第4話 勇猛たる騎士
「おはよう。よく眠れた?」
起床してリビングに出るとゼロが黒いマントを纏い、外出の準備をしていた。
「おかげさまでな」
「そう、今日も用事があるから」
皮肉で言ったつもりなのだが、そっけなく返されてしまった。やっぱりこいつは読めないな。
「随分と時間がかかるんだな。まだ眷属の枷も決まってないし」
「眷属の登録には色々あるの。その間は暇だと思うけど我慢して」
それだけ言い残すといつものように何をするかも告げぬまま出て行ってしまった。
逃げるのが不可能となった今では出歩く理由はなくなったけど、ここでジッとしていても時間の無駄だ。せめてこの世界を知るために他の眷属と交流を深めてみるといいかもしれない。
「俺も出かけるとするか」
けどここの知り合いは昨日知り合った男二人しかいない。行くとしたらあの商人の方だけど、致し方ない。
お金は持ってないけど少し顔を出してみるとしよう。あそこは暇つぶしに最適だ。客が少なくて落ち着くしな。
しかし、俺のそんな思惑を予期していたかのようにあの商人の店の前には多くの眷属が集まっていた。
だが黒い服を着た死神が店の中に入れないようにしていることから、それが客ではないとクラウンは理解し、見覚えのある男に声をかける。
「おい、一体何があった?」
昨日、街の外へ出ようとした時に出会ったリックは興味なさそうに話す。
「ここの店主が死んでたんだと。まあ、ここじゃあ珍しいことじゃないさ。人を殺すことが眷属の枷っていう奴もいるかもだしな」
「死んだ……魂なのにか?」
「ま、魂が消滅したっていう方が正しいか。俺調べによると証言者が何人いるかは間違いないぜ。それに今は治安維持機構の連中が死体の処理をしてる」
良く見てみると店には黒い服を身に纏った死神と眷属が何かしている。奥の方は見えないが、暴動などが起こっていないのは彼らがいたからだろう。
「死体って、消滅したってさっき言ったじゃないか」
「残留思念ってあるだろ? 時間が経てば消えるが、それが死体みたいになってんだ」
なんて面倒なんだ。どういった原理でそうなるかは分からないが一応頭に入れておくか。
「そうか。それであいつらが犯人探しをしてくれるっけわけか」
「まさか、治安を守るだけの連中だぜ。それに人殺しが眷属の枷だっていう奴が不利になっちまう。それじゃあ不平等だろ?」
確かに、俺がその立場だと「ふざけるな」と叫びたくなる状況だ。何せ、それだと味方などいないのだから。
「無法地帯だな。そいつがただの殺人鬼だったらどうするつもりだよ」
「その通りだ! 悪を見逃すのは騎士として許せん」
とリックと話をしていると隣にいた金髪の少女が突然声を荒げ、会話に入ってきた。
「え〜と、お前の知り合いか」
生前にもここに来てからもこんな奴は見たことはない。一応リックに問いかけてみるが首は横に振られる。
「いんや。でもイキのいい女騎士が来たってのは耳にしてるぜ。きっと、それがこいつだろ」
「騎士……か」
ふと、昔を思い出す。
街の平和を守る彼らは子どもたちにとって憧れの的だった。俺もそんな風になりたかったが、今更言っても遅い。
「お二方、私よりもこの世界についてご存知だろう。犯人探しを私がしても大丈夫だろうか?」
「眷属の枷がそれなら何も言われねえよ」
殺人が見て見ぬ振りされるように、それを解決しようとしてもそれが眷属の枷の条件を達成させるための行動ならば治安機構も何もしないというのが基本らしい。
「ふむ、ではまた怒られてしまうかもしれない」
となるとこいつの眷属の枷はそれとは関係のないものか。けど、それなら俄然そんなことを聞いてきたことが気になる。
「じゃあ、関わらない方がいいぜ。連中は自分の仕事を邪魔されるのを嫌うからな」
「忠告痛み入るが無視できない性分なのでな。目立たない程度にやるとしよう」
「そんじゃあ、頑張ってくれ。俺らは大人しく自分の眷属の枷をこなしてるとするぜ」
「すまんリック。俺もこいつと一緒に犯人探しをするよ」
「おいおい正気か? 知り合いだったとしても犯人捕まえてお前に何の得がある? 少し頭を冷やせ」
心配をしてくれているのは嬉しいが俺は考えを変えない。
「分かってる。こんなことに首を突っ込んでも得なんてないって。けど、それじゃあ前と変わらないからな」
逃げているだけじゃあ何も始まらない。この女騎士のように積極的にならなくては。
「ああ、そうかよ。だったら勝手にやってくれ。俺は知らねえぞ」
リックは呆れたと、ため息をついて人混みの中へと消えていった。けど、決して彼が悪いわけではない。問題に首を突っ込まないのはむしろ普通だ。
「協力してくれるか? 感謝する。私はジャネット。生前は騎士として正義を貫いていた。ここ、ゲヘナでもそうするつもりだ」
「俺はクラウン。生前はあるサーカス団でピエロとして活動してた。よろしく」
眷属同士で握手をし、共に行動することが決まったがどちらの死神もそれを知らない。
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