模擬戦
模擬戦では負け知らず。
無敗の引きこもり、最強のたらし、など学園内で色々な異名を持つこのオレが相手をしてやる。
オレのモテモテ道の踏み台にするのは少し気が引けるが、それも運命。この組み合わせにしたハゲジジイを恨むんだな。
それと話は戻るが、この無敗の引きこもりって異名は少しばかり間違いがある。
いやまあ、そもそも引きこもりって言われる筋合いは無いんだからそこからなんだけど、オレが言いたいのは無敗の方。
実はオレは非公式な試合でだがこの学園の生徒との模擬戦で1度負けた事がある。
その相手はルキア・ギルヴァリアン。5大名家ギルヴァリアン家の長女であり、この学園の現生徒会長というご立派でもの凄い美貌の持ち主。そしてランクは3年生にしてTSランク。数十年に1人の天才と言われている。
その人とオレはとある事情で対戦するハメになって流石に勝つ訳にもいかないから負けた。それもかなり無様に。正しくなぶり殺しって感じだったな、うん。
という訳でオレは無敗の引きこもりじゃないって事。オーケー?
「それでは試合開始!」
っと、余計な思考はシャットアウトしないとな。少しは真面目にやらないと。もちろん理由はてきとうにやり過ぎると相手に怪我をさせる可能性があるから。
手を抜く為に真面目にやるとは実に嫌な野郎だ。もしオレが相手にそんな真似されたらブチ切れもの。
そんなオレの事情は知る由も無いライトは自慢気に剣を持ちその場から動かない。
ああゆうタイプの奴は真っ先に突っ込んでくると思ってただけにちょっと拍子抜け。魔法の詠唱を始める訳でもないし、オレの動きを待ってるのか。
いいぜ、そういうのは。相手をよく観察するのはいい事だ……でも少しは自分も手札を用意しないといけないんだぜ?
「ライトニング」
降り注ぐ雷光。この舞台は特別な結界が張られているから肉体への直接的なダメージはないが、痛みはきちんと感じる。
「ぐわぁぁぁあ!!」
いきなりの詠唱無しでの上級魔法の使用。予想もしていなかったご様子。
こいつも才能はあるのかもしれない。努力もそれなりにしてきたのかもしれない。けど対人戦闘はそうはいかないだろう。
貴族として英才教育を受け本格的に鍛えてきたのなら話は別だが、ライトは平民だ。自分なりに工夫してやってきたんだろうが、その程度の奴には手を抜いても抜いても足りない。
根本的にオレとは違う。そこら辺の奴と比べて絶対的な壁をオレは作り上げてきた。死にかけた事も何度もあった、人を殺した事も何度もあった、そしてオレは強くなった。
やがて雷光が収まると、オレの目の前でさっきまで元気に立っていたライトの体が糸の切れた操り人形の様に崩れ落ちる。
悪いなライト、オレはそれなりにプライドもあるんでね。
「勝者ルナ・シュヴァル!」
ハゲジジイが声を響かせるが、他の連中は呆気にとられたまま視線を舞台に釘付けている。
オレは舞台を降りる時ライトの元に駆け寄るハゲジジイとすれ違いそのままレイア達の元へ。
「なんだか凄かったですね……それとライトは大丈夫でしょうか?」
心配性なのか優しさなのか、リディアが真っ先に不安そうな顔を見せている。
「ハゲジジイに任せときゃ大丈夫だ。それに結界があるからすぐにひょっこり立ち上がるだろ」
痛みで倒れただけで、体にはダメージは一切無い。少し時間が経てばどんな痛みも元通りになるのがここのいいところ。伊達に複雑な結界を張ってない。
「確かにライトはなんか丈夫そうだしね」
褒め言葉なのか悪口なのか、リオの容赦無い言葉が聞こえてくる。それに軽く笑みをこぼしたアリスにつられてリディアとレイアも共に笑い出す。
知らないところで笑い者にされているライトがかわいそうな気がしなくもないけど、まあライトだからいいや。そういうキャラでしょあいつ。
