学園生活

教科書配布、学園探索を昨日のうちに終えたオレ達のクラスは今日、みんなと仲良くなろうというハゲジジイの企画によって交流会なるものが開かれていた。


交流会と言ってもそんな大それたものでもなく、教室内で各自好きな奴とお話をするだけ。


昨日の学園探索の時にある程度仲良くなっていたのか既にグループがチラホラと出来上がっており、オレは教室の端の自らの席であくびをしている。


見た感じぼっちでいるのはオレだけ。なんとも寂しい事態だが留年してる奴に話しかけるのはみんな気が引けるだろうから仕方ない。


けどまぁ暇だ暇。この交流会はいつまでやるのか知らんがこの調子じゃ爆睡しちゃいそうだ。


そんな時ふと、とある人物がオレの視界内に居ない事に気付く。


まさかと思いオレは自然に装いチラリと横目を使って後ろの席を確認する。


するとそこにはオレの予想通りレイア・ルビティアが座っていた。どうやらあの子も友達はまだいないらしい。


つまりこれはチャンス。去年は棒に振ってしまった学園生活、今年こそはセシアに怒られない為にもきちんとしなくちゃならん。その為にまず必要なもの、それは友達。友達の居ない学園生活何て肉の無いステーキ定食と同じ。


そうと決まれば話しかけるしかない!それにレイアはセシアに劣らないくらいに綺麗な女性だ、早いとこ話しかけないと他の連中が来るかも知れない。


「レイア・ルビティア、お前も友達居ないのか?」


ちょっと直球過ぎたか?


そう思ったがレイアは特に気にした様子も無くオレの問いに答えてくれた。


「は、はい。もうみんなグループが出来ちゃったみたいで話しかけ辛くて」


まあそんな事だろうとは思った。だってオレがそうだから!


「ぼっち勢オレとレイアだけだもんな。まぁぼっち同士仲良くしようぜ」


「よろしくお願いします!」


オレが歳上だからか、それともそういう性格なのか随分と律儀な奴だな。


「敬語なんか使わなくていいよ。同じ1年生なんだし」


留年したのは自己責任、そのくせに先輩面するつもりは毛頭無い。


「う、うん、それじゃあよろしくねシュヴァル君」


その言葉に思わずオレはガクッと姿勢を崩す。


敬語を止めてくれたのは嬉しいが君付けかよ。変に距離感感じるから嫌なんだが。


「ルナでいいよ。君なんて付けなくてもいいってのに」


「ごめん、あんまり同じ歳の人と話した事なくて」


まあ田舎から来た奴らとかはそんなもんだろう。同年代の奴が周りに居なくても不思議じゃない。


「そっか、これから頑張れよ」


「ありがとう。

ところでルナは2年生に友達とかは居るの?」


その言葉を言われ思い出す。オレが去年それなりに仲良くしてた奴らは今はもう2年生なのだという事を。


けど特別仲が良かった奴が居た訳でもないし休憩中に話したり寮までの帰り道を一緒に歩いたりしたぐらいだ。休日にどこかに遊びに行くだとか、夏休みに海に行くとかは全くしていない。


「うーん、一応それなりには居たけど今も関係が続いてる奴は居ないな」


「そうなんだ、よかったー」


「は?」


よかった?え、何で?実はオレの事嫌いだったりするのか……?


何故か安心した様にそう言ったレイアの意図が全く読めてこない。ここはセシアに相談したいところではあるが残念ながらここにはセシアは居ない。魔法具も無いからテレパシーも使えない。使えたとしても、そんなくだらない事で使うな!って怒られそう。


「あ、ごめん!ただ私友達いないから、何て言うか……もしルナには友達いっぱいいたら寂しいなーって」


なるほど、つまり仲間意識を持ちたい……そういう事か。うんうん、いいと思うぜそういうの。


何がいいのかはオレにも分からないが、そこには触れないで話を進めよう。


「レイアって可愛い奴だな」


「え、えぇ!?私が可愛いなんてそんな訳ないよ!ほら、他にも可愛い子このクラスには居るし」


レイアが見つめている先に居るのはアリス・リヴァテインとリディア・ローティアス。確かにオレも自己紹介の時に一目見て可愛いとは思った。やっぱり同性であるレイアから見てもそれは変わらないらしい。


けどレイアの様にそうやってすぐ慌てて顔を赤くするあたりも可愛い要素の1つだと思うんだけどなぁ。


「いやいや、レイアの方が可愛いぜ」


「もうー、からかってるでしょ?」


「ハハッ、かもな」


そんな時、いい雰囲気の中で笑い合うオレとレイアに話しかけてくる奴が居た。


「ルナ・シュヴァル、今年こそはちゃんと単位を取れよ?」


そう、我らが担任のハゲジジイだ。未だに名前を覚えてないせいもありオレの中ですっかりこのあだ名が定着してしまったかわいそうな先生。


ちなみにあんまりハゲてはいない。歳も30くらいだろうからジジイって訳でもない。だがあだ名はハゲジジイ、同情するぜ……。


「分かってますよー。てきとうに取ってくつもりっす」


「それと授業中にお菓子を食べたりするのも禁止だからな」


オレの横からは、そんな事してたの!?と言わんばかりのレイアの視線が突き刺さる。


仕方ないじゃん、腹減るしお菓子好きだし。


「分かった分かったハゲジジイ」


あっち行けと手の平をヒラヒラさせて合図を送るが、肝心のハゲジジイは肩を震わせてこちらを恐ろしい形相で睨んでいる。


あれ、ハゲジジイって直接言った事なかったっけ?


レイアはそんなオレとハゲジジイのやり取りを微笑ましそうに見てる。


「いい度胸だな、お前達は俺の担当教科を減点しといてやる」


どうせハゲジジイの担当教科は今年も戦闘学だろう。戦う事に関しては問題無い、どれだけ減点されようとそれを補うだけの実力は持ってる。


と、平気なので言いたい事だけ言って去って行くハゲジジイの後ろ姿に舌を出して挑発をしていたが、そこでハゲジジイの言った言葉がひっかかる。


ん、ちょっと待てよ……今お前達って言った?


「わ、私も!?」


当然レイアもそれを聞いていた為慌てた様子で声を出している。しかしそれはハゲジジイには届く事は無く、そのまま他のクラスメイトの所に行ってしまった。


「わ、悪い」


とばっちりを食らわせてしまったレイアにとりあえず謝る。


「もう、先生にあんな事言っちゃダメだよ」


「つい癖で……」


「ルナって見かけによらずやんちゃだよね」


レイアと同じ様に大抵の奴はオレの事を大人しい奴だと思う。実際去年そう言われたから。


女顔っていろいろ面倒臭いんだよね。


「いやいや、オレは真面目だぞ。去年の1年生の学園祭で優勝した優等生様だからな!」


「学園祭って何?」


あ、そっか。レイアが学園祭について知ってる訳ないか。事前に行事を把握する真面目ちゃんなら分かるかもだが、そんな奴は少数派だろう。


「夏休み後に各学年ごとの1番強い魔術師を選ぶ大会の事だ。一応去年の1年生での最強はこのオレ」


自慢気に語るが結局留年してるから何の意味も無い。それは十分承知の上で自慢してる。けどやっぱり最強って言葉には男なら惹かれるに決まってる。


迅雷は人類で2番目に強いだとか、準最強だとか言われてるせいで余計にな。


「へぇー、やっぱりルナって強いんだ。人は見かけによらないね」


さっきから見かけによらないよらないとうるさいな……。レイアもその見た目に似合わず結構ガッツリものを言うタイプの性格か。


まあ陰で他の奴に愚痴愚痴言う奴よりレイアみたいな奴の方がオレは何倍も好きだけど。


「分からない事があったらこのオレに聞きたまえ」


「勉強以外の事で聞く事にするね」


「ひでーな……」


そう言って笑い合うオレ達の雰囲気は友達そのもの。うん、悪くない。


こうやって去年も上手くやれてたら留年何てしなかったかもな。あの時は友達作りなんて興味無かったし、友達なんて必要無いと思ってたから今以上に友達作りには消極的だった。


プラス、面倒臭がり屋な性格が災いして話しかけられても最初のうちはてきとうに返すか無視してた。今思うと流石にあれじゃあ仲の良い友達なんて出来るはずもない。てきとうに返す時の言葉遣いも荒い事この上なかった。


「よーし、そろそろ交流会も終わりにするぞ」


教卓の前に立ちオレ達の視線を集めているハゲジジイ。その言葉によって自動的にみんなは自らの席に戻って行く。


もちろんオレとレイアは元から席に座ったままだから動く事はない。


「今日の交流会でみんな友達も出来たと思う。

知っている人もいるだろうが明日は実習授業のグループ決めを行う。好きな人と組んでいいから楽しみにしておけ。

それでは解散」


知っている人ってのは多分オレの事だろうな。事前にしばらくの予定は聞かされてたから特に実習授業は驚く事でも何でもないが、他の奴らは違うみたいだ。


楽しみそうにする者、不安そうな者と様々。オレは興味が無いから頬杖をついて黒板を見つめている。


グループ決めをするって言ってもオレはレイアしか誘う相手がいないから2人だけのグループになりそうだ。別にイヤって訳じゃないからいいんだけどさ。


そして各々にみんなが教室を出て行く中それに乗ってオレも出て行こうとしたら、元気が有り余ってるご様子の野郎が大声をあげて席を立ち上がる。


「よっしゃー終わったぁ!みんな行こうぜ!」


あいつ、ライト・ブラントはそのままリオ・スタンロイドの席まで歩いて行く。リオの周りにはアリス・リヴァテイン、リディア・ローティアスが居て、ライトのあまりの気迫に引きつった笑みを浮かべている。


うるさい野郎だ。オレはちょっと引いてた事もあり立ち止まっていたら後ろから声がかかる。


「立ち止まってどうしたの?」


「ああ、悪い」


レイアも早く帰りたいだろうしオレもさっさとこの空間から出て自室のベッドに飛び込みたい。そう思い止まっていた足を進ませる。


すぐに教室のドアの付近までは来たんだがここで障害物がオレの行く手を塞いでいた。


そう、リオの席の周りにたまっているライト、リオ、アリス、リディアの4人組だ。リオとアリスとリディアに関しては問題は無いんだが、いかんせんライトが思いっきりドアの所に立っているせいでそこを通れない。


どうやら会話に夢中でライトのみならず他の3人もオレとレイアに気付いていないらしい。


全く、周りすら見えねぇ奴なのか。


少しばかり機嫌を悪くしたオレはその元凶に向けて言葉を放つ。


「邪魔だライト・ブラント」


「あ、ああ……悪りぃ」


オレが留年生だからか、それとも苛立ちが顔に出ていたのか、4人共オレを見るなり静かになり道を開ける。


それを無言で通り過ぎそのまま廊下へ。廊下の窓に反射で写ったレイアの様子を見ると軽く頭を下げてから通っていた。


「ちょっと言い方キツ過ぎたんじゃないかな?」


隣で歩くレイアにそう言われるが、オレは別に間違った事はしてないし、何にも気にしちゃいない。


「そうか?けどあんなとこでたまってる方が悪いんだよ。邪魔だっての」


「折角同じクラスになったんだから仲良くしないと」


とか言いつつも表情は柔らかいレイアを見ているとオレまで思わず口元が緩む。本当可愛い子だな。それにこの性格なら多分オレが話しかけなくても友達の1人や2人は簡単に出来るだろう。


「何で笑ってるの?」


口元の緩みをレイアに指摘され心臓の鼓動が上がる。いくらオレでもちょっと恥ずかしい。


「何でもねぇよ」


頬を人差し指でかいて照れ隠しをしてこの場を乗り切る。


そして寮まで一緒に行ったオレとレイアはなんと同じ棟という事が判明し、エントランスで別れて部屋へと帰った。流石に隣の部屋何て事はなく、少しガッカリしたのはここだけの秘密。


「今日もやり切ったやり切った」


リビングのソファに腰をかけながらネクタイを解く。


もう昼という事もあり腹も減ってる。けれどもそれ以上にオレの中で押し寄せているのは眠気。学園に間に合う時間に起きたせいでまだまだ寝足りない。


こんなんで1年間通い続けれるのか?そんな不安が頭の中をよぎる。


だってまともな授業を受けた訳でもないし、ましてや昼までに終わっているのにもう疲労感がある。しばらくしたら6時間授業が始まるし、そしたら帰りも夕方の4時とかになる。授業中に寝るって手もあるけどそんな事してたらまた内容が分からなくなってテストが赤点になる。


プラスオレにはギルドの任務もあるしもうお先真っ暗だ。やってらんねぇ!


ネクタイをテーブルに置いたままオレはベッドのある自室へと向かう。ギルドの任務は昨日やったから流石に今日は無いだろうしゆっくり寝させてもらうとしよう。


だが現実はイヤな方へと進んでいくものらしく、ベッドにダイブするや否やオレの頭にいつもの声が聞こえてきた。


(ルナ、任務よ)


「おやすみ」


(まだ昼でしょ!寝てないでさっさと来なさい)


ったく、何でこうなるかな!2日連続はひどくね?


「任務なら昨日やっただろ!今日くらいゆっくりさせてくれよ!」


学園に通ってる間は任務の数を減らしてくれるって言ってたのに!いやまあ確かに数は減ってるよ?学園に通う前や去年みたいに学園に行かないでゴロゴロしてた時は毎日任務をこなしてたし。


けど今年からはきちんと通ってるんだからせめて3日に1つとかにして欲しいのが本音。


(緊急で頼みたい任務なのよ。お願いだから早く来てちょうだい)


「……ハァ、分かったよ。今から行く」


多少の申し訳なさは感じていそうな声に観念してオレはベッドから飛び出し急いでギルドへと向かった。

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