不殺の勇者

@last

第1話 不殺と胃薬

 頼むからトドメを刺して!

 僕は、頭に、血管が浮き出そうな思いで、

 心の中で言った。

 目の前には、大きなイノシシの様な3〜4メートルの巨体が倒れその腹の上で顔目掛けて、剣をかざしてるアルスが居た。

 アルスは僕のご主人様だ。

 本来ご主人様なので、様か、殿で、呼ばないといけないのだが、心の中だけは、呼び捨てで呼んでる。

 その理由は、ハチャメチ強い勇者なのに、いつも止めを刺さない。 

目の前のイノシシの怪物もきっとそうだろう。

 

どうやら、止め刺さず今回も決着は、ついたみたいだ。

 以前には、疑問をそのまま何回も聞いた事がある。

でもその度に、「剣が歯こぼれした」「体力がもう尽きた」「時間が無い」とか、終いには、「地獄に落ちちゃうかも」なんて言い出す始末だ。

 その後から馬鹿馬鹿しくて聞かないようにした。

 本人は、人の気持ちも知ってか知らずか、剣を納めこちらに歩いてくる。

 その歩き方は、実に堂に入って、誰が見ても魅入ってしまう。

 アルスは、代々勇者の家系で、父君もその祖父も勇者で、国王だった。

 僕は、代々勇者の従者の家系で、親父もおじいちゃんも一緒に旅をしていた。

 親父に聞いても、おじいちゃんに聞いても、代々の勇者達は、止めを刺して、刺しまくってたみたいだ。


「見事でした!あの返しの一太刀」感情を押し殺して言った。

「ギリギリでした、危なかった。」

 はい!嘘。

 完全勝利ですよ、それ。


「早くここを離れましょう」

僕は、周りを見渡しながら言った。

「そうですね、エヴァンの言う通り早くここを離れましょう」と、言葉の緊張感とは、裏腹に爽やかな笑みをこちらに向けてくる。


実は、今回違うモンスターを討伐に向かう処、半年前に討伐したイノシシさんの逆襲にあった。

こういう逆襲劇は、しょっちゅうある。


僕自身は、戦闘経験が無いわけじゃなく

回復魔法や、旅に必要な魔法やスキルを習得し、主にアルスのサポート的役割りを担ってる。

 同い歳で、生まれてから、ずっと一緒だ。

なのでいつもそばでアルスの事を見ていた。

 物心ついたあたりからいつも親父やおじいちゃんから何かあったら自分を犠牲してでも勇者様を守れと言われてる。

 代々僕の家系の血には秘儀と呼ばれる特殊な魔法が組み込まれていて勇者を守る事ができるらしい。

 ただ自己犠牲・・・・・

 らしいと言ったのはここ何世代も使われてないからだ。

文献でしか知らないと皆は言う。

 でも確かに自分の中にそのような力を感じる事があり15才になった時には

魔法の詠唱を教わった。


でも、きっと、多分・・・絶対に使わなそうだな。

トドメを刺さないから逆襲の永久機関。


あー今日も胃がキリキリする。

僕は残り少なくなった胃薬に手が伸びていた。













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