第1話-1 せめて安らかな死を

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    西村麻衣のターン


登場人物  西村麻衣 17歳 

  ワンガン兵学校抜刀戦術科3年生。

  ワンガン兵学校風紀治安警備委員長。

  ワンガン兵学校最強の使い手。

  居合いの達人

抜刀術では首都圏全兵学校トップ5の実力と評されている。


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2119年4月2日 午前0時40分 廃ビル地下3階


 闇が濃かった。

 バンパイアの時間であった。

 真っ暗な地下の一室で、彼女たちはみな何かを待っていた。

 明日の朝日と救援部隊の到着・・・・

 もしくは、せめて安らかな死を・・・・

「私を置いて・・って・・・・・」

 闇の中に白い貌があった。

 2つ。

「熱にうなされてるみたい」

 ユリに付き添った響子が、声を潜めて言った。

 ゾンビとの戦闘で、ユリは足を負傷してしまった。

 大きな傷だった。

 70年前に崩壊放棄された巨大ビルの地下3階に彼女たちは逃げ込んでいた。

 真っ暗な地下室はホコリと死臭が充満していたが、ゾンビの足音は聞こえなかった。

 西村麻衣は抜刀した日本刀を握りしめたままコンクリートの床に座り、ぼんやりとした視線で闇に近い天井を見詰めていた。

 228人いたワンガン兵学校抜刀戦術科3年生部隊はどうなったのか、いったい何人の同級生が命を落としたのか。

 どんなに苦しい最後だったのか。

 同級生のことを、友達のことを考えずにはいられなかった。

 後方待機の予備兵力としての出動は、もう百回近く経験していた彼女たちだが、辺り一面にわき出たゾンビの大群と交戦したのは初めてだった。

 ただのゾンビだけなら何とかなったのかもしれない。


 あの時・・・・

 鈍い大波のように押し寄せたゾンビの大群に、228人の兵学校女子抜刀隊は果敢に立ち向かい、一斉に斬りかかった。

 兵学校の制服に身を包み、抜刀戦術科3年生は一丸となって戦った。

 あんな大規模な遭遇戦は、抜刀戦術科3年次生の誰もが初めてだった。

 これまでも、突発的に少数のゾンビと遭遇し、同級生の死を何度もまのあたりにしてきた。だが、そんな今まで遭遇した戦場とは異質の大激戦が、唐突に始まったのである。

 密集度合いから察して、ゾンビは彼女たちの5倍以上はいただろう。

 1000を超えるゾンビの大群を前に、ワンガン兵学校生徒会長美山紫音が、その通る声で皆に檄を飛ばした。

「一気に蹴散らすわよっ!」

 一歩進み出た紫音の横に麻衣も進み出て、振り向きざまにいつもの調子でニヤリと笑って見せた。

「こいつら片付けて帰ったら、明日の入学式準備やるわよっ!」

 少し冗談が過ぎたが、麻衣の意図を察してくれたのが親友のユリだった。

「麻衣、人使い荒すぎぃぃぃ」

 おどけた口調でユリが笑ってくれたので、みなの緊張も少しは解けたのかもしれなかった。

 だが、その程度で、どうこうなる数ではなかった。

「全員抜刀っ!」

「抜刀っ!」

 ゾンビの集団が20メートルまで近づき、皆が横二列になって密集して待ち構えた。

 うめくように声をあげて迫ってくるゾンビに、最初の一太刀を撃ち込んだのは麻衣だった。

 抜刀科3年次序列一位の実力を皆に見せ、自分たちは戦えるという事実を示さなければならなかった。

 少し大きめに踏み出して、真正面に迫ったゾンビの前頭部に切っ先を撃ち込んだ。

「みんなっ! 一緒に帰るわよっ!」

 そう叫ぶように言った麻衣の前で、頭を割られたゾンビが崩れ落ちた。

 その麻衣の叫びに答え、紫音やユリがゾンビに日本刀を振り下ろしていった。

 麻衣やユリに生徒会長紫音の攻撃でゾンビが倒されると、生徒全員が彼女たちに続いた。

 上段の構えから一撃を加え、各自が一体のゾンビを倒しては一歩後退しては再度の打ち込み、日本刀にへばり付いた肉片と血が振り上げるたび彼女たちの上空に舞い上がった。

 目立って怯え恐れる者はいなかった。

 恐れるよりも戦うことに必死だった。

 密集した状態でゾンビの大群をせき止め、切り倒していった。

 腐敗臭と腐りかけた人肉が飛び散る壮絶な戦場だった。

 しかし、この2年間培ってきた集団戦闘行動訓練は無駄ではなかったと、誰もが自信を持ち始め、ゾンビの大軍を押し戻せると思えた頃。

 誰かの切り裂くような悲鳴が、彼女たちの精神に怯えを呼び戻した。

 ゾンビを操る生体ゾンビが突如複数現れ、戦場の空気は一変したのだ。

 実のところ、生体ゾンビの本物と遭遇したのは、ほとんどの生徒が初めてのはずだ。

 その瞬発力と圧倒的な力は、授業で教えられていたものの、想像を超えた生体ゾンビの攻撃能力に、誰もが恐れをなしてしまった。

 一瞬で生徒の首に食いついた生体ゾンビの攻撃で、その場の数人が悲鳴をあげてしまった。

 それも、姿を現した生体ゾンビは十体は下らず、その数と同等の生徒が一瞬で首を食いちぎられたのであった。

 そして、崩壊は始まり生徒たちに伝染してしまった。

 首をもがれた同級生の頭を見た何人かの刀が止まり、そこにゾンビが一斉に襲いかかる。

 あちこちから、悲鳴と助けを呼ぶ声がわき上がり、戦列は一瞬で瓦解してしまった。

 一度崩れてしまった隊列は瞬く間に分断され、西村麻衣が指揮する抜刀小隊も後退を余儀なくされてしまった。

 何人かの友人がゾンビに引き裂かれ喰われる場面が深く記憶に刻まれていた。


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