2日目
トロール討伐は無事レイア達のグループが終わらせてくれたおかげで昨日は任務完了。本日はギルドに寄せられている依頼から好きなのを選んでそれを受けていいらしい。
但し自分達のランクより高いランクの依頼は危険がある為禁止。それと討伐系の依頼から選ばないといけない。まあ実習授業だから当たり前だし、自分のランクより高いものを受けれないのは授業内に限った事じゃない。
「なあなあどれにする!?」
「近くて暗くなくて弱いやつにしようぜ」
いかにもやる気満々のライトには悪いがオレはやる気を失っている。高ランクのものでも面倒臭いし低ランクは弱すぎてつまらない。つまりどれもやりたくない。
ライトは何故かAランクの依頼書にまで目を通してるけど受けれるのはBランクの依頼まで。という事でさっさと終わらせてさっさと帰って寝たい。
「これとかどうだい?」
リオが持ち出してきたのはBランクの依頼。内容はケルベロス1頭の討伐。
ケルベロスと言えば頭が3つある化け物犬。体長は成体になれば体長3メートルから4メートルにまでなるが、そのレベルのケルベロスはSランクくらいだから今回のはまだ子供の方だろう。
「面倒臭そうだけど任せるわ」
オレはみんながヤバくなったら戦えばいいし。判断は委ねておこう。
「ケルベロスか!俺はいけるぜ!」
「私もそれでいいよ」
「私はリオの選んだものなら何でもいいー!」
「構いません」
決定か。まあ昨日のBランクの依頼はレイア、アリス、リオだけで勝てたんだし今日もオレの出番は無いと思う。
そう考えると帰りたくなってくるな。
「それじゃあ先生に出してくるから待ってて」
「私も一緒に行く!」
じゃあなバカップル。
「ルナはケルベロスとやり合った事あんのか?」
「知り合いの付き添いでならある」
「じゃあ聞くけどよ、ケルベロスってめちゃくちゃキモくね?」
「確かにな。お前と張り合えるくらいにはキモい」
なんたって頭が3つあるんだからな。学園一のキモさを誇るライトと肩を並べても不思議じゃない。
「それは絶対無いだろ!?」
「悪い悪い、冗談だ。お前にキモさで勝てる奴なんざこの世に存在しないもんな」
「なんかルナ急に俺への当たり方がキツくなってね!?」
そりゃそうですとも。昨日リディアにフラれた様なものだからな。いじられキャラのライトに当たるしかない。
「2人共、リオとアリスが帰って来たよ」
「おっと悪い」
レイアの仲介?の言葉によって鎮圧されたオレ達の言い争い。
そして帰って来たリオとアリスの様子を見るにハゲジジイとギルド側の許可は取れたみたいだ。
「この依頼で大丈夫だってさ」
「まあケルベロスくらいなら余裕だろうからな。ハゲジジイならもっと難しい依頼にしろとか言ってきそうで怖かったけど」
だからリオとアリスがハゲジジイの所に行ってくれて助かった。オレが行ったら絶対なんか言われてたからな!
「全くルナは問題児だからな。この俺を見習って欲しいもんだぜ」
「あぁ?」
「そ、そんな怒んなよ!」
とまあ睨みを利かせてライトのバカを黙らせたところで依頼を済ませに行こうか。
「いや近くて助かるわ」
昨日みたいに遠かったらどうしようかと思ったけど今回の目的地は街の近くの草原地帯。楽が出来て嬉しい限り。
「ルナは年寄りだから腰に気を使わないとな!」
「次何か言ったら冥府に置いてきてやるから覚悟しとけよバカライト」
「ま、まあまあ」
仲介に入ってきたリオ、相変わらずのバカ野郎、そしてオレが前衛のような形で横一列で歩いている。
女子3人組はキャッキャ騒いでいるけど何だろう。オレの後ろ姿があまりにカッコ良すぎて正気じゃいられないとか?
