえは!」

「ロキ......!」


レイナ達は身構えた。なぜかレストランのオープンテラスから出てきたニヤけ顔の男「ロキ」は、カオステラーを生み出し、想区を破壊しようと企む、レイナ達の倒すべき存在だった。


「何モンっスか?」

「悪人ですよ」


シェインはサンタに簡単に説明する。こんなやつ、この程度の説明で充分、という事だ。


「悪人は酷いですね〜。我々は我々のなすべきことをしているだけですよ。ねぇカーリー様?」


ロキはもう1人の名前を呼ぶ。すると、ロキの座っていた席の向かいから、1人の少女が現れた。


カーリー。オルレアン包囲戦の際に出会った、光を失った少女。彼女もまた、レイナ達の倒すべき敵なのだ。


「ええ。お久しぶりです。調律の巫女御一行様」

「カーリー......」

「何の用だ!」


タオは声を荒げた。他の4人も表情を強張らせる。対象に、カーリーは笑顔でポンッと手を合わせると、テーブルの料理を指して答えた。


「今日はクリスマスイヴですので、みなさまと共に食事でもと思いまして......。いかがでしょう

、この機会に我々の想いを共有するというのは?」


何を悠長な事を言っているのだ。タオは馬鹿にされていると思い、ますます苛立った。レイナも唇を噛み締めている。しかし、


「ほら、七面鳥もケーキもあるんですよ」

「う、旨そう......」


この一言でタオの表情が変わった。ヴィランとの戦いが長引き、夕暮れの時間になっていた事もあり、全員、お腹がぺこぺこだった。


「タオ兄、ダメですよ?」

「わかってるよ!」


シェインが釘を刺す。タオもわかっているとは思うが、敵から出された料理など、怪しすぎる。わかっていても目の前の料理をお預けをくらって、悲しんでいるタオに、サンタが提案した。


「終わったらアタシが作ってあげまスから」

「マジか!?」


俄然やる気が出てきた! とタオは元気になった。そんな中身のない会話を無視して、エクスはロキとカーリーに告げる。


「そんなことより、僕達は急いでいるんだ。行かせてもらうよ」

「おっとそうはいきません。あなた方を足止めするのが私の役目なので」


そうロキが答えると、彼は懐から栞を取り出す。それはレイナ達の持つものと同じ、導きの栞、その試作品であるワイルドの栞だった。


「コネクト、サンタクロース」


彼はワイルドの栞を使い、あらゆる英雄にコネクト出来る。そして、彼は変身する。この想区の英雄、『サンタクロース』に。


「行かせないっス! あの子の元へは、行かせないっスよ!」

「なっ、なんスか!?」


サンタは混乱している。目の前の男が自分になった事に。そして、心の内に閉じ込めた筈の、自分の気持ちを読み取られた事に。


「ロキ......。サンタにコネクトするなんて、何のつもりよ!」


レイナが叫ぶ。ロキの行動のひとつひとつが、何か恐ろしい事につながる気がして、堪らなくなったのだ。


「アタシの大切な子供達に、手出しはさせないっス!」


ロキがコネクトしたサンタクロースの声。これは、サンタクロースが考えている本当の気持ちだ。導きの栞を持つものだからわかる。英雄とコネクトするという事は、英雄と1つになり「理解」するという事なのだという事を、レイナ達はわかっている。


「ほら、いかがですか? サンタさんはこんな風に思ってますよ。それでも行くというのですか?」

「ッ!!」


ロキがコネクトを解除して語りかける。サンタクロースの本心を聞かせた上で揺さぶりをかける。彼はまさしく道化師だった。


「ああ、かわいそうなサンタクロース。苦しい思いをしているでしょうに、彼らに巻き込まれて」

「違うっス! アタシは、自分から......」


なおも煽り続けるロキに、サンタクロースは反論した。いや、反論しようとした。が、力のないその言葉は、ロキの台詞にかき消されてしまう。


「感情を押し殺して、それで何になるというのです。そこにいるみなさんは、あなたの愛する子供達を襲おうというのに、あなたはそれでよろしいのですか?」

「違う......」


確かに、サンタクロースから見れば、レイナ達は街の子供を襲おうとしているように見えるのだ。だからサンタクロースは最初に反対した。その気持ちを押し殺して今ここに居るというのに......。


「相変わらずゴチャゴチャうるせぇ奴だな!」

「シェイン達には時間がないんです。通してもらいますよ」


そう、この時間にもカオステラーは想区を蝕もうとしている。ロキの茶番は所詮時間稼ぎなのだ。自分達は止まれない。タオとシェインは同じ気持ちで声を上げた。


「そうはいかないと言ったでしょう?」


スッと、導きの栞をかざし、


「行かせないっス......!」

「ッ!!」


再びサンタクロースにコネクトするロキ。どうやら戦う気らしい。


「仕方ねぇ、タオファミリー、喧嘩祭りの始まりと行こうぜ!」


「コネクト!」


それぞれ、アラジン、エイプリル、ドン・キホーテ、ジムにコネクトする4人。サンタクロースはその後ろ姿を濁った目で見つめる事しかできなかった。


ロキはサンタクロースの冷気を一線に放ち、4人を、凍らせようとする。


「ぬっ、この誇り高きラマンチャの騎士、ドン・キホーテには通用せぬわ!」


タオの変身するドン・キホーテは、自身の盾でそれを防いだ。明らかに押され気味ながらも、弱音を吐かない。彼もまた、1人の英雄だった。

ならばとロキは、その冷気をデタラメに撃ち始めた。その攻撃は、この街のあらゆる建物を破壊し、街の人々を危険に晒すものだった。


ロキの攻撃によるもの、しかし、それだなのだろうか。ロキがコネクトしているのはサンタクロースだ。仮にサンタクロースの意思でこの攻撃が起こっているのだとしたら......。彼女は一体、何を考えているのだろうか。


降り注ぐ瓦礫と、ロキの攻撃を踊るように避けて、身軽なアラジンは背後から攻撃する。


「くっ! うっとおしいっス!」


一撃では沈まない。対象をアラジンに変え、再びロキは冷気を放つ。広範囲にわたる攻撃を、アラジンはまともに受け止めてしまい、地面に倒れこんだ。


「終わりっス......」


冷気を放つサンタ。その攻撃を、ギリギリの所でドン・キホーテが防いだ。


「感謝感激っす」

「守りは任せておけ」


アラジンを仕留め損ねたサンタは舌打ちをすると、冷気を強め、ドン・キホーテごと凍らせようとするが、


「ぐあっ!?」


突如後ろから撃ち抜かれ、サンタの体が吹き飛んだ。サンタを撃ち抜いたのは、シェインの変身したジムだった。鋭い一撃、ただそれだけではない。彼の弓には、エイプリルの強化の魔法がかけられていた。

余りに強力な一撃は、ロキの変身を簡単に解いてしまう。


「くっ、クフフッ......。流石、ここまで我々の邪魔をしてきただけはある......」

「僕達は先を急ぐよ。悪いけど、今はそれしか出来ないから」

「また敗北の歴史を刻みましたね。反省して二度と出て来ないでください、負け犬さん」


エクス達はコネクトを解除し、ロキ達の元から去って行く。シェインに散々馬鹿にされたロキは往生際悪く手を伸ばす。


「くっ、待てっ!」

「おやめなさいロキ。それ以上はみっともないですよ」

「カーリー様......」


カーリーが制する。彼女は決して、手荒な真似を好まない。ただ、相手に理解をさせようとするのだ。


「いつか、彼らもわかってくれる事でしょう」

「少々、彼らに甘いのではありませんか?」

「そんな事はありませんよ。我々には目的があるのですから」

「しかし、このままではこの想区も......」


ロキの不安に、カーリーはこう答える。

「それもまた、運命ということでしょう」

「運命、ですか。それはまた、とんだ皮肉ですね......」


本当に皮肉である。ロキとカーリーは運命を壊す者を求め、カオステラーへ導く。それが運命などと語るとは、と、ロキは苦笑いした。


「それに、彼らはまだ真実に気がついていない」

「さて、この物語の結末はどうなるでしょう」


カオステラー、サンタの意思、悲しみの少年彼らを取り巻く運命の最終決戦が始まろうとしていた。

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