第6話 Investigation right commission-捜査権委任- 2/3
密会が終わると、そのまま公園を抜けて大通りの方へと歩こうとしたが、ふと足を止め、車の通れない人の密集した市場の通りへ入っていく。
市場で買い物をする人々に紛れて道を歩くと、狭い通りを包み込んでいる香のような独特の香りと人から発せられる熱気が僕に襲いかかる。
そのルートではまっすぐにホテルに帰れる道ではないが、僕は引き返すこともなく、奥の方へと進んでいく。
わざわざそんな道を通っている理由はひとつ。僕が先程からつけられているからだ。
彼女に接触する以前からちょくちょく視線のようなものを感じていたが、今は明確にそれを感じることができる。
試しに露店の商品を見るフリをしてさりげなく周囲を確認してみると、背後に二人、それと思しき男たちが確認できた。
奇妙な帽子を売っている露店の店主に愛想笑いを浮かべて、その場を後にして歩く。
しばらくあてもなく歩いてみたが、背後の追手はしっかりと一定の距離を保ちながらついてきている。
なんの目的で僕をつけてきているのかは不明だが、このままホテルに帰るまでつけられるのは面倒だ。
そう思った僕は、曲がり角に差し掛かったところで走り出し、その場から逃げ出した。
当然、つけてきていた二人も僕の後を追って走ってくる。
追っ手の気配を感じながら、僕は暗くて曲がりくねった裏道をある程度走り回ったところでちょうどいい物陰に身を隠す。
しばらくすると追っ手が現れ、姿の消えた僕を探してあちこちの方向に目を向けながら目の前を通り過ぎていく。
僕は静かに物陰から出ると、片方の男にそっと近づき、その首にすばやく手を回して捻ってやる。
ゴキッと骨が折れる音がして、男が倒れる前に僕は拳銃を取り出してこちらを振り向いたもう一方の男に向けた。
「騒ぐなよ。少しでも動いたら容赦しないからな」
両手をあげた男に僕ははっきりとそう告げた。
―――――
それから一時間後。
スレイドと共に泊まっているホテルに帰ってきて部屋に向かうと、部屋から五人の救急隊員が出てきて、二つの担架をちょうど運び出すところだった。
彼らの運ぶ担架には白い布が掛けれられており、布は人型に盛り上がって、その下からは血にまみれた男の手がはみ出している。
「やっと帰ってきたか」
扉の前でその光景を見送ってから視線を開け放たれた部屋の中に移すと、スレイドが湯気の立つカップ片手に立っていた。
部屋に入ってドアを閉めてから、僕はスレイドに問いかける。
「いまのは?」
「私を殺そうとした不届き者だ。君のところにも来ただろう」
ソファに座った彼にそう言われて、さっき自分をつけてきた奴らがそれであると気づき、僕は肩をすくめる。
「えぇ、二人来ましたよ。とっくに始末しましたけど」
「こっちも、さっき見ての通りだ」
無表情にスレイドは呟いて、カップの中の赤茶色の液体を口に含む。香りからして紅茶のようだった。
「で、誰です。あいつら」
「調べさせてみたが、どうやら取引相手の敵勢力の人間らしい。二人の刺客で殺せるとは随分と甘くみられたものだな」
スレイドはデータファイルを片手で投げてよこしオーグに表示された仮想データは僕の足元に転がってくる。
僕がそれを拾ってオーグ内で展開してみると、投げられたデータの中には複数の免許証があり、顔写真のところにはアラブ系の男が写っていた。
恐らくはスレイドを襲撃した男たちのものだろう。
「マズイじゃないんですか。ここを襲ってきたということは、居場所がバレてるということですし、武器取引の情報を知っていることになる。取引場所がバレている可能性も」
素直な意見を述べて僕はデータファイルをクシャッとまとめると、スレイドに投げ返す。
敵が僕たちを襲ってくる理由は、今回の取引の情報がどこからか情報が漏れ、それを阻止したいからに違いない。
ここでの襲撃が失敗したとしても彼らはまた仕掛けてくるはずだ。もし敵が取引の場所まで知っていればそれは格好の的である。
「分かっている。すでに先方に取引場所の変更は伝えた。我々も別のホテルに移るぞ」
投げられたデータファイルを受け取り、スレイドは立ち上がると、上着と中折れ帽を手にとった。
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