なるほど……気持ちは分からんでもないがここは魔物の出る草原地帯、気を引き締めて欲しいところだ。
「そういえば俺学園に来る前に1回だけケルベロスと戦った事があるんだけど結構気持ち悪い魔物だよね」
リオの言う事は確かだ。ライトとさっきもこの話題については少し話したが、とにかくキモい。ケルベロスについて話すとしたらまず第一声にキモいと叫びたくなるくらいにキモい。
これぞ魔物!って感じのビジュアルを誇る。キモさランクってものがあるとしたら間違いなくTSランクには食い込むだろう。
「ルナ的には俺よりもキモいってさ」
「いやお前の方がキモいって」
「ハハハハッ。相変わらずだね」
こんな会話には似合わない爽やかな笑顔のリオをジト目で睨むライトの背後で蠢く影。
草原地帯と言うだけあってそれなりに背丈の高い草が生えている訳で、その中に身を隠す何かがそこには居る。
「お客さんが来たぞ。サンダースパーク」
とりあえず挨拶代わりに奴らが隠れているであろう場所に向けて電撃を浴びせる。
いくつかの細い電撃がオレの手から放出されていき、それらは草を焼きながら辺りを触手の様に探り尽くしていく。
急に魔法をぶっ放したオレに驚いた様子の一同だったが、飛躍して姿を現したケルベロスを見て戦闘態勢へ入る。
「あっぶねー。ルナが気付かなかったらやられてたぜ」
「俺は気付いてたけどね」
リオはそう言ってる通り身体の魔力を強めていた。その発言は本当だろう。
リオだけじゃなくてレイアとリディアも気付いてたみたいだが。
会話に夢中だったアリス、単純にバカなライトが気付けていなかっただけか。1年生にしてはやるよなこいつら。
「んじゃオレの仕事は終了って事で。後はよろしく」
正直オレの出る幕でもない。多分リディアとレイアだけでも勝てる相手だしな。それにケルベロスはキモいからあんまり見たくない。
標的のケルベロスはさっきまでとは違い身を低くする事もなく堂々と構えてこちらを睨んでいる。
見たくないって言ってる側から見てる訳だけども、万が一には備えないとな。
もしオレが他ごとやってたせいで誰かに怪我をさせる訳にはいかない。
「了解。それじゃあアリス、リディア、レイアは横を囲んで。俺とライトで正面から行くよ」
オレがサボる気満々だったのはバレてたのか、近くに座り込んだオレには見向きもしないで陣形を整えていく。
そして女性陣から一斉に放たれる各属性の魔法。渦巻く水流、神々しい輝槍、地を這う雷撃と様々な攻撃がケルベロスに襲いかかる。
「ふわぁ〜」
眠い。ケルベロスもリオ達を相手にするので精一杯なのかこちらを見もしない。
リオ達と言うよりは女性陣だけでもう勝てそうだ。1年生にしては完成され過ぎているリディアの魔法、荒さはあるが質のいい魔力を込めているアリス、そして2人の邪魔にならないように的確なタイミングで魔法を撃つレイア。
「なあリオ、俺らの出番なくね?」
「そ、そうみたいだね」
どうやらお呼びでない事に気付いたご様子の野郎2人。
そう!こうなる事を予想してオレはサボってるんだ!
ほ、本当だよ!?
「まあまあ気にすんな2人共。暖かく見守ろうじゃないか」
まるで親になった気分に浸りながら2人を宥める。
例え女の子でも自分の身は自分で守れるに越した事はない。だからこうしてリディア達は学園に通ってるんだろうけど。
「相変わらず呑気だなあルナは」
お前にだけは言われたくない。ライトが呑気かどうかはあんまり分からないけどなんかこいつにだけは言われたくない。
「俺は一応ここでこのまま見守ってみるよ」
「りょーかい。俺は歩き疲れたから休憩するわー」
そしてオレの横に転がっていた大きめの石に腰を下ろしてジジイの様なため息をつくライト。今日は大した距離歩いてないのになんてザマだ。
……あれ?さっきまでこんなとこにいかにも座って下さいみたいな石あったか?
