ギルドにて
「あぁ〜疲れた」
オレはあの後昼寝を思っ切りかまして起きた時には18時という何とも幸せな時間を過ごしていた。
そこまではよかったんだが、突然セシアからギルドの任務を頼まれてしまい泣く泣くベッドから離れるはめになってしまった。
そして今は任務を終わらせてギルドに帰ってきたところだ。素顔がバレないようにセンスの欠片も無い不気味な仮面をつけ、ギルドの赤色の制服に身を包んでいるこのオレを誰も学生なんて思いもしないだろうな。
にしても学園にちゃんと行ったんだから休ませてくれてもいいのに。本当セシアのおばさんったら人使いが荒いんだから。
そんなおばさんもといギルドマスターの部屋の前に到着したオレは仮面を外してドアを開けて中に入る。
「終わらせたぞクソババアー」
「今すぐ私に殺されるか、私に拷問されてから死ぬのどっちがいいかしら?」
「すいません!つい心の声が!」
その鋭い眼差しと剣を向けられてはオレも謝るしかなくなってくる。
そのオレと同じような綺麗な長い銀髪を生かして男の1人や2人捕まえてきたらどうなんだよ。そうすればオレをこき使う時間も減るだろうに。
「あんたは心の中ではいつも私の事をクソババアって呼んでるのね、覚えておくわ」
しまった……余計な事言っちまった!
ひとまず剣はしまってくれたがその瞳はオレを許してくれる事は無さそうだ。
「と、とりあえず任務完了だ」
「あっそ」
え?それだけ?反応薄くね!?
任務頼んできたのはあんたですよね!?
それをわざわざやってきてあげたのに?まさかのあっそ、で終わらされた。相当お怒りのご様子。
「クソババアくらいで怒んなよ!悪かったって!」
「…………」
「えーと、すまん!」
「…………」
えぇ……。マジで怒ってる?
ただひたすらに書類にペンを走らせているセシアはまるでオレがこの場に居ないかの様に反応を示さない。
どうしよう、どうすれば機嫌を直せる!?
必死に解決方法を模索するがオレ程度の男がセシアのような美女のご機嫌を取れるはずもなく、仕方なく頭をぺこりと下げる。
「あの……その……ごめんなさい」
「…………あーもういいわよ。頭上げなさい、そんなに怒ってないから」
ウソつけクソババア!!めっちゃ怒ってたじゃねぇか!!
なんて口が裂けても言えるはずがない。もし言おうものならセシアのご機嫌は永遠に失われるかも知れない。
「あ、ありがたき幸せ!」
「全く、あんたみたいなのが人類で2番目に強いなんてね。
世間がギルド天空が誇るXランカーの
迅雷、それはオレの通り名みたいなものだ。流石に本名をバラす訳にもいかないから大抵の有名魔術師は通り名を名乗っている。通り名は周りの奴らが付ける事もあれば自分で考えて付ける事もある。人それぞれだ。
ちなみにオレの場合はここのギルドの奴らが考えて付けてくれた。ありがたいぜ。
「天空のギルドマスターは短気って知ったらみんな落ち込むぜきっと」
「私は美人でXランカーで性格もいいってお偉い様に言われてるから大丈夫よ」
猫被ってるだけだろどうせ!
けどまあ美人とXランカーなのは事実なんだから彼氏くらい作ればいいのに。ちなみにセシアの通り名は氷の女王。この通り名もこのギルドの奴が考えたんだが、どう考えても女王ってキャラじゃないだろ。
もしオレがセシアに通り名を付けるなら、そうだな……氷の迷惑ババアとか。
……やめよう、もしうっかり声に出したら殺される。ギルド追放されたらオレマジで落ち込む。
「そんなに自分に自信があるなら彼氏作れよ。セシアなら簡単に作れるだろ」
皮肉なんて込めてない素直な言葉だ。それほど美しい顔立ち、スタイル、肌、髪。衰えないうちに結婚してもらいたいもんだ。
「付き合うなら私より強いXランカーの男じゃなきゃ嫌よ」
相変わらず書類仕事を止めないセシアはそんな事を口走るが、それって世界中の男ほとんどが無理じゃん!
「そんなんだと婚期逃すぞ」
「余計なお世話よ。それとあんたに言ってなかった事があるわ」
ペンを置きそう語るセシアに首を傾げて少しだけ真剣な表情へと変える。
まさかまだ任務があるとか?もしそうだったら疲れで明日は遅刻が決定的になる。
まあどうせ教科書もオレは持ってるし学園の中の案内も必要無いから問題無いんだけど、セシアはそんな事関係無しに怒るだろうな。
「何だよ?」
「ギルド‘‘神の
当たり前だ。ここのギルドと同じくらい有名所。
「ああ、そこと何かあったのか?」
実はギルド同士の揉め事ってのは珍しい事でもない。どこのギルドも自分達の勢力圏で起こった事については自分達で解決したがるし、そこに介入したら何かと後々ケチを付けられたりもする。それが揉め事に発展したりするのだ。
にしても王都のギルドと揉めたりしたら面倒な事になるぞ。
「そういう訳じゃないわ。ただ、神の雷に所属するSランカーの魔術師が何でもトレイシス学園に入学したらしいのよ」
「はぁ?……それってまさか、噂に聞く
紫電ーー半年くらい前から王都を騒がせている凄腕のSランカー魔術師。その噂はこの街にまで
噂によると紫電は15歳でSランカーになった俗に言う天才。顔は他の有名な魔術師と同じ様に仮面で覆ってるから分からないが、王都の連中は勝手にイケメンだと思ってるらしい。
女か男かも分かっちゃいないのにな。
「そうよ、よく分かったわね」
「んで?紫電とやらが入学したからどうしろってんだ?」
「ただ注意しなさいって事よ。正体がバレないようにと、もしもう向こうが正体を知っていた時の為に探られたりしないように。
向こうも正体を隠してるみたいだし、あんたが学園に通ってる事は知られてるはずよ」
セシアの言う通りだ。ギルドによっちゃ強い奴を引き抜いて自分達のギルドに入れさせよう何て考えてる所もある。
やり方として弱みを握るというのが大半だ。稀に悪質なギルドだと人質を取ったり、取らなくとも自分達のギルドに来ないなら大切な人を殺すと脅したりとかもするらしい。
まさか王都のギルドがそんな事をするとは思えないが念には念。他のギルドで働くなんて御免である。
「オレがそんな簡単に探られたりすると思うか?」
「まあ大丈夫とは思ってるわよ。一応言っただけ」
いつもはよく喧嘩をしたりもするが、何だかんだ言いつつお互いを信用しているのがオレとセシア。姉と弟みたいなもので、親がいないオレにとっては唯一の家族だ。
姉弟揃って綺麗な顔立ちとはなかなか見栄えもいいだろう。
「とりあえず気をつけてはおく。んじゃオレはそろそろ行くわ、明日も朝早いし」
「ええ、おやすみ」
「おやすみセシア」
こうして面倒臭い任務を終わらせ、セシアから紫電が学園にいる事を教えられたオレはこの晩少し気にしつつも特技の爆睡だけは支障無くしてこの日を終えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます