復讐の迅雷

ようやくやって来た週末。学園の授業も無くゆっくりするだけの素晴らしい2日間……のはずだったんだが。


安定のセシアによるお呼び出しがかかり重い身体をゆっくりと進ませている。


「ハァ」


セシアの居るこの部屋に入りたくない!今日はどんな面倒臭い任務が待ってるんだろうか。


「入るぞー」


「やっと来たわね」


来てやっただけ有難いと思ってほしいもんだよ。


「ささっと片付けてきてやるから早く任務教えてくれ」


「ささっと……ね。今回はそうはいかないわよ?」


何やらセシアの表情が曇ってるな、そんなに危険な任務なのか?


「これよ」


渡された1枚の封筒。送ってきたのはギルド本部か……きちんと封筒に入れたままにしとくなんてセシアにしては珍しい。


どれどれ……


「…………っ!」


中の任務書に目を通した瞬間、身体を駆け巡る何か。紙を持つ手に思わず力が入る。そして湧き上がる殺意。


「こいつ、今どこに居る」


「そこに書いてあるわよ」


「なるほどな、ちょっと殺してくる」


「1つ言っておくわ。復讐は何の意味も無い自己満足、あまり囚われすぎないようにしなさい」


それでもこれをオレに見せたって事は好きにしていいって意味だ。ならオレのやる事は1つしかない。


「何言ってんだよ。オレはこいつを殺す為に強くなったんだぜ?」







あれから半日、太陽は完全に沈み暗黒が漂う真夜中の2時。場所は街から遥か遠くに位置する危険区域の深い森。


Sランクの魔物何て数え切れない程彷徨くこの森を1人で静かに歩く。


任務書によるとこの辺りのはずなんだがーーあった。


突然森が開けたかと思えばそこには墓の様な物がズラリと並び、その向こうには月明かりを浴びる小さな湖がある。こんな所に誰が建てたのか、何の為なのか、そんな事は今のオレにはどうでもいい。


目的なただ1つ、奴を殺す事。この為だけに8年間も待った、8年間も強さを追い求めた、8年間も憎しみを抱き続けた、けどそれも終わりだ。


情報通りならそろそろ現れてもおかしくはない。オレは草むらに身を潜めながらその時を待つ。


…………あれか?


湖に向かって歩く人影。反対側に居るせいできちんとは確認出来ないが、間違いなく人間。


仮面を付けローブをゆっくりと脱ぎ捨てる。


その時だった、オレの背後から1人の男が現れたのは。


「女を観察するとはあまりいい趣味とは思えないな、ギルドのお人」


「そういうあんたはここで何してんだ」


なるべく焦らない様に冷静を装う。


「あいにくここは俺の庭なんでね。お前さんと違って不審者って訳じゃない」


木の陰になって容姿がよく見えない。けれどもそれはすぐに解決に導かれた。


雲によって完全には顔を出せていなかった月が雲が流れる事によって次第に姿を現していく。


月明かりがどんどんと差し込みそれは男の所まで伸びていく。


「……やっと見つけた、やっと、やっと」


黒の服に黒の剣を携える黒髪のこの男。顎髭を少しだけ生やし、無造作に散らかる黒髪、そして覇気の無い目。オレが探し求めていたこの男。見ただけで口元が緩むのが分かる。


10年前、オレの両親を殺し、8年前、村を襲いオレの大事な人を殺した男。


Xランカーの特級犯罪者ライカ・グラブリー。


小さな村を襲っては無意味に人を殺し次の獲物を探す狂人。


そしてその最初の被害にあったのがオレと両親の住んでいた村。オレを含めた数人以外全員が殺され、生き残ったオレはとある村の一家に引き取られた。


そしてその村で2年間を過ごし仲の良い幼馴染みも出来た。けどそれもこの男によって壊された!何もかも全て!


「ん?お前さんどっかで会ったか?」


「ああ……お前のおかげでオレは強くなった。お前が居なければオレはここまで頑張れなかった」


「んで?俺に礼でも言いに来たのか?」


「ギルドの人間がお前みたいな犯罪者に礼を言うと思うか?」


随分と頭の中がお花畑みたいだな。こんな奴にオレは大事な人達を殺されたのか!


