デートかな?

学園から出てから数分後。当然学園は街の中にあるからすぐに大通りに出てそこをオレとレイアは歩いている。


「流石にこの時間は人が多いね」


「昼飯時だからな。

そういえばレイアはどこの出身だ?」


「王都だよ。だから人の多さには慣れてるかな」


王都か、そりゃ人の多さで言ったらこの街の比じゃないだろうな。オレも何度か行った事くらいはあるが人が多過ぎて暑苦しいったりゃありゃしねぇ。


かと言って田舎は何かと不便だからこの街くらいの賑やかさで丁度いい。言ってもセルバーンも結構大きな街ではある。


「王都ねぇ……何でトレイシス学園に?」


「王都の名門の学園は人気が高いから倍率が凄くてさ、ならセルバーンの名門学園にしようって思って」


よくある話だな。実際にトレイシス学園には王都から来てる奴らが大勢居る。そして王都と言えば誰もが憧れる街で、そこの学園となれば人気が高いのも頷ける。


「けどセルバーンって王都から離れてるのによく来る気になるよな。オレだったら面倒臭くてやってらんねぇぜ?」


「他の街とかも見てみたかったからね。お父さんもお母さんも賛成してくれたし」


「よかったな。よし着いたぞ」


オレが足を止めた場所は大通りに面していながらも見た目が質素な店。看板には酒やステーキが描かれているが、長年の月日のせいかかすれている。


これだけの人が目の前を通りながらも、店の中からは人の気配がほとんど感じられない。


相変わらず過疎ってんな。


「見た目はクソだけどいい店だから安心していいぞ」


心の中でドン引きされていても困るのでとりあえずレイアにそう言って店の中へと入る。


「親父ー来たぞー!」


中に入るや否や声を張り上げて店の店主を呼ぶ。


この店ーーフィリップスという名前なんだが、いかんせん見た目のせいで中々客も来ず、従業員はここの親父と娘さんの2人しか居ない。


「あ、ルナさん。こんにちは」


呼んだはずの親父は気付いていないのか厨房から出て来ず、代わりにさっき言った娘さんの方がオレ達を出迎えてくれた。


「久しぶりニーア。親父はまた中にこもってるのか?」


店主の娘のニーア・ノリス。ピンクがかった長い茶髪を後ろで束ねている愛嬌のある14歳。親父とは似ても似つかない顔立ちの良さでこの店の看板娘だ。


「そうなんですよ……お父さんー!!

えっと、そちらの方は?」


「あ、こっちはオレと同じクラス奴だ」


「レイア・ルビティアです、よろしくお願いします」


「ニーア・ノリスです。ニーアでいいです、よろしくお願いしますね」


にしてもやっぱりオレ達以外には客は居ないみたいだな……。客のオレからするとこっちの方がくつろげていいんだが、親父とニーアの事を考えると何とも心苦しい状況。


「何だ何だ騒がしいな……お!来てくれたのか!!」


厨房とこちらを隔てるのれんを潜り抜けて現れたのは40歳くらいのヒゲを生やした筋肉質な男。あれがここの店主で通称親父。


「久しぶり親父!」


「しかも今日は彼女連れじゃねぇか!」


ここに来るのは1ヶ月ぶりくらいかな。にしてもレイアを彼女だと思うとは流石親父、大正解。


「ただのクラスメイトだよ」


とまあ実際はクラスメイトだから否定しておく。


「レイア・ルビティアです、よろしくお願いします」


「おうよ!」


さっきニーアに名乗った時と全く同じように親父にも名乗ったレイアを連れててきとうな空いている席に座る。


って言っても全席空いてるんだけどな……。


「注文が決まったらまた呼んで下さいね」


「何でも好きなの頼んでいいぜ」


「本当にいいの?たかがサンドイッチで」


そのサンドイッチにオレは命を救われたも同然なんだから気にしなくてもオーケー。


「おうよ」


「それじゃあ……オムライスで」


オレはと言うとこの店ではいつもステーキを頼んでるから今日も同じものを頼む。


オレはニーアを呼んでオムライスとステーキを頼み、しばしの間席でレイアと談笑しながら料理を待つ。


しかしそんな中、昨日と一昨日と同じ感覚を感じて思わず身震いする。


まさか……。


「ちょっとトイレ行ってくる」


レイアにそう告げて冷静を装いトイレへと逃げ込む。


(ルナ、任務よ)


出ましたよ、また任務。もう聞き飽きたっての!何でこのタイミングで任務何て任せてくるかな……。


「ちょっと待ってくれよ、今学校の友達と昼飯食いにフィリップスに来てんだよ」


セシアやギルドの奴らにフィリップスと言えばすぐに分かってくれる。何故なら夜になるとこの過疎具合が嘘かの様にギルドの隊員で店内が埋め尽くされるからだ。


これがこの店が潰れない理由。昼はクソだが夜はどんちゃん騒ぎ。


(ならすぐに食べてさっさと来なさい)


「この後も遊ぶ約束してんだよ!」


(今回の任務は昨日の任務の延長戦みたいなものよ)


昨日の任務……ああ、あの脱獄した連中か。まさか逃げられたとか?


「どういう事だ?」


(あの後2人は捕まえたんだけど、森に逃げた1人が何者かに既に殺されてたの。

それで捕まえた2人に事情を聞いたら、何でも裏で手を引いてたのが例のアース家の連中らしいのよ)


アース家ーーこの街から少し離れた丘の上に屋敷を構える上級貴族。人身売買なんかをしてると噂されている評判の悪い貴族だ。


その1人を殺したのもアース家の差し金だろう。


「けど何でアース家の連中が何で囚人の脱獄なんかに手を貸してんだよ」


(調べたところ、どうやら私設軍を組織し始めているらしいわ。きっとその為にAランカーの彼らを引き入れたかったのよ)


私設軍の保有は5大名家のみが許されている特権。その規模は様々だがTSランカーが所属している私設軍もあるとか。


そんな事にまで手を出すとは恐れを知らないにも程があるってもんだ。


「んでアース家の当主を捕まえればいいのか?」


(いえ、今回の任務はアース家当主、マーク・アースの殺害よ)


殺害……か。ギルドには人を捕まえたり魔物を殺したりするだけじゃなく、人を殺すという仕事が回ってくる事もある。もちろんそんな任務を受けるのは高ランクの魔術師だけだが。


‘‘天空”にはオレ以外にもTSランカーやWSランカーと言った高ランカーが何人も居るが、私設軍を持ってしまってる以上は最高ランカーのオレがやれって事か。


「本当にいいのか?」


(アース家は裏で色々と手を回している以上、法で裁く事は厳しいわ。ギルドの本部からも承諾は得たわ)


ギルド本部とは、このハルディアス王国と隣国である大国ドルビア帝国との国境線上にある。全てのギルドのトップであり、殺害などといった特別な任務には本部の許可が必要になってくる。その権力は絶大で、ハルディアス王国であろうとドルビア帝国であろうとそう簡単には口出しを出来ない。


「なるほどな……分かった。昼飯食ったらすぐに行く」


そんな本部の許可があるなら心配する事はない。


(ええ、分かったわ)


そこでセシアとのテレパシーでの会話は終了し、オレは手を洗いレイアの元へと戻る。


既に席には料理が運ばれており、レイアがオレを待っているのが見える。


何て言おうか……用事が入ったからまた今度にしてくれ。それが無難か。


けどとりあえずは飯を食おう。


「悪い待たせたな」


「大丈夫だよ。それじゃいただきます」


「いただきます」


目の前で美味しそうにオムライスを食べているレイア。どのタイミングで言おうかな。


「あ、そういえばこの後なんだけど予定があったの思い出しちゃって、街の案内なんだけどまた今度で大丈夫かな?」


そんなウジウジしているオレに向かってレイアは申し訳無さそうに言ったが、今のオレにとっては救いの呪文だ。


「そうなのか、実はオレもなんだ!助かったぜ……」


「本当にごめんね?」


「いや、どのみちオレも用事で案内してやれなかったからむしろありがたい」


どうやら神はオレの事を見放してはいなかったみたい。そうだよな、3日連続で任務を言い渡されて神様も同情くらいしてくれるよな!


「ごちそうさま!」


「ごちそうさまでした」


レイアも急いでいるのかオレと変わらないスピードで食べ終わり同時に食後の挨拶を済ませる。まあ量的にはオレの方が多かったから同じスピードって訳でもないか。


「んじゃ金はオレが払っとくから用事とやら済ませてこいよ」


「うん、今日はありがとね楽しかったよ、また明日」


「おう」


小走りで店を出て行ったレイアを見届けてオレは会計を済ませて、ニーアと親父に別れを告げてギルドへと向かった。

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