第3話 お喋りな商人
「やっぱり凄いなここは。でも、魂だけの状態をなのに商売なんて成り立つのか?」
本当にただ賑やかな街に迷い込んでしまったのだが、ここにいる全員が死神か魂だなんて信じられない。
「成り立つさ。だからこんなに賑わってんだ」
物珍しそうに周りを見渡しつつ歩いていると目の細い男が話しかけてきた。
「ええと……」
また知らない人に話しかけれた。今日はそういう日なのか? 別に構わないけどいきなりだと驚いて反応に困ってしまう。
「おっと、独り言に口を挟んで済まない。一人の商人として聞き逃せない内容だったもんでね。あんた新人だろ?」
「ああ、つい最近ここに来て今は自由行動中だ。それにしても本当にこんなところで売れるのか?」
魂の状態なら空腹状態にならないし、何も食べないでも問題ないのは自分でも分かる。それなのに食べ物なんて売れるのかどうか疑問に思ってしまう。
「商人は場所を選ばないもんさ。それに狙いを俺たちみたいな眷属に絞ればそう難しいことじゃない」
「眷属の枷か」
「ご明察。中には何かを集めるとか一日の間に何かを一定量手に入れたりするのがあるけど、やっぱ大変なんだよ。そこで俺たち商人がそれをお金で解決するっていう寸法さ」
これは買った側も売った側も得をするという美味しい話だ。生前だとこういうのは大抵詐欺が使う手だが、実際にこれで世界が回っているのなら問題はない。
「通りで色んなお店があるわけだ。けど、残念ながらお金は持っていないぞ」
「ははっ、別に情報料が欲しくて話したわけじゃないよ。最近、俺の店は客が少なてな。ちょっとした暇つぶしさ」
どうやら本を売っているようで色々な種類のものが置いてあるのだが周りに客は一切見えない。
「大変だな。お前の眷属の枷は何なんだ?」
「一定期間内に一定量稼ぐこと。生前商人だった俺にピッタリだろ? まあ、結構厳しい条件だけどな」
だからこそこの世界でも働いているのか。死んでも尚働き続けるとは商人の鑑だな。
「そうなのか?」
「一定ってところが肝心なんだよ。短い期間にそこそこ稼げって時もあるし、長い期間でめちゃくちゃ稼げって時もある。ここで商人やってる連中は大抵そういった眷属の枷だからなのさ」
みんな眷属の枷で苦労をしているのか。
まだ決まっていないからいいものの俺もその問題に直面することになる。死神が実権を握っているから気を引き締めていかなと。
「けど、それで助かっている奴もいる。意外と上手い具合に回ってるんだなこの世界は」
「もしくはそういう風に死神たちに操作されているか。どちらにせよ奴らには抗えないがな」
諦めきったその発言にゼロのとある発言を思い出した。
「そういえば眷属は死神に攻撃出来ないとは聞いたけど本当に無理なのか?」
争う気はないがそんなことが可能なのか? 神の一種だから何が出来ても驚きはしないが。
「残念ながらね。だからこそ平和なんだけど」
ここに前からいた人が言うのなら間違いない。まあ、ただのブラフだったら今頃反乱が起きているか。
「色々と助かった。今度は買い物に来るよ」
「ええ、どうぞご贔屓に」
この後もゲヘナを日が沈むまで歩き回ったがこれといった成果はなかった。まあ、色々と知れたからそれで良しとしよう。
急ぎ足であの家へと戻るとゼロが待っていた。どうやら用事は終わったようだ。
「お帰りなさい。手続きは済んだから今日から貴方は正式に私の眷属になったからよろしく」
「ああ……それで眷属の枷は決まったのか?」
これの結果によりこの世界での俺の今後が決まってくるので気にならないと言えば嘘となる。
「まだ。決まったらその時に言うわ」
「分かった。それじゃあ、俺は寝るよ」
今日は特に精神的に疲れてしまった。とりあえず寝て頭を整理しておかないと。
「ええ、じゃあおやすみなさい」
と興味なさそうに吐き捨てるとゼロはおもむろに服を脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょ! 何でいきなり脱ぎだしてるんだよ」
咄嗟に手で目を覆ったからその柔らかそうな白い肌なんて見えてないけど、この行動は理解できない。
「寝る前にお風呂に入らないと」
「けど俺がいる時に脱ぐなよ。羞恥心とかないのか」
ここまでくると羞恥心どころか心ないロボットのように思えてきた。
「とりあえず、風呂に行くなら俺が目を閉じてる間に行ってくれ」
流石に死神とはいえ裸の異性を堂々と直視できるほどの精神は持ち合わせてはいない。ここは譲るとしよう。
「じゃあ、お風呂に入るわ」
扉が閉まる音を聞いてようやく暗闇から解放されたクラウンはため息混じりに呟く。
「はあ、まさかこれがずっと続くのか」
男として喜ぶべきか、それとも変わり者が相棒になったことを悲しむべきか。
どちらにせよクラウンは謎の多い死神のゼロと同棲することとなった。
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