エピローグ 宴会の始まり
「さあ、猫鬼の件は解決したし、それからあたしが無事に壺から出られたことも記念して、これから盛大に祝勝会を開きましょう! いっぱい飲むぞお!」
「はあ? 飲むだって?」
ゆきるは我が耳を疑った。
「なんで飲むんだよ? そもそも君はまだ未成年だろう? いや、二百年壺の中の世界にいたから二百歳か? いや、そもそも仙人って歳をとるのか?」
ゆきるの頭の中は疑問が大渋滞を巻き起こして、大混乱を起こしていた。
「だって、ゆきるの家って酒造元なんでしょ? ていうことは、飲みきれないくらいお酒があるんでしょ?」
「もちろん、酒はたくさんあるけどさ――」
「やったー! それじゃ二百年振りのお酒だあ! うれしいなあ!」
華琳は飲む前から、すでに舞い上がっている。テンションマックス状態だ。
そのとき、実にタイミングよく家の方から、両親と姉の三人がやってきた。
ヤバイぞ。この状況で三人が合流したら――。
こんなときの心配は杞憂で終わらないのが、世の常というものである。
十分後――。
丞福家の庭にある桜の樹の下で、盛大に宴会が始まった。両親とえみるは、すぐに華琳と打ち解けあった。ゆきるを除いた四人の嗜好――酒好きという点で一致団結したらしい。
「あたし、ここが気に入っちゃった。みんなお酒好きの良い人ばかりだし。ここのお酒もすごく美味しいし。うん、決めた! あたし、ここに当分いることにする!」
お酒がかなり回り始めた頃、突然、華琳が宣言した。
「うん、それはいい。これが縁でゆきると結婚ということになれば、丞福酒造の跡継ぎ問題も解決だな」
赤ら顔の父の俊彦が上機嫌に続ける。
「それは名案ね。私もお酒好きの娘さんならば大歓迎よ」
頬をほんのりと染めた母の彩子が続ける。
「ちょっと何勝手なことを言ってるんだよ! いつおれが華琳と――」
「酒造元の家に産まれたくせに、まったくの下戸のあんたが悪い!」
えみるがゆきるの顔を指差して、いつも言う決め台詞を発する。ちなみにえみるはゆきると違って、酒好きの両親の遺伝子をしっかりと受け継いでいた。
「そ、そ、それは……そう、だけど……」
言い返すことが出来ずに、口ごもってしまうゆきるである。
「いい、あんたが下戸ならば、お嫁さんにお酒好きの人を迎えるしかないでしょ!」
とどめの一撃だった。
そりゃ、おれは下戸だよ。お酒は一滴も飲めないし。だから、丞福家恒例の宴会もすぐに退散するし。でも、これって産まれながらの体質なんだぜ。おれのせいじゃないし。
心の内だけで反論するゆきるであった。
「よし、それなら決まりだな。少し早いけれど、今日は祝言の前祝いといこうか」
俊彦が勝手に話を進めていく。
「わーい、ほ祝いだあ! おひあいだあ!」
本当に分かっているのかと疑いたくなるような呂律が回らない口調で、華琳ははしゃいでいる。
あーあ、これで酒の件さえなければ可愛いんだけどなあ。
ゆきるはそんなことを思いつつ、華琳を見つめる。
ニャニャニャニャーン!
まるでそんなゆきるを慰めるかのように、猫又が可愛く鳴き声をあげた。
こうして下戸のゆきるにとっては地獄の苦痛でしかない宴会は、この後深夜遅くまで続くのであった。
酒造元の家に産まれたにも関わらずまったくの下戸のゆきると、神仙になるための修行中にも関わらず酒を盗み飲みしてしまった酒好きの華琳。
二人のこれからの未来に酒――ではなく、幸多かれ。
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