まるで歯欠けのよう

つやっとしたダークグリーンと手に馴染む曲線的フォルム、鈍く金色に光るBACK、HOME、MENUボタン。

約三年前、完全にビジュアルに惚れ込んでこの携帯URBANOを選んだ。


おしゃれな簡単ケータイと呼ばれているらしいけれどそんなの知らない。


ガラケーのポチポチする感じが好きだったので、物理キーはわりと重要項目だった。フリック入力は諦めるとしても、何かしらポチポチしたいと思っていた私は、理想の携帯を手に入れたと思っていた。


MAPがうまく使えなくて道に迷うのはさておくとして、いくら落としてもヒビ一つ入らないし大画面だしで、使い始めて三年近くなっても機種変更の必要性はそこまで感じていなかった。


しかしあるとき、突然別れが訪れた。


正確にはまだ別れていないし、一応使えてはいるけれど。


そうはいっても機種変更待ったなしだ。


鈍く光る金色、メニューボタンが取れた。


まるで乳歯が抜け落ちた子供の口のように、一ヶ所だけポカリと穴が開き、不自然に黒い。

黒いだけではなく、隅には埃が溜まっていて少し白い部分もある。指では取り除けない。


歯のようではあっても実際そうではないので生えてくるはずもなく、なんとなく心が落ち込んでいく。携帯を見るたびに気力が少しずつ穴に吸われていくようなわけのわからない力を感じて、なんとなく指で塞いでしまう。


凹みを指先で直に感じとり、押しつけ、撫でる。

角ばったホームボタンの端の感触が新鮮で心地よく思え、クセになる。


そんなことをずっとしていたらどうなるか?


ホームボタンも取れるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る