たったそれだけで
「らしくねぇな」
「そうね」
なんかデジャブを感じるぞ。
そうだ、さっきもいきなりリディアが隣に現れたんだっけか。それで次はリナという訳。
「いやいやなんでだよ」
「は?」
オレのツッコミに追いつけてないリナはさて置き、今は依頼でも受けようかとギルドに来てるんだが……。
まあニートとは思えない事をしていてオレらしくないと口にしていた最中リナの登場。
「お前はこの街で何してんの?」
「観光」
確かに観光としてはこの街は人気だけど……偶然オレらと同時期だなんて正直怪しい。
それにこの広い街で今日2回も鉢合わせてるしな。
「ジー」
「な、何見てんのよ!」
半歩後ずさりしたリナを見てなんとなく疑う気を無くしてオレは黙って依頼の一覧に目を通し始める。
「アンタXランカーのくせにこんな低ランクの依頼受ける気?相変わらずチキンなのね」
「ちげぇよ。今回はただの学生として来てるからこのレベルのランクしか受けれないだけだっての」
横から顔を近付かせながら煽りを入れてきた小生意気な女に丁寧に説明をして差し上げる。
「そういえばアンタのその制服ってトレイシス学園のよね」
「知ってんのか。まあそういう事だから今のオレは迅雷じゃなくてただの学生だ」
「ふ〜ん」
何やら悪い事でも考えてそうな顔をしてるが放っておくのが1番か。
ちなみにギルドに来たのは暇つぶし兼鬱憤ばらしだから近場の依頼でも受けるつもりだ。
ーーーーこれにしよう!街の周りの草原地帯に出没するウルフ5頭の討伐。
「一応言っとくが付いてくんなよ」
嫌な予感ってのは基本当たる。こうなったらいいなぁなんていう願望に近い事は起きないくせに嫌な事ばっかり起きるのが人生。
「私をストーカーか何かと勘違いしてるわけ?」
ここで鉢合わせた時点でストーカー要素満載なんですが。
「お前の趣味か特技か職業にストーカーがあってもオレは驚かないぞ」
「失礼な男ね。付いていくなんて真似はしないわ」
「そうかいそうかい」
まあこう言った以上は流石にこいつでも付いてきたりしないだろ。
「じゃあな」
あれからしばらくしてウルフが住み着いてると思われる地域にだいぶ近付いたわけだが、案の定と言うべきかオレにはお供が居る。
おかしいなぁ、さっき付いていくわけないとか言ってたはずなんだけど。
「言い訳なら今のうちだぞ」
「言い訳って何の事よ」
キョトンとした顔でしらばっくれても無駄だ!いくら可愛いからってオレは許さんぞ!
心を鬼にしてこいつを追い返してやる。
「お前さっき付いてこないって言っただろ!何で今ここに居るんだよ!」
「別にストーカーした訳じゃないわよ。私の行く先にアンタが居ただけ」
実質ストーカーじゃね?
「帰れ」
「嫌」
「帰りなさい」
「嫌よ」
「帰れっつってんだろ!」
「嫌って言ってるでしょ!」
何でこの街に来てまでこんな訳の分からん事で体力を使わないといけないんだ……。
仕方ない。
「分かった!帰らなくてもいいから1つ答えろ。何の用だ?」
「だから私の行く先にアンタが居ただけで別に用なんてないわ」
オレと目を合わせず斜め上を見ながら言ってるあたり絶対に嘘だ。
ウルフの事なんてさっぱり忘れかけながらオレはこの草原地帯でリナを相手に悪戦苦闘中。
「あっそ」
一気に脱力感に襲われたオレ。
そしてそれを見計らったかのように突然背丈の高い草が多い茂る場所から飛び出て来た1頭のウルフ。
「よっと!」
宙に飛び上がってオレに向け口を大きく開いてその鋭利な牙を見せ付けてくるウルフに横腹に回し蹴りを入れて強引に蹴り飛ばす。
身体強化、更に封印具も外してる状態のオレの蹴りを食らって生きてるはずもなく、ウルフは地に落ちたままもう動く気配は無い。
「聞きたいんだけどいい?」
突然何を言い出すかと思えば質問ですか。黙って居るだけでも気になるってのに。
「聞きたい事は多分こっちの方が多いんだけどな。まあいいや、何だ?」
「アンタは何で魔物を殺してるの?」
これには耳を疑った。
何で魔物を殺してるのか?そんなのいちいち聞くような事なのか?
「言わなきゃ分からない事でもないだろ。魔物だから殺してる」
リナはふざけてる様子じゃないし、何か目的でもあるのか?
魔物自体人に害をなす生き物だ。学園に通った奴や元から才能のある奴じゃなきゃ魔物と出くわしたら怪我、もしくは命を落とす。そうならない為に街の周辺の魔物は例え低ランクでもこうして駆除をするし、高ランクの魔物なら街から離れた所に住み着いていても討伐する。
人の安全を守る為に。
「今アンタがここに来なければ多分この子は襲ったりしなかったと思うけど」
「は?もし他の奴がここに来たら襲われるだろ?そうならない為にオレが今こうして殺してんだよ」
「なら他の人も来ないようにすればいいじゃない。元々魔物は人が集まる場所に近い場所には来ないし、縄張りは作らないわ」
「そりゃそうだけどさ……」
確かに今居るここも街の周辺ではあっても少しは距離がある。意図して近付かない限り出くわしたりしない距離だ。
「彼らだって生きてるのに街の外に出てまで殺すわけ?街を襲ったりしてるんじゃないのに」
なるほどな……分かった。
「さてはライカの入れ知恵だろ。ったく街に寄り付かない奴はこれだから困るんだよ。あんな魔物同然の野郎と暮らして、ライカが好きで好きで堪らないから常に肩を持ちやがってよ。まあ所詮人殺しの言うことなんざーー」
その刹那、オレの頬に衝撃が走りそれより先の言葉を言う事はなかった。
乾いた音が辺りに響いて消える。痛みを感じながら理解が遅れる。
所謂ビンタってやつか。意味が分からねぇ。
「何でもかんでもあの人に結び付けないで!」
「何言ってんだか。どうせライカの言われるがままに生きてきたくせによ。あいつが大好きなスラーさんよ」
オレがそうリナを呼んだ時、さっきまでの怒った表情から一転して悲しそうな顔をしたリナを見て少しばかり心が痛む。
らしくもねぇな。
「私はアンタの事が好き。昔からずっと。ライカじゃなくてアンタが、ルナの事が1番好き」
「急に何だよ……」
この場面の雰囲気に合わせたかの様に爽やかな風が叩かれたオレの頬を優しく撫でて去って行く。
リナの今の言葉とそれが重なってオレの心は自然と穏やかになっている。
「私が悪いの?私が死んだと思ってたから人を恨んで、憎んでそうなったのよね?アンタを変えたのは私なのよね、きっと」
「悪いのはオレだ。別にお前が気にする必要もねぇよ。オレが弱かったから守れなかった、だから強くなった」
「それでそんな風になったの?人を殺したり魔物を殺したりしても何も思わない人間に。私はやっぱり昔の弱くても優しいルナが好きだったわ」
人を殺したり……か。オレはこいつの前で人を殺したりなんかはしてない。
けどそれを知ってるって事は迅雷として今までやってきた事を調べたのか。そう簡単に手に入る情報じゃないが、不可能でもない。
昔のオレが好き。オレも昔のリナが好きだ。
いや、今のオレを好きと言ってくれるリナが好きなのかも。
「それでもオレは強くなる。帝国だろうと王国だろうと歯向かう奴ら、オレの大切なものを奪おうとする奴らは必ず排除する。例えそれが世界最強のあいつだろうとな」
この世界でオレよりも強いたった1人の人間。いつか奴を超えてオレは最強になってみせる。
もちろんオレや世間が知らないだけでもしかしたらまだまだオレよりも強い奴はたくさんいるかもしれない。
でもそれならそいつらも超える。誰もオレの大切なものには手出しをさせない。
「そう……。なら私は、アンタが私の信じる正義から外れた事をするなら必ず止めるわ」
「出来るもんならやってみろよ。その気になればオレは今すぐにでもお前を殺せる」
「勝てなくてもいいわ。絶対に止めてみせるから」
何の根拠も無く、オレを止める事なんてリナには不可能。
でもそれを感じさせないその瞳に自然と何度も吸い込まれそうになる。
それにさっきの言葉。ライカよりもオレが好き、そのたった一言でオレの中の器は満たされていた。
その後リナは何も言わずに消えていて、オレはウルフ討伐の依頼を黙ってこなしてホテルへと帰還した。
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