トレイシス学園

「ハァハァ……」


一応セシアに言われた通りに全速力で学園を目指していたオレは寮からという事もあり10分も掛からずに学園に到着した。


寮も学園の敷地内にあるにはあるんだが、いかんせんその敷地が広すぎる。


どうせなら目の前に寮を造ってくれたらどんなに楽だった事か。


さて、肝心のトレイシス学園の校舎はオレの前にそびえ立つこの巨大で豪華な5階建ての建物。まるで貴族の屋敷をそのまま大きくした感じのものだ。


全校生徒約1200人を収容出来るだけのこの校舎にはオレの様々な嫌な思い出が沢山詰まっているが、その話はまた今度。


今は1年2組に向かわないと。授業開始時間……と言っても今日は授業じゃないんだけど、それは9時。


つまりオレが洗面所で顔を洗っていた時にはタイムオーバーだった事になる。


なぁに、慌てる事は無い!このオレは学園1の問題児として名を馳せてる男、この程度じゃ今更どうこう言われるはずが無いのだ!


ここまで走ったんだから教室までは少しゆっくり行こう。


そう思いオレは太陽に照らされながら歩き校舎へと入って行く。


当然校舎の造りは分かってるから迷うなんてバカな真似はしない。右に曲がってすぐの教室だ。


すぐに教室の前に着いたオレはここが2組である事を一応確認してから教室のドアを開く。


「ルナ・シュヴァルでーす、遅れましたー」


やる気の無い声と共にこの教室に見参したオレを出迎えたのはこのクラスにいる49人のクラスメイト達の視線と、ハゲジジイ先生の視線。


「またお前か……」


呆れた様にそう言うこのハゲジジイはオレが入学した時から何かと顔を合わせている。


「いやーつい寝過ぎちゃって!オレの席どこっすか?」


先生が指を指した先は窓側の列の後ろから2番目。


というより空いている席が間違いなくオレの席なんだから聞く必要も無かったか。


にしてもなかなかいい席じゃんか。去年は最前列のど真ん中で随分と辛かったのを覚えてる。そんな席でも容赦無くお菓子食べたり寝てたりと我ながらよくやったと思う。


教室中から向けられる色々な視線を無視しつつオレは自らの席に座る。


「ではこれからみんなに自己紹介をしてもらう。まずは君から」


ハゲジジイがそう言い指名したのは廊下側の1番前の席の男子。


自己紹介か、特に興味をそそられるものじゃないがこれから1年一緒に過ごすクラスメイトだ、てきとうに聞いといてやるか。


「えーと、俺の名前はリオ・スタンロイドです。属性は炎でランクはDです。これからよろしくお願いします」


リオ・スタンロイドの容姿は赤髪の長くも短くもない髪に、当たり前だが少し幼さの残る顔立ちだが整ってはいる。身長はオレと変わらないだろう。


それと属性についての説明だが、属性は全部で7つあり、水、炎、風、土、雷、光、闇だ。


ただ、闇属性だけは魔族と呼ばれる種族のみが使える属性でオレ達人間には宿る事はあり得ない。


属性に特に優劣は無いがある程度特徴はある。水と光は回復、炎と風と闇は攻撃、雷は速さ、土は防御と言った具合だ。


次にランク。これは魔術師としての強さを表すもので基本的みんなこれを上げる事を目標としてるだろう。そしてそれは、下から順にG、F、E、D、C、B、A、S、WS、TS、Xだ。


さっきのレオ・スタンロイドはDと言ったが1年生にしちゃ高い方だな。いくら名門校とは言えまだ入学仕立て、去年のクラスの奴らはほとんどがFやEだった。学園に通った事の無い商人や農家の人なんかはGランクが半分はいるんじゃないだろうか。


だから決してバカには出来ないんだけど、最高ランクのXランカーであるオレからしたらここにいる連中はどいつもこいつもハッキリ言って雑魚って感じだ。


ウィンディアで2番目に強いって言われてるんだ、ここの奴らに驚かされる訳がない。


何てやってる間にいつの間にか自己紹介がどんどんと進んでおり次に立ったのは水色のロングヘアの女の子、こちらもまた可愛い顔をしている。


「あたしの名前はアリス・リヴァテインです。属性は水でランクはD、1年間よろしくね!」


彼女の第一印象は明るく活発な子。


その容姿故かクラスの野郎共の中には見惚れている奴が何人もいる。


ちなみにオレに言わせてもらうとあいつらは絶対に振られる。


何でそう思うかって?だってアリスって子全然興味無さそうだったもん!


何とも単純な思考回路でしょう。これじゃあバカ丸出しじゃないか。


いいんだ、どうせオレはバカですとも!やる気の問題もあると思うけどバカじゃなきゃ留年なんてして無い!


そして次の男子の自己紹介が始まるが、容姿ランク共に惹かれるものもなく終えてその後ろの金髪……いや、白金の髪の女子が席を立った。


「私の名前はリディア・ローティアスです。属性は光でランクはCです」


彼女の自己紹介が始まった途端騒めき出したクラスメイト。


それもそうだろう、ローティアス家と言えば王族の次に権力を持つ5大名家の1つ。そうそう同じ空間に居るなんて体験出来るものでもない。


ましてやリディアの様な美女なら尚更騒ぎたくもなる。


俺も騒ぎたいかって?そりゃもちろん。騒ぎ立ててどさくさに紛れて胸をタッチしてやりたい。


ちなみにいくら俺でもそんな事を意味もなくすれば捕まるから絶対に行動には移さない。


「ローティアス家という事は関係無く接してくれると嬉しいです。1年間よろしくお願いします」


こうしてローティアス家のお嬢様の自己紹介は終わったが、家柄に関係無く接しろって言われてもなぁ……。


もし気に触る様な事を言ったらどんな目にあわされる事やら。考えただけでも恐ろしいものだろう。


そして未だにみんなが静まらない中、気まずそうに自己紹介を始めた男子。そのまま次の奴も続き自己紹介はどんどんと終わっていく。


そしてついにオレの列にまで回ってきた。


まず立ったのは最前席の男子。みんなに顔が見えるようこちら側を体を向けて口を開いた。


「俺の名前はライト・ブラント!属性は土でランクはDだ!これからよろしく頼むぜ!」


多分今までの誰よりも声が大きかったであろうライト・ブラント。茶髪のツンツンとした短い髪に少しつり上がった目。けれども他の男子と比べてもその顔立ちは明らかに良く、女子からの評価は高いに違いない。


さてと、そろそろオレの自己紹介をどうするか考えないと。


Xランカーって事を隠して学園にいる以上本当の事は言えないし、かと言って弱い振りをするのはしょうに合わない。去年は雷属性でランクはDって事にしたけど本当だったら2年生の身、ある程度成長しないとおかしいしクラスで飛び抜けたランクって事で優越感にも浸りたい。


オレって性格悪!いやいや、そんな事はない……はず。


でも留年しててランクも入学したばっかりの1年生と変わらないのは流石にバカにされそうだからBランクって事にしておこう、もちろん属性は雷のまんま。


と言うより属性は基本1人1つだからな。オレの場合は風と雷が使えるけどそれはオレだからであって、普通の人ならあり得ない。


と思考回路を働かせていた最中、オレの前の席の奴が自己紹介を終えたらしく席に着いた。


オレの所までやってきた流れに乗り席を立ち一旦教室を見渡し、そして唇を震わせる。


「オレの名前はルナ・シュヴァルっす。属性は雷でランクはこの前Bになりました。留年してるんで1個上って事になるけどまあ気にしないで下さい。んじゃこれからよろしくー」


ランクをBと言ったらリディアの時と同じ様な騒めきが起こったが留年していると言った瞬間に収まっていき至って普通の自己紹介となった。


まあ2年生でBランクもなかなかに凄いんだけどあんまり分かってないみたいだ。少し悲しい。


けど何はともあれ無事に終わったんだし最後の奴の自己紹介を聞くとしよう。


オレは後ろの席の奴の方を体を反転させ視界に収める。


「私の名前はレイア・ルビティアです。これから1年間よろしくお願いします!」


赤色で長さはミディアムくらいの髪の毛の美少女レイア。アリスやリディアといいこのクラスには美少女が多過ぎる。レイアもあの2人と同じレベルに可愛い。このオレがそう言うんだ、間違いない!


けど深々と頭を下げたレイアだが自己紹介が何か物足りない。何故かを考えつつ彼女に視線をぶつける。レイア自身90度腰を曲げてお辞儀をしてるから視線が交わる事はないが。


…………あ、属性とランク。


「あ!属性は雷でランクはCです!」


どうやら少し天然な子みたいだ。クラスメイトからはクスクスという笑い声が聞こえる。


当の本人も恥ずかしいのか、顔を赤らめ俯いている。


「では今日はこれで終わりとする。明日は教科書の配布に学園内の案内と説明があるから絶対に遅れないように。では解散」


間違いなくオレに対しての釘打ちであろう言葉から目を逸らして席を立つ。


他の奴らもまだ友達は居ないみたいで各自バラバラに教室から出て行っている。かく言うオレもその中の1人で、寂しくぼっち下校である。


そしてオレはつい数十分前に通ったばかりの道を再び引き返した。寮に着くや否やベッドへとダイブして朝寝れなかった分を取り返すかの様にグッスリと昼寝をしたのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る