智恵子抄

東京に智恵子は空がないと言う わたしは海が 西への海が



そんなにも檸檬を待っていた人のつまの詩集をめくる夕暮れ



八時発あずさ二号はないけれど誰も知らない人とふたりで



博多行き新幹線を見るたびについうっかりと帰りたくなる



ホークスがダイエーだったあの日からわたしの時計は止まっています



息をしているだけなのに悪いことしているようで胸が苦しい



ライナスの毛布の如く持ち歩くスーザン・フォワード『毒になる親』



脳内に恣意解釈機を持つ人よ そのプログラムのソースを見せて



幸せを見せびらかして自分にも幸せだって言い聞かす日々



一枚でいいから小さな絵を買って君と眺めて一緒に住むの



真っ赤なバラと白いパンジー 小犬ではなくて小猫の隣がいいわ



幸せになると決めたら幸せになれるのならば苦労はしない



地球型惑星がもし見つかればきっとそこにも哀しみがある



変わらないものは光の速さだけ 永遠なんて信じないから



海という文字もんじの中に母がいるならばわたしに海はいらない

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