ニートらしくない!
何だろうな。この何とも言えない感覚。謎の気怠さって言うのかな、やる気が削がれているのが分かる。
何に対してとかじゃない。全ての事に対してだ。こうして意味も無く歩く事、呼吸をする事、こうして思考を働かせる事。
あー面倒臭い。まあ元々ニートだから仕方ないか!
ってそんな簡単に片付けられたらなあ。
「ハァ……」
「どうしたんですか?」
「なんかやる気が出なくてなーーって何で居るの!?」
自然な流れで最初からここに居ましたよ感を出していたリディアに軽くツッコミ。
急に隣に現れるもんだからビックリするわ。周りを見てなくて気付いてなかっただけかも知れないけど。
「たまたまルナを見かけたんで話しかけてみちゃいました」
なるほど……可愛いから許す!
さっきまでの気怠さは何処へやら。すっかり笑顔のオレは意気揚々と脳を活性化させる。
「てかリディアは用があったんじゃなかったか?」
「もう終わりました。ルナこそ用事は済んだんですか?」
リディアの用とは何だったのかすごい気になる。もしかしてこの街に彼氏が居るとか……?
だとしたら後日この街はオレの特大魔法で壊滅する事になるな、うん。
「まあな。終わったから丁度帰るところだったんだ」
「そうなんですか。今までずっと1人で?」
「そりゃあな。わざわざ人に付き合ってもらう程の事でもないし」
そりゃブラブラして幼馴染みと会話してただけだもんな。
「そ、そうですか。それよりさっきため息ついてましたけど大丈夫ですか?」
「あ、ああ平気だ。ちょっと疲れただけ。元ニートなんでね」
「でしたらどこかの喫茶店でお茶でもしませんか?疲れもとれるかもですよ」
デートのお誘い!
「今すぐ行こう」
断る理由なんて皆無。断る理由が有ったとしても行くしかない!
「は、はい」
あ、ヤバいちょっと引いてる?
「へぇー。じゃあリディアのお兄さんは家を継がないんだ」
「みたいです」
近くの高級感の漂う喫茶店に入ってからしばらくの事。リディアの口から珍しい事を聞いた。
なんとローティアス家の長男にあたるリディアのお兄さんは騎士になりたいという理由から家を継ぐ気は無いらしい。
ローティアス家を継げば騎士の位なんて貰えるだろうが、何でも自分の力だけで騎士の称号を手にしたいとの事。
「変わった人なんだな」
「兄は向上心の高い方なので。私と違って本当に優秀で自慢の兄です」
そう誇らしく微笑むリディア。本心から言ってるのが凄く伝わってくる。
「リディアだってその歳でCランクは凄いと思うぜ」
「兄に比べたらまだまだです。兄はこの学園に入学した当初既にSランカーでしたから」
うわすげぇな。オレが言うと嫌味に聞こえるかもだけど15歳でSランカーなんてそうはいない。将来間違いなくXランカーになる、それくらいの逸材だろう。
と言うよりもうーー
「今はひょっとしてXランカーだったりすんのか?」
「いえ。今はまだWSランカーで学園の3年生です」
あれ意外と伸び悩んでるんだな。いや、でも普通はそんなものなのか?なんかオレがおかしいせいで基準が分からない。
それにまだ学園の生徒なのか。名前を今まで聞いた事がなかったのが不思議だな。
ニートだからじゃないか?とかいう話はNGな。
「ならそのうちすれ違ったりするかもな」
まあ学年が違うとそんな機会はほとんど無いけどゼロじゃない。もしかしたら、という感じ。
「会っても近付けないかもですけどね。ファンクラブがあるらしいので」
「なんじゃそりゃ……」
まあ大体検討はつくさ!リディアのこの容姿、それと同じ血を持つ野郎がイケメンじゃないわけが無い。更にWSランカーともなれば女子から大人気なのは納得。
実にけしからん。
「兄は少し迷惑しているようですけどね」
と笑うリディア。
女にモテて迷惑とはいいご身分じゃねぇか!なんて野郎だ。
にしてもそこまでの奴ならもっと噂とかが流れてきてもいいのになんで……ああ、分かった。
そういえば3年にはあの女が居た。ギルヴァリアン家の長女ルキアさんがな。
前にも話したが学園唯一のTSランカー。間違いなくここ十数年、いや数十年で最強の生徒会長の彼女。あんなのがいたらそりゃWSランカーは話題にならない訳だ。
あの女には2度と絡まれたくないものだ。
何回か会ったがその度に探りを入れてきて挙げ句の果てに決闘を申し込んでくるんだから。これも前にも言ったがもちろん負けた。
TSランカーのくせして妙に勘のいい女だから困る。
この右手人差し指に付いてる指輪も封印具じゃないかとか言われた時には焦った。咄嗟に親の形見って言っといたけど果たして信じてるのやら。
「オレもファンクラブ欲しいなー」
「貼り紙でも作って募集かけてみますか?」
「いいよ恥ずかしい!」
「フフフッ、ならファンクラブは無しですね」
意地悪モードに入ったリディアもオレは好きです。
決してドMではない。
「でもルナって絶対モテると思いますけどね。密かに人気あっても驚かないですよ?」
「いかんせん1年生の頃に色々やらかしたからなぁ。授業中にお菓子食いながら雑誌読んだり、授業してる先生に魔法ぶっ放して悪戯したり、模擬戦でクラスメイト全員ボコったり……悪い噂だらけだと思う」
何回もハゲジジイに怒られたっけ。全部聞き流してたけど。
でも模擬戦でボコられるくらい弱いあいつらが悪い!って思ってたな。Xランカーに勝てる生徒がいるわけないのに。
「そういえば初めてライトと絡んでいた時も少し怖かったですね」
教室で邪魔だ、みたいな事を言った時か?
「あれはまだいい方だ。仲良くなりにきてくれた奴らをいきなりぶっ飛ばしたりとかもしてたから評判は最悪さ」
もちろん後々軽くだが謝ったけどな。
ぶっ飛ばしたのもまだ入学したばっかりで納得もいかずにやさぐれてた時だし今とは大分状況も違う。
「もうそんな事しちゃいけませんよ?」
「流石にしねぇよ。と言うよりしたらどっかのお節介ババアがカンカンになるからな……」
もちろんセシアの事だ。言うまでもないか!
「えーと、お母様の事ですか?」
「どっちかと言うと姉貴かな。性格はババアだけど」
21歳にして何故性格はババアになってしまったのか。嫁の貰い手も現れないのは可哀想に。
「大切な方なんですね」
「え?」
「表情が凄く柔らかかったですよ」
そんなすぐに人の心を見抜くとはやるな。
生まれ持った才能なのかオレの事をよく見てくれているのか。
「リディアには敵わねぇな」
人を観察するってのは案外面白いし勉強になる事が多い。日頃からそういう事を出来てるリディアにはあっぱれだ。
「少しは疲れも取れましたか?」
「ああ、おかげで明日も頑張れそうだ」
喫茶店でお互いの身の上話なんかをしてストレス発散し今はホテルの前の通りを歩いている。
このままリディアはホテルに帰るみたいで、特に言う事もなくここまで来ている。
でもオレは何故かまだ帰る気になれずにいる。
いつもなら早くベッドにダイブしたいマンだってのに変な一日だ。
「んじゃリディアまたな。オレは街を少しブラブラしてくるわ」
「え、はい」
まさかクソニートのオレが自らまだ外を出歩くと言い出して驚いているリディアと別れ、意味もなく行くあてもなく足を進める。
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