第二話 酔拳之天女

プロローグ  仙界の会話 その弐

華蓮かれん、大事な話があるのでこちらに来てくれますか?」


「はい、母――じゃなくて、西王母様」


「あなたに頼みがあるの。いいかしら?」


「頼み……? それってどんなことですか?」


「地界に行ってもらいたいの」


「地界! それって地上のことですか?」


「そうよ」


「なら、行く! 絶対に行くっ!」


「なんだかやけにうれしそうね。ひょっとして、今やっている修行が嫌なの? もしもそういうことであるのなら――」


「あっ、違います。違います! あの、つまり、やたらと同じ作業ばかりやらされている今の修行も大事だけれど、地上の世界のことを勉強もするのも、同じくらいに大事だと思って……」


「なんだか微妙な言い回しね……。とにかく、あなた以外に近くにいる娘がいないから仕方ないわ」


「母――西王母様、任せてください。西王母様の目の届かない地上だからといって、決して手を抜くことはありませんから」


「その言い方がすでに心配なんですよ」


「ここはひとつ娘の言うことを信じてよ」


「分かりました。そこまで言うのであれば、あなたに任せることにします」


「やったーっ!」


「――大いに不安を感じるのは私の気のせいかしら……」


「それであたしは地上に行って、何をすればいいんですか?」


「華琳のことはもちろん知ってるわね?」


「うん。確かお酒を盗み飲みして、反省中だって聞きましたけど……?」


「そうよ」


「まったくあの子は少しトロいのよ。お酒を盗み飲むときは、ひとりじゃなくて二人一組でやらないと。そうすればどちらかが見張り役になって、絶対に見付かる心配がないのに」


「華蓮、あなた、やけにそういうことに詳しいわね」


「えっ、あの、これはその……ただそう思っただけで、アタシがそういうことを実際にやっているとか、そういうことじゃなくて……」


「――まあ、いいでしょう。今は華琳の話の最中でしたね。あなたの言うとおり華琳は今反省中の身だったのですが、どうやらなんらかの方法で反省部屋の中から抜け出したみたいなの」


「反省部屋って、あの壺公老が創る壺のことですよね?」


「そうよ」


「うーん、アタシも入れられたことがあるから分かるけれど、あの壺から抜け出す方法なんてないんじゃ……」


「私もそう思ってばかりいました。しかし、現に華琳は抜け出したようなのです。そこであなたに華琳の捜索と、そして見付けられたら、ここに連れ戻してきて欲しいのです」


「捜すといっても、地上ってものすごく広いですよ。どうやって捜したら――」


「その点は考えてあります。壺が破壊された地点を、壺公殿に特定してもらいましたから。あの子のことだから、きっとまだその周辺にいるに違いありません」


「そういうことなら、なんとか頑張ってみます」


「では華蓮、お願い出来るわね?」


「はい、任せてください」


「あなたは華琳のすぐ上の姉なのですからね」


「はい、姉として見本になるような行動を心がけます」


「くれぐれも華琳と一緒になって、地界で羽を伸ばすなんてことがないように」


「はい、分かっています!」


「では、お願いします」


「はい、行ってきまーす! 久しぶりの地上だあ! 思いっきり暴れよう!」


「――やっぱり私、人選を間違えたかしら……」

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