「いや思わねぇな。逮捕でもすんのか?」


「そんな面倒臭い事はしない。殺せば済む話だ!」


手をかざして大気の弾丸を放つ。呑気な顔をしていた男は余裕な表情を浮かべながら飛び上がり湖のほとりにまで一気に移動した。


「危ねぇ野郎だなおい。あれ当たってたら死んでたぞ」


「お前みたいな奴は死んで当たり前だ。このオレが殺す、ただただ殺す」


腕を振るう。それだけで風が男に重くのしかかり後ろの湖が波立つ。


「とんでもねぇ野郎だな。俺を誰と勘違いしてるのかは知らねぇが迷惑なこった」


写真で何度も顔は見ている。今更見間違えるはずがない。


「アースインパクト!」


奴の周辺の空気に重圧をかける。しかし奴はそれすらものともしない。流石はXランカーってところか。


奴が居たところを中心にクレーターが出来てるのにも関わらず無傷。


まあ簡単に死なれても困る。目を抉り手足を斬り落とし内臓をぶちまけさせてもまだ足りないくらいだ。


どんな悲惨な死に方をさせてもオレの憎しみの炎は消えない、絶対に。


「お前さんは俺をどんな人間だと思ってるのかは知らないがちっとばっかしやり過ぎだ」


「黙れ!!オレはお前を殺す為に強くなったんだ!!」


「ハァ、とりあえずあんまり好き放題暴れられても困るんでな。ちっとばっかし大人しくしてもらうぞ?」


首の骨を数回鳴らした後、面倒臭そうな表情を消し去った奴は瞬間的にオレの目の前へ。


さっきまでも速かったと言えば速かったがそれの比じゃない。目ではギリギリ追えても身体が追い付かない。


「ほらよっと!」


「ガッ!!」


ただの拳、その一撃がオレの鳩尾に炸裂。そして途轍もない勢いで身体は後方へと飛ばされる。


オレの身体は木々を薙ぎ倒しても尚止まらず、風を反対方向へ放つ事で要約勢いを止めた。


「クソ……!」


そんな情けない言葉しか出てこない。


オレはこんなに強くなったはずなのに、奴は軽くそれを超えてきた。間違いなく最強レベルに強くなった、それなのに!


立て、立つんだ、奴はそこに居る。腕の1本や2本くれてやれ、命だろうとくれてやれ。


そう言い聞かせて身体に鞭を打つ。激痛が走る、骨が一体どれくらい折れてるのかも分からない。


「やめとけ、お前さんじゃ勝てねぇよ」


「オレは……オレは!」


悔しさ、憎しみや殺意といった負の感情が渦巻く中、オレはゆっくりと顔を上げて身体を起こす。


そして奴を視線で捉えた時、ある異変に気付いた。


「……誰だ」


オレの両隣、つまりオレを挟むようにして3人が陣取っている。右に1人、左に2人居るな……奴の仲間か?


そういえば湖の向こう側にも人が居た、あいつも仲間だったのかもしれない。


迂闊すぎた。さきに始末しておけば仲間を呼ばれずに済んだかもしれないってのに。


「あれれ〜バレちゃったかあ」


「元々隠れる気が無かっただろお前」


まず現れたのは左側に潜んでいた2人。1人はヘラヘラと笑い、もう1人は目立った表情を浮かべる事なく掴み所の難しそうな人物。


この状況でオレを舐めているかの様に笑う金髪の男。その表情はオレと視線が交わっても崩れる事はない。


歳はオレと同じくらいに見える。服装は白を基調としたどこかの軍服の様なもの。まともな軍人がこんな所に、ましてやこんな奴と一緒に居るはずもないから見た目だけだろうが。


そしてその隣の男。暗めの青髪を長めに伸ばしているせいか、表情と相まって静かな印象だ。金髪の奴とは正反対ってとこか。


「そこのてめぇも出てこいよ」


いまだに出てこない奴が1人。そこに居る事くらい分かってんだっての。


「はいはい分かったわよ」


そう言ってようやく影から姿を出したのは女。


もしかしてさっき向こうに居たーーっ!


「それなりの実力者みたいだね〜こいつ」


「そうね、まあ私も別に不意打ちしようなんて考えてなかったからいいわ」


銀色の長い艶のある髪、少しつり目だが恐ろしく整った顔立ち、そして透き通る様な美しい声。


オレの脳裏によぎるのは8年前の彼女、リナ・ライヴァルト。オレを拾ってくれた家の隣の家に住んでいた女の子でオレの幼馴染とも言える存在だった。


そんなリナにそっくりな彼女。


いや、あり得ない。リナは死んだ、確かに死んだ。オレの目の前で息を引き取った。それも目の前のあの男に殺されて。どれだけ似ていようが別人だろう……。


だがそうは思ってもオレの心臓の鼓動は早まる一方。


「さぁてと、この状況だがまだやるかギルドのお人?」


「オレはお前を殺すまで帰る気は無い!道連れにしてでも殺す!」


精一杯な強がり。動揺している心を悟られたくないという一心で叫ぶ。


偶然リナにそっくりな女が居て、それが偶然あの男に出会って、偶然オレとも出会う、こんな事があり得るのか?


「ったく、ラン、レオン、スラー。いい機会だから修行の成果を見せてみろ。ただし相手は殺さずにな」


金髪の奴がラン、青髪の奴がレオン、そして銀髪の彼女がスラー。名前も違うみたいだしやっぱり……。


「よそ見してると死んじゃうよお」


「チッ!」


どのみちこいつらを片付けないと話は進まない!


「後ろがガラ空きだ」


ランが突き出した拳を避けたと思いきや背後からレオンと思わしき声が聞こえる。それと同時に横目で確認すると鋭い刃が迫ってるのが見える。


なるほどな、それなりにこいつらも実力はあるみたいだがーー


「甘いんだよ雑魚が」


この程度の速さならオレが反撃した方が遥かに速いからだ。


剣の到達よりも先に回し蹴りを入れて弾き飛ばす。


「甘いのはアンタの方よ」


気付けばまたもや背後に人影が。今度はスラーみたいだが容赦はしない。


背後を取れば勝てると思ってるのか知らないがワンパターンなんだよ!


「いいや甘いのはてめぇの方だ」


手をかざして大気ごとスラーの身体を押し返す。何の防御も張らずにオレに突っ込むとはバカな奴らだ。


「ひょえ〜こいつ強いなあ。こりゃ束になってもキツそうだよ」


精々こいつらはWSランカーかTSランカーってとこか。この程度なら3人まとめて相手にしてもまず負けない。


問題はあの男がいつ参戦してくるかだ。オレの予想だと恐らく仲間がピンチになった時、なら!


「まさかの僕狙い!?」


幸いレオンとスラーは距離が離れてる。1番近いこいつをやらせてもらう。


「死にたくなかったらあの男を見捨てて逃げる事だな!」


力強く剣を振る。向こうも同じ様に対抗して剣を振るったが差は歴然。反動すら感じる事なくランの剣を弾く。


「オレと殺し合いで勝てると思うなよ」


「させるか!」


突如横から飛んできた鋭い槍。意外と早く復帰してきたか、クソ!


「助かったよリオン。本当死ぬかと思ったあ」


いちいちムカつく野郎だ。3人の中でもダントツでムカつく、やっぱり狙いはあいつでいいな。


「どのみちもうすぐ死なせてやるから安心しろ」


「それはこっちのセリフよ!」


またか……。


安定の背後からの奇襲。上から振り下ろされた剣を身体を逸らして避けるついでにスラーの腕を掴んでそのまま地面に叩きつける。


「クッ!」


もう面倒臭いからこいつでいい。さてどう動くライカ・グラブリー。


「エアロック」


風による重圧でスラーの身体を地面に固定。後はトドメを刺すだけの状況は出来上がった。


トドメを刺す……ただそれだけ、なのに。


思い出すのは8年前のリナ。目の前に横たわるスラーは別人だと思っても剣を振り上げた腕は動かない。


「何なのよアンタ」


キツい目でオレを睨み付けるスラー。レオンとランは不思議そうな目でオレを見つめて硬直している。


「チッ!」


数秒間の制止の後オレはスラーを放置してレオンとランの方へと駆ける。


あいつら相手なら迷う事なく殺せる。我ながらみっともないがスラーの命を奪う勇気が出てこない……。


「おいおい女は殺せないってか?みっともねぇな」


完全に傍観者となっているライカにそう言われるが返す言葉もない。


女を殺せないんじゃなくてスラーがリナに似てるから殺せないんだと言っても通じないだろう。


「結局僕達かよ!」


「甘く見られたものだな!」


クソがっ!


心の中で悪態を吐いて魔力を駆け巡らせる。


「アースインパクト!」


「え、ちょっ!」


「マズい!」


そんな彼らの声が聞こえたのもつかの間、次の瞬間には大気が揺るぎ震え途轍もない衝撃が大地を轟かせた。


さっきライカに放った魔法と同じものだが威力は桁違い。込めた魔力は質と量共に比べ物にならない。


熱くなりすぎている、そう思って魔法を止めた時には既に彼らは死んでいてもおかしくない程の時間が経過していた。


とは言え数秒間の大気による重圧。されど数秒間と言うべきか?


並みの魔術師なら1秒も持たない。それを数秒間に渡って続けたんだから生きている方がおかしい。


奴が手助けしなければな。


「危ねぇ危ねぇ。男相手だと本気で殺しにくる気だなお前さん」


案の定オレとランの間に割って入ってきたライカ。


オレの剣は奴の剣に軽く防がれるが問題はない。


「トルネード!」


まずは奴の足場ごと突風で遥か上空へと身体を飛ばす。


ただここからは奴の不意をつく形になる。


何でかって?オレはまだ雷魔法を一度も使ってないからな!


「貫け、ライトニング!!」


風属性と雷属性の違いは攻撃力と速度。攻撃力では風属性が勝り速度では雷属性が勝る。


イメージとしては風属性は押し出す感じで、雷属性は一点を貫き通す感じだ。全体の破壊力の風、集中して敵を瞬殺する風、この2つの属性のおかげでオレはここまでこれた。


「雷属性だと!?」


これが初めて奴が動揺を見せた瞬間。


けどもう遅いぜクソ野郎。


宙を舞う奴を包み込む程巨大な雷が天から注ぎ込む。模擬戦で使った魔法だがその時とは比べるまでもないレベルに威力速度共に上げてある。


それによって辺りが一瞬だけ昼間の様な明るさになったのもつかの間、すぐに暗黒が舞い戻る。


悲鳴も聞こえない。ラン、レオン、スラーの3人はただ雷の落ちた場所に視線を釘付けにし、オレは再度魔力を込める。


「痛ぇな」


やっぱり死んでないか。一応Xランカーでも直撃したら丸焦げになってあの世逝きになるくらいの威力だったはずなんだけどな。そこまで甘くねぇって事かよ。


けど痛手は与えたみたいだ。


奴の服の所々が焦げて破れ、そこから見える肌には火傷の様子が伺える。そして立ってはいるが片手で剣を地に付けながら身体を支えている状態だ。


「お前さん……噂に聞く迅雷って奴だな?」


「そうだが今はお前に家族を殺された1人の復讐者だ」


「チッ……お前ら!こいつはお前らの手に負える奴じゃねぇ、先に帰ってろ」


流石に迅雷相手って分かったら手は抜いてはくれないみたいだが、邪魔者が消えるのは好都合だ。


「そうだねぇ、僕達じゃ迅雷には勝てる気しないしそうするよ」


「了解した」


案外すんなりと言う事を聞いてくれるんだな。そういう性格なのか、それともそれだけこの男に信頼を置いているのか。


しかし、この状況で異議を申し立てる奴が1名。


「私はまだやれる」


拘束を解除してオレの背後に位置を取ったスラー。


言っちゃ悪いがこいつ1人の実力なら気にする程度じゃない。


ただいかんせん容姿のせいでやり辛いのが欠点だ。出来れば帰ってもらいたい。


「ダメだ。こいつとお前らとじゃ実力に差があり過ぎる。はっきり言って足手まといにしかならない、大人しく帰れ」


次第に厳しい口調になっていくライカに押されたのかこれに反論する様子は無さそうだ。


「……分かったわよ。その代わり、絶対に生きて帰って来なさいよ」


「へいへい」


リナもこんな感じだったな……。本当に何もかも似てる。ひょっとしてリナなんじゃないかと淡い期待もまた出てきてしまう。


いや、まずはこの男を始末する事が最優先だ。


「そろそろ殺してもいいか?」


邪魔者も消えた。思う存分暴れまわって何もかも破壊し尽くしてやりたい。


特にこの男は!


人として……いや、この世に存在する物体としての欠片すら残さず消し去ってやりたい。


「わざわざ待ってくれるなんて天下の迅雷様はお優しい」


「アースインパクト」


いい加減ムカつくんだよ……!人の大事な人達を殺しておいて呑気に生きやがって!!


「やべぇなこりゃ!」


「遅いんだよ」


範囲を縮めた分威力を上げた風魔法。それを察知したライカは後ろに退くが明らかに動きが鈍ってる。


ましてや雷属性の魔力を身体に循環させているオレからしたら手に取るように奴の動きが分かる。


慌ててオレの方を向くかと思いきやそれと同時に飛んできたのは回し蹴り。


それを軽く右腕で防ぎ切り、逆に反動で奴の身体はバランスを崩した。


「おい人殺し、何で魔法を使わねぇ?まだ手加減でもしてんのか?」


気に入らねぇな。本当に気に入らねぇよ!こんな奴にオレの大事な人達は……!!


「手の内を明かすバカがどこに居るってんだ」


「てめぇは!!!!」


溢れる魔力、制御仕切れなくなった魔力がこれでもかと身体から溢れ出すと共にかつてない程の力がオレの元に集っているのを感じる。


気持ちが高ぶる。奴を殺してやりたいという殺意、両親やリナの仇を打ちたいという復讐心、そしてみんなを守れなかったあの時のオレへの怒りと後悔。


殺す、それで全て終わる。解放されるんだ……このつまらない復讐劇から。


終わりにする。何もかも塵となり消える。


今のオレに勝てる奴なんて居ない。誰も止められやしないんだ!


「ハハハハハハハッ!!」


ゆっくりとそして重く剣を一閃。黄金に輝く雷と吹き溢れる風が奴を襲う。


地面はいとも簡単に捲れあがり奥の森の木もドミノの様に倒れていく。


そして奴の踏ん張っていた身体も軽々と宙に舞い上がり、知らない間に起こしていた竜巻の中へと吸い込まれていく。


「壊せ、潰せ、消せ、殺せ」


まるで無限に魔力がある様に思える。放ても放ても身体の内からは魔力が湧き上がってくる。


しかし竜巻の中からも魔力が解き放たれた事によって凄まじい衝撃波が地を這い大気を揺るがす。


「クソが、調子に乗るんじゃ……っ!」


竜巻のあった場所にボロボロになりながらも立っていたライカにオレは攻撃の手を緩めない。


ライカの無防備な身体の隙に入り込むと簡単にお留守の首を掴む事が出来た。


苦しそうな呻き声を上げているライカを首を掴む右手で持ち上げてそのまま静止する。


いつまで持つかな?首を絞めて人を殺した事はないからあんまり分かんねぇんだよな。


「お、お前、その目は……」


目?目が何だってんだよ。オレの目にはこいつしか映っていない。殺意の目に映るのはこいつただ1人。


「黙って死ねよ!」


オレが手の力を強めても抵抗する素振りはない。と言うより抵抗する力も残ってないみたいだ。


力無く垂れる腕を見ればそれが分かる。さっきの魔力も最後の灯火ってところか。


「ここ……まで、か」


「最高の気分だぜクソ野郎。意外と弱くて助かったーーん?」


どっかに行ったと思ってたんだけどな。思いもよらぬ人物がこちらに向かって駆けて来ている。


「く、来るなスラー!!」


丁度いい、こいつを殺した後あの女に色々聞かせてもらおう。


「ライカから離れなさい!」


この女を殺す事をほのめかしたらこの男はどんな顔すんだろうな。


考えただけで胸が踊る。


「そう焦るなよ。こいつの次はお前を殺してやるから」


「て、てめぇ……さっさと逃げろスラー!」


その殺意の篭った目、最高だ。殺し甲斐がある。


にしてもそれなりの力で首を絞めてんのにしぶとい奴だ。


「で、でも!」


「俺に構うな……クッ!……逃げろリナ!!」


リナ。この単語が出てきた瞬間に思わずオレの手の力は抜けライカは地面に転げ落ちた。


やっぱりリナなのか……?


不思議そうな目でオレを見つめるライカとリナ。オレが分かっても向こうは気付いていないだろう。


さっきまでライカを殺す事だけを考えていたオレの足はゆっくりとリナの方へと進む。


しかし安堵感に包まれたのもつかの間、背中を見せた敵をライカが簡単に見逃してくれるはずもなく。


「リナーーグッ……」


オレの右胸を貫いていたのはライカが腰に携えていた剣。


「何のつもりか知らないが迅雷のせっかくの隙を見逃す訳にはいかないんでね」


奴も僅かな力を振り絞ってオレを刺したんだろう。剣がオレの身体から抜かれたと思えば背後で人の倒れる音が聞こえた。


だがそれに合わせてオレの身体からも力が抜けていく。


右胸が燃える様に痛い……呼吸もままならない状況だ。


「リ……ナ」


僅かな声を出すがそれはリナには届かない。仮面越しに見る彼女の目はライカの方を見ている。


倒れ込むオレを見る事なくライカの元へ駆け寄って行くリナを目で追いながら右手を傷口に当てた。


てのひらに感じるのは温かい自らの血。ドクドクと止め処なく溢れるそれはオレの命の根源。それがどんどんとオレの身体から逃げて行く。


心臓はやられてないがこれは死ぬのは時間の問題だな……無様なもんだ。


けどやっぱりリナだった。なんだろう、それだけでオレは満足してるのかもしれない。


何でリナが奴と居るのかは分からない。いや、それも今は興味の対象から外れている事実。


オレの見る最後の空はいつもと変わらぬ綺麗な星空、オレの聞く最後の声はオレの大事な幼馴染の声、そしてオレの抱く最後の想いはただリナが生きていてよかったという想い。


オレ死ぬみたいだ……ごめんセシア。

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