あったらオレが先に座ってるはずなんだけど……おかしいな。
と思った矢先ーー
「いてててっ!」
急にライトが飛び上がったかと思うとこいつのケツには何故か未だに石が引っ付いている。そのまま石を付けてオレの周りをぐるぐると叫びながら走る様はなんとも面白い。
「そいつはFランクの魔物の化け石だな。そんな攻撃力も無いし大した魔物じゃないから安心しろ」
「いやいやマジで痛いんだけどー!!」
石が裂けて出来た口みたいなのがライトのケツを完全に捉えている。
「スパーク」
あまりに走るだけで取る気配がまるで無かったから仕方なくオレが化け石を撃ち落とす。手元が狂ったせいかライトのケツに電気が纏っている。もの凄くダサい。
スパークを食らった化け石は死んだらしくもう動こうとはしない。
そもそも自ら獲物を襲う魔物じゃないし、どちらかと言うと触れてきた相手に攻撃を仕掛けるだけの魔物だから危険性は低い。
まあさっきみたいな感じじゃないとやられはしない。噛まれても痛いで済むレベルだしな。
「こ、このクソ石め」
涙目で睨み付けられても怖くないと思う。
本当情けないしバカだなあこいつ。
「化け石なんかにやられる奴初めて見たぜ。こりゃ傑作だな」
笑いながらバカにしてやるがケツが痛いのかまったく言い返してこない。
「これからは石に気をつけるこった」
「う、うるせぇ!」
やっと言い返してきた。化け石なんざにやられてさぞ恥ずかしいだろうに。これからもいじってやろう。
「おーいルナ、ライト!こっちは終わったよ」
「ああ、こっちも問題なく終わった!さっさと帰ろうぜ」
「問題大有りだっての……いてて」
「化け石は歯が無いからすぐに痛くなくなる。少し我慢するんだなマヌケ」
「うっせえ」
助けてやったのに酷い言われ様だ。一応命の恩人ならぬケツの恩人だぞ。
「ほら行くぞ」
ギルドに戻りケルベロス討伐の報告も完了。ハゲジジイも居ないみたいだから今日はこれにて終了かな?
「なんかライトさっきから変だけど大丈夫?」
と思ったのもつかの間、オレのレイア嬢に心配をかけるとは何事だ。
「大丈夫大丈夫!さっき転んじまってよ」
???
化け石なんかにやられたって言うのが恥ずかしくてウソつきやがったなこいつ。
いいだろう。
弱みを握ったという事でライトの耳に口を近づけて一言。
「黙っといてやるから今度飯奢れよ」
「わ、分かったよ」
男同士の小声での約束を取り付けて任務完了。
「それじゃあ帰ろうか」
リオの合図でオレ達はギルドから去ろうとしたのだが、ここでアリスが呼び止める。
「ねぇねぇみんなこの後暇ー?買い物とかしたいから街に行こうよー!」
「私は暇だからいいよ」
「俺も構わないよ」
まあレイアとリオは暇そうだもんな。
「俺はちと帰ってゆっくりするわ……」
まーだ痛いのかよ。いや痛いと言うよりFランクの魔物にしてやられたのが響いてる様子だ。
珍しくテンションの低いライトにみんな苦笑い。オレはゲス笑い。
「リディアとルナはー?」
買い物か、まあ悪くないから行こうかーー待てよ?女の子と買い物は危険だ。
オレは知っている、女の子の買い物がめちゃくちゃ時間かかる事を!更にその大量の荷物を男が持たされる事を!
「オ、オレは他に行きたい所があるからやめとくよ」
「私も今回はご遠慮させて頂きます」
あれ意外だな、リディアは行くと思ったのに。
「そっかぁ。じゃあまた今度2人も行こうね!それじゃリオ、レイア、行こ行こ!」
ああリオよ……お前をこれから待つのは永遠にも思える待ち時間と大量の荷物。生きて帰って来たらオレはジュースを奢ろう。
「さて、あいつらも行ったしオレらは帰るか」
「あれ、行くところがあるんじゃないんですか?」
し、しまった!今さっきそういう言い訳して逃げてた事忘れてた……。
どうせ荷物持ちだからそれが嫌で嘘つきましたなんて言えない。
「あ、ああそうだった!それじゃリディアまた明日なー!」
変に思われる前に退散だ。
アリス達と鉢合わせても面倒なのでそれとは逆の方向に駆け足で逃げて来たが、ここからどうしようか。
ホテルに帰ってもライトが居るしなあ。適当にぶらぶらして時間でも潰すか。
「あら、アンタ何してんのよ」
「!!」
幻かと疑いたくなる程の偶然。
慌てて走って来たオレに声をかけてきたのは黒のワンピースを纏った銀髪の彼女。
「リナ……だよな?」
「今はスラーだけど、前はそうだったわね」
この状況に合わせたかの様に人通りの少ないこの場所。そこに居たリナは一体何なのか。
「死んだはずなのに何で……」
「死んでないわよバカ。死にかけてただけ。ライカのおかげでなんとか助かったのよ」
ライカ・グラブリー。あいつがそんな事をするはずがない!あいつはただの殺人狂なんだ、信じられない。
「お前は騙されてるだけなんじゃないのか?あいつは犯罪者だぞ!?」
「お前呼ばわりするなんて随分と性格も変わったのね」
「な、なんだよ急に」
確かに昔のオレは気も弱くて他人と関わるのも怖くて仕方がなかった。オレを拾ってくれた家族やリナ以外とはまともに会話すら出来ない、そんな子供だったっけか。
「あの泣き虫で弱虫のアンタが復讐……変わるものね」
「リナが生きていた、だとしてもオレはあいつに両親を殺されてるんだ。許す訳ねぇだろ」
くだらなさそうに見つめてくるリナにどこか懐かしさを覚えながらもオレは目を逸らさない。
昔とは違う、それを分からせる為に。
「助けなきゃよかった」
「は?何の事だよ」
「アンタがこの前死にかけてた時助けたのは私よ。けど今のアンタを見てると後悔しかないわ」
なんだと……この女!!