と言いつつも、オレならそんな役回りは絶対にごめんだな。
その後はオレ達6人の中で対戦する事もなく、順当にライト以外は勝ち進んで行ってついにやってきた準々決勝。
オレは名前も知らない男子生徒と当たり一撃の元に沈めてやった。リディアもCランカーとしての腕を存分に見せる形で勝利、次の対戦でオレと当たる事となる。
「次はリオとレイアだ。舞台に上がれー」
待ってました!ランクDのリオとランクCのレイアの対戦。
ランクだけで見るならレイアの勝ちは明らかだが、リオも中々に癖のある戦い方をしてたからな、個人的には注目の一戦だぞ。
「では始め!」
みんなが見守る中始まったレイアとリオの戦い。
まずはお互いに剣を構えて様子を伺っている。Cランクと言えどもやっぱり一撃で相手をノックアウトさせれる魔法を使えないとそこまで有利には進めれない。
XランクとTSランクの差とCランクとDランクの差は一緒じゃないからな。オレから言わせてみれば微々たる違い。
僅かな実力での優位をいかに活かすかは本人次第。逆にリオにも勝機は全然ある。
「ファイアーボール!」
先に動いたのはリオ。ランクで負けている分焦りもあるんだろう、放たれた火の玉はレイアの足元に着弾して小さな爆発を起こすのにとどまった。
当然レイアも動かないはずがなく、爆発が起こるよりも先に回避行動に移りそのまま剣を片手に駆け出す。
けどそこからがリオの魔法操作力の面白いところであった。
着弾後に飛び散り舞い上がった火の粉が再び集結して、レイアの後方から迫る。
一度分散した魔法を組み立て直すってのは、一から魔法を作り出すのよりも実は難しい。それを平然とやってのけるんだからまあ凄い方だと思うぜ?
ちなみにオレクラスの魔導士ともなれば上級魔法くらいでも組み立て直せる。流石オレ様、カッコいい!
おっと、またモテ要素を暴露してしまった。それより今はオレの未来の嫁とリオの試合だ。
当然レイアはこんな事態想定していなかったんだろう、慌てて足を止めるとその場でバク転。間一髪でこれを回避した。
更に
その1つ1つが生きた蛇の様に滑らかな軌道を描きながらリオに襲いかかる。
「2人とも魔法が上手ですね」
「1年生にしちゃ有望だと思うぜ。けどリディアもあれくらい出来るんだろ?」
Cランクなら上級魔法を使える奴だって居る。5大名家の人間ならそれに当てはまるに違いない。
「はい、完璧ではないですけど。ルナは魔法は得意なんですか?」
「まあそれなりにな。多分リディアが2年生になった頃には今のオレなんかよりもずっと強い気がするけど」
今の段階でCランクあるなら2年生の頃にはAランクでもおかしくはない。
強くて可愛いなんてモテモテになるんだろうな……いや、今でも野郎共からの評価は高いはず。そんな奴らから守るのがオレの使命だ!
「うわっ!」
あっ、リディアの事考えてたら試合見るの忘れてた。オレみたいな奴が1番危ないのかもしれない……いやそんなはずはない、多分。
気付いた時にはレイアの雷がリオの身体を貫き、その反動でリオは後方に吹き飛ばされていた。
あーあ、ありゃ終わりだな。
無防備に海老反り返った状態で宙を舞うリオが背中から床に叩きつけられた時には既にレイアがリオの上に跨がり、剣を喉元に突き付けていた。
……ん!?あの体勢だとレイアのパンツがリオに丸見えじゃねぇか!?
ふざけんなよリオ、オレの将来の嫁のパンツを見るとは何事だ!これは後でお仕置きが必要だな。
ごめんウソ。野郎にお仕置きとか流石にキモいわ。
「勝者、レイア・ルビティア!」
リオも正直強い方だと思う。現にここまで勝ち残ってたんだからな。けどそれを特に苦戦する事なく倒したレイア。そんな戦いを見たクラスメートからは自然と拍手が湧き上がり始めた。
っておい、オレの時は拍手なんて無かっただろ。おいおいおいおーい!
