切りつけた後の
あたりに吹く風は強さを増し、冷たさを纏って頬をさする。琴葉はヴァリニューをじっと見つめたまま、近づくタイミングを伺っていた。
一方のヴァリニューは、離れていても感じ取れるほどの殺気を放ち、琴葉を睨んでいる。
そのまま、数秒が過ぎた頃、
「じれったいですね、わたしから行きます!」
痺れを切らしたのか、琴葉に殴りかかってきた。
「レボ!」
「合点!」
レボロバは琴葉の前に体を移動させ、ヴァリニューの拳を受け止めた。ヴァリニューは思わず後方へと跳び、思いっきり力を込めた。
「はぁぁぁぁあ!!」
すると、ヴァリニューは銀色の光をはなち、獣を纏った。
「さあ、これでおあいこですよ。」
「それはどうかしら」
琴葉は悪戯っ気と少々の苛立ちを孕んで言った。
キンッ!ジィィィ…
剣と剣がぶつかる金属音だけがひたすらに鳴り響き、時折宗次郎や五右衛門の呻く声が軽く漏れる。2人の間に会話など無い。やっと口を開いたのは五右衛門であった。
「ねぇ、おじいさん。ヴァリニューやんなくて良いの?僕は彼から君が因縁をつけていると聞いたよ?」
その言葉に、宗次郎はピクリと反応し、
「構わない。本当は私が行きたい気持ちが溢れている。しかし私は彼女を信頼しているのだ。しっかりと支えてやらねばならぬ。いまは、お前を倒すことに専念する。」
「へぇ〜、大人だねぇ」
「伊達にじじいと呼ばれてはいない!もちろんお前からもな」
五右衛門は、挑発に引っかからない宗次郎をみて、少し顔をしかめたが、その後また笑顔になり、剣を持たない左手で大振りの拳を打ち込んだ。
すると胸にまともに食らった宗次郎は、10mほど地面をすり、そのまま倒れた。
「あはは、おじいさん無様だね☆老害は大人しく引きこもってれば良いのさ♬」
「さっきからおじいさんと言ったり老害と言ったり、礼儀がなってないな。この老害が全て叩き込んでやろう」
宗次郎は目つきを変え立ちあがり、スーツについた砂を手で払い落とした。そして、落ちた剣を拾い上げ、五右衛門に向かって走り出した。
「へへっ、面白くなってきた」
宗次郎と五右衛門は互いに引かない剣さばきを見せ、刻々と時が過ぎて行く。
「はぁっ!」
琴葉とヴァリニューは、両手を開いてたそれぞれ組んでいた。それに合わせて獣たちも組んだ。力押しではヴァリニューが俄然有利であった。見る見るうちに後ろに押されてゆく。
咄嗟に琴葉は手を離し、レボロバに、
「レボ!手!」
と言った。するとレボロバの光りが琴葉の右手にまとわりつき、形状を変化させていく。そしてそれは、熊の爪の如く、いや、それよりもさらに鋭利なものへと変貌した。そして左手にも同じことがおこった。
ヴァリニューの方を見ると、ヴァリニューは長い棒の先端に刃物をつけたようなものを持っていた。これで応戦するらしい。
琴葉は、ヴァリニューを睨みつけ、
「これで決める!」
「行くぞ!」
両者向かって走り出した。そしてすれ違いざまに出せる全てで攻撃した。
一向に剣の弾き合いが終わる気配はない。五右衛門は一度下がり、
「君が本当の実力者だとわかった。だから僕も最高のおもてなしをしよう」
そういうとみるみる体が灰色になり、見るからに鋼鉄の如くボディを変化させた。そして、宗次郎に近づき、腹を殴りつけた。
宗次郎はあまりの速さに、姿を追うことができず、その場にしゃがみ込んだ。
「武田さん!!」
琴葉の言葉虚しく呻き声を上げたまま動かない。琴葉は倒れたヴァリニューから離れ、五右衛門に向かって走り出した。
「貴様、よくも武田さんを!レボ、足!」
琴葉は足にトラの如く皮を纏った。
「うぉぉぉぉあ!!」
そしてそのまま五右衛門を切りつけた。五右衛門は不意の攻撃にどうすることもできず、心臓を貫かれ、その場に倒れこんだ。きっともう立ち上がっては来ない。
琴葉は脱力したのか光が消え、その場に倒れこんだ。少し丘になっていたので、そのままずり落ちた。
そのタイミングで、サイレンの音が鳴り響いた。花音が怯えて警察を呼んでいたのだ。
警察は到着するやいなや、その異様な光景に目を疑った。そのタイミングで宗次郎が立ち上がってきた。そして警察に向かって
「私がこの男らを殺した。罪は全て私にある」
「ちょ、そんな」
「私が、殺した」
琴葉の言葉を遮るように宗次郎は続けた。そしてそのままパトカーに乗せられた。琴葉たちも別の車で送ってもらうことになった。
--------------------
四年の月日が流れた。琴葉、花音、美香の3人は大学生になっていた。同じ大学に進学したので、キャンパス近くのカフェで、いつもの如くお茶をしていた。
「そういえば、今日だよね。帰ってくるの。」
琴葉が切り出した。
「ちゃんと迎えてあげなきゃ」
花音も言った。
「私たちを守ってくれた人だもん」
美香も続けた。
結局、事情聴取は受けたものの、宗次郎が言い張り、警察も細かい状況がわからず引っ張るわけにもいかずに、琴葉たちの弁明虚しく実刑となった。今日が刑期を終え、帰ってくる日なのだ。
そろそろ行こっか。
--------------------
ギィィ…
「ありがとうございました」
「ああ、達者でな」
宗次郎は、久しぶりの風に感慨深くなっていた。ふと前を見ると、知っているような知らないような3人の女性が、こちらを向いて笑っていた。
宗次郎は、彼女たちに向かって微笑み返した。それはもう、今までで1番の煌めきを放って。
いにしえJK!! 戸田 剣人 @toda_tsuruhito
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます