準最強

目覚まし時計のベルが細かくリズムを作り、オレの頭を叩くように響き渡る。


「ふぁぁあ……朝か」


眠い……。どうも皆さん、おはようございます。


このオレ、ルナ・シュヴァルはこの世界ウィンデアで2番目に強いなんてチヤホヤされている至って普通のイケメン。


そんなオレが今いる場所はウィンデアでも名の知れた大国ハルディアス王国のセルバーンという街に存在する名門校のトレイシス学園の寮の一室。


高級ホテルと見紛う程の豪華な造りのこの部屋にあるフカフカなベッド、毎朝の事ながら今日もここからオレは出られずにいる。


カーテンの隙間から差し込む太陽の輝きに目を細めて再びベッドの中に深く潜り込む。


(こら!)


「!?」


突然響き渡る透き通った女性の声。それに驚き慌ててベッドから飛び出して周囲を見回す。


だがそこには女性の影一つ無く、あるのは脱ぎ捨てたままの服やお菓子のゴミ、そして机とその上には数日間放置しっ放しの食器達。


当然食器は洗ってないから油がこびりついたまんま、汚い事この上ない。


(返事をしなさい!)


「は、はい!」


2度に渡って女性の声が聞こえた事でオレは次第に目を覚ましていき、要約この状況を理解する。


「なんだ、セシアかよ。ったく思春期の男の子に急に話しかけてくんなっつの」


セシア・ブランデー。オレが所属するギルド‘‘天空”の若きギルドマスターであり両親が居ないオレの姉の様な存在の口うるさいババアである。認めたくないし本人には決して言わないがかなりの美人。


そんなまだ21歳の女性に対してババアとは失礼極まり無いが、これだけ私生活に付きまとわれては愚痴の一つ漏らしたくなってくる。


ちなみにギルドとはこの世界に住まう人々を守るべく作られた組織であり、王国のみならず世界中に存在する正義の味方。何から守るのかと聞かれたら、それは主に魔物と呼ばれる人を襲う獣だったり、人殺しの犯罪者だったりと様々。簡単には説明し辛い。


(あんたがきちんと学園に行かないからこうして私が面倒を見てあげてるんでしょ?

留年した身で余計なお世話だなんて言わせないわよ?)


そしてこの頭に直接声が聞こえてくる現象、これはテレパシーと呼ばれるもの。


魔法とはまた違い、魔法具という特別な道具を使わないと出来ないもので、それなりに高価な代物だったりもする。


「留年ねぇ……でもよセシア、そもそもオレは学園になんか行きたくもないし学ぶ事だって無い。なんとかならねぇのか?」


そう、オレは既にこの学園に来て1年を過ごしている。やる気なんて微塵も無いオレは授業中寝てたりお菓子を食べたり、最終的にはサボるようにもなり当然テストは赤点。平常点なんてものも付くはずがなく見事に留年を達成したって訳だ。


(この国の決まりはあんたも知ってるでしょ?ギルド及び軍に所属する者は学園を卒業してなければならない。

今まではあんたが15歳以下で異例の強さだったからなんとかなってたけどもう無理よ、諦めてきちんと学園に通いなさい!)


ひぃ、これは直接話してたらセシアの怒りの鉄槌てっついがオレの顔面に直撃してそうだな。


テレパシーで本当に助かった。


「今から行ってもどうせ遅刻だから明日から行くわ」


と、テレパシーだという事をいい事に調子に乗っていると凄まじい声がオレの頭の中をかき乱す。


(さっさと着替えてさっさと行きなさい!!!!今度留年なんてしたらマジで怒るわよ!?)


もう充分怒ってるじゃんか。


「分かった、分かりましたよ!行きゃいんでしょ行きゃ。なるべく急いで行くからもう切ってくれ」


教室に着くまで繋がったまんまなんてとても耐えれたもんじゃない。


慌ただしく部屋を歩き回り鞄に財布とペンとノートを詰め込んでひとまずそれをベッドの上に置く。


(全速力で行きなさいよ?分かったわね?)


「はいはい分かってますとも!」


オレが図々しく感じているのを察したのか、それ以上は何も言ってこずテレパシー特有の感覚はそこで途絶えた。


ったくオレに構ってないで仕事でもしてろっての。


春休みだった事もありしばらく触ってすらいなかった制服の袖に手を通して、オレはジャージから白色のブレザーの制服姿へと早変わりする。


鞄を手に持ちそのまま無駄に広いリビングへ。朝ご飯を食べたいところだがセシアに急いで行くと言った手前今日は我慢した方が良さそうだ。


リビングを見渡せるキッチンも通り過ぎオレは洗面所へと入る。流石に顔も洗わずに行くのは人として恥ずかしい。最低限のエチケットは守らせて頂く!


腕時計で時間を確認すると時刻は午前9時。入学式が昨日で、今日はクラスの発表がある。だがオレは留年しているから先生にクラスを既に教えてもらっている。


オレのお世話になるクラスは1年2組。今年はどんな奴らがいるんだろうな。


やがて歯磨きを終えたオレは鏡に視線を移して自らの容姿を確認する。


白い肌に少し青味がかった銀髪が肩の下辺りまで伸びており女のミディアムヘアくらいの長さはある。瞳は金色に輝いておりオレのイケメンを更に際立たせている。


自分で言うのもあれだが、オレはこれでも顔は整ってる方だとは思う。告白も何度もされてるしな。


ただ1つだけ直したいところがあるとすれば女顔なところ。正直女装したら女と見分けがつかないんじゃないかって思えてくる。


身長も170と高くはないし体型も細身だ。我ながら情けない。


「さて、行きますか」


セシアに怒られたくない一心で自室から足を踏み出したオレは既に誰も居なくなった寮の廊下を駆け抜けた。

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