第2話-3

 紫音は実のところ、ずっと迷っていた。

 このまま、この場所にいていいのかと。

 救出作戦の妙案は、紫音にもここにいる彼女たちにも思い浮かばないように思えた。

 しかし、彼ならば、ワンガン兵学校戦術戦闘指揮科の魔術師と呼ばれる彼なら、こんな窮地でも作戦立案が可能なのではないかと思っていた。

 ただし、前線と兵学校は絶対最終防衛線のぶ厚い壁で隔てられていて、壁の内側とは連絡を取ることができない仕組みであった。

 それならばと、紫音は思っていたのだ。この場を離れて魔術師に作戦立案を頼みに行けば何とかなるのではないかと・・・・

 だが、夜の闇が紫音の思いを阻止していた。

 こんな夜中に絶対防衛ラインの検問所を通れる訳もなかった。

 バンパイアが支配する闇の時間、そんな時間に検問に近づけば射殺されるのは間違いなかった。

「そうだ、ガナフ戦車中隊に支援要請してみたらどう?」

 紫音のそばに立っていた抜刀兵が何気に言った。

 その場の全員が一斉に彼女を見たので、紫音も一瞬希望に火が灯りかけたのだが、隊長も副隊長も首を横に振るだけだった。

「つい先日の渋谷方面軍本部解放作戦・・・渋谷迎撃戦の再現って訳か?」

 副隊長が露骨に顔をしかめた。

「いや、すぐそこに戦車でワーッて突っ込んでいって、サッと救出してくればよくね?」

「・・・・・・・本気で言ってる?」

 少し太めの小首を傾げつつ副隊長が言い出しっぺを見た。

「・・・・・・」

 言い出した抜刀兵も肩をすくめて何も言わなかった。

 その場の全員が小さくため息をついた。

 その意味は、学生の紫音にも分かった。

 このバンパイア戦争で、人類が完全に守勢に追い込まれている原因の幾つかは、過去の兵器体系の無力化が主なものであった。

 そもそも、ゾンビが大量発生する直前の2040年代において、防空レーザー・ビーム兵器の発達により世界中から航空兵器とミサイル兵器が姿を消していた。

 ゾンビの猛攻に為す術がなかった人類は、航空機を使った大量破壊兵器の運用を再開したのだが、出撃していった航空部隊は一機も戻ってはこなかった。

 前線の情報によれば、侵攻してくるゾンビの大軍には、各地で鹵獲された対空レーザー兵器・ビーム砲が大量に随伴しており航空部隊は、一発の爆弾も投下すること無く全滅したのであった。

 またバンパイア戦争初期において、戦車は有効な打撃力と防御力を有していると思われたが、高性能爆弾を抱えた対戦車自爆ゾンビの登場により、戦車という兵器は棺桶と同意語のように扱われるようになったのである。

 現在の戦場でも戦車や装甲車が前線にに姿を現すと、自爆型ゾンビが押し寄せてくると前線では教えられていた。

 その抱えた高性能爆薬の破壊力は凄まじく、数十階建ての巨大ビルさえ粉々にしてしまう代物なのだそうだ。

 歩く死体がレーザー防空システムを操り、対戦車高性能爆薬を使いこなすという現象を、当初誰も理解することは出来なかったが、生体ゾンビとバンパイアの存在が明らかになるにつれ、この侵略者たちの得体の知れぬ恐ろしさは、人々を絶望の縁へ追い込んでいったのである。

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