第2話 純粋な呪い
「それじゃ出発っス!」
「おー!」
相変わらず、レイナはテンションが高かった。
「すごいわ! 本当にソリで飛ぶのね!」
最近いろいろあってレイナは辛い思いをしてきた分、年相応にはしゃいでいる彼女を見たエクスとシェインは嬉しくなった。
対照的に、タオは意識は取り戻したものの、いまだ体調が良くないらしく、蹲っている。
「うぅ......悪いな......」
「気にしなくていいっスよ」
いつもの元気で前に出たがりなタオの姿はどこにもない。エクスはその後ろ姿に同情した。
「ところで」
ソリで移動中、レイナはサンタクロースに疑問を投げかけた。
「サンタクロースっておじいちゃんって聞いていたんだけど」
本来、サンタクロースは赤い服に白い髭の老人というのが言い伝えだった。レイナもその姿を想像していたため、当然の疑問である。
「ああ、本来はウチのおじいちゃんの仕事なんスけど、先週腰をやっちゃって......。今は入院中なんスよ」
どうやら彼女はサンタクロースの孫ということらしい。
「つまり、はサンタクロースの代理ってことですか?」
「そうなんスよ〜。まあ、子供達の笑顔を見られるのは嫌いじゃないっスけどね〜」
エクスの問いに、彼女は答えた。その横顔はとても嬉しそうで、子供への優しい想いが伺えた。
「そうですか......」
シェインが独り言のように返事をした。何か考え事をしているように......。
「ところで、タオさんでしたっけ? 彼はどうしたんスか?」
サンタはタオの状況を尋ねた。ヴィランの乱入でその辺の説明が出来ないでいたため、サンタはまだ状況が飲み込めていなかったのだ。
「ええ、実は街の子供にぶつかって、それが致命傷になっちゃって......」
「そんな屈強な子供いたっスかね......?」
レイナの説明はまったく理解できなかった。なのでシェインが軽く補足する。
「ガラの悪いちびっ子に弱点を殴られたんです」
「ああ......。多分3丁目のあの子っスね」
「知ってるの?」
サンタは意外な反応をした。どうやら心当たりがあるらしい。
「ええまあ......。あの、みなさん、その子の事は許してあげて欲しいっス」
「どうかしたの?」
訳ありのようだ。レイナが尋ねると、サンタは話を続けた。
「その子、両親を半年前に亡くしてるんス」
「えっ......?」
それが、彼の運命だった。この想区のストーリーテラーによって定められた、絶望の運命。
「昔はよく笑う子だったんスけど、その日を境に笑わなくなって......」
「そうだったんだ......」
「まあ、だからって悪い事をしていい訳じゃないっスけどね」
ハハハと、渇いた笑い声を上げるサンタ。きっと彼女は優しい性格なのだろう。
「今回の事は我慢してあげてほしいっス。後でアタシからキツく言っておくっスから」
「だってさ、タオ、どうするの?」
エクスの問いに、
「し、仕方ねぇなぁ......」
震え声でそう答えた。
「まだ痛いんだね......」
「それじゃあアタシはサンタの仕事に行ってくるっス! この部屋の物自由に使っていいっスから」
サンタの家に着くと、サンタはそう言って家を出ようとドアノブに手をかけた。しかし、出て行こうとするサンタに、レイナは問いかけた。
「まって、私たちにも手伝えることはないかしら?」
続いてエクスも、
「そうだね、ここまでしてもらった分のお礼もしたいですから」
シェインも頷く。感謝の気持ちを返したいという3人の気持ちに、サンタは少しだけ考えて、
「うーん......。あっ、じゃあみなさんサンタの職場見学やってみまスか?」
こんな提案をした。その提案に、
「えっ、いいのかしら!?」
レイナは声のトーンを半音上げて聞き返した。
「レイナ、テンション上がってるね」
「まあ、憧れの人と一緒に仕事が出来るんですから、仕方ないですよ」
嬉しそうなレイナに、2人も自然と笑顔になる。しかし、あまりにテンションが上がったレイナは、
「私、将来サンタクロースになるわ!」
「レイナ! 落ち着いて!」
「姉御! 落ち着いてください!」
と、暴走の果てに、2人に止められたのだった。
「本当に大丈夫ですか?」
「だっ、大丈夫だ......。俺も行くぞ......」
サンタの問いに、タオが答えた。おそらく1人部屋に取り残されるのが寂しいのだろう。
「無理はしないでね、タオ」
と、エクスの心配に、答えるタオ。
「おうよ! ......ただ坊主、ちょっと肩貸してくれ......」
「意地っ張りなんだから......」
なんとも先行きが不安な、サンタの職場見学になりそうだ。
着いたのはサンタの家の屋上だった。ここがサンタの仕事場らしい。
「それで、どうするの!?」
目を輝かせて問うレイナをなだめながら、サンタは答えた。
「まあまあ落ち着くっス。まずは......それっ!」
空へ向かって、手に持った袋の中の気体を放出する。すると、辺りの気温が下がったような気がした。そして、
「雪が......」
降り出した。本来はプレゼントを入れる袋だろうが、雪を降らせる気体を放出するのは彼女の能力なのだろうか。
「サンタの家系は代々雪を降らせることが出来るんスよ」
「へぇ。ロマンチックですね」
シェインは感心した。さらにサンタは次の工程に移る。
「そんでもって、みんな、手を繋いで輪になるっス」
「どうして?」
どういう事だろうか。雪を降らせる事と、手を繋ぐ事にはたして意味があるのだろうか。
「繋げばわかるっス! ほらほら」
しかしサンタは促す。それに従ってレイナとシェインはサンタの手を握る。エクスはシェインの手を握った。
レイナとエクスはこれまでの事から、妙に恥ずかしがっているのか、なかなか繋ごうとしない。シェインはその状況を面白がるように、
「ふふっ姉御と新入りさんも早く繋いでくださいよ〜。なんですか? 思春期ですか?」
ニヤニヤしながら煽った。その煽りに2人は赤面しながら、
「わ、わかってるわよ!」
「う、うん......」
おずおずと、手を握った。レイナの手にエクスの体温が伝わる。その瞬間、ドキッとしたレイナはギュッと強くエクスの手を握る。
「痛たたたたたた!?」
「はっ! ご、ごめんなさい......」
本当に思春期ですか......とシェインは呆れる。ちなみにサンタはまったく理解していないようで、首を傾げていた。
この状況をどうにかしたいエクスは、必死に周りを見渡した結果、
「そ、そういえばタオは?」
タオの姿がない事に気がつく。どこへ行ったのだろうか。
「あっちで休んでるそうですよ」
「本当に、何で来たのかしら......」
エクスもまったく同意見だった。ソリの隣で無表情で空を見上げるタオ。時々降る雪を見定めて口を開き、雪を食べようとしているタオ。そのどれもが情けなかった。
「みなさーんそろそろ来るっスよ」
この悲しい状況の中、サンタが3人に声をかけた。
「来るってなにが?」
一体なにが始まるのだろう。3人はサンタを見ると、サンタは目を閉じ、呟いた。
「ほら、聴こえてくるっス......。みんなの声が」
(サンタさん! お人形が欲しいな!)
(自転車が欲しいです! サンタさんお願い!)
(美味しいケーキが食べたいな〜)
聴こえてくる、純粋な願い。みんなバラバラだけど、とても純粋な願い。そのどれもがサンタに向けられた声だった。
「わぁ......これ、街の子供達の声なの?」
「そうっス! 子供達の純粋な願いは、12月の雪に乗ってやってくるんスよ」
サンタの能力。それは純白の雪に乗せられた子供達の願いを聴き取ることが出来るというものだった。それは、彼女らしいとても優しい能力だった。
「サンタはその願いを読み取る事で、子供達のプレゼントを用意できるんス!」
「そんな仕組みがあったんですね......」
「凄い......」
この能力にエクス達は暖かい気持ちになった。そしてレイナは、サンタクロースがみんなのプレゼントを用意出来る仕組みがわかったことも嬉しかった。
「今はアタシの手を通してみなさんにも聞こえるようにしてるんスよ」
そういう事か。手を繋ぐのには理由があったのだ。それならばエクスと手を繋ぐ事も仕方がない。気を紛らわすためか、正当化か、レイナは誰にするでもない言い訳を心の中で呟いた。
「せっかく来たんですし、タオ兄も聞いてみたらどうですか?」
その時だった。
バチバチッ!
......ろ
............えろ
..................消えろ!
みんな消えろ!!!!
「えっ? がぁっ!?」
「な、なに、これ......っ!?」
「あ、頭がっ!? 割れるっ......うぁあぁああっ!」
突如耳に届いた声が、脳を劈く。頭蓋の奥まで響くその声は、《何か》あるいは《誰か》、もしかしたらそのどちらともを呪うかのような、残酷な叫び声だった。
「ど、どうしたんですか皆さん!?」
「痛っ、おい、お前らどうしちまったんだ!?」
苦しむサンタ達の側に駆け寄るシェイン。そして仲間の苦しむ姿に、痛みを引きずりながらもタオは近づいた。
倒れる3人を助けようとした時、
グルルゥ......
「チッ、こんなとこまでっ!」
ヴィランが、周りを囲んでいた。ここはサンタの家の屋上。これでは身動きが取れない。
「ひとまずシェインとタオ兄だけで何とかしましょう!」
「クソッこっちはまだ万全じゃねぇってのによ!」
「コネクト!」
(やってやんぜ! ハインリヒ!)
「この鉄帯、破らせはせんぞ!!」
タオが変身するその姿は、悲しみを胸に抑え込む忠義の騎士、『ハインリヒ』
同じくラーラに変身したシェインと共に周りのヴィランを一掃していく。しかし、サンタ達3人を守りながら戦うのには少し狭かった。
上手く立ち回れないまま、しかしそれでもタオとシェインは英雄と共にこの窮地を突破する。彼らには守るべきものがあった。だから強くなれるのだ。
「ハァハァ、こ、これで全部か?」
「そうみたいですね......」
全て倒し終えた。メガ・ヴィランが居なかったのは幸いだった。2人は息を整えると、
「ひとまずみなさんを運びましょう」
「ああ」
倒れている3人をサンタの家に運んで行くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます