団体戦

今週最後の授業。お得意の爆睡でもかましてやろうかと思っていた最中、ハゲジジイが団体での模擬戦をやるとか言い始めた結果オレは教室の椅子の上ではなく闘技場にまたしても来ている。


とは言ってもこの前の模擬戦で使った闘技場とはまた別で、ここには観客席が取り付けられていたり、そもそも舞台自体が無かったりする野外の闘技場。


その代わりに存在するのが木が覆い茂る森。一体学園の敷地はどれだけあるのかと聞きたくなるレベルの闘技場だ。


数千人入りそうな観客席が小さく見えてしまう。


「それじゃあさっき渡した紙を見てAチームは右側、Bチームは左側に別れろ」


さっき教室で渡された紙。そこにはAチーム側のメンバーとBチーム側のメンバーの名前がズラリと書かれてある。


クラスの人数は50人だから25人ずつという事になる。


ちなみにオレはAチーム。同じチームで知っている奴はリディアとライトくらいだ。レイア、リオ、アリスはBチームだから戦力的には五分五分ってところか。


まあ昨日の模擬戦の結果を踏まえてチーム分けしたんだろうし、その為の模擬戦だったんだろう。


「しゃっ!絶対勝とうぜ!昨日の模擬戦では不完全燃焼だったから暴れ足りねえんだ!」


Aチーム側の方へ歩いて行くと暑苦しい輩に肩を組まれるのは想定済み。


野郎にべたつかれても何にも嬉しくない。


「思ってたより弱かったからなお前」


「流石にBランカーには勝てねえ……」


さて、こんなホモ野郎は置いといてリディアはどこだ?愛しの天使の元へ行かねば。


「同じチームですねルナ。よろしくお願いします」


ホモ野郎に構っていたせいかいつの間にか後ろに立っていたリディアに気付かず、顔を見て一安心。


昨日の事を引きずってたらどうしようかと思ったけどこれなら大丈夫そうだな、うん!


強がりだとしてもオーケー。強がれるうちはまだ大丈夫だから。


マジで死にそうになった後とかは大丈夫なんて言えない。これ体験談ね。


「こちらこそ」


「ちょ、俺は無視!?」


「よし!チームで別れたみたいだな。それじゃあルールの説明をするからよく聞いておくんだぞ」


狙い澄ましたかのようなタイミングでのハゲジジイの声。思わず笑っちまうとこだった。


へっ、ざまぁみろホモ野郎。キャラ通りの扱いでよかったな。


「まずお互いのチームで1人ずつリーダーを決めてもらう。誰がリーダーになってもらっても構わん。

そして戦闘開始地点はAチームはここで、Bチームは森の反対側だ。反対側までは転移で送ってやるから安心しろ。

肝心の勝敗条件だが、リーダー以外の24人を倒すか、リーダーを倒すかのどちらかだ。もしこのどちらも達成されなかった場合は制限時間の2時間の間により多くの敵を倒したチームの勝ちとする。

結界が張ってあるから怪我をする心配もないから思う存分魔法を使ってもらって構わないからな。以上だ!

では今から15分やる。この間にリーダーと作戦を決めておけ」


ふーむ。中々面倒臭い勝敗条件できやがったな!ハゲジジイめ、こんな事に頭使ってるとマジでハゲるぞ。


「よし、んじゃリーダーは俺!」


真っ先に立ち上がって名乗りを上げたのは当然の如くライト。


まあこんな事になるだろうとは思ってた。けどーー


「はい却下」


「な、ん、で、だ、よ!」


「お前攻める気満々なんだろ?」


「当たり前だろ?」


ハァ……勝敗条件ってのを聞いてなかったのかよ。リーダーになった奴が突っ込んでどうすんだよ……。そもそもDランカーなのにわざわざ敵陣に突っ込んだら蜂の巣にされて、はいおしまいだ。


「突っ込みたいお前はリーダーになるな。勝手に暴れて勝手にやられてくれ。

みんなは意見あるか?」


オレとライトだけで話し合ってても仕方がない。チーム戦なんだしみんなの意見も聞かないとな。


「あの〜」


「なんだ?」


申し訳なさそうに手を小さく上げたのは緑髪の女。オレが歳上だから遠慮してるのか。


「シュヴァル君がリーダーでいいと思う」


あーそうくるか。意見を求めたくせしてあれだがオレはリーダーをやる気はない。


「いや、悪いがオレはリーダーはやらない。オレもこいつと一緒に攻めるからな!」


そう言った途端、目を輝かせて腕を肩を回してきたライト。


「流石、分かってんじゃん!」


オレはこの瞬間ライトがホモだと確信したね。だって隙あらばボディタッチだぜ?キモいキモい。


「って事でリーダーはリディアに任せた」


「わ、私ですか!?」


実力もあって落ち着きのあるリディアなら安心出来る。オレやライトみたいに攻めたい脳筋野郎はリーダーに不向きってもんだ。


「ああ。みんなはどうしたい?」


「僕はローティアスさんでいいと思う」


「私も」


「俺もそれでいいかな」


このチームーーというよりこのクラスにはオレ、ライト、リディア、レイア、リオ、アリス以外にDランク以上の奴は居ない。


その中でもリディアはCランク。単純にオレかレイアにしか負ける事はない。そしてオレはリディアと同じチーム、つまりレイアにさえ注意していればまずやられないはず。


ならリディアは後ろで数人の護衛と待機してもらって他の奴らと一緒に相手のリーダーを潰せばいいだろ。余裕余裕!


「なあハゲジジイ、リーダーはお互い教えるのか?」


もしそうじゃなきゃ誰がリーダーか分からない。


「リーダーにはこの腕章を付けてもらう」


そう言われてハゲジジイの手から投げられてきたのは黒色の至ってシンプルな腕章。これを向こうのリーダーも付けてるわけだな。


っていつの間にかBチームの姿が見当たらない。もう転移で送られたみたいだ。


ちなみに転移ってのは瞬間的に移動出来る魔法。例え国の端から端でも可能だ。けど複雑な魔法陣を出発地点と到着地点に描かないといけないし、転移発動者が1度行った事のある場所じゃないと不可能。便利さは素晴らしいがそう簡単には使えない魔法だ。


この学園にはあちこちに魔法陣が描いてあるから一応ショートカット的な感じで使えたりはする。じゃなきゃこんなクソ広い学園を使い切れない。


「それで作戦はどうすんだ?俺とルナは突っ込むとしても他の奴らは?」


腕章をリディアに渡すとライトがまたしてもオレに意見を求めてくるが正直チーム戦なんてやった事ないからなぁ。


「じゃあリディアの護衛役が4人、残りの18人で3人1組を作ってくれ。

んで右側から3組、左側から3組ずつで攻めて中央はオレとライトが攻めるって事で」


向こうのチームがどういう戦法でくるにしろ全方向から攻めれば何とかなる。


みんな特に意見は無いみたいで各自3人1組で固まり始めている。後は試合開始を待つだけだ。


「それじゃあ俺は観客席の方から見ているからな。合図をしたら試合開始だ」


ハゲジジイも去っていき、残されたオレ達は適当な談笑をしつつ時間を潰している。


周りの奴らは楽しみにしている奴も居れば不安げな表情の奴も居る。こればっかりは性格の問題だから慣れるしかない。


その最中唐突に森の中心の方から小さな花火が打ち上がる。赤色の閃光を発生させてすぐさま消えたそれはハゲジジイの言う合図ってやつで間違いない。


「しゃあ!行こうぜ!」


「ああ」


ライトの掛け声に合わせて予定通りに森の中へ消えて行くAチームの面々。それに遅れを取るまいと身体強化を重ねて走り出す。


今日と昨日とでオレのコンディションはかなり違う。


オレの右手の人差し指に付けられた指輪。これは封印具という魔力を押さえつける道具で、去年も実習授業や模擬戦の時なんかはよく使ってた代物だ。昨日は付け忘れてたが……。


常人なら魔法が使えなくなる程に抑えられるが、オレの場合はAランカー程度にまで魔力量が低くなる。


ついBランカーという事を忘れて魔法をぶっ放しまくるオレにはピッタリと言うわけ。


「ライト、スピード上げるから付いて来いよ?」


「任せとけって!」







自然の森を意識したのか無駄に高い完成度を誇るこの森。気を抜くと転んでしまいそうになる足元に気を付けながら走る事数分。


「中々遭遇しねぇなー」


「向こうがオレ達と同じ作戦って可能性は低いから仕方ない」


誰とも遭遇する事なくここまで来てしまった。一体この森がどこまで続いてるのかも分からない。よくこんな少ない情報量で作戦立てろとか言うぜまったく。


走るのを止めて歩きかけてきたその時、ようやく向こう側から歩いてくる人影がオレの視界に映る。


どうやらライトも向こうも気付いたみたいで辺りに魔力が漂い始める。


数は2人、まあ余裕だな。


「ライト、ぶっ倒してきていいぞ」


「言われなくても!」


剣を片手に突進していくライト。向こうは防御魔法を張って応戦をしたが、地面から生えてきた大きな土の手によって2人とも揃って掴まれそのまま宙に投げ飛ばされた。


無防備な彼らに襲いかかるライト。木の上に1度乗ってから勢いを付けて下へ降り、そのすれ違いざまに1人を斬りつけ、もう1人を土の棘で串刺しにしてノックアウト。


結界内だから割と押さえられた痛みだけで済むとは言えあれはかなり痛そう。力無く地に伏せ落ちた2人は数秒後には光に包まれて姿を消した。


多分ここら辺一帯に転移系の魔法がかけられてるか。ひょっとしたらこの地面の下には巨大な魔法陣が描かれてたり。


「瞬殺だな」


「へっ、どんなもんよ。一応俺だって強いんだぜ?」


「よく言うぜワンパン野郎」


さては調子に乗ってすぐにやられるタイプだな。特に女の前だとカッコつけようとして無理しそう。


オレがそうだからな!


「ああーもうあん時の話は無しだっての!早く行こうぜ」


ったく、もう少し慎重になって頭を使えればもっと強そうなのに勿体無い性格の持ち主だこと。

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