イエスと言え、少年たち

「今の爆発…何?それに、助けてって。」


「兎に角、あんまり良くない状況なのは確かだと思うわ。」


花音たちは、恐る恐る家のドアに手を伸ばした。


ガチッ


「鍵がかかっているわ。」


「あ…!ねぇ花音、こっちからなら入れそうだよ。」


ガララ…


3人は音を立てないように入っていった。その気配に気が付いたのか、奥の部屋から子供の叫ぶ声がした。


「助けて!助けて!」


その声は次第に大きくなっていった。


「急がなきゃ!」




--------------------




「一通り見てみたけど、さっきの大人は居ないみたいね。いつ戻ってくるかも分からないから、なるべく早めに行動していくよ。」


「うん。私は花音が意外と指揮出来ることに驚いているわ。」


「(美香、やめてあげて。)」




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子供たちがいると思しき部屋にたどり着いた。扉に手を伸ばすと、


ガチャガチャッ、ガチャガチャッ


「開かない…。鍵が必要なの!?」


「どうしよう。探すしかないわ。」


「待って2人とも、こんなところにハンマーがあるわ。これでドアノブを壊せば中に入れると思うよ。」


「美香、ナイス!」


「破片が飛ぶかもしれないから離れてて。」


「分かったわ琴葉。」


ガンッ!ガンッ!


…バキッ。


そのドアは、かなり老朽化していた。


ギィィィ…


「なんとか開けることができたわ。」


「わぁ、助けに来てくれたんだ!ありがとう!!」


ドアを開けた瞬間、子供たちが3人に飛びかかってきた。ここに来てくれたことを心から喜んでいた。


「さぁ早くここを出ましょう。みんな、あそこから出て待ってて。危ないから美香も付いて行って。」


「分かったわ花音。さ、行きましょう。」


琴葉と花音は、十数人居た子供たちを少しずつ自分たちが入った裏口へと誘導していった。

全てが順調に進んでいると誰もが思っていた。


しかし…


「きゃああ!!」


「美香!?どうしたの!?」


突如にして美香の悲鳴を聞いた2人は、慌てて残りの子供たちを連れて外に出た。そこで尻餅をついている美香を立ち上がらせた。すると、


「おいお前たち、ここで何をしている?」


そこに立っていたのは、先程公園で見た男だった。近くで見ると、少し太っているようだった。

突然現れたその男に3人は思わず後ずさりしてしまった。身の丈はそれほど高くはない。しかし、圧倒的な威圧感。加えて、想像よりも断然低く、重い声。心臓の奥深くを掴まれているように強く突き刺さる。


「子供たちが…居ない…?」


琴葉たちは、誘導していた子供たちが居なくなっていることに気が付いた。

あまりに急な出来事に、3人は恐怖感を覚えた。

怖気付く3人をさらに威圧するように男は聞いた。


「お前たち、ここで何をしている?」


3人は何も答えず、男を睨みつけていたが、暫くすると、花音が口を開いた。


「あんたが誘拐したっていうここの子供たちを助けに来たのよ!!」


「ほう?誘拐…か。それは違うな。」


「何が違うのよ!!」


花音が声を張り上げ言った。男はそれに応えるようにして言った。


「私はただ、彼らを解放してあげようとしているだけだ。この窮屈で雁字搦めな世の中から。我が教祖様の教えは、世界を救うことになるのだ!!」


「こいつ…、一体何を…。」


「まだ分からないか?やはりお前たちはもう、黒く染まってしまった。もう救うことが出来ない。ここにいる子供たちはまだ、教えにより救うことが出来るのだ。だから騒ぎ立てるのではなく、感謝してほしいものだな。お前たちのような真っ黒で淀んだ存在になどならないように育てているということにな。」


「とっ、兎に角、子供たちを解放しなさい!!」


「残念だがそれは出来ない。私には彼らを世界を救う大人に育て上げるという使命がある。今の腐りきった世界を、我々の手で作り変えなければならないのだ!!」


「そんなの!絶対に間違ってる!あんたは、子供たちの顔をちゃんと見たことがあるの!?私たちが来た時、彼らはすごく嬉しそうな顔をしたの。それはつまり、あんたから逃げられるという安堵の思いが強かったってことよ!それに、さっきの爆発…。あんなもの、恐怖でしかないわ!」


「やはりお前たちは青い。恐怖こそ全てなのだ。恐怖感を煽ることで、相手への絶望感、自分の無力さ、服従しなければならないという意思が強くなるのだ。それは、世界を救うためには必要不可欠な感情なのだ。」


「最っ低…。」


ガッ!


「あうっ…。」


「花音!!」


花音の言葉を聞いた瞬間、男は彼女の首元を掴んだ。そしてそのまま壁に押し付けた。


「お前たちの拙い頭で、教祖様の偉大なる考えが分かってたまるか。教祖様は世界を解放なさるお方だ。拙く、かつ黒く染まったお前たちには到底届かない存在なのだ。」


「…せ。」


「ん?」


「…なせよ。」


「何だ?そこの女、うるさいぞ。」


「離せっつってんだろうが下衆野郎がぁぁぁ!!」


男のふざけた態度に、琴葉は我慢ならなかった。琴葉は花音にしたのと同じく、男の首元へ腕を入れた。


「私の学友に何してる。私の学友を傷付けるな。殺すぞ。」


「ひぃぃ!」


男は、必死に手足をバタつかせた。そして、足掻きに足掻いて強引に琴葉の腕を振りほどくと、家の中へと逃げ込んで行った。


「待ちなさい!下衆野郎!!花音、立てる?」


「ごめん、また私、勝手に突っ走って…。」


「良いの。そこが花音の良いところなんだから。」


「ありがとう。全然褒められてる気はしないけど…。」


「さ、追い詰めるわよ!」


3人は、男を捕まえるべく家の中へと入っていった。




--------------------




「見つけた。」


ここは、子供たちが監禁されていた部屋だ。奥の方には男が立っていた。その手には、一本のナイフ。男は、ナイフを舐めた。刃から滴る唾液。


男は、ナイフをこちらに向かい振りかざしてきた。


「ちょ、危なっ!」


「ハァ…ハァ…殺してやる。殺してやるぞ。お前たちを生きて帰らせるわけにはいかない。何をやらかすか分かったもんじゃないからな…。」


「あっ、あんた実はビビってるんでしょ!警察とか、警察とか、警察とか!!」


男は、こちらの声には耳も貸さず、ただただ振り回していた。子供たちが居るには大きいが、ある程度の体格がある人間が4人暴れ回るには狭過ぎる。圧倒的に、ナイフを避け続けるには不利な状況だった。


暫くこの状態が続いたその時、


「遊びはその辺にしておいて、早く戻ってきなさい。」


どこからか、声がした。すると、


「はい。教祖様。」


そう言うと男は、ナイフを振り回すのをピタリと止め、外へ出て行った。


「ちょっと!逃げるつもり!?」


花音たちは突然男の取った行動に混乱していた。

男は止めてあった車に乗り込むと、エンジンをかけてアクセルを踏んだ。


「まっ、待てー!!」


このまま逃すわけにはいかないと、3人は追いかけた。しかし、人間ごときが追付けるはずなと毛頭ない。どんどん距離を離されていく。疲れ果て、見失いかけたその時、


「あ、タクシィィィィィイイイイ!!!!!!」


花音が走行中のタクシーを見つけ、手を挙げ声をかけた。


キィ…


「あの車を追ってください!!」


「分かりました。」


運転手はそう言うと、3人に一言だけ、


「スピード出しますから、気をつけて下さいね。」


と、言った。


「さあ、今度こそ、追い詰めるわよ。」


3人の顔つきが、変わった。

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