家族

「…………ここは」


目が覚めるとここに居た。白のベッドに白のテーブルに白の壁。とにかく白尽くしのこの部屋のベッドオレは居た。


「ギルドか?」


記憶を思い返せば分かる事。ここはギルドの病室だ。手当てされた怪我人が居る部屋。


この結果に辿り着くのにそう時間はかからない。何度かお世話になってるしな。


って事はーー


「オレ生きてるのか」


流石に死んだと思ったんだけどな。どうやら意外とオレはしぶとい方の人間らしい。よかったよかった。


ギルドに運ばれたって事は誰かしらがオレを助けてくれたって事になるんだが一体誰が?


と思った時オレの脳裏に浮かんだのはリナ。


そうだ、リナが生きてたんだ!早く会いに行かないと!


「痛っ!」


焦って起き上がったせいでオレの右胸がズキリと痛む。


そりゃまだ完全には治ってないよな……アホかオレ。


渋々諦めて再びゆっくり横になると静かなこの部屋のドアが開かれた。


「あら起きてたの」


「まあな」


案の定現れたのはセシア。いつも着ている黒の制服姿だ。


にしてももうちょっと喜んだ感じを出してくれてもいいだろうに。一応死にかけだったんだぞ?


いつもと変わらぬお堅い表情でベッドの近くの椅子に腰かけたセシアにオレは質問を飛ばす。


「とりあえず今日何日?」


「4月の10日水曜日よ」


ライカと戦ってたのが土曜日の夜だから3日以上は意識を失ってたのか。


「ライカ・グラブリーはどうなった?」


「あんたがここで寝てた時点で任務は失敗よ。追撃もしてないわ。そもそもあんたが勝てない相手に何の策も無しに突っ込む訳にもいかないわ。

それとあんた本当にいい加減にしなさいよ」


「悪かった。今度は必ず殺す、今度こそ任務はやり遂げる」


そうオレが口にした瞬間、セシアの人相が変わり乾いた音が部屋に響いた。


その音はセシアがオレの頬を叩いた事によるもの。


一瞬訳が分からなかったがすぐに理解して怒りを露わす。


「何だよ!謝ってんだから叩く事ねぇだろ!負けたのは油断というか予想外の事態があったからで、次は絶対勝てる」


するとまたもやオレの頬に衝撃が走る。それもさっきよりも強くなったのが。


いくらなんでもキレすぎだろ!何が気に入らないってんだ。


けれどそんな疑問すぐに吹き飛んだ、セシアの言葉を聞いた瞬間に。


「あんたは少しは命を大切にしなさい!いつも死にそうになったら全力で逃げなさいって言ってるでしょ!?

あんたが死んで悲しむ人も居るって事を少しは考えたらどうなの?」


そうか……セシアはオレ個人に対して心配してくれてたのか。迅雷としてのオレじゃなくてルナ・シュヴァルとしてのオレを。


学園に遅刻した時やババアと言われて怒るいつものセシアの雰囲気じゃない。本当にオレの身を案じてくれてたんだろう。


なんか悪い事しちまったな。


「そうだったな、ごめん」


「復讐するのはあんたの勝手よ。それで満足するならやればいいわ。けど命を捨ててまでやるのはやめて、お願いだから……」


「ああ。これからは気を付けるよ」


悲しそうなセシアの目を見て芽生える罪悪感。


セシアからしてもオレは唯一の家族。オレからしてもセシアは唯一の家族。最近忘れかけていた事。


こんな復讐の為に力を振るうオレでも心配してくれる人が居るのは嬉しい事だ。


普段は喧嘩ばっかりだけど本当にセシアには感謝しないとな。







「って感じだ」


「そう……あんたの幼馴染の子で本当に間違いないのね?」


あれからしばらく談笑をした後、オレとセシアは相変わらず病室に居るが話の内容はライカとの戦いの時の事についてに移っている。


「ライカが確かにリナって呼んだんだ。見た目もリナそのものだったし間違いないはずだ」


何で途中までスラーという名前で呼ばれていたのかは分からないけどライカが必死になっている時にリナと呼んだのを覚えている。


普段は偽名で呼んでるけど思わずそう呼んでしまったってところか?


「でもその子はあんたの目の前で8年前に死んだんじゃないの?前からそう言ってたじゃない」


「まあそうなんだけど。でもあの時のオレはまだ8歳で何よりも余裕が無かったから脈とかが止まってるかまでは確認してないんだよ。だからもしかしたらーー」


「瀕死の状態ではあったけど死んではいなかったって事ね。けど生きてたとして何で彼女はライカ・グラブリーと一緒に居ると思う?」


「そこなんだよ。リナからしても両親や村のみんなを殺された仇相手のはずなのに。やっぱり騙されてるのか?」


どのみち当時のリナが負っていた傷はかなり深かった。いくらオレが去った時に息があったんだとしてもあのままならどのみち死んでた。そこをライカに助けられたんだとしたらリナからすると命の恩人だと思うかもしれないな。


でもリナは直接斬られて傷を負ってるんだし相手の顔くらい見てるはず、それならライカを命の恩人だなんて思う事はない。


うーん、難しい。


「そんな悩める少年にとっておきの情報よ。あんたの様子を見に行って倒れてたのを見かけてここまで連れて来たのは私なんだけど、実はその時点で傷はほとんど治ってたのよ」


はい?そんなにオレの自然治癒力って高かったっけなあ……指を紙で深く切った時完治するのに1週間くらいかかった記憶あるんだけど。


ってかとっておきの情報あるなら先に言ってくれよ!


「つまり?」


「物分かり悪いわね。恐らくあんたの傷を治したのはライカ・グラブリーかリナって子よ」


「いやいやいや流石にあり得ないだろ。だって敵だぜ?それも殺そうとしてきた奴を見逃すどころか助けるなんていくらなんでもおかしいだろ」


「そうでも考えないとあんな森の中で誰かが治療をして魔物対策として結界まで張ってあるなんてそれこそおかしいでしょ?」


結界まで張ってあったのかよ。これはマジであの野郎が……いや多分リナだろう。


そういえばあいつは光属性を使えたはず。光属性は回復に特化した属性だからな。


「ハァ。いろいろと予定が狂っちまったなあ。もしリナが助けてくれたんだとしたらやっぱりオレの顔を見たのかな」


「そうじゃないかしら?これでその子がリナって子と同一人物の可能性はほぼ確定ね」


「てゆーかその情報知ってたならいちいちさっき確認しなくてもよかっただろうに」


「前置きは大事なのよ。ところであんたいつから学園行ける?」


「あっ」


すっかり忘れてた。そういえばオレ学生だったな!


という事は今日も授業か。まだ怪我が治ってないけど身動きが取れないレベルじゃない。


けど面倒臭いからなー。


「明日から行けそうね」


「まだ何にも言ってなくね!?」


「元気そうじゃないの。あんた留年してるんだから早いとこ行きなさい。それじゃ私は仕事に戻るわ」


相変わらずの鬼ババアだ。こちとら刺されてんだぞ?


ってこんな事思える時点でそれなりの元気はあるか。


いつ見ても綺麗な髪から匂うシャンプーの香り。セシアが立ち上がった事でそれがふんわりとこちらにやってきた。


何で女ってこんないい匂いするんだろうな。


「へいへい」


明日からはリディアとレイアの匂いでも嗅ぎますか。

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