確かにオレにとってリナは大切な人だ、いや大切な人だった。昔は何に変えてでもリナだけは守ると思っていた。けど今は違う、今は他にも大切な人達が居るんだ。
だから、オレみたいな思いをする人を減らす為にも奴は殺す。例え真実が違ってもオレが信じるのはリナではなくギルドなんだから。
「オレは強くなった。もう昔みたいにリナに守ってもらう必要もない」
「でも私が助けなきゃアンタは死んでたわ。結局昔と変わらないじゃない」
「黙れ。昔みたいな何も出来ない人間じゃないし、そんな人間に戻るつもりもない」
「そんなに昔の自分が嫌い?」
好きか嫌いかと聞かれれば間違いなく嫌いだろう。
自分の意見も言えずに周りの人間の目を伺うだけの弱者。よそ者だからと他の子にからかわれたりイジメられても言い返せない。
「嫌いだな。お前は昔の弱いオレの方が好きなのかよ」
「好きよ。優しかったもの。アンタを庇ったからって私がイジメられてた時とかは必ず助けてくれた。自分がイジメられてる時は何もやり返さないくせにね」
今のオレを見つめるリナのひとみは冷たかった。なのに昔のオレの話をする時のリナはそうではない。
昔のオレを嫌った今のオレ自身、昔のオレを優しいから好きと言うリナ。どこでオレ達は変わったんだろう。
あの時リナは死んでなかった。ならその場を離れずにいたらオレはまだリナの言う優しいオレでいられたのか?
「それはお前に嫌われたくなかっただけだろ」
嘘だ。本当に大切な存在だったから守ってあげたかった。オレを守ってもくれる数少ない存在だったからとかそういうのじゃなく大切だったからだ。
「別にそれでもいいわ。私の大切な人を奪おうとする今のアンタよりは」
大切な人、ライカ・グラブリー。オレの大切な人が変わったようにリナにとっての大切な人も変わる。
なんだかんだ言っても悲しいし悔しい。リナが好きだと言う昔のオレでさえライカには勝てないのだから。
「今のオレは随分と嫌われたもんだな。まあ別にいいけど。それじゃあな」
ライカと一緒に来てる様子でもないからもうこれ以上話す事もない。
次に会う時はまたリナと殺し合うのかもしれないがもう構わない。例えリナがライカの味方になるのだとしてもオレの両親が殺された事に変わりはない。
「ちょっと待ちなさいよ」
「まだ何か用があるのかよ」
まさか呼び止められるとも思っていなかったオレは動かし始めた足を止めてリナの方に振り向いた。
「アンタは私の事嫌い?」
そう言ったリナの表情はさっきまでの強気ののとは違う。不安そうにオレの目を見つめてくる。
そんな顔してる女に嫌いなんて言う男は多分少数派だと思うんだけどな。分かった上でやってるのか本当に不安で仕方がないのか。
「好きではない」
「嫌いなのかどうかを聞いてるの」
どうやら曖昧な返事じゃ納得してくれないみたいだ。
「ハァ。嫌いじゃねぇよ。これで満足か?」
「言わされた感満載ね。まあいいわ」
間違いなく言わされたからな。そりゃこうなるさ。
「そうかいそうかい。じゃあな」
今度こそこの居心地の悪い空間から離脱。リナも呼び止めてくる事はなく、しばらくしてから後ろを振り返った時にはリナの姿は見えなかった。
「ふぅ」
なんか精神的に疲れるなぁ、こんなのが続かれるとやってらんねぇな。
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