【短歌集】ゆうしゃのぼうけん

ミステリ

恩田陸

『ユージニア』

一人きり静かな国へ行きたいのそう願うのは罪なのですか

京極夏彦

『姑獲鳥の夏』

母として女は石を打ち下ろし我が子を託す其れもまた母

『魍魎の匣』

幸せは見出せばただ其処に在る例へば綺麗な匣入り娘

『鉄鼠の檻』

空つぽの檻に鼠は囚はれて仏に逢へば仏を殺す

東野圭吾

『分身』

ラベンダー畑で二人わたしからあなたへ贈る夜明けのレモン

森博嗣

『すべてがFになる』

泣きながら生まれた者よ真賀田四季博士はバグと教えてくれたよ

満ち足りる日を待っている春も夏も秋も冬もない真っ白な部屋

夢野久作

『ドグラ・マグラ』

チャカポコと木魚を鳴らし脳髄の地獄の中で躍れよ胎児

横溝正史

『本陣殺人事件』

婚礼の夜の琴の音と赤い雨全てを白く狂はせる雪

『獄門島』

きちがへど詮無きことか雪月花うつせみの身の散るゆゑなくに

『悪魔の手毬唄』

お喋りの雀さへづる手毬唄次に返すはいづこの娘

『病院坂の首縊りの家』

生首の吊り下げられし屋敷あり記憶の中に揺るゝ風鈴

米澤穂信

『氷菓』

薔薇色に墨がにじんて消え失せて兎は今も鳴いているのだ

『クドリャフカの順番』

打ち上げの順番を待つ犬の名を抱いて月にもなれない僕は

『手作りチョコレート事件』

砕かれし心はいづこ如月の甘くて苦き答へ得ぬ謎

『遠まわりする雛』

狂ひ咲く桜を雛がめぐるとき云へぬ言葉のそのわけを知る

『折れた竜骨』

（燃え落ちる船の残骸）もしいつかわたしが呼んだら戻っておくれ