「強いねレイア。俺も頑張ってきた方なんだけどなあ」
「リオも強かったよ。アリスも強くてカッコいい彼氏が居て幸せ者だと思う」
「あ、ありがと!」
なーに帰り際にイチャついてんだ。パンツを見た挙句、彼女持ちの分際でオレのレイアに手を出すんじゃない!それにレイアにも超絶強くて超絶イケメンのオレが居るじゃないか。
ハァ……オレって本当気持ち悪いな。オレが女だったらオレみたいな男と付き合う気起きねぇわ。
「お疲れー!」
「ありがとう。次アリスが勝ったら私とだね」
「絶対勝つから見ててよー?彼氏の敵討ちするから!」
意気揚々と舞台に小走りで向かって行くアリスのスカートに注目してみたが、惜しくもパンツは見えずリオへの仕返しは出来なかった。
見えたかどうかの真偽も定まらぬ中、レイアと楽しそうに談笑しているリオに羨ましそうな視線を送るが、当然反応が返ってくるはずもなくため息をつく。
まあガチで落ち込んでる訳じゃないから別にいいけどさ。
「どうかしたんですか?」
そんなオレにも女神は居るもので、リディアの麗しい声が耳に響く。
「オレにはいつ春がくるのかなーって思って」
「意外ですね。ルナは彼女出来た事ないんですか?」
内心バカにされてそう……待てよ、ルナはって事はリディアは彼氏持ち!?
「ま、まぁな。リディアは彼氏とか居るのか?」
だがここで焦っては男として恥ずかしい。あくまで自然な流れで乗り切ろう。
「わ、私はそういうのはまだ……」
ほほう、まだ汚れなき乙女という訳ですな。
頬を染めて恥ずかしそうに視線を逸らす仕草がまた何とも言えない可愛さを生み出している。
「なら仲間だな。お互い頑張ろうぜ」
「は、はい!」
久しぶりに同年代の奴らと絡みだしたここ数日間。似合わない恋話なんてするとは思ってもいなかった。
けどよくよく考えたらローティアス家の娘であるリディアなんて、もしかしたら同年代の奴らと過ごすなんて初めてかもしれない。
勝手なイメージだけど箱入り娘って感じがする。変に堅苦しいし。
まあそんな事はオレが考える必要もないんだろうけど。
「それじゃ準決勝はルナとリディア。上がって来い」
アリスが見事に相手の男を蹴散らしてすぐにお呼ばれしたのはオレのリディア。みんなの視線を集めながら華麗に舞台へと上がる。
クラス1のイケメンが美少女お嬢様と対戦、これは一波乱ありそうだ!いや、一波乱起こさねば。
一波乱と思うと不思議とスケベな事ばかりが頭に思い浮かぶが、これは男なら通常モードに過ぎないのだ。
しかし!オレは変態である前に1人の紳士でもある。リディアにセクハラしたいのは山々だが、みんなの前で恥をかかすのは良くない。うーん、どうしたものか……。
「では始め!」
「は?」
思考を全開で回している間にハゲジジイの声がオレの鼓膜を震わせる。
聴覚に続いて視覚には眩い光で刺激を受ける。
そういえばリディアは光属性だったな。タイマンじゃあまり強くない属性、回復型の魔法が大半を占めている。けど数は少ないが攻撃魔法はもちろん存在する。
今発動した魔法は攻撃魔法じゃないみたいだが見事に目は眩まされた。
あーゆう邪魔をしたり
けど視覚をしばらく奪われたところで支障は無い。魔力を感じて動けばいいだけの事。
「そこか」
「よく気付きましたね」
剣を振るうと、それは見事にリディアの剣と交わり交差する。流石に視界が無くなったからって手も足も出ない程雑魚じゃないんでね。
「正直何にも見えねぇけど問題ないさ」
「流石はBランクですね、けど!」
またしても感じる僅かな魔力。今度は前方だけでなく左右からも感じる。
リディアが詠唱を始める気配はないから無詠唱で魔法でも使うつもりだろう。まあ来ると分かってる攻撃をまんまと食らうつもりはない。
交差している剣に力を込めて押し切り、リディアがバランスを崩したのを少し回復してきた視覚で捉えてから後ろへと飛び退く。
「ホーリーランス!」
逃すまいと光の槍がいくつか飛んできたが、予想済みの攻撃に当たる訳もなく無事着地。
さあて、今度はこっちの番だぜ!
「スパーククロス」
小手調べと牽制の意味を込めての中級魔法。防ぐか避けるかは分からないがどちらにせよオレの有利な方へ事は進む。
魔法を放ったと同時に身体強化をもう一段階上げてから電撃を追う様に駆ける。
だがオレが接近したのを見ていたリディアは焦るどころか、余裕な表情を浮かべると口角を少しつり上がらせた。
「リフレクター」
あっ……やべ!
リディアを中心に覆う形で現れた半透明な輝かしい壁。それと衝突した電撃は見事に弾かれてオレの元へと牙を剥きながら返ってくる。
すっかり忘れてた。光属性はリフレクターとかいう魔法を跳ね返す魔法もあったんだっけか。もちろん何でもかんでも跳ね返す訳でもないが、オレの手の抜いた電撃くらいなら造作もないだろう。
現にこうやって跳ね返ってきてるし……仕方ない。
「ライトニング」
上級魔法で跳ね返ってきた電撃諸共あの壁をぶち破らせて頂く!
小細工魔法なんてオレの前じゃ無意味って事をリディアのその嫌らしい身体に教え込んでやる。
さっきの電撃とは比べ物にならない太さと速さと力強さの電撃……いや雷撃と言うべきか。
いとも簡単に電撃を蹴散らしてリディアを守るリフレクターと衝突をする。
これで終わりだな。
勝利を確信し、オレは剣を片手にリディアの方へ駈けぬける。
そして確信は慢心ではなかったと言わんばかりに雷撃によってリフレクターが破壊され、間一髪のところでリディアは雷撃の魔の手から逃げ出す。
しかしもちろんオレはそんな事を許さない。膝を曲げて着地の衝撃を和らげていたリディアに向かって剣を振るう。
リディアも反撃はしてきたが、上から下への攻撃と下から上への攻撃なら前者に分があるのは当然で、何より力の差でリディアの反撃を押し切ったオレの剣はリディアの剣を真っ二つにへし折って彼女の首元で停止した。
降参だよなとの意味を込めて微笑むとリディアは両手を挙げてそれに応えてくれた。
「勝者ルナ・シュヴァル!」
ハゲジジイも疲れてきたんだろう。少し抑え気味の声でオレの名を口にすると、今度こそはクラスメートが湧き上がりオレは大満足。
そんな中対戦相手のリディアに手を差し伸べて立ち上がらせてあげたオレは正しくイケメンである。
「お疲れ。中々強かったぜ」
「私もまだまだなんですね、少し悔しいです」
とは言うもののリディアの表情に曇りはなく、美しい顔立ちは笑みによって更に磨きがかかっている。
「まあオレは本当なら2年生だからな。その辺は気にすんなって」
本当はXランカーですけどねー。だからドンマイドンマイ!
「いつかルナみたいに強くなってみせますね!」
「おう!」
という形でオレとリディアの恋物語が始まった訳だけども、次の対戦相手はレイアかアリスだよな。ランク的にはレイアが勝つのが妥当だが果たしてどうなるか……。
「では準決勝、始め!」
「ワクワクするな!ルナはどっちに賭ける?」
リディアと対戦している間に復活を果たしたライトが暑苦しくオレの隣に座って声をかけてくる。
模擬戦が終わるまでお寝んねしてろよ……。
「まあレイアだろうな」
「やっぱりCランクとDランクじゃ厳しいよなー。俺もルナに一撃だったし。次は勝つからな!」
「はいはい頑張ってくれ」
こういう賑やかなのも悪くないけどやっぱり美少女同士の戦いに勝るかどうかと言われたら、ノーと言わざるを得ない。
ちなみに密かにパンチラを期待してるのは内緒だからな?
「インパルス!」
さてと、試合の方はレイアが先手を取る魔法を放ったようで、軽い電流が舞台全体に流れているのを感じる。ダメージはさしてないだろうけど動きにくくなるのは保証済みと言ったところか。
何で分かるのかって?そりゃXランカーだから魔力の動きくらい敏感に感じ取れるぜ。
Xランカーじゃなかったまだ未熟な時に、どっかの氷結鬼ババアに鍛え込まれたからな。
その電流の動きを魔力の流動で感じていると、すぐ様アリスの方からも動きが見られた。
「アイスブリザード!」
水属性は光属性同様回復に優れる属性だがやはり厄介な魔法はあるもので、アリスが使ったこの魔法は辺り一面を氷で覆い尽くしてしまう中級魔法。
中級魔法とは言っても攻撃力は皆無。ただその代わりに氷尽くしの世界に変貌させるのだから地の利はアリスに傾く。
「いくよー!」
わざわざ優しく宣言をしたアリスはまるでアイススケートをしているかの様に華麗に氷上を滑りながらレイアに接近する。
まずは電流で優勢を作ろうとしたレイアの思惑は失敗したみたいだな。
「くっ!」
アリスとは対照的に氷の上での戦いは慣れていない様子のレイアは安定しないながらもその場で重心を落ち着かせて構えを取る。
お互い連戦続きだから魔力もそんなにないはず。決勝の事も考えるとここではそんなに浪費出来ないだろうから必然的に派手な試合ではないが、オレからしてみれば地の利を生かして戦うってのは好きな戦法だ。
「はぁぁあ!」
声と共に慣性に乗ったアリスが剣を斜めに振るう。
対抗するレイアは剣の腹でそれを受け止めるが、僅かに体勢は崩されて低くなる。それでも完全に押し込まれないのはしっかりと重心を持てているからなんだろうな。
だがアリスは相手が雷属性って事をもう少し理解しておくべきだったのかもしれない。
「サンダースパーク!」
接近戦に持ち込まれたら不利なのはどう考えても水属性のアリス。案の定レイアの身体から放電された電撃をもろに受けたアリス。
「きゃぁぁああ!」
身体を電流が駆け巡れば当然力が抜けて痛みも走る。
結局そのまま体勢を立て直したレイアによって剣を弾き飛ばされたアリスは降参。ランク通りの結果となった試合であった。
攻め方はよかったと思う。ただ詰め方はあんまりといった印象のアリス。各属性の事をもっと理解していけば自ずと強くなる気がする。
「お疲れ様です」
帰ってきたアリスに声をかけたリディア。それに頷いて答えたアリスはそのまま崩れ落ちる様にリオの胸に飛び込んだ。
「悔しい〜」
「お疲れ。今度模擬戦やる時は頑張ろうね」
それを横目で見守るーーと言うより睨み付けているのは悲しい男ライトとこのオレ。
羨ましい……!
「おい!早く来い!」
と嫉妬をしていたのも束の間ハゲジジイがこっちに向かってハゲ散らかす様に叫んでいる。
そっか、決勝はオレとレイアだったな。ってかレイアは連戦になるけど大丈夫なのか?
相手がレイアという事もあって待たせる訳にもいかず小走りで舞台へと向かう。
「レイア、連戦になるけど大丈夫か?少し休みたかったら待つけど」
「ううん、大丈夫だよ。むしろ休まずにやった方が身体が動くし」
男なら誰しもが見惚れてしまうその笑顔にオレも表情をこれでもかという程に緩め掛けるが、寸前で締め直して剣を具現化させた。
「なら遠慮はしないぜ?」
「もちろん」
レイアは両手でしっかりと剣を持って構え、オレは片手で剣を軽く握って構える。
「それでは決勝戦……始め!」
「ライトニング!」
「サンダーストーム!」
オレが開始早々に上級魔法で先手を打ったと思いきや、レイアもほぼ同時に中級魔法で応戦。
ふっ、考えてる事が一緒とはまるで夫婦みたいじゃないか。
オレの放った一筋の雷光は一直線にレイアの方へと伸びていき、レイアの放った魔法はいくつもの筋に分かれて、オレの雷光とぶつかる寸前で収束して1つとなる。
上級魔法と中級魔法。単純に考えれば上級魔法が勝つが、オレは牽制的な要素も含めた攻撃だった為あまり魔力は込めていない。予想が正しければ相殺になるはず。
やがて2つの雷属性魔法は2秒程度衝突し続けたところで爆散し、辺りに電気が混じった何とも不思議な風が巻き起こる。
頬を撫でる痺れる風にオレは思わずニヤリと笑い、剣に電気を纏わせて足元の魔力を小さく爆発させて瞬間的にレイアの目の前へと移動する。
それに合わせて剣を横に一閃したが、流石にそれは膝を折り身を低くする事でかわされる。
更にそこから身体を起こす勢いに乗せてレイアが拳を突き出してきたが、身体を後ろに反らして逆にその腕を掴んで持ち上げてから地面に叩きつけた。
「ぐっ!」
苦痛に顔を歪めているレイア。少しばかり心が痛い。
そのまま蹴り飛ばしてもいいんだが流石に模擬戦とはいえ女にそこまでするのは気が引ける。紳士の名を汚さない為にもここは堪えて一旦間を置く。
いや、ここはさっさと楽にさせてあげる方がいいか。
って事で!
「ライトニング」
オレから少し離れた所で仰向けになって寝ている状態のレイアに降り注いだ煌めく雷光。眩しさのあまりレイアの様子は見えないがまあ勝っただろ。
ふぅ、正直なところ少し疲れた。最近なんだかんだギルドの任務もこなしてたし真面目に学園にも通ってる、少し前まで寮の部屋でお菓子を食べながらベッドでゴロゴロしてた人間には荷が重いってもんだ。
さて優勝をした訳だしそろそろーーっ!?
「ボルテック!」
思わず目を見開いたオレの前に立っていたのは倒したはずのレイア。
まさか当たってなかったってのか!?いくら油断してたとはいえこれは予想外だ……けど!
剣に雷属性の魔力を込めてその場で一閃。Cランカーの上級魔法なら十分に相殺出来るはずーーだったのだが。
またしても予想は裏切られてオレの斬撃は見事に消し飛び、逆に雷撃がオレの身体を包み込んだ。
「ああぁぁぁぁあ!」
嘘だろおいって感じだ。
痛みで頭の回路がショートするかと思いきや、痛み慣れしているオレの脳は思っていたより冷静に思考を働かせてくれている。
避けようと思えば避けれただろうが、そんな反応速度はBランカーじゃあり得ないレベルになってしまう。
雷撃が止み痛みに耐えながら身体を起こそうとした時にはレイアは既に目の前。剣が首元に突き付けられる。
オレの負けかよ!これは情けない。カッコよく決めたつもりがまさかの大逆転負け。ダサい事この上ない。
ってかそもそもオレがライトニングを当てたと思った時レイアの悲鳴は聞こえなかった。その時点でおかしいんだよなぁ。
「降参っす」
「優勝はレイア・ルビティア!」
Cランクのレイアが本来なら2年生のはずのBランクのオレに勝ったという現実からか歓声が今までで1番大きく感じる。
「いててっ」
片膝をついて倒れないようにしていたが、やっぱり痛いものは痛い。
「ご、ごめん。やり過ぎたかな?」
「いや気にすんな。オレだって上級魔法使ってたし。ってかレイアも上級魔法使えるんだな。正直Bランクくらいの実力は間違いなくあると思うぜ?」
素直にすごい。いくら手を抜いていたとはいえ勝つつもりでやっていたのにオレが負けたのはあの時以来だな。
Aランクは無理かも知れないがBランクなら確実だろう。
「ありがとう。立てる?」
女に手を差し伸べられるとは男として恥ずかしい。
「大丈夫だ。オレはどっかのバカと違ってやわじゃない」
どっかのバカってのはもちろんライトですとも。他のクラスメートと同じくはしゃいでるあいつの姿を見ると妙に腹がたつ。もう1度ライトニング食らわせてやろうかな?
何て冗談は置いといてと。
「さっき上級魔法をどうやって避けたんだ?」
「ルナと一緒。魔力を爆発させて瞬間的に移動したんだよ」
どうやらレイアは思っていたよりも魔法のセンスがあるのかもな。
こうして無敗の引きこもりの二つ名は見事に粉砕。模擬戦初の黒星を喫したオレは悔しさを隠しつつレイアと共にみんなの元へと帰った。
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