私器用説
先に断っておくと、自傷行為のつもりはない。断じて。
髪を切った。自分で。
前髪を切るとか、ロングヘアの枝毛を切るとか、それくらいなら普通だろう。
しかしそんなもんじゃない。
襟足だ。
何度か過去の話に書いている通り、私は九月の頭に眩暈を患った。
それは軽減こそしたものの未だに頭にほわほわと憑りついており、この一か月ほど、地に足のつかないような、頭に大きな風船でもくっついているかのような、変な感覚に悩まされている。
ひどいときは歩くだけで頭に響いて鈍痛にも苦しめられることになる。
触られるなんてもってのほか。
だから髪が伸びても美容院に行けない。
シャンプー中に気を失うかもしれない。切ってるときにふらついてしまうかもしれない。
しかし髪は伸びる。襟足だけが伸びたショートヘアは格好がつかない。
切ろう。
決心するまではそうかからなかった。
母から譲り受けたすきばさみを手に、風呂場の鏡と向き合った。そして襟足の毛を掴み、斜めに滑らせるようにシャキッと一束落とした。右側だけが短くなる。
もう取り返しがつかない。後には引けなかった。
とりあえず短くなるようにはさみを次々入れる。髪がかすかに引っ張られるような感覚を覚えながらもやめることはできない。
やめてしまったらこの無残な頭で電車に乗り、職場に行かなければならない。
使命感を胸に、私は切り続けた。
足元は気づけば真っ黒で、ちくちくしていた。
そのちくちく感と引き換えに、そこそこの形のショートボブっぽい髪型ができあがっていた。
髪を切った翌日、同僚に見せてみると、「よくやるわ」と一言。変ではないという評価をもらった。
ちなみに職場では誰にも特に何も言われなかった。
5センチ程度しか変わらなかったからだろうか。
後頭部の写真を撮ってみたけれど、わりと上手くいったと思う。
私、器用説。
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