天下は荒れる
「ま、一先ず店に入りなよ。そこでゆっくり話そう。まだ高校生が出歩いてもおかしくない時間だしさ。」
と宗次郎は言った。
「武田さんその言い方まずい気が…。」
「多分無意識だよ、花音。」
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「どうしようか…。お小遣いの前借りでもそんなに大金はダメだろうし…。」
「まあまあ君たち、そんなに悩まなくても良いよ。1つだけ良い方法がある。」
「それは何ですか?」
美香が尋ねた。
「それはね…」
「「「それは…?」」」
「ここ、infodropでアルバイトをすることだ!!」
「「「ア、アルバイトぉぉ!?」」」
「そうだ。ここで働いて、少しずつお金を返していく。喫茶店で働いていれば、君たちがやりたいことも幾らか出来るんじゃないかな?」
「どうする?」
「別にいつも暇を持て余していたから、良いんじゃないかなぁ。うちの学校はバイト自由だし。」
「あ、じゃあ働きます!」
結論が出たところで、代表して花音が返事をした。
「それじゃあ、決まりだね。制服を持ってくるから、少し待っていてくれ。」
宗次郎はそう言うと奥の方に入っていった。そして暫くすると3人分の制服を持って戻ってきた。
「はい制服。それじゃあ、今日は遅いからもう帰ったほうが良い。明日から学校終わりに来てね。」
「はい、ありがとうございました!」
琴葉たちは宗次郎にお礼を言うと、帰路に着いた。
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花音は真っ直ぐ家に向かっていた。それはいつもよりも遅い時間帯ではあったが、暗いこと以外は普段と何も変わらない日常の一コマであった。
「きゃー!引っ手繰り!!誰か!誰か!」
「えっ!?引っ手繰り!?何処何処!?」
花音が反応した頃には、引っ手繰り犯はそこにはおらず、あったのは呆然とその場に座り込んでいる女性の姿だけであった。
「大丈夫ですか?引っ手繰り!と叫ぶ声が聞こえたので駆け付けたんですが…。遅かったみたいです。何を取られたんですか?」
「私のバッグ…。財布と通帳が入っていました。」
「どんなバッグなんですか?」
「茶色の革で出来ているもので、表面にHERMESとブランド名がプリントしてあります。」
「なんかすごい儲かりそうなロゴですね…。あ、犯人の特徴とか分かりますか?」
「暗かったからあまりよくは分からなかったけど、取られた瞬間物凄い形相で睨まれました。それと、チリチリ頭で髪は長かったです。これくらいしか覚えていません…。」
「チリチリで長髪の人ってあんまり居なさそうだから、結構特徴としては良いと思います!ありがとうございます!」
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翌日の放課後、花音は2人に昨夜のことを話した。2人に相談したところ、答えは勿論「Yes」であった。
「ふふふ…。この町の平和はこの、ジャスガーズが守る!私たちが居ながら悪事を働くとは何事か!良い度胸だ。とっ捕まえてやる!」
「あのぉ〜。花音さん?そのジャスガーズというのは一体何でしょうか?」
あまりのキャラ崩壊に琴葉は頭上にクエスチョンマークを浮かび上がらせながらも尋ねた。
「説明しよう!ジャスガーズとは、篠原 花音、吉野 美香、古川 琴葉の3人で構成された正義集団!「Justice Girls」の略である!!」
「いや、まずJustice Girlsが分かんないよね…。いつ名付けたの?」
「今でしゅ!」
「友達やめようかな…。」
「調子乗りましたごめんなさい。」
「とにかくもうすぐバイトが始まるからinfodropに行こう。」
「そうだね琴葉ちゃん。ほら、花音も行くよ。」
「ふ〜い。」
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「成る程…、引っ手繰り犯ですか…。確かに、ここ数日お客様との間でもちょっとした話題になっていますね。」
琴葉たちは、宗次郎に引っ手繰り犯の話をした。宗次郎曰く、お客の中にも引っ手繰り被害に遭った人が居るらしい。
「さっすがオーナー!情報通ゥ!」
「ええ。私は、自称情報屋としても活動しております。この町のことは聞いてもらえれば大抵答えられます。例えば、琴葉さん、この前男子生徒に告白されていましたよね。返事はどうしたんです?」
「えっ!?何で知ってるの!?」
突然の宗次郎の言葉に、琴葉はたじろいだ。そして耳まで真っ赤に染まった顔で、宗次郎に言った。
「勿論お断りしましたよ!!私そういうの興味ないんで!!」
「これは失敬。以後、気をつけます。」
「「情報屋怖い…。」」
美香と花音は、宗次郎は敵に回してはいけない存在だと悟ったのであった。
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「然し乍ら、その引っ手繰りに関する情報が少なすぎますな。これでは手掛かりというものが掴めないのではないでしょうか。」
話し込んでいたその時、サングラスに帽子を被った男が入ってきた。
「いらっしゃいませ。1名様でしょうか?席ご案内しますね。」
琴葉が席に案内すると、続いて美香が注文を受けに行った。
「ご注文はいかがなさいましょう?」
「コーヒーで。」
「はい、かしこまりました。コーヒーですね。少々お待ちください。店長、コーヒーです!」
「はい、美香ちゃんありがとう。今淹れるからね。」
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「お待たせいたしました。コーヒーです。あ、お客様、最近ここら辺で引っ手繰り犯が出るらしいですから、気をつけて下さいね。」
「ぶー!!」
男は急に飲みかけのコーヒーを吹き出すと、急いで立ち上がり店を出て行った。
「あ、お待ちください!どうしたんですか!?」
美香たちは慌てて男を追いかけた。しかし、女性と男性では筋力が違う。3人は追いつけなかった。諦めかけたその時、後ろから宗次郎が飛び出して、男を捕らえた。
「いきなりどうしたんですか、お客様!」
急いで走った所為か、いつの間にかサングラスと帽子は落ちていた。
「は!まさか…。お前は。噂の引っ手繰り犯か!」
「ちっ、バレてしまったら仕方がねぇ。煮るなり焼くなり好きにしろよ。」
「随分と物騒な考えをお持ちで…。犯罪者になるのは嫌なのでそんなことはしませんが。第一、急にあんなことされたら誰だって追いかけるでしょう…。」
「ま、別に俺はどうなっても構やしねぇ。どうせ俺は組織の中では最下層の人間だ。俺1人消えたところで、上は何とも思いやしねぇだろうさ。」
男の妙な言い方に、宗次郎はもっと話を聞く必要があると考えた。
「ちょっと事務所で話しましょうか。」
その顔は、穏やかではなかった。
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